イギリスの情報誌「MONOCLE(モノクル)」が発表した、人口25万人未満の都市を対象とする「輝く小さな街」2021年ランキングで、世界第3位に選ばれた福岡県糸島市。「自然の豊かさに加え、福岡市に隣接して都市生活も享受しやすい」といった多面性から、「生活の質が優れている」と評価されました。そんなこの街の住みやすさを移住者の声も交えながらご紹介します。
ライター:西田武史(シーアール)
CONTENTS
01| 糸島市の概要:都会近くでスローライフがかなう街
福岡県福岡市の西部に隣接する糸島市。中国の歴史書「魏志倭人伝」に“伊都国”として登場するほどその歴史は古く、豊かな自然の恩恵を受けながら2000年以上の歴史を刻んできました。
1983年にJR筑肥線・筑前前原駅~福岡市営地下鉄・博多駅間の相互乗り入れが開始されたころから、福岡市のベッドタウン化が進行。2010年には、旧・前原市、旧・志摩町、旧・二丈町が合併し、人口10万3020人(2021年9月末現在)の現・糸島市が誕生しました。
糸島の新鮮な山海の幸を購入できる「伊都菜彩」(糸島市波多江)。日本の産直所でトップクラスの売上高を誇ります。
糸島市の最大の魅力は、「豊かな自然とゆったりとした日常が隣り合わせにある」という点です。休日は、近くの海や山でアクティブに一日を過ごすことが可能。おしゃれな飲食店や工房も多く、それらの場所で自分の時間を楽しむこともできます。
また、食べ物がおいしいところもポイント。国内外で良質と評価される「糸島ブランド」の農作物や海産物、畜産酪農品などが、市内18か所に点在する直売所でいつでも手軽に購入できます。これらの自然の恵みはきっと、皆さんの明日の活力になることでしょう。
02| アクセスと主要駅:電車1本で天神・博多・空港へ
JR筑肥線の筑前前原駅。ここを始発として福岡の都心部へ向かう電車は、1時間に2~6本運行されています。
糸島市のアクセスの中心は、市役所の庁舎など行政機関の建物が駅の周辺に集まる筑前前原駅です。ここから電車に乗ると、天神駅まで約30分、博多駅まで36分、福岡空港駅まで41分。しかも、ほとんどが始発のため、ラッシュアワーでも座って通勤・通学ができます。
筑前前原駅の北側にある商店街の入口。この周辺では、江戸時代の宿場町だったことを示す建物を目にすることができます。
江戸時代に長崎街道の交通の要衝だった場所柄、道路網も充実しています。福岡都心部へのアクセスは、糸島市内を横断する国道202号、国道202号バイパス、西九州自動車道が便利。車を使って西九州自動車道の前原ICから福岡都市高速道路を経由すれば、約40分で九州自動車道に入ることもできます。
市内の公共交通機関として、昭和バスやコミュニティバスが運行していますが、本数はあまり多くありません。福岡都心部への通勤を考えた場合は、筑肥線沿線の駅周辺で家を探すか、マイカーの所有をおすすめします。
03| 移住者の声:“トカイナカ”で子どもをのびのびと育てられる環境が魅力
千葉県から糸島市に移住して6年というご夫婦にお話を伺いました。
「仕事の都合で福岡にやってきた」というご主人。糸島市に決めた理由は、「自然豊かな場所でありながら、通勤や買い物といった生活の利便性で優れていた」から。「食べ物のおいしさと安さ」も糸島暮らしのメリットに挙げられ、特に、「伊都菜彩で買い物した際、マダイが1,000円以下で買えた時は感動した」と話されていました。
また、奥さまは、子育ての面で「自然の中でのびのびと育てられるところ」をメリットに選出。「小さな子どもが水遊びできる川や滝がたくさんあり、キレイな海にふれさせることもできる。広い庭のある家を購入できたのも、糸島市だったから」と、糸島市暮らしの魅力を語っていただきました。
自宅の庭でプール遊びを楽しむ子どもたち。奥に見える林ではホタル観賞ができるそうです。
一方、不便だと思う点では、奥さまが「遊具のある公園が近くに少ない」ことや、「幼稚園や保育園が少ない」ことを挙げられました。
後者については、2021年の11月より福岡市西区の一部の保育所で受け入れを開始。現在、糸島市内でも新規保育園が続々と開園しており、糸島市も積極的に待機児童の改善を図っているようです。
04| 家族で休日を満喫できるリフレッシュスポット3選
福岡県屈指の観光地として人気の糸島市。市内には、大自然を満喫しながらリフレッシュできる場所が豊富にあります。ここでは、アクティブ派のファミリーにおすすめの定番スポットを3つ挙げてご紹介します。
①志摩サンセットロード周辺
糸島市を代表する景勝地・桜井二見ヶ浦。海岸から約150m沖にある夫婦岩は、櫻井神社の社地として崇敬されています。
旧志摩町の海岸線沿いを走る全長33.3kmの「志摩サンセットロード」。その名のとおり、1年を通して美しい夕日を眺めることができます。
沿線には、桜井二見ヶ浦の夫婦岩や幣(にぎ)の浜など、景勝地が点在。おしゃれなカフェやフォトジェニックなスポットも多く、ちょっとしたリゾート気分を味わえます。
