近年、「移住×子育て」というキーワードが注目を集めています。自然の中でのびのびと育つ子どもの姿、地域の温かなサポート、そして都市部にはない暮らしの余白。子育て世代が理想の生活を求めて地方への移住を検討するケースが増えてきました。今回は、なぜ今「移住と子育て」が注目されているのか、地方で子育てすることのリアルなメリット・デメリット、子育てにおすすめの移住先、実際に移住した方の体験談などをご紹介します。
CONTENTS
01| 子育て世代が移住を考える背景とは?
「もっと自然のある場所で、子どもをのびのび育てたい」「通勤ラッシュや待機児童の心配がない環境で、家族の時間を大切にしたい」。そんな想いから、地方への移住を真剣に考える子育て世代が年々増えています。子育て世代がどのような課題や希望を抱えて移住を検討するのか、その背景を具体的に紐解きます。
自然豊かな環境で子育てしたい!
都市部では、子どもが自由に走り回れる場所が限られがちです。その点、地方には山や川、公園、田畑など、自然と触れ合える場所がすぐそばにあります。虫取りや水遊び、畑仕事など、五感を使った体験が日常にあり、子どもの感性や想像力、身体的な成長をのびのびと育むことが可能です。
人とのつながりが自然に生まれる地域環境
地方では、住民同士の距離が近く、「子どもは地域全体で育てていくもの」という価値観が根づいている地域が多いです。日々の暮らしのなかで、通学中の子どもに声をかけてくれるお年寄りがいたり、近所の人がさりげなく登下校を見守ってくれていたりと、家庭の外にも自然な“見守りの目”が存在しています。
また、地域行事や季節のお祭り、学校と地域が連携するイベントなども盛んで、親子で地域の一員として受け入れられ、役割を持ちながら関係を深めていける環境が整っています。ときには野菜のおすそ分けや、子どもの成長へのあたたかい言葉をもらうこともあり、「ひとりで子育てをしているわけではない」という安心感が、地方ならではの魅力です。こうした地域とのつながりは、単に利便性や制度面だけでは得られない、心のゆとりや人との信頼感を育む土壌となり、移住を考える子育て世代にとって大きな魅力となっています。
生活コストを下げたい
大都市と比べて、地方では住宅費・保育料・食費・光熱費など、日々の生活にかかる費用を抑えられる傾向があります。特に住宅費は大きな違いがあり、都市部では手が届きにくい広々とした一戸建てや庭付きの住まいが、地方では現実的な価格で購入・賃貸できることも。
また、保育料や給食費の無償化、医療費助成といった行政の支援も手厚い自治体が多く、子育てにかかるトータルコストを大きく下げることができます。地域によっては、第二子以降の保育料無料や、医療費の全額補助なども実施されており、子どもの人数が増えても安心です。
こうした経済的なゆとりが生まれることで、家族で過ごす時間を増やしたり、理想のライフスタイルを追求したりと、暮らしそのものを豊かにする選択肢が広がります。
02| 地方で子育てする前に知っておきたいメリットと注意点
保育園や学校の定員に余裕がある、近所の人とのつながりが強い、広い家や庭で子どもを遊ばせられるなど、地方ならではの魅力はたくさん。一方で、医療や教育、交通インフラの課題や、地域の慣習への馴染みにくさといった、移住してから気づくことも少なくありません。地方での子育てには、都会とは違った豊かさと工夫が求められます。
ここからは、地方子育てのメリットと注意点を事前に知っておくためのヒントをお届けします。
自然豊かな環境でのびのびと子育てができる
地方には山や川、田畑が身近にあり、子どもは日常のなかで自然と触れ合うことができます。外遊びを通じて、体力や感性が育まれるのはもちろん、虫捕りや植物観察、農作業体験など、都市部では味わえない“本物の体験”が豊富です。のびのびと走り回ることができる環境は、ストレスの少ない健やかな成長にもつながります。
庭付きの一軒家など、ゆとりある住環境を無理なく実現できる
