前編に引き続き、出身地である千葉県四街道市からバングラデシュを経由して、徳島県神山町へと移り住んだ北山さんの移住ストーリーを紹介します。後編では、2019年にオープンしたゲストハウス「神山くらしの宿 moja house」の活動の様子と、ゲストや地元の人々との交流を紹介します。
ライター:鈴城久理子
01| 古民家をリノベしてゲストハウスを運営
古民家をリノベーションした自宅兼ゲストハウス
北山さんが神山町に移り住んで早8年。当初は地域おこし協力隊の制度を利用し、3年後には任期も無事終了。「もともとずっと神山町にいるつもりで地域おこし協力隊に入ったため、そのまま住むことになりました」。
家主の友人である神山在住のアーティストが手掛けた襖絵。モチーフは神山町名物のすだち
旅や人が好きということからゲストハウスの経営を念頭に置き、物件探しをスタート。ようやく見つけたのが、築150年という農家の古民家の賃貸物件でした。リノベーションにあたり、家主に許可をもらって、漆喰の壁塗りや床張りのワークショップを実施。地元やそのほかの地域からも手伝ってくれる人を集め、2019年4月19日に無事、オープンを迎えました。
オープンのテープカットセレモニーには、お世話になった人々に参加してもらったそう
地元の新聞で開業が紹介されるなど、ちょっとした話題になった
「神山くらしの宿 moja house」の客室は2部屋あり、ドミトリーとしても使うこともあれば、個室として使うこともあります。2部屋とも、窓から集落を見渡せるパノラマビューが楽しめるのが魅力。また、ゲストの皆さんと一緒に料理作り体験を行ったり、野良仕事や季節のワークショップにも参加できる体験型宿泊施設になっています。
ゲストハウスも軌道にのり、非売品のオリジナルエプロンを制作。オリジナル歯ブラシや手ぬぐいはお土産コーナーで販売中
そしてオープンから3年後、地元の男性と結婚。町の人は二人の結婚を家族のように祝福してくれたそう。現在は二人三脚でゲストハウスを切り盛りしながら、農作業や地域活動に邁進しています。
02| 地域コミュニティにどっぷり浸かる
2023年春に開校した新しい学校「神山まるごと高専」で、神山町唯一の阿波踊り連「桜花連」が踊りを披露
“人間の未来を変える起業家たちが創る新しい学校”として話題を呼んだ「神山まるごと高専」。この新校舎&寮のお披露目会で、地元の「桜花連」が阿波踊りを披露。ご主人が踊り、北山さんはカメラマンとして参加しました。
切断面が美しい白菜は、ご近所さんからのおすそ分け。キムチをつくっておいしくいただいたそう
地元の人たちの力を借りて、ゲストハウスの裏山を整備&開拓
「移住してよかったことは、やはり人と人とのつながりですね。小さな町なので、知り合いもたくさんできるし、それぞれの得意分野を活かして持ちつ持たれつ、お互い協力し合いながら暮らしていけるところがとても魅力的です」。
03| 地元の子どもや若者の体験学習をサポート
徳島県内の大学生たちに向けてのワークショップで、五右衛門風呂づくりに初挑戦
隣町の那賀町にある木頭中学校の生徒たちの体験学習を依頼され、すだちのポマンダー(香り玉)をつくった
ゲストハウスの経営以外にも、関わっていることはいろいろ。地元の教育関係者からの依頼で、子どもや若者の体験学習を手伝うこともあります。五右衛門風呂づくりやすだちのポマンダーづくりなどのユニークなものも。
「五右衛門風呂づくりで集まってくれた大学生の皆さんは、ライター育成実践講座や役場のインターンなど、何かしら神山町で活動している人たちでした。木頭中学校の生徒さんのときは、『神山のものを使って何かできることを』とリクエストをいただき、すだちのポマンダーをつくったんです。特に小学生の皆さんは、『ゲストハウス』という宿泊施設は初めてという子も多く、興味津々で話を聞いてくれました。バングラデシュの暮らしについてもたくさん質問があり、私も楽しく子どもたちと交流できました」。
04| ゲストとの一期一会の出会い
オランダからのゲストと一緒に料理をして、食事を楽しんだときの様子
海外からのゲストが宿泊する際、日本料理をつくってみたいという希望も多いとか。オランダからお客さんが来たときは、典型的な日本料理のひとつとして鮭と昆布のおにぎりを一緒につくりました。バングラデシュの言語であるベンガル語で「おいしい」「楽しい」という意味を持つ「moja」から名を付けたゲストハウスだからこそ、訪れた人においしく楽しく過ごしてほしいと考えています。
出発時の後ろ姿があまりにドラマチックだったので、撮影させてもらったという1枚
さまざまな人々が訪れるなかで、この土地ならではの出会いもあります。「上の写真の方は、お遍路姿が凛としてかっこよかったので写真を撮らせていただきました。お話を伺うと、スペインのエル・カミーノ・デ・サンティアゴの巡礼路でゲストハウスを経営されている方でした。四国遍路とサンティアゴ巡礼は、宗教は違えど親和性があるようで、サンティアゴ巡礼してから四国に来る方や、逆に四国八十八箇所を回ることができたらスペインに行くという目標を持たれている方と出会うこともしばしばあるんですよ」。
家族で宿泊したゲストのお子さんが、一緒に作って食べた晩ごはんを絵に描いてくれた
「旅行でどこかに行くことはあっても、もうずっと神山町で暮らしていくと思います」と心を決めている北山さんから、田舎暮らしについて、こんなメッセージをもらいました。
「私の場合は、自分にぴったりの町をたまたま見つけることができたので、暮らしの満足度や充実度が上がったと思います。ご近所さんとおいしいものを分け合ったり、地域活動のお手伝いをしたり。人と関わることが好きなのであれば、このような田舎暮らしはもってこいだと思います。でも、地域によってもカラーが違うし、住んでみなければわからないことも多いので、もし興味があるのならば、気になる場所でお試し移住から始めてみるのがよいかもしれません。それと、地域おこし協力隊の制度は、縁もゆかりもない地域に入っていくきっかけとしてとてもおすすめですよ」。
※北山さんのインスタグラムはこちら!
https://www.instagram.com/mojahouse_kamiyama/
05| まとめ
さまざまな場所を訪れていろいろな人に出会った経験を、移住先で生かす。そんな新天地での暮らし方、ぜひ参考にしてみたいものですね。
この記事を書いた人
鈴城久理子 ライター
雑貨紹介や料理、インテリアなど暮らし系の記事を中心に執筆することが多いライター。ただいまメダ活実践中。