看板猫、招き猫、野良猫。路地裏にひょっこり猫たちが顔を出す街があります。猫と一緒に路地裏散策を楽しめる街は、どこか懐かしく、それでいてあなたの冒険心をくすぐるはず。今回は、西荻窪、常滑、尾道と3つの街をご紹介します。
text:Ikumi Ueno(effect) photo:Eizaburo Sogo
JR中央線で新宿駅から5駅目にある、西荻窪。都心からのアクセスのよい街でありながら、アンティークショップや雑貨店、飲食店など個性豊かな個人店が軒を連ね、圧倒的な存在感を放つ街です。大正後期から昭和初期にかけて文化人の別荘地が多く存在していたことが、文化的な空気が醸成された一因だといわれています。
そんな個人店の多くは、柳小路、平和通り、西荻窪南通りなど路地裏に点在しているため、西荻窪は路地裏散策にもってこいの街。レトロだったり、おしゃれだったり、アジアっぽい雰囲気だったり。店主の個性あふれるお店が多く並ぶ街には、自由気ままな猫が似合います。そんな街だからか看板猫のいるお店も多く、猫との交流も楽しめる街なのです。休日には中央線の快速が通過するなど、一見不便に感じる部分もありますが、それゆえに家賃が安い、日常品の買い物がしやすいなど住民が暮らしやすいのも魅力です。
ちゃいろちゃんが出迎える
「ミルチ」店主バブさん、
みちるさん
同じものが好きだという安心感が、
人との距離をぐっと縮めてくれます。
西荻窪にお店を構えたのは2002年のこと。この地を選んだのは、夫が初来日したときから、長くこの地に住んでいたからです。私は結婚してから西荻窪に住むようになりました。ちょっと変わった人が多い街だけど、だれでも受け入れてくれるような安心感と、のんびりした空気がとても気に入りましたね。この街の魅力は、西荻窪を好きな人が多いことじゃないかなあと思っています。住んでいる人みんなが“西荻愛”を持っている気がして。同じものが好きだという安心感が、人との距離をぐっと縮めてくれます。このお店のお客さんも常連さんが多くて、みんな「ただいま」と言いながらお店に入ってくるんですよ。人と人との距離が近い街だと思います。
今いるちゃいろは実は2代目なんです。初代のちゃいろは、このあたりに住み着く野良猫でした。とてもいい子で開店時間中はお店には近づかず、閉店間際になるとふらっと姿を現す、そんな子だったんです。そんなちゃいろがある日、いなくなってしまって。私も夫もとてもショックを受けて、夫は次に飼うなら絶対にちゃいろと同じ柄じゃないと嫌だと言っていました。その後知り合いから子猫がいるんだけど引き取らない? と言われて、出会ったのが今のちゃいろです。先代のちゃいろと同じ柄に運命的なものを感じて引き取ることにし、お店に出勤する看板猫になりました。
ちゃいろが看板猫としてお店にいてくれてよかったと思うことは、お店に入るハードルをさげてくれること。このお店って、初めてだとちょっと入りづらいと思うんですよ。でも、ちゃいろが座っている姿を外から見て、「わー、猫ちゃんだー」って入ってきてくれる方も多いんです。しばらくちゃいろと遊んでから「で、なんのお店なんですか?」と聞かれることもしばしば(笑)。ちゃいろがお店にいてくれることで、絶対に猫好きのお店なんだとわかるので、猫好きの方が集まって、猫の話題で盛り上げることも多いですよ。そして私も夫もいつもちゃいろに癒されて、仕事をがんばれているかなと思います。
五日市街道沿いにある「西高井戸松庵稲荷神社」がお気に入りスポットです。この神社にはキツネのミイラが祀られていて、境内はきつねがたくさん。こじんまりとして素朴な雰囲気に心が落ち着きます。毎日のようにこの前を通るので、時間があるときはお参りをすることもありますし、毎年初詣は決まってここを訪れます。
東京都杉並区松庵3-10-3
暮らしのスポット
ミルチ
帽子工房 シャポーヌ
動物文具・雑貨の店「文房具タビー」
名古屋の南方、知多半島の中央あたりに位置する愛知県常滑市。この街を一躍有名にしたのが、知多半島で採れる鉄分を多く含んだ陶土を使用して作られる「常滑焼」です。その技術を活かし盛んに作られるようになったのが招き猫。それまで作られていたスリムな招き猫ではなく、ふっくらとした二頭身のフォルムと小判を手にしたデザインで人気を集め、生産量日本一となりました。そのような背景から常滑市には「とこなめ招き猫通り」という観光スポットがあります。名鉄「常滑駅」から東の陶磁器会館に向かう道路沿いのコンクリート壁に巨大な招き猫「とこなめ見守り猫『とこにゃん』」、「御利益陶製招き猫」39体、「本物そっくりの猫」11体が並び、猫好きにはたまらない街なのです。
中部国際空港があり、空の玄関口としても知られている常滑市。名古屋鉄道常滑線、空港線の2線の電車と、知多半島道路、知多横断道路と2本の道路が走り、交通機関が充実しています。また大型商業施設も多く、買い物にも困りません。焼き物の街として栄えてきた旧市街には煙突や窯、工場など、昔の街並みがそのまま残されており、「やきもの散歩道」として整備されているのも魅力。常滑焼の焼き物体験のほか、ギャラリーや雑貨店、常滑焼の器を使ったカフェなどが楽しめる街となっています。
やきもの散歩道
MADOYAMA
瀬戸内のほぼ中央、広島県の東南部に位置する広島県尾道市。漁港があり、小さな路地も多かったために野良猫が多く、猫の街として全国にその名を知られています。人懐っこい猫も多く、観光に訪れた人も温かく迎え入れてくれるそう。ほかにも、芸術家の園山春二氏が生み出した「福石猫」が路地に置かれた「猫の細道」や、同じく園山氏が空き家を再生して作った「招き猫美術館」など、猫にまつわる観光スポットも多くあります。
尾道は猫の街以外にもさまざまな顔を持っています。1つ目には物流の街であること。瀬戸内海の海上交通の要地で、古くから港町として栄えてきました。ほかにも山陽新幹線などの鉄道と、山陽自動車道、瀬戸内しまなみ海道、中国やまなみ街道などの高速道路、フェリーなどが整備されており、主要都市からのアクセスがよい立地となっています。また平地が少なく、坂の街としても知られている尾道。神社仏閣が点在し、歴史ある街並みが連なる景色は圧巻で、映画のロケ地や、文学作品の舞台にも選ばれてきました。観光地として栄えているため、尾道駅の周辺には飲食店なども多いのが特徴です。坂の多さは暮らす上での不便さはありますが、景観の美しさや自然の豊かさは住民の心を癒します。