April
2025
Vol.61

移住して好きなことを楽しむ2つの暮らしを紹介します

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Photo: Hirotomo Onodera(room)、Madoka Sano(front page)、text: Nahoko Sakai

01 住まいを捨てた放浪生活から家族と音楽のある暮らしへ

実例01

「音楽なら東京だ!」と19歳で故郷を離れたikuさん。先輩とレゲエ・ユニットを組み、ヴァイオリン&ヴォーカルという異色のスタイルで音楽活動を開始すると、あっという間に高名ミュージシャンとの共演、CDデビューが決まり……。ところが「憧れの人と同じステージに立てることが怖くなって。家財道具も住まいも処分し、ギターとヴァイオリンを持って日本各地を回るヒッチハイクの旅に出ました」。そして行った先で1~2か月滞在し、「流し」のアーティストとして演奏する生活を続けていました。

実例01
自分でOSBボードに塗料を塗って、月を浮かべて。大切な家族と定住するための家ができました

旅と変化を好むikuさんが栃木県に居を定めたのは、妻のめぐみさんに出会ったから。10年前に結婚し、子どもも生まれ家族が大切なものになり、「ご飯は家で食べたいな、と思うようになったのです」。でも、やりたいこと=音楽は変わりません。「昔から、やりたいことにはしつこくこだわる性格なんです」。

ikuさんはここで家族と暮らすためにどうすればよいか考え、「自分が好きな世界観、音楽性、できること、やりたいこと全てが揃っているのはウェディングだ」と確信。結婚式を中心に活動するエンターテインメント集団Philharmony Weddingを県内在住のメンバーとともに結成しました。

音楽の仕事なら都市部の方がよいのでは?と思いがちですが、「自分の音楽はアコースティックでファンタジー。最先端に触れる場所よりも、自然が豊かな場所が合っていたのです」とのこと。「ここは隣家との距離もあり、仕事で夜中に音を出しても近所迷惑にならない。東京では無理なこと、ですね」。

知らない土地で暮らすコツは「自分から何かしらのコミュニティに入っていき、友人を増やすこと」とうikuさん。現在は自治会に参加するなど地域に根付きながら、音楽&エンターテインメントの幅を広げています。

実例01
ファンタジーな世界がお客さんの目の前に現れるikuさんの音楽&パフォーマンス。スタイリングは栃木県在住のデザイナーANTさん
実例01
仕事場の「音楽室」は防音仕様。
ikuさんの世界観を具現化した内装は、全て自作です。森をイメージして、庭木の大きな枝をあしらいました

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実例01
広々とした土間は靴のまま出入りできます。外を眺める一等席にいるのは保護猫のジジ、同じく黒猫のキキ
実例01
何でも自作してしまうikuさんが昨夜つくったのは、「ペンを照らすためだけのライト」。音楽室の備品です
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めぐみさんの要望で一級建築士の姉[アトリエワレア]が設計した家。庭にめぐみさんの仕事場も建つ予定です
実例01
土間の掃き出し窓の前に、最近めぐみさんが凝り始めた観葉植物や多肉植物の鉢植えが。台はikuさんが制作
実例01
キッチンから続く壁には、お子さんの絵などを展示。自由にフック位置を変えられる有孔ボードは便利です

間取り&部屋主プロフィール

Floor plan
実例01間取り

① 広々とした「リビング」がこの家の主役。高断熱・高気密で音漏れの心配もなく、ペレットストーブだけで冬も暖かく過ごせます

② リビングからシームレスに続く広い土間には、カウンターやテーブルを設置。玄関と一体で靴のまま出入りでき、ちょっとしたパーティや接客からDIY 作業まで、幅広い使い方ができます

③ 「仕事の際には人の気配を感じたくない」というiku さんの要望によって、音楽室は母屋からは独立した設計になっています

④ 帽子やコート、トランクなど、演奏時に用いる素敵な衣装や小道具を収納

Profile
部屋主プロフィール
部屋主プロフィール
団長iku さん[栃木県河内郡上三川町]
年代:40代(Philharmony Wedding 団長)
住居区分:持ち家 居住年数:5年 同居人:妻、息子、猫(ジジ、キキ)
結婚式、イベントで音楽&パフォーマンスを展開するPhilharmony Wedding 団長。活動はInstagram(@phw_dancyou_iku)

02 地縁も土地勘も経験もなく。移住で酪農、始めました!

