いま注目の教育移住とは?
自然豊かな地域で子どもに伸びやかな教育環境を与えたい。そんな願いから、都市部から地方へ「教育移住」を選ぶ家庭が増えています。とはいえ、実際に移住を決断するには、教育環境だけでなく生活の利便性や仕事・住宅・支援制度など、幅広い視点での検討が欠かせません。この記事では、教育移住のメリットとデメリット、そして実際に移住先として注目される自治体の教育施策や支援制度を具体的に紹介していきます。
01| 教育移住とは? 基本知識といま注目される理由
教育移住の定義と目的
「教育移住」とは、子どもによりよい教育環境を求めて、都市部から地方へと暮らしの拠点を移すことを指します。進学や受験といった“学歴”だけでなく、自然体験や地域とのつながりといった“人間性”を重視する考え方がベースにあります。
教育移住は子どもだけでなく、家族全体のライフスタイルを見直すきっかけにもなります。自然豊かな土地でのびのびと暮らしながら、自分らしい働き方や子育ての形を模索する──そんな価値観の広がりが、教育移住という選択肢を後押ししています。
教育移住が注目される社会背景と環境の変化
教育移住が注目を集める背景には、社会や教育環境の大きな変化があります。特にコロナ禍以降、リモートワークの普及により「どこに住むか」という制約が薄れたことは、教育移住を後押しする大きな要因となりました。
また、都市部の過密な教育環境に対する不安や、自然体験の機会の減少、子どもの自己肯定感の低下など、現代の教育課題も教育移住への関心を高める要因です。地方では少人数教育や地域ぐるみの支援体制など、子ども一人ひとりに寄り添った教育が可能な環境も整いつつあります。社会全体で「教育のあり方」を見つめ直す中で、教育移住は新たな選択肢として、多くの家族に受け入れられ始めています。
02| 教育移住のメリットとデメリット
子どもの未来を見据えた教育移住。その魅力とともに、気になる課題についても整理してみましょう。
メリット
教育移住の大きな魅力のひとつが、少人数制の学級によるきめ細やかな指導です。教師と生徒の距離が近く、一人ひとりの個性やペースに寄り添った教育が受けられる点は、都市部にはないメリットといえるでしょう。また、自然に囲まれた環境では、野外活動や農業体験など、五感を使った豊かな体験が日常的に可能です。こうした自然体験は、子どもの好奇心や自主性を育むうえで大きな力になります。さらに、地域全体で子どもを見守る風土が根づいている場所も多く、保護者にとっては心強い支えとなります。学校・家庭・地域が一体となった子育て環境は、安心感にもつながります。
最近では、地方自治体を中心にICT教育に力を入れている地域も増えており、地方でも先進的な学びが実現可能となっています。教育面でも生活面でも、地方ならではの充実した子育てができる環境が整いつつあります。
デメリット
一方で、教育移住には慎重な検討が必要な側面もあります。もっとも大きな課題のひとつは、親の仕事や生活環境の変化です。移住によって通勤スタイルや働き方を変えざるを得ない場合も多く、経済的・精神的な負担につながることがあります。また、子どもにとっては、転校による環境の変化や、新しい友だちとの関係づくりがストレスになることもあります。特に思春期のタイミングでは、本人の気持ちに丁寧に寄り添うことが大切です。
さらに、地域によっては住民同士のつながりが強く、新たに移住してきた家庭がコミュニティに溶け込むまでに時間がかかる場合もあります。子育て支援や教育体制の充実だけでなく、地域性や風土にも目を向けながら、自分たちに合った場所を選ぶことが重要です。
03| 教育移住におすすめの地域13選
子どもの学びを豊かにし、家族の暮らしを充実させるための移住先はさまざまです。ここでは、教育環境や支援制度が整った全国のおすすめ地域13選をご紹介します。
安平町(北海道)
菜の花畑とトラクター遊覧車
