June
2024
Vol.56

ものづくり文化が息づく街 浅草・美濃・波佐見

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技術が進化した時代だからこそ、人の手によって作られた伝統工芸品は魅力的です。ものづくりの文化がある街での暮らしは人の温かみを感じられ、心を癒してくれるはず。今回は浅草、美濃、波佐見町の三つの街をご紹介します。

text:Kanta Kosugi、Ikumi Ueno(effect) photo:Eizaburo Sogo illustration:Saori Fukada

  • 浅草(東京県)
  • 美濃(岐阜県)
  • 波佐見(長崎県)
※休業日や営業時間については、各公式サイト等でご確認ください。

人と歴史で作られた飽きない街 浅草(東京都)

ものづくり文化が栄え、印象的な工芸品やおみやげが多くある浅草

浅草ってどんな街?

東京の北東部、台東区に位置する浅草。下町情緒と活気に溢れた人でにぎわう街です。起源は飛鳥時代、本格的な発展を遂げたのは江戸時代の頃。初代将軍徳川家康が首都を江戸に制定したことで人口が急増し、浅草寺は将軍の庇護を受けることになりました。やがて全国各地から参拝客が訪れるようになり、地元民は参道で玩具や土産物などの商売を開始。これが仲見世の始まりです。歌舞伎街や遊郭も浅草に移転し、観光地として急激に発展していきました。そんな背景から、ものづくり文化が根づき、現在でも工芸品などを売る問屋が多く残っているのです。また着物や浴衣で歩く人々や人力車を見かけることもしばしばで、タイムスリップしたような歴史情緒ある街並みも魅力です。最近は多くの外国人観光客が訪れ、世界的にも有名な街になっています。

いまも昔も観光ビジネスに力を注いできた浅草は交通の便がよく、東京メトロ銀座線、都営浅草線、東部伊勢崎線、つくばエクスプレスの4路線を利用可能。日光や鬼怒川温泉といったほかの観光地への移動もしやすく旅行に便利です。浅草駅近くに流れる隅田川沿いで開催する「隅田川花火大会」や1312年から続く伝統的な祭り「三社祭」など、1年を通してイベントが多いため楽しい暮らしが望めます。住みやすさも兼ね備え、八百屋やスーパーなどが並ぶ商店街も豊富なので生活に困りません。また閑静な住宅街もあり、下町らしい住人同士の交流が盛ん。何年経っても飽きない生活を送れます。

浅草(東京都)
1931年に開業した東武鉄道浅草駅ビル。駅前のアーケードには飲食店が多く立ち並ぶ
街の人
歴史や技術、家族の想いを受け継いだ

染絵てぬぐい ふじ屋 三代目店主川上正洋さん

浅草寺の仲見世通り近くに店を構えるてぬぐい専門店、ふじ屋。時代とともに技術が発展しても「注染染め」という伝統のスタイルを貫き、てぬぐいの魅力を多くの人々に届けています。現在店を切り盛りするのが、三代目店主の川上正洋さん。幼い頃から父や祖父がてぬぐいをつくり、売る姿を見て育ち、物心ついたときには店を継ぐという気持ちが生まれていたといいます。そんな川上さんが長年浅草で生活してきたなかで感じた、この街の魅力を伺います。
染絵てぬぐい ふじ屋 三代目店主 川上正洋さん
染絵てぬぐい ふじ屋
店に入るとずらりと並ぶてぬぐいが目に入る。一つひとつ異なる個性が魅力的で、つい手が伸びてしまう
なくなっても困らないものだけど、
てぬぐいは心の豊かさにつながる。
そのあたたかみを生活の一部に取り入れてもらえたら

てぬぐいは生活になじみやすい

「ふじ屋」は1946年創業で祖父、父、僕と三代に渡り78年続いている染絵てぬぐい専門店です。祖父からは都内初のてぬぐい専門店だと聞いています。うちでつくるてぬぐいは創業から変わらず、すべて「注染染め」という手染めでつくられています。特殊なのりで防染した生地に上から染料を注いで染め上げる技法で、それを二度繰り返す「2回染め」なんかはズレが生まれてしまうので一つとして同じてぬぐいがなく、人がつくったという温もりを感じられるんです。さらに、使っていけばいくほど色が褪せていくのでデニムのように変化も楽しんでいただけます。よくお客様に「どう使えばいいんですか?」と聞かれるのですが、てぬぐいの使い方は自由です。どんなことにも使いやすく、手になじみやすいので、生活のなかに伝統工芸を取り入れたいという方の最初のアイテムにふさわしいと思います。

