都内に住んでいた頃から、休日は自然豊かな場所でキャンプを楽しむのが日課だった二人
大学で知り合って結婚、30歳を目前に「田舎暮らし」を決意した青木夫婦。共通の趣味だったキャンプを仕事にすべく、キャンプ事業にふさわしい物件を移住先で見つけるため、「2段階移住」を選択。まずは東京都練馬区から埼玉県川越市に一時的に引っ越して、その後埼玉県比企郡ときがわ町へと移り住みました。そんなユニークな移住ストーリーを紹介します。
ライター:鈴城久理子
CONTENTS
01| 「自然の中で遊ぶように暮らす」を目標に住み家を探す
川遊びが楽しめる大人気のスポット「三波渓谷(さんばけいこく)」。渓流と岩肌につくり出されたダイナミックな景勝地
春を告げる梅や桜の名所が点在しているのも、この町の魅力の一つ
池袋駅から電車で約1時間半。埼玉県の西部に位置し、その中心を町名の由来になった都幾川(ときがわ)が流れる埼玉県比企郡(ひきぐん)ときがわ町。55.90平方㎞に10,220人(令和7年1月1日現在)が住む水と緑に囲まれた自然豊かな町に、青木夫妻が住み始めてから6年が経ちます。美しい里山の風景が残されていること、そして移住初心者の自分たちを受け入れてくれる人々のあたたかさが、移住の決め手だったと言います。
ときがわ町はトレッキングが盛ん。堂山、雷電山 (らいでんやま)、弓立山(ゆみたてやま)など1時間ほどで登れる山がいくつもある
都幾川では、6月頃に野生のホタルを観察することができる
撮影:猪俣慎吾
豊かな山々と美しい清流に囲まれたのどかな原風景。いつかこんな田舎で暮らしたいと考え、それを決意したのは二人が30歳を目前にしたときでした。「ある日キャンプで焚き火を囲みながら、二人の将来について話し合うことがあったんです。一度しかない人生を後悔しないよう『田舎暮らし』を今やってみようと決意しました」と江梨子さんは回想します。その背景には、江梨子さんの両親が転勤族のために故郷と呼べる場所がなく、地域を盛り上げているUターン者や移住した若者に昔から憧れがあったこと、また、都内で満員電車に乗る生活に嫌気がさし、自然のなかでキャンプするのが生きがいになっていたことがありました。
目標を立てると同時に、「野あそび夫婦」というユニット名を決め、最初の施設に「NONIWA(のにわ)」と名付けた
その後、今後の目標を「自然のなかで遊ぶように暮らす」に定め、達也さんの職場がある埼玉県川越市に通える範囲で自然が豊かな場所を探し、ときがわ町を発見。何度も通ううち、美しい里山の風景が残されていること、のどかな雰囲気の山々と清流、そしてあたたかい人々に惚れ込み、移住を決意しました。そして夫婦で「遊ぶように暮らす」ために自営業をやろうと決心し、キャンプを始めたい人向けの施設「キャンプ民泊NONIWA」をスタート。さらには「暮らしとアウトドアの店 GRID」をオープンしました。
02| キャンプ事業に合う物件を探すため2段階で移住
「田舎に移住し、キャンプを仕事にする」⠀という目標を実現するために、家具を始末してアウトドア仕様にして生活
ときがわ町に移住すると決心した後、すぐに移住できるよう家の中をキャンプ仕様に模様替え。家具やテレビ、炊飯器を手放した暮らしを始めました。ところが思いがけない事態が発生。キャンプができる民泊施設に合う物件が見つからず、1年半ほど身動きがとれない状態に。そこで考えたのが、「2段階移住」でした。
「あまりに物件が見つからないため、まずは当時住んでいた東京都練馬区とときがわ町の中間地点にある川越市に引っ越して、毎週のようにときがわ町に通いました。地元の起業支援塾に参加して知り合いを増やしたり、地元のイベントでも物件情報があれば教えてもらえるよう名刺を配ったり……。でも、結局はインターネットで根気強く検索し、ようやく希望の賃貸物件に出あうことができました。物件探しは難航したものの、そのおかげで沢山の方々と知り合えた状態で移住できたので、その後はとてもスムーズに暮らすことができましたね」。
03| 民泊施設と自宅をコツコツとDIYして完成させる
仲間に手伝ってもらい、床を塗ったり、棚を作ったりなど民泊施設の一部を自分たちで改装
壁には主に初心者向けのキャンプギアを展示。ゲストと相談しながら道具をセレクトできる仕組み
施設内に設けたテントサイト。6月になるとホタルが飛んでいるのを見ることができる
