大切な人と過ごすゆっくりとした時間という意味の「ヒュッゲ」。仕事や家事など忙しい日々を送る人にとって、ヒュッゲが感じられる街での暮らしは心を癒し、穏やかな気持ちにさせてくれるはず。今回は“ヒュッゲ”な街として葉山、ニセコ、大三島と3つの街をご紹介します。
text:Ikumi Ueno(effect) photo:Eizaburo Sogo
神奈川県の三浦半島西部に位置する葉山。明治中期に御用邸が建設されてから、名士の別荘地として発展してきた街です。その人気の理由は海と山の抜群のロケーション。森戸、一色、長者ヶ崎・大浜と相模湾の3つの海岸と、仙元山や三ヶ岡山などの山を有しています。なかでも一色海岸は「日本の海水浴場88」に選出されるなど、その美しい海岸線は訪れる人を魅了します。里山には棚田が広がっており、まるで日本の原風景のような景色を見ることも。このように豊かな自然に囲まれた葉山は、コロナ禍で移住者が増えており、物件の空き状況が少なくなるほど、人気を集めています。
また都内へのアクセスがよいことも、葉山に移住者が多い理由の1つ。町内に駅はありませんが、バスでアクセスできる圏内に逗子駅、逗子・葉山駅があります。とくに逗子駅には横須賀線、湘南新宿ラインが乗り入れており、新宿、渋谷、品川、東京などの主要駅に直通、1時間ほどで到着することも可能です。そしてスーパーやコンビニだけでなく、葉山港で水揚げされた魚や、地元の新鮮な野菜を買うことができる直売所が多いため買い物にも困りません。別荘地として発展してきただけあり、おしゃれなお店、こだわりのお店が多いのも葉山の特徴。豊かな自然と洗練された空気が同居する、存在感の強い街となっています。
思いを胸に、お米のアイスを製造
BEATICE 山口冴希さん
家族みんなで海に夕陽が沈むのを眺める。
そんな時間を大事にするようになりました。
葉山に移住をしたのは、森戸神社から見た、海越しの富士山の景色を夫が気に入ったから。私は食べ物がおいしいところだったらどこに住んでもいいと思っていたので(笑)、一カ月後には移住してました。ここにきてよかったと思うことはたくさんあるのですが、1つにはゆったりとした時間が過ごせるようになり、細かいことをあまり気にしなくなったこと。葉山に暮らしていると息抜きができる時間がたくさんあるんですよね。ちょっと手があいた夕方に「夕陽を見にいこう」って、海まで散歩に行って。家族みんなで夕陽が沈むのを眺める。そんな時間を大事にするようになりました。私が暮らしている一色というエリアは、子連れで移住した人がとても多くて、お互いに助け合いながら子育てできるのも魅力ですね。
最初はボランティアとして棚田を手伝っていましたが、そのうちに、棚田が衰退の一途を辿っていることを知りました。棚田は傾斜が多く、大きな機械が入れないため、「人手2倍、収穫量半分」とも言われています。葉山に住んでいても、棚田のお米を口にすることは難しいのが現状です。一方で、私たちのように棚田に魅力を感じる人もたくさんいる。そんな人たちと棚田を繋ぐツールがあったらいいなと思い、作ったのが「葉山アイス」です。少ないお米でも、甘酒を仕込み、さらにアイスに加工することで、たくさんの人に届けることができます。海を訪れた人にも、アイスを通じて山の魅力を知ってもらう。そんなことができたら嬉しいなと思います。
