観光で訪れた町に魅了されて移住を決心する。今回紹介するのは、そんな経験を持つかとうさん一家。都心にほど近い神奈川県川崎市から新潟県十日町市の20世帯しか住んでいない小さな集落に移り住み、都会では味わえなかったのびのびとした暮らしを満喫しています。
ライター:鈴城久理子
01| 雪景色と米や水、空気のおいしさに魅了される
雪が積もると道も家も埋もれてしまい、真っ白な世界に変身。愛犬のラブラドール・レトリーバーは大喜び
かとうさん一家が住む十日町市は、毎年12~3月の降雪期になると数メートルの雪が降ることもある豪雪地帯。3年前の冬、家族でここへ雪遊びに訪れ、雪景色の美しさ、そして米や水、空気のおいしさに感動し、すぐ移住を決めたのだと言います。「雪が降ると景色は水墨画の世界に早変わりし、音も雪に吸収されて無音になります。その中で息をするととても気持ちいいんですよ。雪がたくさん積もるので、家のまわりではスキーやソリをし放題。大型犬をのびのびと遊ばせることもできて、まさに理想的なところです」。
十日町市は日本有数の米どころ。中でも有名なのが、大自然に育まれた「魚沼産コシヒカリ」
長野県との県境にある天水山(あまみずやま)の北側にはブナの原生林が広がる。「日本の自然100選」にも選ばれているほど
新潟県南部にあり、長野県との県境に位置する新潟県十日町市。日本一の長さを誇る信濃川が南北に流れています。590.39平方㎞の広さに47,126人(令和6年12月31日現在)を擁し、上越新幹線を使えば東京から約2時間半というロケーションのよさも魅力。
「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の作品の一つ、「まつだい雪国農耕文化村センター『農舞台』」。屋内作品は通年公開されている
自然の美しさのほかにも十日町市の魅力はたくさん。一年を通して数多くのイベントが行われています。かとうさんのおすすめは2月に行われる「十日町雪まつり」と5月に開催される絹織物の町ならではの「十日町きものまつり」。特筆すべきなのが、新潟県十日町市および津南町で開催される世界最大規模の国際芸術祭「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」。国内外のアーティストたちの作品が展示され、世界中から人が訪れます。
地元のイベントやマルシェで草木染などのハンドメイド品を展示販売している
現在は週2回の薬剤師の仕事をこなしつつ、ハンドメイド品を制作して販売。並ぶのは草木染の洋服やわら細工の雑貨、自家野菜を使ったスイーツやパンなど実にさまざま。身近で採れる素材を使ったものづくりが、ライフワークになっています。
02| 集落の人々にうまくなじめるか一抹の不安も
気に入った古民家を購入してリフォーム。網戸がすぐ外れてしまうという小さな欠点も愛すべきところ
移住を決心した後、早々に家探しをスタート。新しい住まいに選んだのは広い畑つきの古民家でした。十日町市の移住補助金制度とリフォーム補助金制度を利用して、移住費用をコストダウン。ひと目ぼれした町だったこともあり、移住についての悩みは特になかったものの、「集落の人たちになじめるだろうか?」という一抹の不安があったと言います。
03| 日々、生きている実感と幸福感を味わう
毎年恒例になっている、地元のおじいさんとの籾殻くん炭(もみがらくんたん)づくり。くん炭を土に混ぜると農作物がよく育つのだとか
ほんの少しだけ生じた不安も、生活してみるとあっという間に解消。「私たちが住んでいるのは十日町市の山中にある小さな集落で、住んでいるのがたった20世帯というところ。村の人たちはとても親切で、困ったときに何でも相談できるいい距離間の関係が築けています。唯一困ったことと言えば、飲み会がやたら多いことでしょうか(笑)」。
子どもたちが通う小学校での田植えの様子。全校生徒11人と地域の人々と力を合わせることで、地域の活性化にもつながっている