都市部では家賃や住宅購入費が高く、家族全員が十分なスペースを確保するのは難しいことも。地方に住むことで土地が広く確保でき、手頃な価格で戸建てに住める可能性が高まります。庭付き住宅に住むことも夢ではなく、家庭菜園やバーベキューなど、暮らしの豊かさが広がるはずです。
地域の人たちの目があり、防犯面でも安心
地方では近所付き合いが比較的濃く、“お互い様”の意識が根づいています。子どもが通学する道中を見守る大人がいたり、地域のイベントで子どもが自然と地域の人と関わったりと、安心して子どもを育てられる環境が整っています。防犯面でも、地域ぐるみの見守りが機能している地域が多いです。
子育て支援が手厚い地域が多い
多くの自治体が、少子化対策として子育て世代向けの移住促進支援を強化しています。具体的には、保育料の軽減、医療費助成、出産祝い金、子育て世代向けの住まい支援など。こうした制度を活用すれば、経済的な負担を軽減しながら安心して子育てができます。
待機児童の問題が起こりにくい
都市部では保育園の空きがなく、希望する園に入れないケースが多く見られます。一方、地方では待機児童がほとんどいない地域も多く、比較的スムーズに入園できるのも大きな魅力。少人数保育で一人ひとりをしっかり見てもらえる環境が整っている園もあります。
03| 注意点もチェック
学習機会や進学時の経済的負担が課題に
地方では塾や予備校、進学に特化した教育機関の選択肢が限られることもしばしば。大学進学で都市部へ進学を希望する際に一人暮らしが必要となる場合、生活費・家賃・仕送りなど、家計に大きな負担がかかることもあります。
医療機関の少なさが不安材料になることも
小児科・産婦人科を含む医療機関が限られている地域もあり、急な発熱やケガ、夜間の緊急対応に不安を感じる声もあります。かかりつけ医を見つけておいたり、休日診療や救急の体制を事前に調べておいたりと、対策が必要です。
商業施設や文化施設が少ない
ショッピングモールや映画館、美術館、子ども向けのワークショップなどの楽しみや教育的な刺激が限られがちです。週末のレジャー選びにも工夫が求められます。
車が必須になる
公共交通機関が限られている地域では、買い物、通院、通園・通学の送迎など、日常生活のほとんどに車が必要です。特に子育て世代は送迎回数が多くなるため、夫婦で2台持ちが必要になることも。車の維持費(ガソリン代・保険代・整備代)も生活費に加わります。
コミュニティの濃さがストレスになる場合も
人間関係は親密になりやすい一方で、距離が近すぎて疲れてしまうこともあります。「誰かに見られている」という感覚や、地域の暗黙のルールに窮屈さを感じる人も少なくありません。転入者であることが強調され、なじむまでに時間がかかることもあります。
04| 今注目の子育て世代向け移住エリア12選
移住先を選ぶうえで気になるのは「どんなサポートがあるのか」「子育てに向いている環境なのか」という具体的な情報。ここからは、医療・教育・支援制度のバランスがよく、実際に移住者の声も多い12の地域を厳選してご紹介します。家族のライフスタイルに合った“ちょうどいい暮らし”を見つけるためのヒントが見つかるはずです。
1.大仙市(秋田県)
全国的にも有名な「大曲の花火」
秋田県の中央部に位置する大仙市(だいせんし)は、文化と観光の面でも活気ある地域。毎年8月に開催される「大曲(おおまがり)の花火」は全国的にも有名で、花火師たちの競技大会として多くの観光客を集めています。
そんな大仙市は、東北地方の中でも子育て支援に積極的です。特に複数の子どもを育てる家庭にとっては、経済的にも心強い支援制度が整っています。
出産時には祝い金として第1子には3万円分、第2子以降には5万円分の地域商品券が贈られます。育児用品の購入や出産準備に活用できるだけでなく、地域内で使える商品券であることから、地元経済の活性化を同時に叶える仕組みです。
