February
2022
Vol.42
日本の名建築

森鴎外が住み、夏目漱石も猫と暮らした明治時代初期を象徴する名作住宅 森鴎外・夏目漱石住宅

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Point 1.欧米を知る森鴎外、夏目漱石が住んだ住宅 2.江戸を引き継ぐ和風建築でありながら廊下が特色 3.猫と暮らすために設けられた潜戸
森鴎外・夏目漱石住宅
Photo: image via明治村

「森鴎外・夏目漱石住宅」は、もともと富裕な商人が医者の息子のためにつくった家とされています。竣工は1887年頃、明治時代中期です。森鴎外は、1890年から借家としてこの家に移り住みました。夏目漱石が住んだのは、森鴎外が転居した約10年後のことです。夏目漱石は、千駄木のこの家を気に入っていたのか、3年ほど住み、猫を飼いながら『我輩は猫である』『坊ちゃん』『草枕』など、漱石の代表作を書き上げました。
住宅の構造は木造平家建て、寄棟造、桟瓦葺で、外壁は押縁下見板張になっており、間取りは田の字型平面を基本としています。建築面積は約130平方m。庭に面した座敷表には、猫がまどろんだ縁があります。玄関脇に応接兼書斎を設けており、最大の特色は台所からの短い中廊下を設けたところ。中廊下によって、襖(ふすま)で間仕切りを伝統的な間取りではなく、廊下によって各部屋を独立させる近代住宅に近づいたと言えます。
 夏目漱石は、この家で妻と子ども、そして猫と暮らしました。猫が日向ぼっこをした縁側だけでなく、猫がくぐる潜戸もあります。夏目漱石としては、自分が売れるきっかけとなった処女作「吾輩は猫である」が猫との暮らしを書いたものでしたから、この家と猫を大事にしたことでしょう。

名建築に学ぶ家づくりのヒント

和風建築でありながら中廊下を設置
猫が屋内を行き来できるようにした潜戸
森鴎外・夏目漱石住宅には中廊下が取り入れられています。これは、もとの住人だった医者が患者を迎えられるようにしたものかもしれません。また、猫が玄関から書斎へ直接入れるよう、潜戸が設けられています。人を招いたときのために廊下と客間、猫の動線やスペースを確保する、というのは現代にも通じる考え方です。
名建築に学ぶ家づくりのヒント
中山繁信
監修者プロフィール

中山繁信
Shigenobu Nakayama

建築家。1942年栃木県生まれ。法政大学工学部建築学科卒。法政大学大学院建設工学科修士課程修了。宮脇檀建築研究室、工学院大学建築学科伊藤ていじ研究室助手を経て中山繁信設計室(現T.E.S.S.計画研究所)開設。2000年~2010年工学院大学建築学科教授。工学院大学建築学科非常勤講師、法政大学建築学科非常勤講師。主な著書に「図解 世界の名作住宅」(2018年、エクスナレッジ)、「窓がわかる本」(2016年、学芸出版社)など。