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昔のよいもの、受け継ぎました!

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Photo: Hirotomo Onodera(room)、Madoka Sano(front page)、text: Nahoko Sakai

01 丹沢の里山で地域とつながる築110年の古民家での暮らし

実例01

山岳ガイドを生業としヒマラヤの未踏峰などへも遠征していた根本秀嗣さんと、やはり山好きで山の会に所属し登山を楽しんでいた佐和子さんは、2016年の夏から丹沢の麓の集落で、家族3人の古民家暮らしを始めました。

「以前は市街地に住んでいましたが、子どもが生まれたこともあり、美味しい空気と清流、広々としたスペースを求め、このエリアで味わいある古民家を探しました。そして地元の方とのつながりができ、紹介していただいたのが築110年のこの家です」

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暮らしも登山の延長のように、人が非日常と感じるところを日常に取り込んでいきたいのです

古民家住まいは、家族の暮らし方を大きく変えました。秀嗣さんは以前から「電気やエネルギーから卒業し、もっと“自分たちの励み”で生活を楽しみたい」と考えており、現在使っている家電製品は冷蔵庫・パソコン・こたつ・照明と電動工具のみ。佐和子さんも「登山で物が少なくてシンプルな生活には慣れています。毎日がキャンプみたいですね」と笑います。

また佐和子さんは、使っていない水田を大家さんから受け継いだり、集落の方から畑を借りたりして、友人たちと一緒に稲や野菜を育てることに。秀嗣さんは山岳ガイドを辞めNPOを立ち上げ、林業・炭焼き・放置された里山の整備・古民家再生・里山に親しむためのイベント開催などを通して、地域の文化や資源を再生・持続していく仕事をスタートしました。「自分たちの活動も地域の魅力の1つになり、最近では若い人が興味を持ってくれ、移住につながる相談を受けることも増えました」。

便利すぎる今だからこそ、地域や人とのつながり・うるおい・温度感に回帰する暮らしに惹かれる人が増えているのかもしれません。

実例01
玄関脇は格子状に組んだ竹を通し風と光が通ります。左奥に見えるのは、米を脱穀した後に異物を選別する「唐箕(とうみ)」
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土間の奥、キッチンの手前には薪ストーブ。いつもやかんと釡にお湯が沸いています。日常の調理もここで行えます

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実例01
この集落の古い民家は、玄関に立派な家紋の彫刻がある家も多いそうです。表には橘、裏は唐草模様が彫られています
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庭ではニワトリ、烏骨鶏、うずらを飼っており、雄鶏の鳴き声はご近所さんから「懐かしい」と言われることも
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風呂を沸かすのは、ガスでも電気でもなく薪。すぐ脇のキッチンにもガスコンロ、レンジ、オーブンはありません
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秀嗣さんの仕事部屋には囲炉裏があり、鍋を囲んだり鉄瓶でお湯を沸かしたり。次はここを板の間にする計画が
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NPO仂(ろく)では「里山、木、いき物、人が交差する場づくり」を展開。廃れてしまった里山と人の暮らしをつなぎます

間取り&部屋主プロフィール

Floor plan
実例01間取り

① 昭和40年代にリフォームされたフローリングの床と天井をはずし、玄関からキッチン手前までスケルトン状態の広い土間にしました。人が集まったり、散らかる作業をしたり、山や畑仕事から帰って来て汚れたまま入ったりできるので便利です。保護犬のスカイも土間が主な居場所。

② 好きなものをぎゅっと集めた佐和子さんの作業デスク。

③ 2間続きの広間では、仕切りの戸を外して映画の上映を行うことも。

④ 囲炉裏のある部屋には、家ができた時から設置されている古い立派な神棚もあり、そのまま受け継いでいます。

Profile
部屋主プロフィール
部屋主プロフィール
根本秀嗣さん・佐和子さん[神奈川県松田町]
年代:40代(秀嗣さん:NPO仂 代表理事、山の仕事人 佐和子さん:デザイナー)
住居区分:一戸建借家 居住年数:7年半
同居人:夫・妻・息子、保護犬スカイ
Instagram(@0428sawa)で里山暮らしを、(@hitono_chikara)ではNPO仂の活動を発信。丹沢地域で開催するイベントのお知らせもあります。

