その土地の文化や歴史に心惹かれて移り住む人たちを紹介する移住ストーリー。今回は、学生時代に郡上を訪れたことがきっかけで移住し、楽器を演奏することやお菓子づくりが趣味というAIRIさん。「この街の変化をいつまでも見ていきたい」と話すほど心惹かれた理由を語ってくれました。
ライター:鈴城久理子
CONTENTS
01| 学生時代に訪れた郡上が気に入り、移住を決心
風に揺れる柳や玉石が敷き詰められた道が風情を感じさせる「やなか水のこみち」
「清流と名水の城下町」と呼ばれる郡上市。岐阜県の中濃地域に位置し、日本三大清流の一つ「長良川」が南北に流れる、豊かな自然に囲まれた街です。人口38,446人(2023年12月現在)と多くはないものの、街の美しさや人の温かさに惹かれ、移住してくる人も少なくありません。
日本最古の木造再建城といわれる郡上八幡城は、郡上市のシンボル
郡上市を訪れたら誰もが足を運ぶ、といっても過言ではない郡上八幡城。戦国時代末期に建設され、幕末・明治維新の動乱により取り壊しとなったものの、昭和8年に木造の模擬天守が再建。日本最古の木造再建城としてこの地の歴史を伝えています。
400年以上も続けられている郡上おどりは、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている
一晩に1か所ずつ、7月中旬から9月上旬にかけて30夜以上にわたり開催されるという郡上おどり。そのクライマックスは夜が明けるまでおどり続けるお盆の4日間で、誰でも気軽に参加できるのが魅力です。この期間は地元の人はもちろんのこと、県外から郡上を訪れる観光客にとっても特別な夜が続くのです。
「郡上節ガールズバンド」で三味線を弾くAIRIさん
画像提供:松川哲也
郡上おどりが好きで、期間中は毎晩おどりに出るようなAIRIさんですが、1年前から三味線にも挑戦しているといいます。郡上市に移住してから知り合った女性6人で「郡上節ガールズバンド」を結成し、今では、暮らしの中での大切な時間の一つとなっています。初めて手にする三味線でしたが、地元の人たちに教えてもらい、少しずつ覚えていったそう。
02| ずっと住みたいと思っていたから、移住については悩まず
学生時代に初めて訪れてから約5年もの間、この郡上に通っていたそう
AIRIさんが初めて郡上を訪れたのは大学生のとき。地元名古屋の大学に通いながらもこのままでいいのかと悩んでいた頃、先輩からNPO法人が開催しているこどもキャンプに誘われたのがきっかけでした。「私はボランティアスタッフとして参加しました。初めての体験だったのですが、運営しているスタッフや大自然の中で楽しそうにしている子どもたちと遊んでみて、とても楽しかったんです」。
それから約5年、毎年のように子どもキャンプにボランティアとして参加。キャンプだけでなく郡上のさまざまな場所を訪れるようになり、この街に住みたいと思うようになりました。ずっと住みたいと考えていた場所だったから、移住について悩むことは一切なかったといいます。
03| 住む場所から仕事探しまでまわりの人々がサポート
郡上市で知り合った友人や地元の人は、AIRIさんにとって大切な宝物
画像提供:渡辺俊太
移住を決心したものの、仕事も家も決めないままスタート。「とりあえず郡上市に通っていた頃に知り合った友だちの家に住み込んで、1か月ほど生活しました。ありがたい巡り合わせがあり、引っ越しのあいさつにまわっているうちに、仕事も家も紹介していただけました。そうやってたまたま見つかった職と家ですが、移住してからずっと私の生活の中心になっています」。
イベント用のショップカードも作り、本格的に出店することに
移住後、子どもの頃から好きだったお菓子づくりを本格的に開始しました。「せっかく食べてもらうなら、身体にも環境にもよいものを」と考え、米粉など地元の素材を使ってお菓子をつくり、さまざまなイベントに出店。ショップ名は「coffee space おと.」。参加するたびに「もっといろんなお菓子を作りたい!」と意欲が増してくるのだとか。
