「ルイス・バラガン邸」は2004年に世界遺産に登録されたメキシコが誇る名作住宅です。ピンクや朱色の壁が、メキシコの強烈な日差しに映えます。プリツカー賞の第二回受賞者、ルイス・バラガンが自分のために設計したこの住宅は、メキシコ伝統の建築様式とモダニズム建築様式を融合させたことで知られます。映画「リメンバー・ミー」の舞台と言われるまち・グアナファトのカラフルな家のように、ルイス・バラガンはメキシコの感性を生かした家を創りました。
裕福な地主の家に生まれたバラガンは、20代半ばにスペインやフランス、モロッコを旅行。地中海文化、とりわけスペインのアルハンブラ宮殿のイスラム装飾や庭園・水景に影響を受けたようです。帰国後、農園管理をしながら設計を行い、20代の終わりに再度渡欧。パリでコルビュジェのワークショップに出席し、モダニズム建築に傾倒します。その後、不動産開発で財を成したバラガンは、1947年から自宅の建設を始めます。
敬虔なカトリックだったバラガンは、生涯結婚しませんでした。バラガン邸内部の特色は、十字架を模した窓サッシのある吹き抜けのリビング。そして開放的なリビングとは対照的な、天井が低く、狭い食堂です。バラガン自身は、リビングよりも修道院のようなこの食堂を好んだそうです。バラガンは「静けさこそが、苦悩や恐怖を癒す薬です。静謐な家をつくることが、建築家の義務なのです」と言っています。東向きの採光窓は、メキシコの強烈な日差しを柔らかく取り入れます。壁は鮮やかなピンク色ですが、柔らかな光で静けさが漂います。身長190cmの大男だったバラガンが、独り静かに食事を取っていたことを考えると、住宅は「こもる」ためにあるのだと感じさせられます。
梅雨の日本では雨が外出をためらわせますが、メキシコは肌を灼く日差しが人々を家にこもらせます。淡い光を楽しめる日本の住まいは、孤独を愛したバラガンにふさわしいかもしれません。