新生活の準備がそろそろ始まるこの季節。あたらしい生活を始めるなら、朝のひとときを楽しくスタートさせてくれる、パン屋さんが多い街で過ごしてみませんか? 今回は、魅力的なパン屋さんが多い街として、三鷹(東京)、総社(岡山)、八幡浜(愛媛)の3つの街の魅力をご紹介します。
text:Ikumi Ueno(effect) photo:Eizaburo Sogo
東京の多摩地域東部に位置する三鷹市。その大きな魅力は、都市機能と自然が隣り合わせる地域だということ。神田川、仙川、野川という3本の一級河川があり、江戸時代には農業も盛んに行われる地域でした。今も豊かな川の流れによって周囲に緑が育まれ、公園や緑地の多い地域でもあります。もっとも有名なのは三鷹市と武蔵野市にまたがり、広大な面積を誇る井の頭公園。ほかにも三鷹市と武蔵野市の市境を流れる玉川上水沿いの遊歩道が「風の散歩道」と呼ばれ、市民の散歩コースとしても親しまれています。また太宰治や武者小路実篤などの文豪が愛した街でもあり、文化的な香りを兼ね備えているという特徴もあります。2001年には三鷹の森ジブリ美術館ができたことでも話題になりました。
三鷹のもうひとつの魅力が、首都圏の「借りて住みたいランキング」の5位に入るほど、暮らしやすい街だということ。新宿までは中央特快を利用すれば13分で到着します。そして三鷹駅を中心に、駅直結の「アトレヴィ三鷹」などの商業施設、駅周辺の商店街やスーパーなどもあるほか、吉祥寺にもほど近く、買い物や飲食にも事欠きません。三鷹には個性ある個人経営の店も多く、近年ではこだわりのパン屋がどんどんと増えており、長い歴史を持つ老舗のパン屋とともに注目を集めています。三鷹に暮らせば、ゆったりと穏やかな時間を過ごすことができそうです。
パワーアップさせた3代目
トーホーベーカリー 代表松井成和さん
派手な街にはない、
のんびりした空気がいいんじゃないかな。
今では毎日のようにたくさんのお客さまが来てくださるこのお店ですが、私が別のパン屋で修行を終えてこの店に入った30年ほど前は、お店が少しピンチでした。私が戻ってきた当初は、別のお店でレシピを覚えてきた新しいパンを売り出し、お客さまも多く訪れてくれたのですが、それが長く続かず。何がだめなのか、ヒントを求めて店の外へ飛び出し、ほかのパン屋さんと情報交換をするようになりました。それまで、ほかのお店とレシピを交換しあうことなど考えられませんでしたが、このとき勇気を出したおかげでパンのつくり方だけでなく、並べ方、売り方まで新しい視野を得ることができました。
パンのつくり方でのこだわりは多岐にわたるのですが、15年くらい前からほとんどのパンに天然酵母を使用しています。また国内産小麦粉をブレンドしたり、北海道産バターを使ったりと素材も厳選。焼き方にも工夫をしており、口にしたときにみずみずしさがあって、次の日に食べてもおいしくなるように焼き上げています。店内には常に100種類ほどのパンが並んでいますが、そのすべてのパンをみなさんに喜んで食べていただけるように、研究を重ねてきました。時間はかかりましたが、おかげさまで街の人に愛されるパン屋になることができたと思います。
三鷹は暮らしやすさも自然もある、とてもいい街だと思っています。とくに緑や公園が多いのが魅力ではないでしょうか。井の頭公園というと吉祥寺のイメージが強いかもしれませんが、一部はれっきとした三鷹ですしね(笑)。そして買い物にも困ることがありません。吉祥寺と比べると派手さはないかもしれませんが、そういう街にはない、のんびりした空気がいいんじゃないですかね。最近、私が個人的にうれしいと感じているのは、三鷹におしゃれなパン屋さんが増えたことです。お互いにいい刺激を受けながら、地域の人がパンのある生活を楽しんでくれるといいなと思っています。
トーホーベーカリーの初代である私の祖父と、近隣の丸善精工さん、田島建材さんの先々代の社長が協力し合って昭和の初期に作った神社です。子どものころはよく遊んだ思い出の場所でした。今は役員を務めており、毎年行われる地域のお祭りのときなどは、みなさんと関われる大事な場所となっています。お祭りのあとは地域の方が100人くらい社務所に集まって大宴会が行われる、地域に愛される神社です。
暮らしのスポット
トーホーベーカリー
三鷹丸十ベーカリー
siro
岡山県の中南部に位置し、周囲を山に囲まれ、市の中央部を高梁川が流れるなど豊かな自然が残る街。総社市には桃太郎のモデルとされる吉備津彦命と鬼神・温羅(うら)の伝説が残っており、温羅の居城とされた「鬼ノ城」跡は日本100名城に選出。さらに水墨画で有名な雪舟が修行したといわれる寺院「宝福寺」もあり、歴史的な観光スポットの多い街です。そんな総社市はパンの消費量が多い岡山県のなかでも、パン屋さんの件数や出荷量が多いため、パンの街として注目を集めてきました。ご当地グルメ「総社ドッグ」を使って街おこしがされるなど、パンと密接な関わりのある街なのです。
そして近年では全国屈指の福祉文化先駆都市をめざしているほか、子育て制度の推進などにも力を入れており、岡山県内でもっとも人口が増加している街でもあります。暮らしやすさの観点から見ると、スーパーやドラッグストアのような店が点在しており、生活必需品の買い物に困ることありません。大型商業施設はありませんが岡山市や倉敷市に隣接しているため両市に30分ほどでアクセスができ、買い物やレジャーを楽しむこともできます。子育て世帯の移住も増えており、今後は街がさらに活気づくことが期待できそうです。
ナンバベーカリー
愛媛県の南西部に位置し、太平洋の黒潮が流れ込む宇和海に面する港町。明治時代は「伊予の大阪」と呼ばれるほど九州や関西地方との海上貿易が盛んでした。現在は1日20往復のフェリー便が行き来する「九州の玄関口」となっています。また、漁場にも恵まれていて四国有数の水揚げを誇る魚市場も。宇和海の特質上、旬の魚が多く年間200種類以上の魚が水揚げされるのです。今もなお、昔の名残として街ではレトロな雰囲気が見られ、そのあちこちにおいしいパン屋さんが点在しています。
八幡浜市は、海や山など自然が身近にあるため食文化が豊かな住みやすい街とされています。特にみかんなど柑橘類の品質や生産量は全国トップクラス。平均よりも温かい気候のため、栽培のみならず人が暮らす環境としても適しています。また、重要文化財の「日土小学校」をはじめとする近代モダニズム建造物や宇和海など、歴史と美しさを感じられる景観も大きな魅力です。中心地の白浜エリアはショッピングセンターや商店街、温泉などがあり生活のしやすさも充分。1番遠い地域からでも車で約20分と交通の便も整っています。豊かな食と自然に囲まれて、のびのびと生活が送れる街です。
パン・メゾン八幡浜本店
住む街にお気に入りのパン屋さんがあれば、起きるのが楽しくなりそうです。
気になる街があれば、目利きの話をチェックしてください。