出会いはマレーシアの屋台。その後2年間一緒に世界旅行を楽しみ、オーストリアで結婚。帰国後に古民家を利用したビジネスをしたいと考え、夫婦で宮崎県日向市美々津(みみつ)町へ移住することに。今回紹介するのは、そんな古民家シェアハウス「kokage」と古民家食堂「ひなた屋」を兼業している金丸さん夫妻。奈緒さんは66か国、文武さんは88か国をバックパッカーで巡って得た経験を生かし、町おこしを模索しつつ日々奮闘しています。
ライター:鈴城久理子
01| 海外で結婚し、帰国と同時にビジネスを始める
古民家が建ち並ぶ、風情豊かな日向市美々津町
宮崎県日向と京阪神との経済や文化交流の拠点だった美々津町。町内には1855年に建てられた商家を復元した「旧廻船問屋、元河内屋」をはじめとする古い建物が点在。全国的にも珍しい、河口に面した港のある江戸時代の町並みをしのぶことができます。
6年前、海外から帰国すると同時に、ビジネスを始めるためにこの町へ移住した金丸夫妻。大阪生まれの奈緒さんはIターン、宮崎県生まれの文武さんはUターンという移住の形でした。
サーフィンなどマリンスポーツも盛んで、たくさんの観光客が訪れる
美々津町は、神武天皇が大和の国(奈良県)へ向かったときのお舟出の地としても有名
336.89平方kmに人口57,093人(2024年5月1日現在)を擁する日向市。美々津町はその南の日向灘に面した港町です。金丸さん夫妻が営む古民家シェアハウス「kokage」の入居者には、のんびりサーフィンを楽しむ人も多いそう。また、神武天皇のお舟出の地としても知られ、そんな歴史的なスポットを散策することもできます。
「kokage」の入居者と一緒に「立磐(たていわ)神社例大祭」に参加
「この町では一年を通してたくさんのイベントが行われています。航海の安全や豊漁を祈願するために神輿を担いで川を渡る『立磐神社例大祭』をはじめ、目の前の川で花火が上がる『耳川ふるさと花火大会』、神武天皇がお舟出した日を再現して、朝4時台から子どもたちが笹を持って各家を「起きよ、起きよ」と起こして周る『おきよ祭り』、お大師さまを祀り参拝者を接待する『お大師さん』など、盛りだくさんなんです」と文武さん。
古民家シェアハウスでは、設備関連以外はできるだけ自分たちでリノベート
移住後は、崩壊寸前の築150年を超える古民家を借りて、2018年11月に古民家食堂「ひなた屋」をオープン。料理が得意な奈緒さんの腕と、世界各地のおいしいものを食べ歩いてきた経験を生かしたかったのだそう。さらに、2020年7月には、老舗旅館を改修して古民家シェアハウス「kokage」を始めました。「ここにたくさんの入居者さんに住んでもらい、ひとりひとりに思い出を刻んでもらって、みんなの懐かしい場所になりますように」という想いを込めて、ひとつひとつ丁寧に手がけたと言います。
02| 心配ごとは「融資が下りるか」だった
西日が美しいこの部屋は、のちにコワーキングスペースに生まれ変わった
金丸夫妻が移住する際に悩んだのが、金銭面に関すること。ビジネスを始めるにあたり、融資を受けられるかどうかが不安だったとか。最終的には融資を受けられることになり、計画を遂行。また、自治体からの援助も受けたと言います。「私が県外からの移住者ということで、古民家を改修するための支援金10万円を自治体からいただきました」と奈緒さんが当時を振り返ります。
03| 移住を考えている人に通過点として使ってもらう空間に
ひたすら天井抜きの作業に打ち込む文武さん。横からかわいい助っ人が登場
古い木の部分を塗り直す作業は、奈緒さんの担当だった
シェアハウスを予定していた古民家は、老舗旅館だっただけあり、広さも躯体も内装も立派なもの。それを自分たちで改修するのですから、気の遠くなる作業もあったそう。「200坪の建物を塗り終わるまで、どれくらいかかるんだろう? とちょっと不安になりましたね。でも、少しずつ形になってくるのが本当に嬉しかったです」。
唯一の縁側つきの8畳間の部屋が、ほぼ完成
以前は巨大な厨房だったスペースをダイニングキッチンにリノベート
ようやく完成したダイニングキッチン。入居者はここで食事を楽しみます。「入居者さん同士が仲よく一緒にご飯を食べている姿を見ると、感慨深くなります。移住を考えているけれどまずはお試しで短期間暮らしてみたい人、都会と田舎の2拠点生活をしたい人など、移住を考えている人に通過点としてこのシェアハウスを使ってもらえたら嬉しいですね」と文武さんが語ります。
時間が許せば家族で近所に出かけることも。車を3分走らせれば、こんな美しい場所でピクニックを楽しめる
結婚して7年。結婚式を挙げた思い出深いオーストリアの旅を、双子の娘たちと共に満喫
「昨年の11月に、ドイツとオーストリア、そしてチェコに行ってきました。久しぶりのオーストリアでは、僕たちが結婚式をしたバッハウ地方のシュピッツにも行きました。7年経ってこうして4人で戻ってこられるなんて感慨深いです。ホイリゲ(ワイン酒場)で飲む白ワインは相変わらず最高でした」。
04| 古民家食堂をメインに、シェアハウスを営む
美々津町を選んだのは、古い空き家の再活用や町の人口増加も目的の一つだったと言う
「移住といっても、夫が美々津町出身者ということが大きく、地元の人がとても温かく迎えてくれました。ここは海も山も川も、すべての自然が身近にあって、今でも旅行先にいるような、ゆったりとした贅沢な時間を過ごすことができるんです」と奈緒さん。
みんなで飲み会。こんなふうに入居者同士で気軽にコミュニケーションを取れるのもシェアハウスならでは
恒例にしている「kokage懇親会」を、近所にあるカフェ「MIMISTAND」で開催
「おきよ祭り」が近づくと、竹切りの飾りが家々に飾られる。「kokage」でも入居者が飾りつけをお手伝い
「縁もゆかりもない場所へ移住するということはすごく勇気のいること。でも、一歩を踏み出さないことには環境を変えることはできないし、理想的な生活に近づくこともできないと思います。そんな人たちのために古民家シェアハウスをつくりました」。金丸夫妻のそんな想いが、美々津町の活性化にもひと役買っているようです。
すぐそばには海だけでなく、こんなきれいな川も。水遊びするにはぴったりの場所
それぞれ66か国、88か国を巡ったという旅のエキスパートともいえる二人から、移住を考えている人にこんなメッセージをもらいました。
「知らない土地に移住するのって、簡単なことではないと思います。でも、田舎の場合は特有の人間関係の近さもあり、そういう距離感が温かく感じたり、困ったときに助けてもらえる心地よさがあったりします。ぜひ一歩足を踏み出してみてくださいね」。
※金丸夫妻のインスタグラムと公式HPはこちら
https://www.instagram.com/kokage.mimitsu/
https://hinatayamimitsu.wixsite.com/kokage-mimitsu
05| まとめ
すでに地域になじんでいる人や、同じ境遇や全く違った環境の人と出会える場所を提供している二人。こんな施設を気軽に利用してみることが、もしかしたら移住への早道かもしれません。
この記事を書いた人
鈴城久理子 ライター
雑貨紹介や料理、インテリアなど暮らし系の記事を中心に執筆することが多いライター。ただいまメダ活実践中。