家族に変化があったことで移住を考えるようになる。八代さん夫妻はまさにそのパターンでした。「島で育むおいしいメロンを絶やしたくない」。そんな想いで今は亡き父のメロンハウスを受け継ぎ、大阪での会社員から一変、長崎県五島市でメロン農家として新しい人生をスタート。そこには、どんな物語があったのでしょう。
ライター:鈴城久理子
CONTENTS
01| 九州の最西端にある美しい島へ夫婦で移住
海水浴はもちろん、シーカヤックやダイビングなどアクティビティを求めて訪れる観光客も多い
九州の最西端、長崎県の西方海上約100㎞に位置し、大小152の島々からなる五島列島。八代夫妻が住む五島市はその最西部にあり、420.12平方kmに34,368人(令和6年2月末現在)が住んでいます。春夏秋冬、日本のいろいろな自然を感じることができるのが何よりの魅力です。
五島市は椿の自生地として有名。椿油を搾ったあとの実の搾りかすは、おいしいメロンを育む肥しとなるそう
山があって海が美しく、紅葉も楽しめて雪も積もる。四季折々の豊かな自然が堪能できるのが魅力
海と山に囲まれ、対馬暖流の影響で冬は暖かく、夏も比較的涼しい海洋性気候の五島市。交通の便もよく、空路と海路の両方を利用できるのが特徴です。「ここは食材がとてもおいしくて人が優しい。移住者も多く、移住コミュニティも活発です。空港も比較的近く、福岡まで飛行機なら40~45分で着く距離。ずっと島の中で過ごすのではなく、気軽に都会へ行って楽しめる環境も気に入っています」。
02| 父のメロンハウスを受け継ぎブランド化を目指す
海に囲まれた緑豊かな島の恵みを生かし、栽培方法を探求して誕生した「椿メロン」
この五島市に、生まれも育ちも大阪という八代夫妻が移り住んだのは、7年と数か月前。きっかけは、五島市に住む綾子さんのお父さんが病に倒れたことでした。お父さんはもともと五島市出身で、大阪からUターン移住後に農業をしながら直売所の運営をまかされていたそう。その知らせに二人の状況はあっという間に一転します。「父が急病だったので、勢いで移住したという感じでした」と、当時を振り返って綾子さんは語ります。
二人が受け継いだメロンハウスでは、椿メロンがすくすくと育っている
移り住んだ後はメロン農家へと転職し、二人で「やしろ農園」をスタート。「父がつくるメロンが大好きだったので、島で育むメロンを絶やしたくなかったんです。メロンハウスを受け継ぎ、島の自然が育んだ海水や、椿油を搾ったあとの実の搾りかす、ぼかし肥料(有機肥料に土やもみ殻などを混ぜて作る肥料)などを使用した、こだわりのメロンをつくろうと決心しました」。
お父さんがつくった野菜やメロンは島内の学校給食にも並び、子どもたちを喜ばせたという
移住して2年後、16年続いた父の直売所を閉店。「店じまいしたのは父が関わっていた一角だけなのですが、スタッフを見送って野菜もなく誰もいないお店を片付けていたら、長い年月を端々に感じるものを見つけました。父は生前、学校給食にも農作物を納めていて、子どもたちからの寄せ書きを贈られたことがあったんです。写真を撮っているうちにちょっと寂しくなりました。父もきっと応援してくれていると願いつつ、もう少し肩の力を抜いて、この場所で未来を切り拓いていこうと思います」。
じっくりと考える時間もなく移住したため、驚くことも多かったそう
思いがけない出来事で、余儀なく移住することになった八代夫妻。勢いで島に住む形になり、住み始めてから大阪の暮らしとの違いに驚くこともあったといいます。「最初は島ならではの風習にビックリすることもありました。でも、7年以上経った今ではすっかり慣れましたね」。また、会社員だった夫婦ともども農作業は初めての経験。綾子さんのお母さんや地元の農家の人に教えてもらい、少しずつ自分たちに合う栽培方法を模索していきました。
03| 地元の人々との交流も深まり島時間を満喫
