April
2022
Vol.43

あの人が好きな街

Keisuke Horibe

松陰神社前に感じる懐かしさはDNAと関係があるのかも(笑)
取材・文/小松孝裕(エンターバンク)
撮影/山下陽子

4月まで放送されていた連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」に出演するなど、バイプレイヤーとして作品の味を引き出す俳優・堀部圭亮さん。20年ほどまえに訪れて以来、よく訪れるという松陰神社前の魅力についてお話してくれました。また6月から出演する舞台「室温~夜の音楽~」についても、脚本を手掛けたケラリーノ・サンドロヴィッチさんへの思いなどを語ってくれています。

about the FAVORITE TOWN

堀部圭亮さんが好きな街
堀部さんは、20年くらい前から松陰神社前によく訪れているそう
堀部圭亮さんが好きな街

松陰神社前

「数年前からなぜか松陰神社前にひかれてよく行くようになりました。
どこか懐かしい雰囲気が安心できる街です」

What is SHOIN-JINJA-MAE like?

松陰神社前はどんな街?

東急世田谷線「松陰神社前」は、新宿から電車で約30分。都心からのアクセスは良好ですが、落ち着いた雰囲気が流れる街。最近ではオシャレなカフェなども増え注目度も上昇中。

松陰神社前に行くようになったきっかけは?

生まれは東京の台東区なのですが、そこから親の都合でなんどか引っ越しています。そのあと一人暮らしするようになって、ずっと都内に住んでいたのに、松陰神社前という街を知らなかったんです。あるとき、行ってみたいラーメン店があったのが松陰神社前で、その時に初めて来ましたね。ごちゃごちゃしていない、なんて気持ちのいい商店街がある街なんだと思ったのが最初の印象です。

趣のある雰囲気で、最近、少しずつ注目されてきていますね。

そうなんですよね、ここ何年かすごく充実してきていて、カフェやこぢんまりとしたバーとかが増えてきているんですよね。とはいっても、近くの三軒茶屋などと比べるとお店がものすごく充実しているわけではないです。電車も東急世田谷線で、都心では数少ない路面電車。便利な街ではないけど、こぢんまりしていていろいろあるのが、すごく自分に合っているんです。

堀部圭亮さんが好きな街
「独身だったら住んでみたかった街」と堀部さん

松陰神社前でよく行くお店はありますか?

松陰神社前に行くきっかけになったラーメン店は今でもよく食べに行きます。あとは、松陰神社の近くに、ドラッグストアではない昔ながらの薬局があるんです。そこには、古くからある木の薬棚が置いてあって、それがものすごく素敵で、何度か売ってもらえないか交渉したことがあります。でも、そのたびに「売り物じゃない」と一蹴されていて(笑)。でも、そんな話が気軽にできるような、人の温かさもどこか懐かしさを感じる理由なのかなって思います。

堀部さんにとって松陰神社前という街は、どんな街ですか?

新しいお店も増えている一方で、ちょっとした洋菓子も置いている昔からあるパン店など古いお店もしっかり残っている。どこか古きよき時代の雰囲気が感じられる、懐かしさを感じる街だなって思います。松陰神社前という街にひかれたのも、私自身が下町生まれなので、下町感というか街の雰囲気が自分のDNAと共鳴して、何かを感じたのかもしれないです(笑)。松陰神社前には、いつまでもこぢんまりとした雰囲気でいてほしいですね。

about the STAGE

すごい後味の悪さを
感じてもらえるようにしたいです
堀部圭亮さんが好きな街

テレビドラマや映画などでも活躍されていますが、堀部さんにとって舞台への出演というのはどのような思いがあるのでしょうか?

もともと松田優作さんに憧れていたんです。優作さんのような、ドラマや映画に出演する俳優になりたくて、高校を中退してこの世界に飛び込みました。でも自分の理想とは違って、最初はお笑いで舞台に上がって、だんだんとテレビに出演するようになると、萩本欽一さんの番組でお客さんの前でコントをしたり、ウッチャンナンチャンさんの番組でもお客さんが見ている中でコントをしていました。俳優とは違ったことをしていたのですが、不思議といつも目の前にお客さんがいたんです。でも、その時は、テレビの画面や映画のスクリーンの中で演じたいという思いを抱えていました。念願かなって俳優としていろいろな作品に出演するようになって、40歳の時に三谷幸喜さんの舞台に呼んでもらいました。これが舞台演劇の最初だったのですが、以前はどこか違和感があった “お客さんの前”というものが、まったく違うものになったんです。お客さんがいて、舞台の上で演じるというものが、同じようで全然違っていました。特にカーテンコールの景色には感動して、観客と演者が同じ空間で同じ作品を経験するというのがいいなと思ったんです。そこから舞台の魅力にはまっていきましたし、緊張感という意味でもいい経験になるので、舞台に出続けなければと思っています。

今回、「室温~夜の音楽~」のお話を聞いた時はどのような気持ちでしたか?