小学生の頃には三代目と呼ばれていた

この店を継ぐという気持ちは小学生の頃には芽生えていました。うちは家業として染絵てぬぐいづくりを行っているので祖父と父が職人として働く姿を幼い頃から見ていて、気がつけばそのかっこよさに憧れるようになっていたんです。小学生の文集には「祖父や父のようなてぬぐい屋さんになりたい」と書いて、よく手伝いをしていたこともあり、周りからは早くから「三代目」と呼ばれるようになっていました(笑)。ただ本格的に後継になると考えたのは、京王プラザホテルで祖父、父、僕のてぬぐいを展示する企画「親子三代展」を開催したときです。そこで初めててぬぐいをつくったのですが、自分が描いた雪だるま柄のてぬぐいが飾られている様子を見て、改めててぬぐい職人になろうと心に決めました。開催前に祖父が亡くなってしまい三代で企画を見届けられなかったという悔しさの分、決意は固かったです。

染絵てぬぐい ふじ屋

どんな人も受け入れる、ホッとする街

浅草はご近所付き合いの文化が盛んで、とても暮らしやすい街だと思います。駅まで歩けば、知人によく会うので、何回「こんにちは」と言えばいいのかと思うほど(笑)。みんな何かあれば気にかけてくれるあたたかい人たちなので安心感があり、子育てにおいてもほかの環境に比べて心配事が少ないと思います。三社祭や縁日などイベントは毎月のようにあるので、どんな人でもコミュニティに参加しやすいし、引っ越してきた人もすぐになじむことができると思います。

おすすめスポット

母の実家である、浅草 うまいもん あづまです。いまは母の弟である叔父が店主で、私の従妹である息子と一緒に切り盛りしています。実家から200mくらいということもあり、子どもの頃から家族でよくご飯を食べに行っていました。お寿司やカツ丼、オムライスなど幅広いメニューが揃っていて、近所の人たちにもおなじみの、浅草の台所的なお店です。

浅草 うまいもん あづま
ふじ屋から徒歩5分ほどの場所にある、浅草 うまいもん あづま
浅草 うまいもん あづま:
東京都台東区浅草1-32-1
スポット
職人たちの思いが伝統をつなぐ

暮らしのスポット

ものづくりの文化が根付く浅草には、職人の思いがこもった工芸品を販売する店が数多くあります。時代を超えて伝統と技術を受け継ぎ、人々を魅了している浅草のスポットをご紹介。
暮らしのスポット
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江戸時代から続くてぬぐい専門店

染絵てぬぐい ふじ屋

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染絵てぬぐい ふじ屋
染絵てぬぐい ふじ屋
染絵てぬぐい ふじ屋
浅草で三代、78年にわたって続く、てぬぐい専門店。型紙を使う手染めにこだわり、一つひとつ小さな違いのあるデザインと質感のよさが魅力。水や汗の拭き取り、食事のひざ掛けなど、生活で幅広く使える昔ながらのてぬぐいを時代に合わせて販売。平日でも多くのお客さんが訪れるほど多くの人を魅了している。
東京都台東区浅草2-2-15
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自分だけのガラスに出合うひとときを求めて

TSUCHI-YA ガラスの器と工芸

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TSUCHI-YA ガラスの器と工芸
TSUCHI-YA ガラスの器と工芸
TSUCHI-YA ガラスの器と工芸
2022年、白金にあった「室町硝子工芸」をリブランディングし、かっぱ橋道具街にオープンしたガラス製品専門店。商品はすべてハンドメイドで一つとして同じものはなく、作家の個性が表現されている。繊細なカットが特徴の切子は江戸切子だけでなく、関東では珍しい島津薩摩切子も揃う。オンライン販売もしており、その取扱いは500点。好みのガラスに出合える唯一無二の店。
※時期によって在庫は変動いたします
東京都台東区西浅草2-5-4
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伝統文様と暮らしの架け橋

本品堂工房

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本品堂工房
本品堂工房
本品堂工房
慶応三年創業の型染め屋「更銈(さらけい)」から生まれた本品堂。型染めとは、型紙で使って布に糊を塗り、色が染まらない部分をつくって染色していくこと。着物の製法が主だったが、店主の大野さんが時代に合わせて変化させ、守袋や小座布団など親しみやすいものを展開している。すべて職人の手づくりで、オリジナリティ溢れる風合いがある。型染めの伝統文様にはさまざまな絵柄があり、招き猫には開運祝福、ダルマには心願成就というようにそれぞれ想いが込められ、その意味を知ることでより一層愛着がわく。
東京都台東区橋場1-34-2
(制作工房のため販売店舗ではありません)

和紙産業で栄えた名残を残す 美濃(岐阜県)