慣れない島の風習や農作業にとまどう暮らしからスタートしたものの、今では充足した日々を送っている二人。移住コミュニティはもちろん、お客さんや生産者など地元の人々とのつながりも深くなっているといいます。さらには県内外のさまざまなプロジェクトなどにも参加し、五島市での取り組みをアピールする場面も増えてきました。
五島市にある五島の食材をふんだんに使用した飲食店の「木ノ口かたし」は、二人のおすすめのお店
市内にはおいしいお店も多く、時間があるときは足を運んでインスタグラムで紹介することも。「木ノ口かたし」は、お気に入りのお店のひとつ。「このお店は誰かのおうちかな? と思うほどアットホームな雰囲気なんです。料理もおいしくて大人気。いつもランチを食べて、平飼いの産みたて卵を買って、そのときの気分で肉まんやプリンなどをお土産に買って帰るのが定番になっています」。
04| 「椿メロン」と「椿やさい」を栽培、卸しや販売を行う
丹精込めて育てた椿メロンを手にする侑紀さんと綾子さん
現在は椿メロンの栽培・販売を行う「やしろ農園」と、椿やさいの栽培・販売を行う「いきいき五島」という二つのブランドで事業を展開。島内のホテルや島外のレストランに卸したり、ECショップ、イベントなどで販売したりしています。
インスタグラムでは“メロンピクルスキット”の残り液を利用した“ピクルスゆで卵”のつくり方なども指南
椿メロンを使用した“メロンアイス”。2種類の味が楽しめる
「やしろ農園」の看板商品といえば、やはりオリジナルブランドの椿メロン。そのほか、 “メロン3商品”という3点セットも人気なのだとか。これは、椿メロンの株を一株購入すると、メロンピクルスキット・椿メロン・メロンアイスが1箱ずつ3回に分けて届くユニークなコース商品。メロンピクルスキットには生育過程で間引いてしまう摘果(てきか)メロンが使われていて、自分でピクルスづくりを楽しめるのがポイントです。
出身地の大阪で開催した「椿やさいを食べる会from五島列島」の際の料理
一方「いきいき五島」では、五島市で獲れた新鮮な野菜をおいしく食べてもらうイベントなども開催。地元はもちろん大阪や福岡など県外でも行っており、レシピづくりをはじめ料理やチラシ作成、撮影などたくさんの人々の協力を得て開催しています。
「お野菜販売会in無印良品 天神大名」の店頭で、椿やさいのおいしさを宣伝
椿やさいの展示販売を開催している会場のなかでも、長いお付き合いなのが無印良品 天神大名。「もう5年のお付き合いで、コロナ前から販売会を開催させていただいています。いつもお声がけいただいて、スタッフの方々にもよくしていただき、今があるのもそのお陰だと思っています」と綾子さん。お土産つきのワークショップやトークショーなども行われています。
ECサイトで椿やさいも購入することができる
さまざまな事情により、移住前に熟考することが叶わなかった八代夫妻。そんな体験を通して、こんなアドバイスをくれました。
「五島市にも自治体からの引っ越し費用助成やリフォーム費用助成など移住サポートがあるようなのですが、実は全然知らなかったんです。こういったサポートなどの下調べは必須です! そして下見は必ず行きましょう。できれば違う季節に何度か足を運ぶと、さらにイメージがつかみやすくなると思います」。
※八代さんご夫妻(やしろ農園・メロン栽培)のインスタグラムと公式サイトはこちら!
https://www.instagram.com/yashiro_nouen/
https://yashironouen.com/
※「椿やさい」(いきいき五島・野菜栽培)のインスタグラムとECサイトはこちら!
https://www.instagram.com/iki_ikigoto/
http://ikiikigoto.com/
05| まとめ
亡き父の意思を受け継ぎ、自分たちらしく切り拓いていく。そんな八代夫妻の移住ストーリーは、人生の大切なものを教えてくれるようです。
この記事を書いた人
鈴城久理子 ライター
雑貨紹介や料理、インテリアなど暮らし系の記事を中心に執筆することが多いライター。ただいまメダ活実践中。