保育園などに預けず、家庭で子育てをしているご家庭には、「在宅子育て支援金」として、3歳以上〜就学前の子ども1人あたり月額4,500円を支給。自宅での育児を選択する家庭にも優しい支援制度が用意されています。
ほかにも、「子育てファミリー支援事業」として、第3子以降が小学校に入学するまでの間、毎年1万5,000円分の子育てサービス利用料を補助。学用品や子ども向けイベント、保育サービスなどへの利用が想定され、多子世帯への継続的なサポートが整っています。
2.境町(茨城県)
400本以上の桜が花を咲かせる「さくらの森パーク」
茨城県の最南端に位置する境町(さかいまち)は、千葉県と埼玉県の県境にあり、車を使えば都心までわずか60分というアクセスのよさが魅力。一方で、町のあちこちには美しい田園風景や利根川沿いの自然が広がり、心を落ち着けて暮らせる一面もあります。都市と自然の“ちょうどいいバランス”を持った、今注目の移住先です。
町の中心部には大型スーパーやドラッグストア、子ども連れで楽しめる複合施設、地元食材を使ったカフェやレストランなど、生活に便利なスポットも充実。田舎の不便さを感じにくい環境が整っているのも、子育て世帯には大きな安心材料です。
「子育て支援日本一」を掲げ、医療費や給食費の助成、出産祝い品の支給など経済的支援が整っています。ほかにも教育面にも力を入れており、町内すべての小中学校にALT(外国人指導講師)を常駐させたり、英検の受験料を年1回無料にしたりと、子どもたちが英語に触れる機会を日常的に得られる環境も嬉しいポイント。
都市の利便性と、自然と人のあたたかさが共存する境町。子育てを安心して楽しみたいご家庭にとって、理想的な移住先といえるでしょう。
3.日立市(茨城県)
「川原子海岸」から見る美しい日の出
太平洋に面し、美しい海岸線と豊かな自然に恵まれた茨城県日立市。古くから製造業で発展してきた歴史を持ち、現在もものづくりや研究分野で活気があり、日立駅周辺の再開発や海を望む商業施設の整備など、暮らしの利便性も年々向上しています。
日立市は、子育て支援が手厚い街です。第2子以降の保育料が無料になるほか、ランドセルやスクールカバンの無料配布、小中学校の給食費の無償化、そして18歳までの医療費無料など、家計にやさしい支援制度が充実しています。
これらの支援により、複数の子どもを育てる家庭でも経済的な不安が少なく、安心して子育てに向き合うことができているのだそう。加えて、市内には海水浴場や自然体験施設、公園なども多く、日常的に自然とふれあえる環境が整っており、子どもたちがのびのびと成長できるのも大きな魅力です。
4.宇都宮市(栃木県)
市内を走る次世代の路面電車「宇都宮ライトレール」
栃木県の県庁所在地であり、北関東の中核都市として発展を続ける宇都宮市。“餃子の街”であり、ジャズフェスティバルをはじめとする音楽イベントの盛り上がりもあるなど、個性豊かな地域性が息づく街です。鉄道や高速道路といった交通網も整っており、東京へのアクセスも良好。仕事と日常生活の両立がしやすいく、ベッドダウンに選ぶ人も多いです。
一方で、宇都宮市では近年、子育て世帯の送迎負担を軽減する先進的な取り組みにも力を入れており、共働き家庭にとって非常に頼もしいサポートが整っています。
JR宇都宮駅近くには保育士が添乗する「宇都宮市送迎保育ステーション」を設置。保護者は通勤前に駅で子どもを預けることができ、そのまま保育園まで安全に送り届けてもらえる仕組みです。また、子どもが体調を崩した際には、病児保育施設から保護者に代わって送迎を行うサービスも提供されており、仕事と育児の両立を支える体制が整っています。
ほかにも、塾や習い事の送迎には、市の補助を受けた「子育てタクシー」が運行されており、小学生以上の子どもが一人でも安心して利用できるよう、GPSや保護者への通知機能、運転手への研修など安全面にも細やかな配慮が施されています。
子どもを育てやすい街であると同時に、親にとっても働きやすく暮らしやすい街として、今後も注目が集まりそうです。