長良川では、あたたかな季節は川原で水遊びを楽しむ人々の姿も。夏の風物詩である鵜飼も有名

岐阜県の中央部に位置する街。日本三大清流のひとつである長良川と、板取川が市内をながれ、森林が8割以上も占める自然豊かな環境が特徴です。その地形を生かして盛んになったのが、日本三大和紙のひとつにも数えられている美濃和紙。和紙の原料である楮(こうぞ)が多く採取されるこの地域では、奈良時代から1300年以上にもわたって和紙づくりが行われてきました。美濃和紙は柔らかみのある風合いを持ちながら、耐久性が高く、ムラのない美しさが特徴で、2014年にはユネスコの無形文化遺産にも登録。その伝統的な技術は世界的に評価されています。

このように産業が栄えていたことから、江戸時代には商業の街として反映していた美濃。江戸、明治に建てられた豪商の民家が残っており、情緒ある街並みをいまでも楽しむことができます。美濃市で暮らす人の多くが、マイカー生活を送っていますが、市内には長良川鉄道とバスが通っているほか、最近では予約型乗り合わせタクシーが運行されてるため、交通の便がよくなってきています。またスーパーやホームセンターがあるため日々の買い物に困ることはほとんどありません。近年は移住政策にも力を入れており、首都圏から移住した場合に支給される支援金や、新婚世帯の家賃補助、空き家回収補助など、移住支援が充実しているのも注目したい点です。

美濃(岐阜県)
江戸時代から明治時代にかけて造られた商家が並ぶ、うだつの上がる町並み
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家田紙工

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家田紙工
明治22年の創業以来、提灯用紙(和紙)の加工販売を行う会社。提灯用紙の絵付けを主とした刷り込み(ステンシル)、シルク印刷なども手掛けている。現在、その技術を活かし、注目を集めているのは岐阜の伝統工芸品「水うちわ」。うちわの骨に手すきの薄い美濃和紙である雁皮紙(がんぴし)を貼り、天然のニスを塗って仕上げられるのが特徴。涼し気で繊細な美しさと耐久性を兼ね備えた職人技が光る逸品。
家田紙工
岐阜県岐阜市今町3-6

歴史とあたらしさが交差するやきものの里 波佐見(長崎県)

波佐見町のなかでも窯元が多く集まる陶芸の里「中尾山」

長崎県のほぼ中央に位置し、県内で唯一海に面していない街。周囲を山に囲まれた土地は豊かな自然が溢れており、なかでも江戸時代中期には完成したといわれる鬼木棚田は日本の棚田百選にも選ばれた美しい景勝地です。そんな波佐見の名を一躍有名にしているのが、この地域で作られる陶磁器、波佐見焼。その特徴は白磁と、透明感のある呉須(藍色)の美しさで、400年も前から日用食器として親しまれてきました。波佐見焼には決まった様式というのはなく、使う土や釉薬、デザインもさまざま。時代にあわせたデザインが次々と生まれています。

また最近では移住支援金補助制度や空き家バンク、移住の前に田舎暮らしが体験できるお試し住宅などの支援制度も充実がはかられており、波佐見に移住する人が増加。街が活性化してきています。とくに西ノ原地区は、移住者が起業をして、あたらしい飲食店をオープンさせたりと盛り上がりをみせる地域です。波佐見町内に電車は通っておらず、移動手段は車やバスが中心になりますが、長崎市からは高速道路で約60分、福岡市からは約1時間25分と、都市部へのアクセスはそこまで悪くありません。スーパーなど買い物をできるスポットも町内にあり、暮らしやすい環境も整っています。自然溢れる環境を満喫したい方にはおすすめの街です。

波佐見(長崎県)
波佐見やきもの公園には、世界の窯広場や波佐見町陶芸の館がある
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マルヒロストア

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マルヒロストア
波佐見焼の陶磁器メーカー、マルヒロの直営店で、同社が運営する私設公園「HIROPPA」内に店を構える。自社ブランドであるBARBAR、HASAMIをはじめとした全ラインナップを取り扱っているほか、直営店でしか買えないプロトタイプの商品や限定品、一点もののアート作品、HIROPPAオリジナル商品の販売など品揃えも充実。釉薬の特性や成形の技法によって一つひとつ異なる表情を見せる器を直接手に取り、自分好みのものが選べる貴重なスポット。
マルヒロストア
長崎県東彼杵郡波佐見町湯無田郷682
(HIROPPA内)

街をよく知る“目利き”に聞いてみよう

暮らしのなかで、ふと目にする丁寧につくられた物たちは
慌ただしく過ぎる毎日に少し彩りを加えてくれます。
繊細な技が魅力の伝統工芸品が息づく街を紹介します。
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東京額縁や江戸刺繍などが有名。
住環境がよくファミリーにおすすめの街

練馬区(東京)
兼六不動産
兼六不動産
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刃物や線香、注染で知られる。
交通アクセスがよく、大きな公園なども

堺(大阪)
ブリスマイホーム
ブリスマイホーム
File 03

肥後象がんや肥後手毬など繊細な技が光る。
子育て世代からの注目が高い

熊本(熊本)
たたら不動産
たたら不動産