新千歳空港まで車で約20分、札幌へは車で約70分(JRで約60分)と交通の便に優れた北海道安平町(あびらちょう)。町内を高速道路とJR線が通っており、道内外への移動もスムーズ。また、北海道の中では比較的温暖で雪も少なく、冬でも暮らしやすい環境なのも魅力です。
日本ユニセフから「子どもにやさしいまちづくり事業」の日本初の実践自治体として承認されており、子どもの権利を尊重した教育環境が整っています。独自の「あびら教育プラン」では、4つの事業を通じて、幼少期から大人まで一貫して子どもの好奇心や感性を育み、その遊びや学びを社会と結びつける支援を行っています。
移住支援制度も充実しており、住宅建設・転入・子育ての各助成金(合計最大50万円相当の町内ポイント)が利用可能です。さらに、出生祝金・結婚祝金、妊娠・出産時の交付金、子ども医療費や保育料の助成など、子育て世代にうれしい制度も整っています。
生活面では、自然豊かな環境とともにスーパーや医療機関、公共施設が整い、都市的利便性と地方の暮らしやすさを両立できる町です。
八戸市(青森県)
ウミネコ繁殖地として知られる蕪嶋神社
青森県八戸市は、東北新幹線八戸駅から東京まで約3時間半でアクセスが可能。八戸自動車道など高速道路も整備されており、県内外への移動が便利です。また、太平洋側に位置するため、内陸部より雪が少なく、冬でも比較的過ごしやすい気候です。市内にはスーパーや医療機関、公共施設も揃い、生活の利便性も高い地域です。
八戸市では、子どもたちの国際理解教育を推進しています。具体的には、外国語指導助手(ALT)を小中学校に配置し、英語教育の充実を図っています。また、青少年(中学生)の海外派遣交流事業も実施されており、異文化理解や国際感覚を養う機会が提供されています。さらに、小学生には読書の習慣を促進するため、1人あたり2,000円分の「マイブッククーポン」が配布され、図書購入に利用できます。
移住支援制度は、県外からの移住者を対象に、引越し費用や住宅賃貸費用を補助する「結婚新生活支援事業」があり、夫婦ともに29歳以下の世帯には最大60万円の補助が受けられます。加えて、青森県全体では東京23区からの移住者に対し、単身で最大60万円、世帯で最大100万円の移住支援金が支給され、18歳未満の子どもを帯同する場合は1人につき最大100万円が加算される制度も利用できます。
つくば市(茨城県)
つくば中央公園
茨城県つくば市は、筑波大学やJAXA(宇宙航空研究開発機構)筑波宇宙センターをはじめとする研究機関や学術施設が集まる学園都市で、最先端の教育・研究環境が整っています。つくばエクスプレスの開通以来、通勤や通学、生活面での利便性が大きく向上し、秋葉原駅まで直通電車で約45分。さらに将来的には東京駅への直通運転も計画されており、首都圏との行き来が一層スムーズになります。
市内には4つの公立小中一貫校があり、「4C学習(協働力・表現力・思考判断力・知識理解力)」を重視しています。さらに21世紀型スキルの習得と社会力を高める「7C学習」を推進し、協働力や創造力、プログラミング的思考など、未来を切り開く力を育成しています。こうした学びを支えるために、ICT活用教育にも早くから取り組んでおり、教育クラウド「つくばチャレンジングスタディ」を導入。7万問以上の教材を収録し、個々の学習進度に合わせた指導を提供。学年や教科を超えた自宅学習や個別指導が可能です。放課後や休校時の学習支援、特別支援教育、不登校支援にも活用され、子どもたち一人ひとりの学びを支えています。また、研究機関が身近にある環境は子どもたちの興味や学びを深めるきっかけとなり、地域全体で教育の質向上に取り組んでいます。その結果、つくば市は2025年1月時点で人口増加率1.47%と全国1位 を記録し、子育て世代を中心に首都圏からの移住が進んでいます。
こうした教育環境の充実に加え、東京圏からの移住者を対象に「つくば市わくわく茨城生活実現事業」を実施しています。条件を満たし就業・起業した場合、世帯で100万円(18歳未満の子ども1人につき30万円加算)、単身で60万円の支援金が交付されます。