念願のケラリーノ・サンドロヴィッチさんの作品だったので、とても嬉しかったですね。河原雅彦さんが演出する舞台には以前出ていて、とても素敵な演出家さんなので、また一緒にやりたいなと思っていたんです。自分が願っていたことが2つ同時にきたので、むしろこのチャンスを逃しちゃいけないと思って、ガっと捕まえるかのごとくすぐに出演を決めました(笑)。21年前に上演された時のものは観られていなかったのですが、台本を読んでみたらやっぱりおもしろくて。個人的にもホラーなコメディーは好きで、自分のライブでも人の生死をテーマにするのですが、ケラさんの作品も人の生死や抱える闇などを描いていることが多くて。その中でのセリフのやり取りなどに“ケラさんらしさ”が詰まっていて、そういう部分に魅力を感じています。河原さんもブラックな部分と笑いの部分の使い分けが素晴らしいので、ケラさんの台本との相乗効果が楽しみですし、そこについていけばおもしろいものになるという思いもあります。

堀部さんはじめ、共演者の方々は個性あふれる方がそろっていますね。

本当に、クセのあるというかクセしかない役者がそろってますよね(笑)。浜野謙太くんとは共演したことはあるのですが、それ以外の人は「初めまして」です。浜野くんも一緒のシーンがなかったので、そういった意味では一緒に演技するのは全員初めてなので、こんなに濃いメンバーと演技をぶつけ合うのが、いまから楽しみです。作品自体も、メインの登場人物が6人いるのですが、それぞれが抱える闇の部分が調和しています。ストーリーが進むごとにその闇がひとつひとつわかっていくのですが、伏線が回収された爽快感はまったくないです。どこか感じていた違和感が明らかになったことで、むしろもっと気持ち悪くなるというような、ケラさんのたたみ込んでくる感じが、このメンバーなら表現できるんじゃないかと思います。私が演じる海老沢十三は、ちょっと裏のある作家なんです。でも“裏のある”という部分を固めていくと、ありがちな人物にしかならないのかなと。自分が思っていた十三の黒さというのが“つやのない黒さ”だったので、資料として拝見したドラマ版では私が考えていたアプローチとは少し違っていて、このやり方でもありなんだなって参考になりました。結局、十三の闇の部分というのは、すごく後味の悪いものなので、観客の方のとらえ方はさまざまになるとは思いますが、いずれにしてもすごく後味の悪さを感じてもらえるようにしたいですね。

新演出版として上演される今作のみどころをお聞かせください。

音楽は、今作に出演する浜野くんが所属する在日ファンクが手掛けていて、私自身もすごく楽しみにしています。この作品は、決してストレスを発散させるような舞台ではありません。むしろ、もっと内側へ内側へと向かった作品になっているので、その感覚を楽しんでもらえたらなと思います。爽快感があるはずの炭酸飲料を飲んでもまったくすっきりしないような苦い味わいを体感しに来てください。

クセしかない濃い人たちと

一緒に演技をするのが楽しみ
堀部圭亮さんが好きな街

INFORMATION

「室温~夜の音楽~」

「室温~夜の音楽~」

東京公演:6月25日(土)~7月10日(日)
世田谷パブリックシアター
兵庫公演:7月22日(金)~24日(日)
兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

田舎で二人暮らしをしているホラー作家の海老沢十三とその娘のキオリ。キオリには双子の妹・サオリがいたが、12年前に拉致・監禁の末、集団暴行を受け殺害されてしまう。そんなサオリの命日の日に、巡回中の警官や十三の熱心なファンの女、タクシー運転手などさまざまな人が海老沢家を訪ねてくる。そこへ、加害者の少年のひとり、間宮が焼香をしたいと訪ねてくる。バラバラに集まってきた人たちだったが、やがて過去の真相が浮かび上がり…。

作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ 演出:河原雅彦 音楽・演奏:在日ファンク
出演:古川雄輝、平野綾、坪倉由幸(我が家)、浜野謙太、長井短、堀部圭亮ほか
公式HP:https://www.ktv.jp/shitsuon/

堀部圭亮
PROFILE

堀部圭亮
Keisuke Horibe

1966年3月25日、東京都出身。1986年にお笑いコンビ「パワーズ」としてデビュー。1996年、映画「弾丸ランナー」に出演して以降、本格的に俳優としてテレビや映画、舞台などで活躍。最近では、「カムカムエヴリバディ」(NHK)、「ミステリと言う勿れ」などに出演。