寒い冬はレトロな喫茶店に出かけてコーヒーを飲んだり、店主との会話を楽しんだりしながら、あたたかく過ごしませんか? 今回は、レトロな喫茶店が多い街として、神保町(東京)、函館(北海道)、神戸(兵庫)の三つの街の魅力をご紹介します。
text:Ikumi Ueno(effect) photo:Eizaburo Sogo
23区のほぼ真ん中、東京都千代田区に位置する神保町。江戸時代は武家屋敷(武士が所有していた邸宅)が建ち並ぶエリアでしたが、その後は世界最大級の本の街として有名になりました。100店以上あるといわれている古書店、小学館や岩波書店などの大手出版社、新刊を販売する一般書店が点在し、本好きが訪れる街です。こんなにもたくさんの古書店が広がったのは、明治初期の頃、神保町周辺に明治法律学校(現・明治大学)、英吉利法律学校(現・中央大学)、日本法律学校(現・日本大学)が次々と建設され、学生街となったから。法律書などの書籍を安く手にいれたいという学生達が集まり、古書店街として発展していきました。そんな神保町は、老舗の喫茶店が数多く残る街でもあります。さぼうる、ラドリオ、カフェ トロワバグなど創業から長い時間を経てもなお、日本各地からファンが集まる人気店もあります。
神保町は東京メトロ半蔵門線、都営三田線、都営新宿線と3路線が通り、東京駅まで約7分と、都内の主要な駅へのアクセスもよい街です。住宅街はそれほど大きくありませんが、大学が多く学生街でもあることから、リーズナブルな価格で楽しめる飲食店やスーパーもあり、暮らしやすさは申し分ありません。本の街、レトロ喫茶の多い街としてだけでなく、カレーの街としても有名なため、飲食店巡りをするだけでも楽しい生活を送ることができそうです。古きよき老舗の多い街は、人々をあたたかく受け入れてくれます。
さぼうる 店長伊藤雅史さん
ここは自分にとって必要な場所だった。
感謝もあるから辞められないんです。
このお店に入ったきっかけは、今からおよそ17年前、大学生時代にアルバイトとして働き始めたことでした。たまたま食べたさぼうる2のナポリタンのおいしさに衝撃を受けて、キッチン志望で応募しましたが、結局ホールでの採用になったんです。少しだけならやってもいいかなくらいの気持ちで入社したら、先輩が辞めてしまって、いつの間にか辞められなくなり(笑)。仕事としてはものすごく忙しくて大変だったけれど、とにかく居心地がよかったんですよね。このお店はお客さんが持ってきてくれたおみやげをマスターが全部置いているから、こんなに混沌とした感じなんですけど、お店としてもまさにそんな感じで。どんな人でも受け入れるから、従業員もお客さんも面白い、個性的な人が多くて、店で過ごす時間は楽しかったです。
先代のマスターには子どもも親戚もいなかったし、亡くなったらこの店も閉店せざるを得なくなると思って、店を継ぐことになりました。お店を残さなくてはいけないという義務感から考えたわけではなくて、単純にこの店は僕にとって必要な場所だったからです。最初は飽きたら辞めちゃうかもなんて思いもありましたが、近所に住んでいる人にとっても、店を辞めていったOBにとっても、たくさんの思い出が詰まった場所で。いろいろな人から思い出話を聞く度に辞められないと思うようになりました。それにこのお店やマスターに感謝があったんですよね。妻をはじめ、多くの友人もこの店を通して出会わせてもらったし、今の僕の人間関係の大半がここでつくられてる。今はこの恩を返すような気持ちで、店を続けています。
神保町には大学進学を機に初めて来ましたが、最初の印象はビルが多いという感じ。さぼうるで働くようになり、常連さんやマスターと話すようになってから、いろいろな古いお店があるんだってことが段々分かってきて。休憩時間にそういうお店に行くようになりました。神保町で暮らしたことはないですが、暮らしている方からお話を聞くとみんな楽しそうにしていますよ。下町感のある街なので、仲間がつながっている感じで。先日は4年ぶりに神田祭りが開催されましたが、すごくいいお祭りになったと思います。コロナ禍で開催されなかった間に、うちのマスターも含め重鎮が亡くなってしまったり、コロナ禍で閉じた店があったり。そういったこともあったからこそ、みんないろいろいろな思いを抱えて当日を迎え、一つになることができたのかなと思います。
よく通わせてもらっている、小宮山書店さんです。昨年オープンしたギャラリーにもちょくちょく遊びに行かせてもらっています。親子で経営をされているので、悩んだときに相談をさせていただくこともしばしば。人生の先輩として尊敬するお二人です。
東京都千代田区神田神保町1-7
レトロな喫茶店
さぼうる
カフェ トロワバグ
ラドリオ
函館は北海道の南端、渡島半島(おしまはんとう)の南東部に位置し、北海道の中では温暖な気候の街です。
津軽海峡、太平洋、噴火湾と三つの海に囲まれた港町で、江戸時代に鎖国が解かれたあと、いち早く開港した港の一つが函館港でした。西洋文化が入ってきたことにより、元町公園内にある旧函館区公会堂、函館ハリストス正教会など、和洋折衷の様式を取り入れた建物が建ち並ぶようになりました。今でも独特な景観を残している函館には、レトロな喫茶店や古建築を生かした喫茶店も数多くあり、市民の憩いの場として人気です。
函館は建築物だけでなく、観光名所を数多く備えた国際観光都市でもあります。函館山山頂展望台から見える夜景は、日本三大夜景に数えられるほどの美しさ。また、対馬海流と親潮が流れ込んでぶつかりあうことで、豊かな漁場を形成しており、海の幸が豊富なことも魅力の一つです。このように観光地としての印象が強い街ですが、人気が高まるにつれ交通の便も年々よくなってきており、近年は住みやすい街としても注目を集めています。飛行機、船、新幹線と三つの交通機関が通っているため、国内外へのアクセスも抜群。程よい都市機能も整っているため、暮らしやすさも備えた街となっています。
ひし伊
CafeTUTU
兵庫県の南東部に位置し、大阪湾に面した世界有数の港町。神戸港は函館港と同じく、幕末から貿易港として栄えた日本の玄関口でした。神戸は外国人居留地が設けられ、西洋文化や習慣を積極的に受け入れてきたエリア。ハイセンスな文化が形成され、おしゃれな街としても注目を集めてきました。そんな神戸には趣があるレトロな喫茶店が点在しており、異国情緒溢れる街の風景に溶け込んでいます。
神戸市は、2023年の全国住みたい街ランキングの8位、近畿圏の住みたい街ランキング1位になるなど、常に住みたい街の上位に入っている街でもあります。その理由は、須磨海岸や六甲山など、海と山の自然が身近にあること。中心地の三宮エリアには飲食店やデパートなどが数多くあり、生活しやすい環境が整っていることなどがあげられます。さらに、貿易港として栄えてきた街だけあって、交通の便が整っていることも大きな魅力。自然と都市部のバランスもよく、住みたい街上位に入るのも納得の街です。
茜屋珈琲店
元町サントス
寒さが厳しい冬でも、あたたかく穏やかに過ごせる街を紹介します。
気になる街があれば、目利きの話をチェックしてください。