5.流山市(千葉県)
緑豊かな「流山おおたかの森駅」の駅前
「母になるなら、流山市。父になるなら、流山市。」というキャッチコピーを掲げる千葉県流山市は、首都圏でも子育てしやすいまちとして圧倒的な支持を集めているエリアです。共働き世帯のリアルな声に耳を傾けながら、行政と地域が一体となって次々と新しい施策を打ち出しています。
特に注目すべきは、全国に先駆けて導入された「駅前送迎保育ステーション」。これは、市内の複数の保育園と連携し、駅近で子どもを預けたあと、保育士がバスで各園に送迎するという仕組み。登園の時間が削減され、通勤時間を大幅に短縮できる共働き世帯にとって非常にありがたい取り組みです。
市内では大型ショッピングモール、公園、広場、医療・福祉施設など、子育てに関わる施設が1か所に集まる都市設計も進められており、日常の利便性は抜群。買い物や遊び、通院までが徒歩圏内で完結するエリアが整備されています。
また、流山市が注目される理由の一つが、大胆かつ戦略的な財政政策。例えば、他自治体が保育無償化を進めるなか、流山市では保育無償化にあえて慎重な姿勢を取り、その分を未来への投資(インフラ・支援制度・教育環境など)に充てるという独自方針を貫いています。この“攻めの行政”が、自治体としての持続可能性と質の高い子育て支援の両立を実現させているのです。
6.小松市(石川県)
北陸新幹線で、都心へのアクセスも良好
北陸の穏やかな自然に包まれた石川県小松市。小松空港や北陸新幹線といった広域交通網が整備されており、都市と地方の利便性を兼ね備えた地域として注目されています。
小松市では、18歳までの子どもを対象とした医療費の完全無償化により、通院・入院を問わず医療費の自己負担が無料となっており、急な体調不良やケガにも安心して対応できます。
また、小・中学校の給食費も無料となっており、毎日の食費の負担を軽減しながら、栄養バランスの取れた食事を届ける体制が整えられています。
ほかにも妊娠が確認された段階で支給される「おなかの赤ちゃん給付金」や、乳児期に必要な紙おむつが定期的に自宅に届く「赤ちゃん紙おむつ定期便」など、妊娠期から出産・育児に至るまで切れ目のない支援制度を用意。子育て家庭の経済的・精神的な負担を大きく和らげています。
海と山に囲まれた自然豊かな環境で、四季を感じながら子どもがのびのびと成長できる環境が整っていることもあり、子育て世帯が安心できる街として大きな関心を集めています。
7.あわら市(福井県)
あわら市はそばの産地としても有名
福井県の最北端に位置するあわら市は、美しい田園風景と温泉街が調和し、「関西の奥座敷」とも呼ばれる自然豊かな温泉地として知られています。落ち着いた暮らしの中で、地域全体が子どもたちの育ちを温かく見守る土壌が根づいた街として注目を集めています。
特に経済的支援の手厚さは際立っており、通院・入院を問わず18歳までの子どもの医療費がすべて公費で助成され、急な体調不良やケガの際にも安心して医療機関を利用可能です。
また、保育園に預けず自宅で育児をする家庭には第2子以降の「在宅育児応援手当」が支給され、家計とライフスタイルの両面から子育てを支えてくれます。
ほかにも教育・保育の環境にも力を入れています。市内のすべての保育所・幼稚園は認定こども園へと移行し、保育と教育を一体的に提供することで、子どもの個性や発達段階に応じた柔軟で質の高い支援が可能となりました。各園では家庭との連携を大切にしながら、一人ひとりの育ちを見守る体制が整備され、安心して預けられる環境が広がっています。
8.南箕輪村(長野県)
一面に咲く南原のフクロナデシコ
長野県中部、伊那谷の中央に位置する南箕輪村(みなみみのわむら)は、中央アルプスを望む美しい田園風景と、活気ある地域社会が共存しています。
最大の特徴は、日本で唯一「保育園から大学院までの教育機関がそろう村」であること。村内には信州大学農学部をはじめ、附属施設や高等教育機関が集積しており、子どもが成長しても転居せずに質の高い学びを受け続けられます。