02 一目惚れした伊豆の古民家で古いものと季節を愛おしむ日々

実例02

TAKARA.KOさんは伊豆の祖父母の家が大好きで、夫のTOKUさんと「自分たちも老後は田舎の家を買おうね」と話していたそうです。しかし老後を待つことなく、2021年1月に築60年の古民家を購入し、伊豆・東京の2拠点暮らしを始めました。

「私も夫もコロナ禍ではリモートワークになり、東京にいる意味がなくなりました。だったら田舎に家を買って空気のよいところで過ごせばいいんじゃない? ということになったのです」。そしてTAKARA.KOさんは今、月20日程は伊豆で暮らしています。

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古い民家、古い家具、季節の恵み。可愛らしく愛おしいものに囲まれて、日々過ごしています

「この家を見たときに、柱や梁、昔ながらの木のつくりや褪せた色などが素敵で、要所要所のパーツが可愛すぎて。一目惚れでした」とTAKARA.KOさん。補修したのは目に見えて傷んだところ程度で、大きく手を加えてはいません。照明器具は昔のまま、家具は家屋の前オーナーや祖父母が長年大切に使っていたものを譲り受けて活用しているそうです。

伊豆では朝1時間の散歩が日課となり、斜面に階段をつくったり、畑で野菜を育てたりといった“土仕事”をするように。雑草と呼ばれる草花を飾ったり、野生のアケビや山栗を収穫して瓶詰めにしたり、季節を身近に感じるようにもなりました。地域の方が何かと気にかけて、自宅の庭の柑橘類などを持ってきてくれるので、加工してお返しするといった交流も生まれたそうです。隣人の顔すら知らない東京の暮らしとは大きな違いです。

TAKARA.KOさんは「田舎暮らしは意外に肉体労働が多いので、定年まで働いていたら絶対できませんでした」と言います。「もし、こんな暮らしをしてみたい! という方がいたら、早めに始めることをおすすめします」。

実例02
開放感ある離れのウッドデッキ。八重桜が咲く季節には、ここでは仕事をしたり、友人たちを招いてお花見をしたり
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キッチンで目を引くのは立派な梁。床にあった囲炉裏はテーブル状に改造しましたが、自在鉤や照明は昔のままです

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実例02
前オーナーから「大切にして欲しい」と言われたトイレの手洗い。陶芸家からプレゼントされた作品だそうです
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近所の方に教わってつくった杉玉をキッチンに。小さな黒板には冷蔵庫の中にある日本酒を書き出してあります
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庭掃除で剥がそうと思った苔ですが、「かわいそうになって苔ゾーンをつくりました。器は母の陶芸作品です」
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気に入っている岩風呂は、一生懸命磨いてきれいにしました。写真右側に見える昭和な型ガラスも味があります
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居間には祖母から譲り受けた藤の座椅子を。寒い季節はこたつを置いて、ここでテレビを見たり食事をしたり

間取り&部屋主プロフィール

Floor plan
実例02間取り

① 一番広い和室はものを置かずに、広々とした贅沢な空間に。友人たちが泊まりに来た時はここを「合宿所」とし、普段は座禅やヨガなどで使っています。

② キッチンと隣の和室の境の壁を壊して一続きにし、リビングとしました。一番長くいる場所です。寒い時期はこの部屋でリモートワークをします。

③ 敷地が斜面になっていることから和室の下に空間があったため、離れとして別室をつくりました。

Profile
部屋主プロフィール
部屋主プロフィール
TAKARA.KO さん[静岡県伊豆の国市/東京都]
年代:40代(会社員)
住居区分:一戸建持ち家(伊豆) 居住年数:3年
同居人:夫
Instagram(@takara_no_kominkalife)で、古いものを受け継ぎ、季節の恵みに親しむ「山の古民家暮らし」の日々を発信しています。
2024.4
編集長
久保良子
エディター
近藤希星、荒木祥子
コントリビューティング・エディター
木下のぞみ
安楽美樹(ブレインカフェ)
アートディレクター
深田さおり(KLEUREN)
制作・コーディング
東良昭 大迫礼乃(ヒストリアル)
エフェクト
小林しんじ(フローズウェブ)
編集協力
戸部亮介 海藤絢夏(LIFULL)
発行人
井上秀嗣
発行元
株式会社ブランジスタメディア
東京都渋谷区桜丘町20番4号 ネクシィーズスクエアビル