さまざまな移住ストーリーを紹介するシリーズ。今回は、美しい風景を見てひとめぼれをし、それがきっかけとなって移り住んだという、まさに夢のような出合いを実現した田中さんのストーリーです。
ライター:鈴城久理子
CONTENTS
01| 移住のきっかけは、雑誌で見た瀬戸内海の特集記事
瀬戸内海国立公園の中心地に位置し、約153平方kmに25,023人(小豆島町広報2024年1月号より)が住むという小豆島。質のよい醤油、そうめん、オリーブなどで知られ、その温暖な気候とゆったりとした島の空気が魅力です。この島に田中さんが訪れたのは約8年前のこと。きっかけは雑誌で見た瀬戸内海の特集でした。
道の駅「小豆島オリーブ公園」は、観光客からも人気のスポット
小豆島は日本におけるオリーブ発祥の地といわれており、その地にあるのは小豆島オリーブ公園。小高い丘の上に建つ、心地よい風を受けるギリシャ風車がひときわ目を引きます。ほかにも実写化された映画「魔女の宅急便」のロケセットを移築している雑貨店などもあり、いつもたくさんの観光客で賑わっています。
もうひとつの観光地として有名な「醤の郷(ひしおのさと)」には、今も20軒以上の醤油蔵や佃煮工場が軒を連ねる
海に囲まれた小豆島は江戸時代から製塩業が盛んで、醤油づくりは島の重要な産業の一つ。明治時代に建てられた瓦と漆喰壁の醤油蔵の一部は今でも使われていて、経済産業省の近代化産業遺産にも認定されているのだそう。通りを歩いていると、ほのかに醤油の香りが漂ってきます。
移住後、かぎ針編みやバッグ作りなど、自身の手仕事に力を入れるようになったそう
歴史があり、風光明媚な景色に惹かれて島に移り住んだ田中さん。当初の予定ではとりあえず1年限定だったといいます。「生まれ育ったのが富山県なんです。雑誌で見た瀬戸内海は地元の日本海とは全く異なり、景色がとてもきれいでずっと行ってみたいなと思っていました。その後旅行で訪れることになり、まずはお試し感覚で住み始めました」。
02| のんびり暮らそうと思ったものの、多忙な生活からスタート
移住したのは瀬戸内国際芸術祭の開催年ということもあり、思いのほか仕事が忙しくなってしまったそう
移住後は、観光業(飲食店)の仕事に就くことに。思わぬ誤算だったのは、すぐに忙しくなってしまったこと。「移住したらのんびり過ごそうと思っていたのに、仕事が忙しくなってしまって全然のんびりできなくなってしまいました。ちょうど瀬戸内国際芸術祭の開催年で観光客が多く、当初描いていたライフスタイルと違ってしまったんです」。現在はスポーツジムや民泊でアルバイトをしています。
03| 「海を行き交う船」や「自然」は 、都会では得られない特別な日常
移住後に結婚して家族も増え、のびのびした生活が送れるようになった
あわただしい移住生活からスタートしたものの、島出身の男性と出会い結婚。今では家族も増えて瀬戸内の温暖な気候の中で暮らしを満喫。移住から2年間は「小豆島町移住促進家賃等補助金」という自治体からの援助を受けることもできたため、順調な移住生活を送ることができました。
友人が撮影したという美しい瀬戸内海の風景
「田舎ってよくも悪くもコミュニティが近いので、うまく活用すれば生活しやすいと思います。自然豊かな土地での子育ては、都市部では体験できないようなこともさせてあげられて、子どもにもプラスになっています。自宅から見える『海を行き交う船』や『豊かな自然』は、喧噪の中では得られない、特別な日常ですね」。
「山詩月」のネーミングをビジュアル化したロゴ入りのショップカードも作成
アルバイトと同時進行で手掛けたのは、かぎ針編みとプラカゴバッグ制作。「山詩月(やましづき)」という作家名で作品を作り、販売も始めました。作品を制作するのは仕事の後や休日。忙しい時間をやりくりしながら、両立させていったそう。
子どもや女性用の作品以外に、男性用のどんぐり帽子なども制作
作品は性別、年齢問わず、お客さんの要望に合わせて制作しています。先端をとがらせた「どんぐり帽子」は人気のアイテムです。帽子のほかショールやアクセサリーなど身に着けるものがほとんどだそう。季節に合わせて、糸の素材や太さを変えるなど細かな配慮も忘れません。
04| かぎ針編みやバッグ制作と共に小豆島の魅力を発信中
ビビッドな赤をテーマカラーにしたバッグは、カラーコーディネートして撮影
もともと手芸が好きで移住前から趣味で続けていたという田中さん。島に住むようになってから磨きがかかり、仕事へと発展しました。インスタグラムでは「かぎ針編み」とPPバンドを使用した「プラカゴバッグ」と2つを使い分け、どちらもスタイリングにこだわって撮影しています。
うれしいご縁があり、生まれ故郷である富山県の陶芸家のアトリエで企画展を開催
「生まれ育った富山と移り住んだ小豆島、私にとってはどちらも大切な場所。それぞれの場所に大切な人がいて、応援して支えてくれる。帰る場所があるからこそ日常を楽しみ、そしてがんばることができるんだと思います」。地元の富山で企画展を開催し、その醍醐味を改めて実感することができました。
富山での企画展では小豆島の名産品も一緒に展示販売
企画展では瀬戸内海に浮かぶ小豆島の名産品である、醤油やそうめん、オリーブを使った商品なども作品と一緒に販売。「温暖な気候と豊かな自然。そんな小豆島で暮らす島人の展示会がテーマなんです。足を運んでくれたお客様に素敵なご縁や出会いがありますように。いつもそう願っています」。
プラカゴバッグ販売専用のインスタでも、海や自然をバックに撮影することが多い
田中さんが制作しているプラカゴバッグは、島の暮らしの中で昔から使われてきた生活雑貨。軽くて丈夫、水洗いもOKなのが魅力です。バッグ作りはもちろん、アクセサリー作りと共通したコンセプトは、「日々の生活に寄り添って、少しだけ心を豊かにしてくれるものづくり」。忙しい日々の中でも丁寧に作り上げるのが基本です。
テーマカラーの「白」に合わせてコーディネート
「このバッグは、知り合いの作家さんが作ったもの。単色のバッグもかわいいですね。こんなふうに、作品を通して誰かとつながれるのも、手作りの醍醐味だと思います」。
島に住むようになり、作品作りも暮らしも「人との縁」が大切だと実感
一年限定の移住のつもりがいつの間にか8年も経ってしまったという田中さん。そんな経験から移住へのアドバイスをくれました。
「私の場合、移住したばかりの頃は、行ってみたい場所がたくさんあってあちこちに足を運んでいました。そこでたまたま声をかけてもらった食事会がきっかけで人とのつながりが広がっていったので、もし行ってみたい場所とか会ってみたい人がいたら、積極的に動いてみるのがいいのかな、って思います」。
※田中さんのインスタグラムはこちら!
https://www.instagram.com/yamashizuki/
https://www.instagram.com/yamashizuki.pp_bag/
05| まとめ
まずは旅行気分で訪れ、その地が気に入ったら移り住む。そんな移住なら気軽に試せそうですね。次回は町と人に魅せられて郡上に単独移住した女性を紹介します。
この記事を書いた人
鈴城久理子 ライター
雑貨紹介や料理、インテリアなど暮らし系の記事を中心に執筆することが多いライター。ただいまメダ活実践中。