また、経済的な支援制度も充実しており、高校3年生までの医療費が無料。成長とともにかさみがちな医療費の負担を軽減し、子育てに安心と余裕が生まれます。こうした支援の手厚さは、子どもと家族の将来を見据えた暮らしに大きな安心につながっているそう。
さらに、南箕輪村は長野県内で最も高齢化率が低く、若い世代が多く暮らす“活気のある村”です。実際に多くの子育て世帯が県外から移住しており、村民の約7割が移住者というデータが示すように、「よそから来た人」を自然に受け入れる文化が根づいています。地域コミュニティも開かれており、同じ子育て中の仲間とつながりやすい雰囲気が魅力です。
9.南伊豆市(静岡県)
船でしか行けない秘境「ヒリゾ浜」
静岡県最南端に位置する南伊豆町は、観光地としても知られる一方で、海と山に囲まれた豊かな自然と温暖な気候に恵まれ、自然と調和した暮らしを求める子育て世代から移住先として関心が高まっています。
近年は子育て支援制度の充実にも力を入れており、安心して子どもを育てられる環境が整っています。2023年に国が始めた「出産・子育て応援給付金事業」では、妊娠時と出産後にそれぞれ5万円ずつ、合計10万円の給付金が支給され、出産にかかる経済的負担を軽減。
また、独自の「南伊豆町出産祝金」制度も設けています。町に住民票を有する保護者に出産後に祝い金を支給するもので、地域全体で新たな命の誕生を喜び合うという、地方ならではのあたたかな文化に根ざした制度です。金額は第一子、第二子以降で異なり、たとえば第一子には15万円、第二子には20万円と、第三子以降は25万円と、家族が増えるたびに経済的な支援が手厚くなります。
ほかにも、「こども医療費助成制度」により、高校3年生までの医療費が助成されるなど、医療面のサポートも万全です。
海辺や山あいの散策路、四季折々の行事など、自然とともにある暮らしの中で、子どもの感性と身体を健やかに育てられる南伊豆町は、理想的な移住地といえるでしょう。
10.明石市(兵庫県)
明石市近郊の台所「魚の棚商店街」
兵庫県明石市は、「こどもを核としたまちづくり」を掲げる子育て先進都市として全国的に知られています。明石海峡を望む開放的な景観に恵まれ、神戸や大阪へのアクセスも良好です。行政が一貫して子どもと子育て世代を支える姿勢を打ち出しており、経済的支援、教育環境、地域資源のバランスが整った理想的な移住先のひとつ。
なかでも注目されているのが、高校3年生までの医療費が完全無料、第2子以降の保育料が無料、中学校の給食費も無償化されており、育児にかかる家計への負担を大幅に軽減できる制度の数々です。
さらに、0歳児を育てる家庭には毎月おむつや離乳食などが届く「0歳児見守り訪問おむつ定期便」サービスを実施しており、特に初めての子育て家庭には心強いサポートとなっています。
教育面でも少人数学級が導入されており、小学1年生は30人以下、中学1年生は35人以下の体制で、子ども一人ひとりに寄り添った丁寧な教育が受けられるのも特徴です。また、天文科学館や海浜プールなど市内4つの公共施設では子どもの入場料が無料となっており、日常的に遊びと学びを楽しめる環境が整っています。
11.浜田市(島根県)
折居海岸沿いを走る電車
島根県浜田市は、日本海に面した風光明媚な自然と、古くからの文化が息づく穏やかな街。都市部の喧騒から離れ、家族でのびのびと暮らしたいと願う人々にとって理想的な移住先です。近年は、子育て世代への手厚い支援体制が、若い世代の関心を集めています。
浜田市では、通院・入院を問わず18歳までの児童の医療費に対し助成を行う「子ども医療費助成制度」を導入。急な体調不良やケガなどにも経済的な心配なく対応できる環境が整っており、小さなお子さんを持つご家庭にとっては非常に心強い制度です。
ほかにも地域の人々が子育て家庭をあたたかく見守り、手を差し伸べるという文化が根付いています。保育所や学校、地域の子育てサロンやボランティアなども充実しており、「地域全体で子どもを育てていく」という共助の精神が子育て世代の心の安心にもつながっているそう。
