前編に続き、東京の都心から埼玉県入間郡越生町(いるまぐんおごせまち)に夫婦で移り住んだkumikoさんのストーリーを紹介します。後半では、セルフリフォームした平屋戸建ての暮らしと、都内の職場に週に2回、2時間ほどかけて通勤しているという仕事について語ってもらいました。
ライター:鈴城久理子
01| 築40年の平屋戸建てを夫婦でセルフリフォーム
購入時の状態。懐かしさを感じる木造家屋の造りをできるだけ生かして、住み継いでいきたいと考えたそう
kumikoさん夫婦が移住先の住まいとして選んだのは、空き家バンク制度を利用して出合った築40年の古い平屋。きちんと手入れがされていたため状態がよく、内見時に気に入ってすぐ購入を決心したそう。「想像していたより造りがしっかりしていて驚きました。この家は90代のおばあちゃんがお独りで住まれていたようです。丁寧に暮らしていたようで、これほど状態がいい物件もめずらしいと聞きました」。所々灰汁(あく)がにじみ出ているウグイス色の京壁は、当初は白の漆喰にすべて塗り替える予定ではいたものの、気に入ってしまって一部残したと言います。
元の家主が残していった食器棚。内見に来たときにひとめぼれし、そのまま受け継ぐことに
家の購入の決め手となったと言っても過言ではないのが、キッチンに置かれたこの古い食器棚。「おそらく昭和40年代後半から50年代のものだと思います。裏側に『長家具工芸』と印刷されたシールが貼ってありました。かつては家族の食器が並び、毎日忙しく戸が開け閉めされた時代があり、やがてその回数が減り、そして静かに時を止めていた食器棚。再び私たちが時を動かし始めました。おばあちゃんが喜んでくれているとよいのですが……」。
キッチン以外はすべて畳張りで、残念ながら畳が傷んでいたため、無垢板の床に張り替えた。初めての床張りに挑戦したのはご主人
洗った鍋やボウルを置けるよう、出窓の左側中段にステンレスの水切り棚を設置
床の一部の張り替えや漆喰壁、キッチン棚など可能な限りセルフリフォームしたものの、水まわりは業者に依頼。「キッチンシンク、洗面台、お風呂、トイレはさすがに業者さんにお願いしました。母親曰く『水まわりだけは新しいものにしなさい』。ひと目見て思わず『懐かしい!』と声を上げた玉石タイルが敷き詰められたお風呂や開き扉のホーロー製キッチンなど、現代にはない昭和時代の味わいがあって、このまま使いたいとも思ったのですが……」。
02| 好きなものだけを集めた心地よい空間に
吊り戸棚の扉を外し、オープン収納で統一。システムキッチンはタカラスタンダードのホーローのものをセレクト
photo:dozaki
時間に余裕ができたことで、コーヒーをハンドドリップで楽しむ心のゆとりも。サイフォンは20代の頃からの愛用品
photo:dozaki
キッチンには、都内で暮らしている頃から集めていた道具の数々を飾りながら収納。北欧のものや日本の古道具がミックスされているにもかかわらず、統一感があり、レトロなキッチンにしっくりとなじみます。
kumikoさんお気に入りの器。右から、あじさい柄の器は「五領窯」で焼かれたもの。中央3点は「芹ケ沢陶房」の石川真理さん作、左の長皿は「陶へんぼく」の戸田昌利さん作
photo:dozaki
埼玉県で最も多くの陶芸家が活動しているといわれる山里の越生町。あちこちに窯があり、毎年2月に行われる「越生梅林梅まつり」では、陶器市のイベントも開催されています。「越生には、とても素敵な陶芸家がいらっしゃるんですよ。あじさい柄の器はまだ使っていなくて、何を盛りつけようかと思案中です。(左奥の)石川真理さんの『なっとう鉢』は、片手にフィットして納豆がかき混ぜやすいんです。長皿は焼き魚を盛り付けています」。
ウグイス色の京壁を生かした寝室。カーテンはシーツをリメイクしたもの。縁側はちょっとした憩いのスペースとして利用
photo:dozaki
黒いタイルが気に入っているという玄関。南側にあるため、お手製カーテンを取り付けて光を和らげている
photo:dozaki
廊下の壁には、ボタニカルアートやユトリロの絵、タイルなどをディスプレイ
photo:dozaki
家のあちこちに並ぶ古道具や雑貨、家具。古い平屋だからこそ調和がとれているkumikoさん宅。購入先は、骨董市や古道具店、ネットオークションなど実にさまざま。「欲しい物はとにかくいろんなところで探します。掘り出し物が多いのは、東松山市で開催される『Antiques Inn』というイベント。古材や古着なども見つかるので、二人でよく足を運んでいます」。
もとは日本庭園風だった庭を造り変え。庭造りなど庭仕事の担当は主にご主人
photo:dozaki
まだ途中だという庭のリフォーム。椿の木を残してほかは業者に伐採してもらい、コーナーごとに花壇を造っています。一部の花壇に使用しているのは柔らかくて加工しやすい大谷石。「庭を掘ったら大谷石がゴロゴロ出てきたので利用してみました。以前住んでいたテラスハウスにも小さな庭があったのですが、時間がなくてあまり手がかけられなかったんです。今は少しずつ庭造りを楽しんでいます」とご主人。
03| 仕事を1/3に減らし、週に2回、2時間かけて都内へ通勤
8畳の和室を仕事部屋にDIY。机を2台向かい合わせに並べ、それぞれパソコンなどを置いている
photo:dozaki
現在はフリーランスでラジオ番組の制作をしているkumikoさん。越生町に移住してからは仕事量を1/3に減らしたそう。「都内の職場には週に2回、2時間かけて通勤し、残りの日はこの部屋で作業をしています。ゆくゆくはこの仕事から離れ、都内に通わずに済む環境にしたいですね」。
仕事部屋の一角はミシンコーナー。ミシン台は地元の「西川材」を使って手作りしたもの。カーテンなどの縫物をするときはここで作業
photo:dozaki
反対側はファッションが大好きなご主人のコーナー。探して見つけた古い建具も部屋のアクセント
photo:dozaki
8畳間を机で仕切った空間は、半分はkumikoさん、半分はご主人のコーナーとして活用。ご主人側には洋服やファッショングッズなどがずらり。自身のインスタグラムでは普段着のコーディネートを紹介しているほど、ファッションが好きなのだそう。
移住したことで、大好きなコーヒーをゆっくり楽しむ時間ができ、夫婦での会話も増えた
photo:dozaki
都会の喧騒から離れつつ、これまでの仕事を続けているという経験から、こんなアドバイスをもらいました。
「これまでの生活基盤を180℃変えなくとも、今までの仕事を続けながら、生活環境を変える移住という選択肢もあります。例えば、実家の近くや生まれ育った土地の近くへの移住は、縁もゆかりもない土地に移住するより、精神的な安心感があるかもしれません」。
※kumikoさんとご主人のインスタグラムはこちら
https://www.instagram.com/kumiko_ogosegurashi/
https://www.instagram.com/ohsugikane/
04| まとめ
よく知っている土地に移り住むことで、精神的にも無理のない暮らしができる。そんな移住なら、迷いも少なくなるかもしれませんね。
この記事を書いた人
鈴城久理子 ライター
雑貨紹介や料理、インテリアなど暮らし系の記事を中心に執筆することが多いライター。ただいまメダ活実践中。