境町(茨城県)
道の駅さかい
茨城県西部、千葉県と埼玉県の県境に位置する境町は、圏央道の境古河ICを使えば東京駅や成田空港まで約70分、高速バス(王子駅経由)では約95分でアクセスが可能です。人口約24,000人の小さな町ながら、全国に先駆けて自動運転バスが無料で運行されるなど、先進的な取り組みが行われています。
近年、英語教育に力を入れ、教育移住先としても注目を集めています。平成30年度から始まった「スーパーグローバルスクール(SGS)事業」では、小学校1年生から中学校までの9年間を通じて、日常的に英語に触れる環境を提供。特に、町内のすべての小中学校に平均3人のALT(外国語指導助手)を配置し、フィリピンから招聘した講師陣が担任と連携して授業を行い、実践的な英語力の育成が進められています。また、町が主催する少人数制のオンライン英会話教室やサマースクール、姉妹都市であるハワイ・ホノルル市への中学生派遣なども実施し、国際的な視野を広げる機会が提供されています。
アーバンスポーツにも力を入れ、自転車のBMXやホッケー、サーフィンの競技施設を整備し、国際大会を目指す子どもたちとともにスポーツ移住も推進しています。
移住・定住促進の取り組みとしては、PFI(Private Finance Initiative)を活用した地域優良賃貸住宅整備事業や定住促進戸建住宅事業を実施しています。子育て・新婚世帯を対象に、25年間住み続けることで土地と住宅が無償譲渡される制度が導入されています。
加えて、東京23区からの転入者に世帯で最大100万円(子ども1人につき追加100万円)、単身者で60万円の支援金を提供する「境町わくわく茨城生活実現事業」を実施。また、町民税の一部相当額を交付する「移住促進奨励金」や、50万円が支払われる住宅取得者向けの「子育て世帯等定住促進奨励金」など、多彩な支援策が用意されています。
甲府市(山梨県)
甲府市の武田神社
甲府市は、甲府盆地の中央に位置し、周囲を南アルプスや八ヶ岳、霊峰富士といった山々に囲まれた自然豊かな地域です。東京からは中央自動車道を利用し、車で約1時間30分の距離、またJR中央本線の甲府駅があり、東京方面への鉄道アクセスも便利です。
乳幼児と保護者が遊びや交流を通じて学べる場「やまなし幼児教育センター」を設置。幼児教育の質の向上を図りながら、乳幼児の健やかな成長を支援しています。また、探究型学習をベースにした教科融合型を実践する国際バカロレア認定を受けた国際教育を実践する幼稚園・小学校もあり、早期からグローバルな視野を育む環境が整っています。
オンラインでの移住相談のほか、東京圏からの移住者に、世帯で最大100万円(子ども1人につき100万円加算)、単身で60万円を交付する移住支援金制度を実施。さらに結婚新生活支援や子育て世帯向け住宅取得支援など、多彩な支援策で安心の移住を後押ししています。
伊那市(長野県)
天竜川
長野県南部、“伊那谷”と呼ばれる地域に位置する伊那市は、3,000m級のアルプスの山々に囲まれ、市の中央には一級河川・天竜川が流れる自然豊かなまちです。中央自動車道を利用すると東京方面へは約2時間45分、名古屋方面へは約2時間程度でアクセスできます。
教育移住の選択肢として特に注目されているのが先進的なICT教育と自然体験を組み合わせた学びの環境です。早くからiPadなどのタブレット導入やWi-Fi整備を進め、文部科学省のGIGAスクール構想により、2020年度には小中学校で1人1台端末を実現。タブレットを活用しながら、自然の中での活動を取り入れた総合学習にも取り組んでおり、学びの可能性を広げています。特に伊那市立伊那小学校では60年以上「探究型教育」を実践し、通知表やチャイムを設けず、動物飼育や木材活用などを通じて子ども主体の学びを育んでいます。さらに、不登校や生きづらさを抱える児童・生徒に対しては、認定NPO法人フリーキッズ・ヴィレッジが自給自足的な寄宿共同生活の場を提供し、農作業や自然環境体験を通じて自立を支援しています。