また、不妊に悩むご夫婦を支援する不妊治療費の助成も実施されており、妊娠前から出産・子育てまで、ライフステージに応じたサポートが切れ目なく提供されています。
そして、浜田市が全国的に注目を集めている理由が、ひとり親向けの移住支援制度の存在です。全国で初めて浜田市が導入した先進的な取り組みで、シングルマザーやシングルファーザーを対象に、住まい・就労・子育て支援をパッケージで提供。新たな土地で再出発を図りたいと考えるひとり親世帯が地域に根付き、安心して子どもと暮らしていけるよう手厚く支えています。この制度の開始以降、実際に多くの相談や移住希望が寄せられ、全国的な評価を得ています。
12.豊後高田市(大分県)
昭和レトロな商店街が残る
大分県豊後高田市は近年、経済的な負担を最小限に抑えながら、子どもと向き合うゆとりある暮らしが実現できる街として、多くの移住希望者から関心を寄せられています。
特に、妊娠・出産から進学に至るまで、家計を支える祝い金制度が充実しているのが魅力です。妊娠時と出産時にはそれぞれ5万円、あわせて10万円が支給されるほか、小・中・高校の各入学時にもそれぞれ5万円の祝い金を支給。入園や進学にともなう出費が多い時期に、こうした手当があることで、経済的な安心感と心の余裕が生まれます。
また、医療・保育・給食にかかる費用がすべて無料という、全国でもトップクラスの子育て支援制度です。妊婦健診14回分の費用が助成されるうえ、妊産婦の診察(病気やケガを含む)も無料。子どもの医療費も高校卒業まで自己負担ゼロで、2024年7月からは入院時の食事代まで無料となりました。収入にかかわらず平等に質の高い子育てが可能となる点は、大きな安心材料です。
教育面でも手厚いサポートが用意されています。市が運営する無料の学習塾「学びの21世紀塾」では、幼児から中学生までが対象で、放課後や休日に学習のサポートを受けることができます。また、高田高校生には「うみね」という無料の公設民営塾が提供されており、受験や進路選択に向けた学びの機会が確保されています。家庭の経済状況に関係なく、すべての子どもが等しく学べる環境が整っているのです。
ほかにも、豊後高田市では県外からの移住者に向けた支援も非常に充実しています。最大300万円の引っ越し支援金が支給され、住宅取得費や引っ越しにかかる費用を手厚くサポート。地方での子育てを検討する家族にとって、移住後の生活のスタートを力強く後押ししてくれる制度といえるでしょう。
05| 移住を実現するための計画とプロセスとは?
地方移住を成功させるためには、「思い切って引っ越す」前にやっておきたい準備があります。子育て世代にとっては、子どもの教育や医療の体制、地域とのつながりなど、日々の暮らしに直結する要素が多く、事前の確認が欠かせません。
教育・医療・交通インフラのチェックリストを作成する
移住を検討する際には、希望する地域の自然環境や住居条件だけでなく、生活に必要な基本インフラが整っているかをチェックすることが重要です。特に子育て中の家庭にとっては、以下の3点を具体的に確認することをおすすめします。
教育:保育園・幼稚園・小中学校の数、通学距離、教育方針、学童保育の有無、習い事・塾の選択肢
医療:小児科・内科・産婦人科の有無、夜間救急や休日診療体制、通院のしやすさ
交通:通勤・通学の交通手段、バスや電車の本数、主要都市へのアクセス、積雪・災害時の対応状況
実際に下見に行った際には、役所で話を聞いたり、近隣のスーパーや病院までの距離を自分の足で確かめたりしておくと、移住後のギャップを減らすことができます。
地域コミュニティとのつながりを築くコツ
地方での暮らしは、都市部以上に人との関係性が生活に不可欠です。良好なご近所付き合いや、地域での協力体制を築いていくことが、快適な移住生活につながります。最初は「移住者」という立場でも、以下のような行動で自然に地域に溶け込むことができます。