さらにもう一つ、この町を選んだ理由は、子どもの教育制度に共感を覚えたことでした。「全校生徒が11人という、ゆとりある少人数制の学校に魅力を感じました。ユニークなのは、授業の一環として田植えがあること。子どもが米をつくってそのお米を小学校で販売するのですが、田植えをするときには地域の人が手伝いに来てくれます。ほかにも、郷土料理のちまきを近所の名人のおばあちゃんが教えに来てくれることもあるんです」。
移住2年目には初の米づくりを体験。自分たちで育てたお米は、言い表せないほどのおいしさ
夏にはポップコーン用のとうもろこしを収穫。通常食べるとうもろこしとは、もともと種が違うことを知ったそう
移住後は広い畑を自ら耕して自給自足を楽しむ日々。一年前からは米づくりにも挑戦。最初はわからないことだらけだったものの、地元の人々に教えてもらい何とか収穫までたどりつきました。「自分たちで育てたお米は最高においしいです。初めて収穫したお米を食べたとき、3年前のあの感動が蘇りました。家族でごはんを食べながら、『ここは米も空気も水もおいしいね。こっちに住んじゃう?』と移住を即決したんです。お米だけでなく、枝豆やとうもろこしなどの野菜もおいしいですね」。
再生可能エネルギーの活用を促している十日町市。天気がいい日は、太陽光でパンやくるみを焼くなど、ソーラークッキングに挑戦
この日は早生真黒茄子(わせしんくろなす)や神楽南蛮(かぐらなんばん)、香芯五角(こうしんごかく)オクラなど、夏野菜をたっぷりと収穫
「ここでは手軽に自分たちの畑や田んぼを持つことができて、新鮮でおいしいものが好きなだけ食べられるという幸せがあります。都会での暮らしと比べるとやるべきことは多いのですが、生きている実感がありますね。仕事でガツガツ稼がなくても、子どもたちとのんびり楽しく暮らしていける。家族の会話はテレビの話題やスマホから得る情報交換などではなく、自然が相手の話題が多くて毎日が新鮮です」。
04| 手づくり品の販売やイベントなどに邁進
わらでつくった鍋敷きや草木染めした鍋つかみなどのキッチン雑貨。地元のイベントで展示販売
自宅で草木染めのワークショップも開催。この日の材料は庭で採れたセイタカアワダチソウ
現在は薬剤師の仕事のかたわら、ハンドメイド品の制作や販売を行っています。「田んぼや畑の作業を自分たちでやることで、草木を身近に感じるようになりました。せっかくなので、自然の素材を利用したものづくりを始め、ワークショップも開催したりしています」。
イベントのカフェ用にエプロンを仕立てて草木染めしたそう。エプロンを4色作ったので、スタッフと一緒にかとうさん(右端)も入って記念撮影
十日町市中心市街地商店街で毎月10日に行われている「とおか市」。子どもたちも自分で育てたお米を袋詰めから販売まで参加
自家製の野菜を袋詰めして小学校近くの集会所で販売。小学生が丹精込めて育てた枝豆などを売ることも
薬剤師の仕事にものづくり、イベントへの参加。さらに子育てと家事、農作業……。休む暇なく動いているかとうさんのモットーは、日々を楽しむこと。そんな体験から、こんなメッセージをもらいました。
「移住となると、引っ越しや仕事、家族のことなど悩みがつきませんが、実際に行動を起こしてみると思うよりたいしたことはありません。自分はどんな生活がしたいのかという問いの答えを見つけられず、ぼんやりした気持ちだったとしても、それで終わりにせず小さな行動を起こしてみることがとても大切だと思います」。
大型犬をのびのびと育てられるのも、田舎ならではのゆったりした環境だからこそ
最後にもう一つ、移住するときの心構えを教えてもらいました。
「私の場合は川崎市に住んでいたときに購入した自家用車一台で引っ越しをしました。引っ越し費用をゼロにするためです。車に積み込めるくらいものが少ないからこそできたんだと思います。ものを持ちすぎないこと、お気に入りのものだけで身軽に生きることも、移住をしやすくする秘訣かもしれません」。
※かとうさんのインスタグラムはこちら!
https://www.instagram.com/10ranchan10/
05| まとめ
「ものを持ち過ぎず、身軽にしておくことが移住をしやすくする」。こんなミニマリスト的な考え方も参考にしたいものですね。
この記事を書いた人
鈴城久理子 ライター
雑貨紹介や料理、インテリアなど暮らし系の記事を中心に執筆することが多いライター。ただいまメダ活実践中。