お菓子づくりに関わる仕事の関係で島根や東京、神奈川、大阪、フランスとさまざまな土地で暮らした経験を持つ細田さん。その後の住まいに決めた場所は、福井県坂井市でした。決め手になったのは果物の栽培が盛んという土地柄。移住して1年、その間にはどんなストーリーがあったのでしょうか?
ライター:鈴城久理子
01| 果物栽培が盛んな坂井市に心惹かれる
坂井市の魅力の一つは、お菓子づくりに欠かせない果物が豊富なところ
市の中央部には福井県随一の穀倉地帯である広大な坂井平野、西部には砂丘地や丘陵地が広がる福井県坂井市。約210平方kmに88,569人(令和6年7月現在)が住む自然豊かなこの街に、大阪府八尾市から細田さんが引っ越してきたのは1年ほど前。「ちょうど仕事を辞め、その後どう活動していこうかというタイミングで福井県を訪れ、気に入ったのが移住のきっかけです。一番の決め手は、いま私が住んでいるところの周辺は果物の栽培が盛んで、その果物を使ってお菓子づくりをしていきたいと思ったことです」。
「三国港」から見た夕日。地元民はもちろん、県外から訪れる人も多い人気スポット
断崖に荒波が打ち寄せる絶景で有名な、国指定名勝の「東尋坊」。約1kmに渡り、岩壁が広がる
果物をはじめとした農産物以外にも、坂井市には有名なものがたくさん。なかでも、悠々とした日本海の景色を楽しめる「三国港」、地質学的にも貴重とされている世界3大絶勝ともいわれる「東尋坊」は、地元民や観光客が絶えない人気スポットになっています。また、交通の便もよく、北陸新幹線や飛行機など陸路や空路も使えるのもうれしいところ。「福井県は東京や大阪、名古屋へもアクセスがしやすく、必要に応じて主要都市に出かけられるところも気に入っています」。
坂井市をはじめ、福井県全域で楽しめるご当地グルメがこの「越前おろしそば」
豊かな自然と清水に恵まれた福井県は、全国屈指のそばどころ。食べ方も独特で、冷たいそばにしょうゆ味のだしをかけて大根おろしや削り節、刻みネギをのせていただく「越前おろしそば」が有名。また、11月から3月にかけて味わえる「三国港越前がに」、やはり三国港で獲れる「ホッコクアカエビ(通称:ふくい甘えび)」など、日本海で育まれた魚介類はほかでは味わえないおいしさです。
店舗を持たない菓子屋として「Madoka LABO」を立ち上げ、活動中
移住する前に個人事業主として「Madoka LABO」を設立し、イベントやオンラインショップでお菓子を販売。移住後も変わらず、精力的に活動を続けています。「コロナ禍以降、いろいろな働き方が可能な環境ができたので、都会にいる必要がないと思っていたことも移住を考えた理由でした。それと、生まれ育った地元の島根県と地域色や環境が似ていて、初めて訪れたときに居心地がよかったんです」。
02| 福井県や坂井市からの支援を利用して引っ越し
坂井市三国町の「フルーツライン」沿いに広がるラベンダー畑。美しい自然も移住後の心の支え
移住を決心した後、自治体の支援についての情報を集め、可能な限り利用したそう。どんな支援だったのか、どのように利用したのかなど、その内容を教えてもらいました。
「まず移住関連のイベントに参加し、ざっくりとした情報収集をして、担当者を紹介していただきました。その後、担当者や『DMOさかい観光局』の方に詳細について確認をしたんです。支援内容は、福井県からは移住に伴う現地下見などの交通費の支給、坂井市からは空き家バンクの家賃補助ですね。ただ、個人事業主ですでに開業した後での移住だったので、使える補助金はあまり多くはありませんでした。でも、ちょうど北陸新幹線開通で県全体が盛り上がっていた時期だったので、よりいろいろなサポートや補助を受けることもできました」。
03| 新しいことを始める人を応援してくれる街
坂井市三国町からあわら市にまたがり、坂井北部丘陵地を東西に横断する「フルーツライン」。メロンやなし、スイカなど果物が栽培されている
坂井市の隣、あわら市産のフランボワーズを使った焼き菓子も人気