・地域のお祭りやイベントに参加して顔を覚えてもらう
・自治会に加入し、地域清掃や防災訓練などに積極的に参加する
・移住者だけの集まりに頼らず、地元の人が集まる場所(カフェ、直売所、公民館 など)にも出かける
・挨拶や会話を大切にし、自分から声をかける姿勢を持つ
特に子育て世代は、学校や保育園を通じてつながる機会も多いため、最初の一歩を踏み出せば、思ったよりも早く関係が築くことができるでしょう。
移住支援制度を活用してお得に引っ越す方法
地方自治体では、人口減少や若い世代の定住促進のため、さまざまな移住支援制度を整えています。これらを活用することで、移住にかかるコストを抑えられるだけでなく、住まいや生活環境の整備にもつながります。主な支援内容には以下のようなものがあります。
・一定期間居住すれば土地や空き家が無償譲渡される制度(例:5年間定住で家を譲渡)
・空き家をリフォームするための改修費補助(補助上限額が設定されている場合も)
・子育て世代や若年層に向けた住宅設備(断熱・耐震など)補助金
・引越し費用や交通費、仕事探しに関する支援金が出る自治体も
情報は自治体の公式ホームページや、全国の移住支援をまとめたポータルサイト「JOIN(移住・交流推進機構)」などでチェックできます。地域によって内容や条件が異なるため、早めに比較検討することがポイントです。
地方移住は、子育て世代にとって「暮らしを見直す」大きなきっかけになります。必要な準備をしっかり整えることで、新しい土地での生活がスムーズに、そして楽しくスタートできます。
06| 移住体験ストーリー
埼玉県小鹿野町(おがのまち)に移住した松田さん一家。長男は1年生に。
「人とのつながり」を感じた、移住のきっかけ
2024年の12月に千葉県から埼玉県小鹿野町に家族で移住し、フリーランスのフォトグラファーとして活動している松田遼さん。現在、1歳と6歳の2人の男の子の母親として子育てに奮闘する松田さんにお話を伺いました。
そもそも、松田さんが小鹿野町に移住しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
「子どもを育てるなかで、都市部での生活は確かに便利で快適ではあったのですが、人間関係の希薄さや、身体を使って“生きている実感”を感じられる時間が少ないことに違和感を覚えていたんです。そんな時に「地域おこし協力隊」という、地方自治体と連携して地域の課題解決や活性化に取り組む制度を知りました。小鹿野町での業務内容は自分のキャリアを活かせると感じ、応募して採用していただきました。小鹿野町は秩父よりさらに奥に位置し、山や川など自然が豊かである一方、都内へ日帰り可能な点も魅力的です」。
地域に根ざす新しい暮らしと、小さな喜び
小鹿野町に移住して約半年が過ぎ、この場所での暮らしのいいところを日々実感すると松田さんは話します。
「窓を開けた時の空気がとてもよいし、どこを見ても緑が美しく、とても気に入っています。子どものことを地域のみんなで見守ってくれたり、声をかけてもらったりすることが以前の生活より圧倒的に多く、助かるなと感じますね。たとえば、先日参加したのは、ある小さな集落で開かれた地域の集まり。子どもと一緒にレクリエーションのゲームに参加させてもらいました。会場は、清流のすぐそばにある広場で、美しい緑に囲まれた素晴らしいロケーション。そこにいるだけで、心が洗われて、元気をもらえるような場所でした。
地域の方々とのレクリエーション。初対面でもすぐに馴染めたのだそう。
また、習い事として地域の太鼓にも参加させてもらっています。ただ技術を学ぶだけでなく、休憩時間にはみんなで食事を囲み、準備や片付けも地域の人たちと一緒に行います。太鼓を真剣に教えてくれる人もいれば、ただ飲みに来ている人もいて(笑)、先輩のお兄さん・お姉さんたちも含めて、とても個性豊か。まるで大家族のような雰囲気です。
