最近人気のパラレルワーカー(複数の仕事やキャリアを持つ人のこと、複業家)。移住後にそんな働き方を選ぶ人も多いようです。好きなところに移り住み、自分に合うさまざまな形の仕事を持つ。今回は、埼玉県から島根県松江市に移住し、そんな夢のようなライフスタイルを送っているKIRIさんのストーリーを紹介しましょう。
ライター:鈴城久理子
CONTENTS
01| 都会の日々と決別し、地域の未来に笑顔が増える仕事を選択
松江市役所の正面にある末次公園は、市民に愛されている公園の一つ
「仕事だけでなく、暮らしも大切にした持続可能な生き方を模索してみたい……」。7年前、そんな想いを胸に秘め、KIRIさんが移住先に選んだのは島根県松江市。それまでは東京都内の会社でがむしゃらに働き、その結果、心身ともに疲れ果ててしまったそう。また、自分自身のまだ見ぬ可能性を探し、スキルや肩書きではなく人間性を活かして働いてみたいという気持ちも強かったと話してくれます。
「水の都」と呼ばれる松江市の象徴的なスポット、宍道湖
山陰のほぼ中央に位置し、古くから出雲の中心地として開かれた松江市。572.99平方㎞に約195,808人(2024年1月末現在)が住み、しじみが獲れることで有名な宍道湖など憩いのスポットがたくさん。この宍道湖、KIRIさん宅の徒歩10分圏内にあって湖畔は手軽な散歩コースにもなっているそうです。
松江市の夏の風物詩といえば、美しい花火が楽しめる松江水郷祭
松江市には地元民をはじめ、他県からも観光客が訪れるイベントがいろいろ。なかでも「水の都」と呼ばれるにふさわしいのが、宍道湖の湖面を花火が華麗に染める「松江水郷祭」。日本有数の花火大会ともいわれ、KIRIさんも開催されるのを毎年楽しみにしています。
生きのいいかにを存分に楽しめるのも、松江市ならではの魅力
松江市の冬の風物詩がこの「松江かにいち(旧かに小屋)」。ここでは、購入した食材を自分で焼いて食べるセルフサービス方式の食事を楽しめます。「山陰の冬といえば、やはり松葉がに。海がない埼玉県で育った私にとっては憧れの食材です。ほかに、地元の漁師さんから仕入れたサザエやイカなどの魚介類も食べられます。生産者さんが丁寧に育んだ新鮮な野菜コーナーもあるんですよ」
02| 知り合いがおらず、ぼんやりとした不安を抱くことも
親戚や友人が一人もいない地域への移住だったので、知り合いや友達ができるか不安があったそう
今では松江暮らしを満喫しているKIRIさんですが、移住当時は少しだけ不安もあったといいます。「住環境や治安のよさなど、数字で測れるものは事前に調べて知ることができましたが、知り合いがいない土地での暮らしにはぼんやりとした不安もありました。それと、免許は持っていたものの車の運転は不慣れだったので、車が必要になったら大丈夫だろうか? と心配でした」。
03| “今の自分”が心地よく感じられるウェルビーイングな暮らし
島根県内の地域おこし協力隊を紹介する「島根おこすジャーナル」のvol.2で取材された
そんなKIRIさんの不安をかき消してくれたのは、松江市に住む魅力的な人たちでした。移住後は縁あって松江市の地域おこし協力隊に着任。「地元の人たちと一緒に、この地域の未来に笑顔が増える活動をやってみたいと思ったんです」。そして3年の任期を経て、「KiriN Design」という屋号でパラレルワーカー(複業家)として活躍するように。
移住して1年半過ぎた頃、2つのイベントに参加。一つは「しまねUターンIターンフェアin 東京」(2018)
2つ目はこの「ひかれあうもの」(2018)。松江市役所主催の松江市地域おこし協力隊募集イベントだった
こんなふうに快適な島根暮らしをスタートできた理由には、自治体からの支援を積極的に受けたこともあります。移住して1年半が過ぎた頃に参加したという2つのイベントには移住前にも参加しており、松江市に住む大きなきっかけになったそう。
「移住前に『しまねUターンIターンフェア in 東京』に参加したときは、移住するにあたっての仕事や小さな不安などを移住コンシェルジュに相談していました。それと、移住検討のため松江市を訪れた際の交通費を支給してもらえる交通費助成制度も利用しました。『ひかれあうもの』では、移住の先輩や地域のキーパーソン、移住を考えている仲間と知り合うことができました。移住前にこういう機会があったのは助かりましたね」。
可愛すぎてメロメロというオカメインコの「ととん」
現在の相棒はオカメインコの「ととん」。以前は千葉に住む祖父母の家にいたのが、縁あって松江市の家に引っ越してきました。フェイスブックやインスタグラム(非公開アカウント)にもたびたび登場しています。
04| 多様なスタイルで活躍できるパラレルワーク
パラレルワークの一つ、地域連携コーディネーターをしている松江清心養護学校の生徒たちの作品