ガールズバンドとしての練習は月に2回ほど。バンドメンバーの自宅で行っている
2歳からピアノを習い始め、エレクトーンのほか学生時代は吹奏楽部でサックスを吹いていたANRIさん。楽器が好き、そして演奏することが好きで、そこから三味線にたどり着きました。「教えてくれたのは地元でもう30年、40年と三味線を弾いている大先輩方。三味線を弾くことで関われるようになった人たちも多いです。そんなみなさんや、普段から応援してくださっている方々に認めていただけるような演奏をしたいですね」と大先輩への尊敬と憧れの言葉を口にします。
04| 郡上の町の変化をずっと見つめていきたい
「糸カフェ」で働く時間も、大切なひととき
画像提供:渡辺俊太
現在はカフェの店員として勤務。アルバイト先の「糸カフェ」は郡上市で知り合った友人の紹介なのだそう。「郡上の人はとても優しくて、困っているとみなさんすぐに助けてくれるんです。まわりの方々のおかげで、郡上の暮らしが成り立っていると感じています」。
演奏が始まると真剣な表情になるメンバーも、いつもは元気いっぱい
「郡上節ガールズバンド」は2022年9月に結成。6人のメンバーのうち移住者と地元出身者は半々。年齢も比較的近いため、バンド活動以外でも顔を合わせることが多いそう。いつもは賑やかでも、演奏が始まるとみな表情が引き締まります。「400年以上も続く郡上の伝統文化に気軽に触れさせてくれるのも、この街のふところの深さだと考えています。今まで関わることのなかったような人たちに、三味線を教わるだけでなく食事に誘っていただくなど、いろんな形で関われるようになったのは本当に幸せなことだと思います」
大自然の中で思い切り楽しめるようになったのも、移住したからこそ
学生時代にボランティアとして参加していた子どもキャンプ。今ではあまり参加できなくなってしまいましたが、常に気にかけているそう。このキャンプからすべてが始まったことから、このつながりも大切にしたいと話します。
米粉のシフォンケーキは人気商品のひとつ。盛りつけにも工夫を凝らしている
「coffee space おと.」の仕事は、いずれもっと広げていきたいという構想もあるといいます。そのエネルギーを与えてくれたのもこの街の人でした。「ここでは年齢とか関係なく、みんなやりたいことを実現させている人が多いんです。みなさん、きちんと自分を持っているというか、誰でも自分のやりたいことを追求できるし、その機会が持てる。この街の魅力の一つですね」。
すっかり街に溶け込み、日々暮らしを満喫
画像提供:渡辺俊太
実家にはときどき帰り、家族も郡上市へ遊びに来ることもあります。そんなとき家族には、「いつも楽しそうで安心する」といってもらえるそう。「都市と比べると人との距離感が近く、その人たちとの関わりのおかげで新しい世界を知れるので、毎日が新鮮で楽しいです」。
このようなイベントで出店はの出店は、地元の人との交流も楽しめる
画像提供:さき
念願だった街に住み、やりたいことを貫く。今のAIRIさんにとって郡上市はほかには代えられない場所。「今はほかの土地に住んでみたいという気が起きないんです。できればこの街の将来、変化を見届けていきたいから」。
そんなAIRIさんから、移住したいと思っている人たちに向けて、次のようなアドバイスをひとこと。
「人生は短いから、やりたい、住みたいと思ったらすぐに挑戦してみるのがいいと思います」。
※AIRIさんのインスタグラムはこちら!
https://www.instagram.com/coffee_space_oto/
https://www.instagram.com/__aileey/
05| まとめ
「いくつになってもその街を見つめていたい」。そんな地元に対する愛情をもてるのはとても幸せなことに違いありません。次回は、地域おこし協力隊員に採用されたことをきっかけに都内から宮城県仙台市にUターン移住した女性を紹介します。
この記事を書いた人
鈴城久理子 ライター
雑貨紹介や料理、インテリアなど暮らし系の記事を中心に執筆することが多いライター。ただいまメダ活実践中。