実例02

20年間東京で暮らしてきた小松さん一家は、2021年春に房総半島南部のいすみ市に移り住みました。「いすみ市には何の縁もなかったのですが、オーガニックやナチュラル指向のカルチャーがあり、家族で酪農をしている人がいたり。調べていくうちに魅力を感じました」と豪さん。ランドスケープデザイナーの裕美さんは「いつか農風景のデザイをしたい」と考えていたそう。そしてコロナ禍にお子さんが登校したがらなくなったこともあり、「じゃあ、移住しようか!」ということになったのです。

実例02
このエコアパートに出会えたこと。それも縁のなかったいすみ市に移住を決めた理由の1つです

移住先では「自然相手の仕事」をしたいと農・林業を考えていた豪さんですが、他県で牧場を始めた人の例を知り、酪農に興味が移ったそうです。「突然“牛を飼いたい” と言われて、最初はキョトンとしましたよ」と笑う裕美さん。「でも面白そうですし、人がやりたいということは誰にも止められませんから」。

豪さんは地元の牧場で研修し、衛星写真で耕作放棄地を探して地主さんに交渉し土地を借り、開拓を進めました。そして移住した年の秋には牛を飼い始め、「うたうファーム」という完全放牧の循環型酪農をスタートしたのです。

「田舎では人のつながりが勝負!やりたいことはどんどん人に話すと、ネットにはない情報を得られます」と裕美さん。豪さんは「最低限、生活できる仕事を確保することが重要。これまでの仕事や人生経験を活かせる場合もありますし、こだわらずに複数の仕事を持つこともよいと思います」とのこと。

昨年、ファームでは待望の子牛が生まれ母牛の搾乳ができるようになり、いまは製品化に向けたヨーグルトづくりが進行中。全てが手探りだったお2人の「酪農生活」は、しっかりとしたカタチになり始めています。

実例02
全4戸の畑付きエコアパート。一緒に醤油を手づくりしたり、お互いに行き来したり、昔の「長屋」のようなコミュニティがあるのも魅力です
実例02
2人の仕事部屋。豪さんは建築士、裕美さんはランドスケープデザインの仕事を続けており、そのスキルはファームの仕事にも活かされています

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実例02
「岡崎おうはん」という種類の国産ニワトリのヒナ。牛と一緒に牧場で育てて、家族用の卵の確保を計画中!
実例02
エコアパートでは初めから薪ストーブが設置されています。 薪は地域の森林管理&薪調達システムで入手
実例02
小松さんが搾乳した牛乳からつくったフローズンヨーグルト。7月にはECサイトを立ち上げて販売する予定です
実例02
仕事部屋のテーブルの上には、作家さんの作品からインドのお土産まで「いつのまにか集まった」さまざまな牛が
実例02
ウッドデッキに焚き火台を置き、火を囲むことも。目の前には田園風景が広がり、カエルの声も聞こえます

間取り&部屋主プロフィール

Floor plan
実例02間取り

① 専用庭は畑になっており、ハーブや野菜を育てています。雨水リサイクルタンク、ポンプで汲み上げる井戸もあり、いざという時にも安心です。畑の脇には大きなバナナ!立派な実をつけるそうです

② つくり付けのコンポストで、ごみ減量と畑用の堆肥づくり

③ 夏は日差しを遮り、冬は日当たりがよくなるよう設計された庇

④ 専用庭が見渡せるLDK。玄関を開けると爽やかな風が通り抜けます

⑤ 無垢ヒノキの床にはスリットがあり、1階の薪ストーブの暖かい空気が2階にも上がってきます

Profile
部屋主プロフィール
部屋主プロフィール
小松 豪さん・(高橋)裕美さん[千葉県いすみ市]
年代:豪さん 50代(建築士、うたうファーム代表)、裕美さん 40代(ランドスケープデザイナー、うたうファーム製造販売、コミュニティデザイン担当)
住居区分:賃貸 居住年数:4年 同居人:夫婦、息子、娘
耕作放棄地と里山をジャージー牛と共に開拓し「うたうファーム」を運営。イベント出店や販売のお知らせなどはInstagram(@utaufarm.isumi)で