ようやく見つけた物件は賃貸の古民家。「2段階移住」で県内からの移住となったため、残念ながら自治体の支援は受けられなかったそうですが、思い描いていた物件に大満足。「もともとあった不用品を整理してきれいにし、仲間に手伝ってもらって一部改装をしました。室内は古民家風で隠れ部屋もあるなど、とてもユニークな内装に仕上げました。古民家とキャンプギアは意外とマッチして、落ち着く空間になりました」と達也さんが教えてくれます。
以前はお世話になっている地元の建設会社から分けてもらった廃材の薪を利用していたことも
自宅のキッチン棚には、民泊施設で使うレンタル品も並べている
「移住というと、なかなか地域に溶け込めなかったり、田舎特有のしきたりがあったり……。最初はそんなむずかしいイメージもありました。でも、ときがわ町は約20年前に合併して生まれた比較的新しい町だそうで、そのようなハードルはほとんどなかったように感じます。新しいことを始める人や、移住者にとても優しい町ですね」。
04| キャンパー向け施設とアウトドアショップを経営
「NONIWA」のロゴを入れたTシャツやステッカーなどのオリジナルグッズを制作し、ネット販売を行っている
ファミリー、ソロ、ニーズに合わせて安心して始められるキャンプの設営方法などを指導
夫婦で「遊ぶように暮らす」ために自営業をしたい、ということだけは決めていたものの、具体的な仕事内容は移住を決めてから考えたそう。テレビの制作会社でディレクターとして勤めていた江梨子さんは移住前に退職し、フリーディレクターに。民泊施設が軌道に乗ってきた一年後には達也さんが退職。都内からのアクセスのよさ、自分たちが自然のなかでリフレッシュすることで救われたこれまでの経験を、「キャンプ民泊NONIWA」にしっかりと生かしました。
「アウトドアバーナーで山ごはんにチャレンジ」というイベントを開催。手始めは地元のみかん農家「大附園」にて収穫体験
みかんを収穫した後は、地元に標高427mの弓立山へプチ登山。山頂に着くと、カレーパエリアや柑橘リゾットづくりを楽しむという盛りだくさんのイベントだった
「キャンプ民泊 NONIWA」で行うバーベキューの食材は、地元の有機農家が育てた夏野菜や直売所で購入した旬の果物などが登場
宿泊しながらキャンプ講習やさまざまなイベントを楽しめる「キャンプ民泊 NONIWA」。周辺には温泉施設もあるので、県内はもちろん、県外からもお客さんが絶えません。とはいえ移住してから数年間は、閑散期の冬に江梨子さんが都内に働きに出ることもありました。万が一この仕事がうまくいかなかったら、都内に出稼ぎに行けばいいという覚悟があったそう。
地元の中学校が校外学習に利用することも。テント設営や火おこし、野外調理に挑戦
毎年、都内の代々木公園で開催される「もしもFES渋谷」に参加。アウトドア体験の「ハピキャン」エリアで、車中泊と車上泊の展示と体験を担当
さらに2年前、「暮らしとアウトドアの店 GRID」をオープン。移住仲間はもちろん地元の人々との交流が増えたこともあり、チームをつくって「ときがわアウトドアフェス」というイベントを立ち上げました。「想いを共有し、暮らしと仕事を一緒に楽しめる友人がたくさんできたことが、私たち夫婦の財産です」。
昨年の年末に隠岐島に旅行し、海士町(あまちょう)の暮らしや島の自然に心奪われ、いつか島暮らしができたらいいなと考えているとか
最後に、青木夫婦から移住に関するこんなアドバイスをもらいました。
「『移住』というと人生の一大決心のような仰々しいものに感じますが、自分たちの手の届く無理のない範囲で始めて、ダメだと思ったら違う道を行けばいいという「無理をしない移住」がおすすめです。気になる場所を見つけたら、とりあえず通ってたくさん知り合いをつくってみると、その町が少しずつ色づくように見えてきます。そんな大好きな町を作って、自分たちにぴったりの移住先を見つけてみてください」。
※青木夫婦のインスタグラムはこちら
https://www.instagram.com/noasobi_fufu/
※キャンプ民泊NONIWAのホームページとインスタグラムはこちら
https://noniwa.jp/
https://www.instagram.com/noniwa_campminpaku/
05| まとめ
気に入った物件を見つけるための「2段階移住」。あせらず無理せず進めていくことが、移住を成功させるカギかもしれません。
この記事を書いた人
鈴城久理子 ライター
雑貨紹介や料理、インテリアなど暮らし系の記事を中心に執筆することが多いライター。ただいまメダ活実践中。