②白糸の滝 ふれあいの里
羽金山中腹の標高530mに位置する「白糸の滝」。6月下旬~7月中旬は、この周辺で約5,000株10万本のアジサイが見ころを迎えます。
古くから福岡の避暑地として、多くの人に愛される「白糸の滝 ふれあいの里」。季節によってはヤマメ釣りやそうめん流し、そば打ち体験なども実施されており、家族連れに人気があります。
初夏のあじさいや秋の紅葉の観賞もおすすめ。渓流沿いを走る約1.3kmの遊歩道では自然散策が楽しめるので、ぜひ一度訪れてみてください。
③糸島市農業公園 ファームパーク伊都国
伊都国歴史博物館に隣接する「農業」がテーマの施設。買い物もレジャーも楽しめる一石二鳥のスポットです。
都市と農村の交流拠点として1996年に開園した体験型ミニテーマパーク。園内には大きな広場や子ども向けの遊具を配置し、小動物とふれあえたり、近くの川で遊べたりもできます。
貸し農園での農業体験やトンカチ館での木工体験など、親子で楽しめるイベントが随時実施されているところも要チェック。農産物直売所「伊都国即売会」では、毎朝とれたての野菜や花などが販売されてるので、レジャー前後にお立ち寄りください。
05| 治安:街を挙げて防犯・防災への取り組みを推進中
福岡県警のデータによると、刑法犯の認知件数は県全体を通して減少傾向。その中でも、糸島市は発展途上の街ということもあり、比較的犯罪発生数の少ないエリアといえます。とはいえ、一部の地域では空き巣や盗難、住居侵入などが多発しているそうなので、この点は注意を払う必要があります。
ちなみに、福岡県警の配信サービス「ふっけい安心メール」では、居住地で発生した事件や不審者の情報を取得できます。より安全・安心に暮らすための手段の1つとして、ぜひご利用ください。
06| 糸島市の行政サービス:子育て世帯の移住支援に積極的
筑前前原駅より徒歩6分の場所にある糸島市役所。現庁舎の老朽化に伴い、この建物の対面に新庁舎の建設が進行中です。
2024年1月のオープンを目指して準備が進められている糸島市役所の新庁舎も注目です。市民の利便性の向上を図るだけでなく、災害時の避難所・情報発信拠点としての役割など多目的に活用できる建物になる予定で、この誕生を機によりいっそうの安心安全な街づくりが期待できます。
冒頭で紹介した「輝く小さな街」世界第3位の選出理由に、「コミュニティー意識が強く、糸島市外から入ってきた人に寛容」という点が挙げられていることも見逃せません。
こういった背景もあり、糸島市では移住・定住策に積極的。市内にある16の小学校区のうち10校区に地域コーディネーターを配置し、移住希望者の相談や移住後のフォローに対応。近年は、テレワークに最適な環境の整備も進められています。
充実の子育て支援策にもご注目を。子育て支援センターや病児・病後保育施設、放課後児童クラブを設けたり、3~5歳の保育料や幼稚園利用料の無償化を行ったりするなど、学校・家庭・地域が一体となって子どもたちの成長と向き合える環境が醸成されています。
07| 教育:九州大学との連携や交流による新たな“学びの場”に注目
九州大学伊都キャンパス。糸島市では現在、毎年100件以上の連携・交流事業を九州大学と行っています。
写真提供:福岡市
2018年に統合・移転が完了した九州大学伊都キャンパスの開校も、糸島市の発展において大きな転機になりました。
例えば、教育では、九州大学生が先生になって小学生の学習を応援する「九大寺子屋」を実施。学生たちが大学での研究内容を講義や科学実験を通して分かりやすく教えることで、子どもたちの学習意欲の向上につなげているようです。
糸島市では今後も、九州大学の知的・人的資源を教育分野に積極的に活用。糸島市民が学ぶ楽しさを経験する機会や先進的な学習の創出を図っていく予定です。
08| 糸島市に住みたいと思ったら、知っておきたい家賃相場と新築・分譲・中古物件の価格帯
不動産・住宅情報サイト「ライフルホームズ」によると、糸島市の家賃や新築・分譲・中古物件の相場は次のとおりでした。
●賃貸マンション・アパート・一戸建ての家賃相場の目安
ワンルーム・1K・1DK:3.94万円
2LDK・3K・3LDK:7.09万円
●新築・分譲一戸建ての価格相場の目安
2,198万円~5,590万円台
●中古一戸建ての価格相場の目安
2,648万円台
ここ数年、賃料も住宅価格も上昇傾向にありますが、それでもまだ福岡市の都心部に比べると手ごろ感があります。
注意すべきエリアを挙げるとすれば、2019年に新しく誕生した糸島高校前駅周辺。開発による住環境の整備で人気が上昇しているようなので、このエリアへの移住を希望される際は念入りに下調べをしたほうがよさそうです。
ちなみに、糸島市が運営する定住促進サイト「糸島生活」には移住・定住に関する情報が随時アップされています。こちらもぜひご参考ください。
この記事を書いた人
西田武史(シーアール) ライター