「母の家」はフィラデルフィアの郊外、上流階級の住宅地チェスナットヒルに立地する名作住宅です。チェスナットヒルは、プリツカー賞受賞者のロバート・ヴェンチューリが設計した「母の家」だけでなく、ヴェンチューリの師に当たるルイス・カーンの設計したエシェリック・ハウスなどのモダン建築、そしてビクトリア朝の邸宅も複数立地しており、さながら建築博物館のような住宅地です。
一方で、ヴェンチューリが母のために設計した生活しやすいシンプルな住宅でもあります。居間、食堂、キッチン、寝室を全て1フロアに集約し、高齢の母に配慮しています。フェミニストでヴィーガンという進歩的なヴェンチューリの母は、一方でアンティーク家具の収集家でもありました。収集した植民地時代の家具を暖炉の周りに置けるように設計しています。肝心の母親は、実はビクトリア朝の住宅を好んでいたのではと言われています。
ヴェンチューリは、この家の完成後、しばらくは建築家の妻と2階で暮らしました。その後独りで暮らすようになった母ですが、見学に訪れる若い建築学生と話し込むことが多かったようです。アンティーク家具とお茶で学生たちをもてなしたのかもしれません。