移住支援策としては、伊那市での暮らしを実際に体験できる「田舎暮らしモデルハウス」(3泊4日)と「伊那市移住体験住宅」(29泊30日)を提供。また、空き家バンクを利用して住宅を取得した場合は最大75万円の補助金が受けられるほか、「田舎暮らしモデル地域」や「過疎地域」に指定されているエリアでは、さらに手厚い支援策が整備されています。
佐久穂町(長野県)
白駒の池
南北に流れる千曲川を挟んで東西に広がる佐久穂町は、長野県東部に位置し、八ヶ岳の北麓の豊かな自然と穏やかな気候に恵まれています。東京方面ヘは車で約2時間30分、佐久平駅を経由して新幹線を利用すれば約2時間でアクセス可能です。町は10キロ圏内に居住地がまとまるコンパクトなつくりで、スーパーやコンビニが充実も充実。農産物直売所では新鮮な地元野菜が手に入ります。隣接する佐久市へは車で約20分、軽井沢や上田市へも約60分で行くことができ、生活利便性も確保されています。
教育面では、日本初のイエナプラン認定校として開校した学校法人茂来学園 大日向小学校があり、個性や自主性を重視した教育で注目を集めています。イエナプラン教育は1924年にドイツで生まれ、オランダで広まった教育法で、子どもの自律と共生を重視し、異年齢の子どもたちが共に学ぶのが特徴です。子どもたち自らが学習計画を立て、探究的な活動や対話を通じて考えを深め、主体的に学習を進めます。2022年には、フリースクールとして運営されていた中等部を大日向中学校として開校し、将来的には同理念に基づく高校の開校も目指しているといいます。
また移住支援として、「UIJターン就業・創業移住支援事業補助金制度」を用意。世帯には最大100万円(子ども1人につき最大100万円を加算)、単身者には60万円が支給されるなど、移住を後押しする取り組みも整っています。
軽井沢町(長野県)
軽井沢の風景
浅間山の南東斜面、標高約900~1,000mの高原地帯に位置する軽井沢町は、群馬県境にあり、古くから日本を代表する避暑地として親しまれてきました。東京からは北陸新幹線で約1時間10分とアクセスも良好です。
町内には自然教育を実践する保育施設や小学校に加え、イエナプラン教育を取り入れた幼小中一貫校の軽井沢風越学園や国際バカロレアの認定の全寮制インターナショナルスクール(ISAK)など、個性重視の教育が多彩に揃います。さらに保育園や小中学校の給食には、地場産・有機農産物が取り入れられ、自校式給食が実施されているほか、ICT教育にも早期から取り組んでいます。
加えて、住宅建設時の融資利子の20%を3年間補助する制度(町民親族との同居や所得制限などの条件あり)もあり、暮らしと教育の両面で魅力が備わっています。
神戸市(兵庫県)
神戸市の街並み
神戸市は、北に六甲山、南に神戸港を抱える美しい港町で、中心部の三宮から直径約5km圏内に海と山が共存するコンパクトな都市です。陸・空・海の交通網が発達しており、JR新神戸駅から新幹線で東京まで約3時間、大阪までは約30分でアクセスが可能。さらに神戸空港から国内主要都市へ、港湾を通じた海上輸送も充実しており、日本全国と世界をつなぐ利便性を誇ります。
市内には多彩な教育機関が集まり、地域体験学習に力を入れる私立小学校も存在します。大学と短期大学が多数存在し、教育機関の数は政令指定都市の中でも第3位を誇り、公立・私立合わせて約60校の高校は学区制がなく、自由に進学先を選べるなど、多様な進路選択が可能です。さらに、イギリスで170年の歴史をもつインターナショナルスクール「ノースロンドン・カレッジエイト・スクール神戸」が2025年9月に開校。2028年には中高一貫のボーディングスクールを新設し、その後2030年までにプリスクール・小学部も順次開校する予定で、自然と調和した環境の中で探究型教育を提供します。