葉山アイスの活動を始めたタイミングで、全国の棚田に携わる人が集結する棚田サミットに出たところ、「うちの棚田のお米も使ってアイスを作ってほしい」とさまざまな棚田の方から言ってもらえて。現在では福島、長野、奈良など全国10地域の棚田のお米を使い、「葉山アイス」に加えて「棚田アイス」も作るようになりました。これまで私1人でアイスを作ってきたのですが、ご縁があって、長野県中川村に製造拠点を移して製造体制も整えました。アイスを通していろんなつながりが生まれています。私がアイスを作り始めて特に嬉しかった出来事は、小学校の子どもたちの想いと行動がきっかけとなって、葉山アイスの給食提供が決まったことです。校内の「お米をもっと食べてもらおう」というプロジェクトの一環で、子どもたちが「給食に葉山アイスを出したい!」と提案してくれたことで、実現しました。さらに、特別授業という形で、みんなと一緒に棚田の未来について考える機会にも恵まれました。今後もアイスをきっかけに、棚田から笑顔の循環を生むような取り組みができたらいいなと思っています。
移住したての頃にふらっと立ち寄って以来、とても気に入っている神社です。そんなに大きくはないのですが、とても気持ちのいい場所で。大きな夏のイベントやお祭りも開催される、街の人にとっても親しみ深い場所です。
神奈川県三浦郡葉山町一色2165
暮らしのスポット
ami hayama
LITTLE STAND HAYAMA
インスタグラムアカウント
@littlestandhayama
マーロウ 葉山マリーナ店
葉山マリーナ1F
ニセコは北海道の南西部、後志(しりべし)と呼ばれる地域の中央に位置する街。東側には国立公園である羊蹄山、北側には国定公園ニセコアンヌプリを有しており、山に周囲を囲まれた丘陵盆地となっています。ニセコアンヌプリは世界4大スキー場の1つでもあり、そのパウダースノーを求めて世界中から観光客が訪れる国際観光エリアです。近年は外資系の高級ホテルが次々と建設されています。
観光地のイメージが強いニセコですが、住みやすさにも優れており、外国籍の人を含めた移住者が増えている街でもあります。自然環境を求めて移住する人が多いですが、環境保全やSDGs政策に力を入れていることも魅力の1つです。2014年には温室効果ガス削減などに積極的に取り組む「環境モデル都市」、2018年にはSGDsの理念に取り組む「SDGs未来都市」として国に制定されています。また2001年には、「町の憲法」といわれる自治基本条例「まちづくり基本条例」を全国で初めて制定した街でもあり、街づくりに住民の声が反映されるという特徴も。一番近い都市である小樽までは車で90分、札幌までは120分とそこまで利便性が高いわけではありませんが、雄大で美しい自然に心奪われる人は多いようです。
第2有島ダチョウ牧場
グラウビュンデン
ニセコ近郊の食材をたっぷり使ったボリューミーなサンドイッチと、甘さを抑えたフルーティなビッグサイズのケーキは、ニセコを訪れる人々に愛され続けてきた。昨年からは、お菓子の冷凍販売が始まり、ニセコの新たなお土産として人気を集めている。
大三島とは愛媛県の最北に位置する、今治市の 芸予諸島の島の1つ。瀬戸内海に浮かぶ6つの島を7つの橋でつなぐ「しまなみ海道」沿線の島で、その島のなかでも最大の大きさを誇ります。しまなみ海道は車のほか、徒歩や自転車でも通れるように整備されており、連なる島々、青い海、巨大な架け橋などの美しい景観を眺めながらサイクリングができると、国内外から多くのサイクリストが訪れる聖地となっています。また大三島には人気の観光スポットもあり、中でも注目は日本総鎮守と呼ばれる大山祇神社や、2011年に開業した「伊東豊雄建築ミュージアム」です。
近年は急激に人口が減少し、過疎化が進むなど課題も抱えていますが、2022年の「住みたい田舎ランキング」の1位に今治市が選ばれたこともあり、移住する人も増えています。島暮らしというと不便なイメージがありますが、スーパーやコンビニなどの商店や、病院、教育機関などの施設もあるため、普段の生活には困りません。しまなみ海道によって、今治のほか広島県尾道市などの都市との行き来がスムーズなのも大きな魅力。瀬戸内の風を感じながら、ゆったりと暮らすことのできる街です。