地域おこし協力隊卒業後はパラレルワークという働き方をしているKIRIさん。
※KIRIさんが関わっているプロジェクト(一部抜粋)※
・古民家活用型多創造複合施設「SUETUGU」 ※副代表
・「SDGs de 地方創生」 ※公認ファシリテーター
・「Matsue 10,000人 プロジェクト」 ※松江市役所シティープロモーション推進担当
・松江清心養護学校の地域連携コーディネーター
・「しまコトアカデミー」 ※広島・島根講座のメンター
「仕事の形はビジネスパートナーや仕事の性質、場所、クライアント、自分の役割・職務、リアルに会うかリモートかなど、プロジェクトによって異なります。パラレルワークの魅力は、大好きな人たちと一緒に多様なスタイルで自分を活かしながら、地域の未来につながる仕事ができること。働く曜日や日数・時間帯を、今の自分に合った形にカスタマイズできるのもうれしいですね」。
市内にある築100 年を超える古民家をリノベートした「SUETUGU」。その一角のレンタルキッチン&カフェスペース
「松江市には、今の私が心地よくウェルビーイングに生きるのに必要な人・もの・こと・場所がすべてあります」。その言葉を体現しているのが、KIRIさんが副代表を務めている古民家活用型多創造複合施設「SUETUGU」のプロジェクト。シェアスペースなどの機能を備えており、コンセプトは「チャレンジを応援すること」、「都会と地方を繋ぐ拠点となること」なのだそう。
出雲市で開催されたイベントに出店した際、もらったり購入した地元の特産品
「新天地で持続可能な生き方を模索してみたい」。移住を考えたこんな理由ともリンクするのが、KIRIさんが公認ファシリテーターを務めている「SDGs de 地方創生」プログラム。これは、カードゲームを通して地方創生を考えるというユニークなゲーム型プログラムです。
「夢を実現できるまち・誇れるまち松江」に向けた、「未来を紡ぐひと」を紹介するプロジェクト
「松江市に住んでいると、一人勝ちしよう! という人にほぼ出会ったことがなく、いろんな分野の人たちが力を合わせて、地域の未来をつくっていこうというスタンスがあって心地いいんです。それと、こんなことがしてみたいとか、困っている、という相談をすると、どんどん惜しみなく人をつないでくださることにも驚きました。何ごとも独り占めするのではなく、どんどん巡らせていって恩送りをしていくような。そんな未来を紡ぐ“ひと”を紹介しているのが『Matsue 10,000人 プロジェクト』です」
移住関連のイベントに参加することで、いろいろな気づきもあるという
移住の体験者として、島根県内だけではなく他県からもイベントのゲストとして招待されることも。島根県広島事務所が主催した「しまねランチ」というイベントでは、広島県在住の人に向け、島根県の魅力を語りました。ランチを楽しみながら移住の体験談を聞く、というユニークな趣旨のトークイベントでした。
松江清心養護学校の生徒と松江北高生のプロジェクトがコラボしたイベント。会場ではクッキーも販売
ほかにも、松江清心養護学校の地域連携コーディネーターの仕事もあります。学校のニーズや地域の要望を聞き、住民の参加を得ながら活動していくもので、このときは校内向けのイベントに参加。「インクルーシブな未来の可能性をたくさん感じられる素敵な機会をいただけたことが、とてもうれしかったですね」。
島根の現状や可能性を座学や現地インターンシップを通じて学んだり、体感できるソーシャル人材育成講座
さらに、「しまコトアカデミー」という島根県主催の県内外の関係人口創出プログラムの広島・島根講座のメンターを担当しています。
移住を考えるのなら、その土地に暮らす人へのリスペクトを忘れないことも大切なのだとか
「今のところ、どこかほかに移住してみたい気持ちはありません」というKIRIさん。それは、松江が「“今の私”に合っている場所だから」といいます。
「移住・定住と聞くと結構重く感じますし、相当な覚悟がいりそうですが、引っ越しとか転職くらいの気持ちで暮らしてみるのもありかもしれません。自分の気持ちに嘘いつわりなく、自らの選択を重ねてつくる未来はきっと心地よいものです。誰もが自分に合った形や関わり方が見つけられることを願っています」。
※KIRIさんのFacebookとリンク先はこちら!
https://www.facebook.com/naoko.kiriyama.7
https://lit.link/KiriyamaNaoko
05| まとめ
パラレルワークは移住したからこそ手に入れやすくなるのかもしれません。移住と同時に、そんなキャリアの積み方も参考にしてみませんか?
この記事を書いた人
鈴城久理子 ライター
雑貨紹介や料理、インテリアなど暮らし系の記事を中心に執筆することが多いライター。ただいまメダ活実践中。