「Yハウス」はアメリカのニューヨークから車で約3時間、キャッツキル山地に立つ名作住宅です。裕福な家族のために設計されたアメリカン・カントリーハウスは、名前の通り、上空から見るとY字の形をした木造住宅です。北側の天井の低い玄関ポーチから屋内に入ると、奥に向かって傾斜した空間が現れます。真ん中にはロフトのような2階にいざなう階段があり、左側奥(南側)からも右奥(西側)からも光が差し込んでいます。天井や床、階段は無垢の板張りで、白壁とあいまって柔らかです。奥に進むと、まるで大開口部から緑豊かな景観に入り込んでいくような体験ができます。
Yハウスは、2棟の住宅を結合させたようにも見えます。住宅を2棟に分けるのであれば、パブリック(応接室や居間)とプライベート(寝室など)に振り分けるのが設計では定石ですが、Yハウスでは、パブリックな空間とプライベート空間を混在させて、それぞれの空間を緩やかに繋げています。それが居心地のよさを創り出しているのです。なお、主寝室と子ども部屋はそれぞれ1階と2階、左右に分けており、家族のプライバシーを確保しています。
ホールが南側と西側に細長く傾斜のある空間にしたのは、太陽光の差し込みを柔らかくするためです。Y字にしたことで、美術品の収集家である施主が求める壁の面積も多めに取ることができています。
外観のカラフルな赤色(酸化鉄)の板壁は、キャッツキルの伝統的な木造建築の意匠を取り入れています。伝統的な木造建築でありながら、外観がどことなく現代的な理由は、バルコニー部分が軽くて細い表現になるよう鉄骨でつくられているからでしょう。ホールはYハウスの設計にあたり、コルビュジェのデザインを参考にしています。Yハウスは伝統建築と現代建築を融合させた住宅です。ホールを見習って、住宅に伝統的な差し色を取り込むのもいいかもしれません。