仕事で取材に行った先でも、帰りに野菜をいただいたり、誰かがそっと差し入れを置いていってくれたり……。そうした何気ないやりとりのなかに、お金では買えない人の温かさやつながりを感じることができます。こうした日常が、当たり前にあること。都市部の暮らしと比べてみると、それがどれだけありがたいことか、改めて実感しています。
そして、もともとはペーパードライバーだったのですが、こちらの環境では車がないと生活が成り立たないため、思い切って運転を始めました。今では日常的に運転するようになり、移動中はスマホで好きな音楽を流すのが習慣に。以前より音楽を聴く時間がぐっと増え、自分の“好き”を楽しめる時間ができたのは、思いがけないポジティブな変化です。ひとりでのドライブだからこそ、遠慮なく好きな曲をかけて、思い切り歌ってみたり、途中でやめてみたり(笑)。そんな自由さも、小さな楽しみのひとつになっています」。
子どもの変化、家族の変化、そしてこれから
喧嘩も多いけれど、仲良くしている姿を見られる時は嬉しい、と松田さん。
そんな環境の中で伸び伸びと育つ1歳と6歳の2人の息子さんを筆頭に、家族みんなにさまざまな変化が訪れているそう。
「子どもたちは毎日少しずつ成長していて、“これが移住の影響なのか? ”は正直わかりませんが、お兄ちゃんの方は集中力が増してきたように感じています。好きなことに没頭しているときの真剣な表情には、頼もしささえ感じることも。以前は虫が苦手で避けていたのに、てんとう虫を大事そうに観察している姿を見たときは、なんだか嬉しくなりました。
1歳の弟も、家が広くなったおかげか、お兄ちゃんよりも高速ハイハイが得意になってきた気がします。夫も最初は新しい環境に戸惑っていた様子でしたが、最近は少しずつこの暮らしに馴染んできているようです。家族みんなで、少しずつ新しい生活に順応していけることが嬉しいです」。
ご主人の職場の方からもらったタケノコ。お裾分け文化も嬉しい。
もちろん、田舎への移住には大変なこともつきものですが、松田さんはポジティブに捉えています。
「冬の寒さと、家に虫が出ることです。ただ寒さは慣れますし、虫もなんとか対応策を考えることでかえって自分たちが強くなるチャンス思えるようになりました(笑)」。
松田さんは現在、フォトグラファーとしての活動を続ける一方で、地域おこし協力隊としても小鹿野町の魅力発信に取り組んでいます。
「現在は地域おこし協力隊として移住促進のサイトも運営しています。お試し移住に来た方のアテンドやインタビュー記事の執筆・撮影、イベントの企画等も行っています。フリーランスの写真講師としての活動も続けており、不定期ではありますが、月に数回は都内まで通って授業を行っています」。
迷った自分ごと受け入れて、一歩踏み出す
自宅にある梅の木の収穫を楽しむ
これから広がっていく小鹿野町での暮らし。その第一歩を踏み出した松田さんが、家族で移住を考える人たちにこんなエールを送ってくれました。
「自然が豊か、人がいい土地というのは、正直どこの田舎にもあります。全国すべてを見比べてベストな場所を探すのは現実的ではありません。それに、暮らしてみなければ分からないことの方が多いかもしれません。だからこそ、最後に大切なのは『縁』や『直感』だと私は思っています。私自身、移住を決める時には家族と意見がぶつかることもありましたし、正直とても悩みました。それでも、迷っている自分もまるごと連れて、小鹿野町に来てみました。完璧な準備ができていなくても、一歩を踏み出せば、見える景色は驚くほど変わっていきます。
もちろん、楽しいことばかりではありません。でも今は、ハプニングさえも前向きに受けとめ、楽しめるようになりました。自分を成長させたいと思っている方にとって、移住はとても意味のある選択になると思います。もし少しでも興味を持っているなら、まずは動いてみることをおすすめします。もしその先で小鹿野町に魅力を感じていただけたなら、ぜひ気軽にご連絡ください。お待ちしています! 」。