「島根県の田舎で生まれて育ったので、自然が大好きなんです。都会で15年以上、よく生きてきたなと思います(笑)。ここは田んぼや畑、山や海が近くにあって、よく車を運転しながら果物やお米、麦の成長を横目で見ています。ふと空を見て、夕焼けがきれいだなーと思える、心の余裕や豊かさ。都会で暮らしていたときはなかったですね」。
クッキーに使用している米粉は、水稲農家さんが育てているコシヒカリ100%のもの
「坂井市は砂地の浜や丘陵地、平野があって、さまざまな農作物が育つ地域です。なかでも坂井平野は福井を代表する米どころ。ちなみに『コシヒカリ』は福井が発祥地とされているんです。水稲農家『さんさん池見』さんのコシヒカリは、甘味があり、とてもおいしいんです!」。
料理やお菓子に関わるメンバーで、農家の見学や収穫体験に行くことも
現在住んでいる家は、坂井市に移住してから2度目の家。同じ坂井市でもエリアによって個性が異なるといいます。「移住当初住んでいた地域は、人と人とのつながりが強いところでした。地域の集まりなどがあっても、ちょっと特殊な働き方をしていた私は、仕事柄あまり参加できないことも多く、ご理解いただくまでには時間がかかりました。でも、いろいろなルールや情報はお隣の方が教えてくださったり、お声がけいただいたりして、輪に混ざりやすい環境をつくっていただけました。福井県は自分で独立や企業する方が多く、新しいことを始めることに対して応援してくださる地元の方々が多い印象です」。
04| イベントやオンラインでお菓子を提供・販売
三国町にある一棟貸しの宿「詰所三國」で行っている朝食のケータリング。焼きたてのマドレーヌも大好評
米粉のクッキーやビスコッティ、マドレーヌなど焼き菓子は細田さんの得意とするところ
「Madoka LABO」では、イベントやオンラインを中心にお菓子を制作・販売しています。ほかに、オンラインでやりとりできる仕事や商品開発のサポートなども行っているそう。イベントはユニークなものも多く、朝食のケータリングや民族音楽を聴きながらのカフェイベント、「ウィーンのカフェ」をテーマにしたイベントなど実にさまざま。
地元の「アオハル農園」から取り寄せた完全無農薬栽培のいちごを贅沢に使用。お手製いちごジャムも扱っている
和歌山県紀ノ川産の柑橘2種を使った、目にも美しいオランジェット
いちごに甘夏、いちぢく、みかんなど、商品に使用しているフルーツは主に坂井市内で収穫されたもの。そのほか、和歌山県の柑橘、山形県のさくらんぼなど県外の関わりのある農家さんからも取り寄せています。
坂井市三国町で採れたしそを使った濃縮ジュース。水や炭酸で割るとおいしいそう
オンラインで扱っている商品は、クッキーやビスコッティ、カヌレなどの焼き菓子がメイン。そのほか季節のフルーツを使ったジャムやマーマレード、濃縮ジュースなど。フルーツを使っているのは季節限定のものが多く、あっという間に売り切れてしまうことも。
福井県に移住して、独立して起業する人々とつながり、よりフットワークが軽くなったとか
「まだまだ福井県の知らないことがいっぱいあるので、当分はこの地で暮らしたい」と話す細田さん。最後に、移住を考えている人へ向けてのメッセージをいただきました。
「『移住』って言葉にするとちょっと重く感じるかもしれませんが、自分が気に入って気持ちが落ち着く場所で暮らすのはとても素敵なこと。地域によって環境も違うし、住んでいる人の気質も違うし。その中で自分がしっくりとくる場所があり、仕事があるのであれば生きていけるのかなと思います」。
※細田さんのインスタグラムはこちら!
https://www.instagram.com/madokalabo/
05| まとめ
自分にしっくりくる場所と出合う。そんな幸運な細田さんの移住ストーリー。ぜひ、あなたにしっくりくる場所を探す参考にしてください。
この記事を書いた人
鈴城久理子 ライター
雑貨紹介や料理、インテリアなど暮らし系の記事を中心に執筆することが多いライター。ただいまメダ活実践中。