また移住・定住支援策も整っています。例えば「こうべぐらし応援補助金『住みかえーる』」では、団地への住み替えや親子世帯との近居・同居に最大35万円を補助。さらに神戸市外から転入する世帯や中学生以下の子どもがいる世帯には、月額最大15,000円の家賃補助を受けられる神戸公社賃貸「ウェルカムKOBE」「すくすくジュニア」といった制度も用意されています。
田辺市(和歌山県)
龍神温泉
和歌山県南部に位置する田辺市は、温暖で過ごしやすい気候で、海と山に囲まれた自然豊かな中核都市。太平洋に面した田辺湾や、世界遺産の熊野古道が身近にあり、自然と歴史文化の両方に恵まれた環境です。南紀田辺ICから阪和・紀勢自動車道を利用すれば、大阪まで車で約2時間。紀伊田辺駅からJR特急で新大阪駅へは約2時間、高速バスも利用可能で約3時間程度です。また、車で約40分の南紀白浜空港から羽田空港へは約70分でアクセスできます。
新たな地域活性化プロジェクトとして自然環境を活かす教育に注目が集まっており、子どもたちの自主性を大切にした小学校が人気です。田辺市立三里小学校 では、お茶摘み体験や地元企業の見学、高学年による“熊野古道語り部ジュニア”の活動など、地域と連携したふるさと学習に力を入れ、地域への誇りや表現力を育んでいます。さらに、2025年春に開設された私立うつほの杜学園小学校は、自然豊かな環境の中で探究型グローカル教育を実践し、国際バカロレアの候補校に認定。アドベンチャーワールドと連携した動物の飼育環境を考える授業なども行われています。
移住を応援する支援も充実しています。東京圏からの移住者には、世帯で最大100万円(子ども1人につき100万円加算)、単身で最大60万円の支援金が支給されます。さらに、市街地や山村部の空き家改修費用の補助(市街地は改修費の3分の2、山村部は2分の1、いずれも上限は80万円)や、最長1年の短期滞在施設利用支援など、多角的な体制が整っています。移住相談窓口にはワンストップパーソン(移住相談員) も配置されており、安心して移住を検討できます。
福山市(広島県)
福山市内の風景
広島市と岡山市のほぼ中間に位置する福山市は、北を山々に囲まれ、南は穏やかな瀬戸内海に面した自然豊かなまちです。年間を通じて温暖な気候に恵まれ、快適に過ごせます。JR福山駅から東京までは約4時間、大阪へは約1時間で到着可能で、のぞみ、みずほ、さくら、ひかり、こだまが停車する利便性の高い駅です。高速道路は山陽自動車道の福山東IC・福山西ICが利用でき、車での移動もスムーズ。さらに、広島空港へはリムジンバスで約60分、岡山空港へは新幹線でJR岡山駅経由後リムジンバスで約30分と、空路の利用も可能なエリアに位置します。
教育面では、2022年に公立として全国で初めてイエナプラン教育を導入した福山市立常石ともに学園が開校。対話・遊び・仕事(学習)・催し(行事)という4つの基本活動を軸に、異年齢の子どもたちがともに学びを深めています。さらに、北京市教育委員会と覚書を締結し、中高生や教職員の訪問団を派遣するなど、国際交流にも積極的に取り組んでいます。
移住支援も充実しており、東京圏(主に23区)からの移住者を対象に、広島県のマッチングサイトに掲載された求人への就職や起業など一定の条件を満たすことで、世帯最大100万円(子ども1人につき最大100万円加算)、単身の場合は最大60万円の移住支援金を交付しています。さらに、移住・定住や新婚・子育て世帯が市内の空き家を改修する際には、改修費用の2分の1以内(最大50万円、親世帯との同居・近居はさらに10万円加算)での補助が受けられます。
豊後高田市(大分県)
田染荘
大分県北部、国東半島西側に位置する豊後高田市は、かつて海運の要衝として栄え、現在は昭和の雰囲気を再現した「昭和の町」が年間40万人を集める観光スポットとして人気です。四季の変化がはっきりと感じられ、夏は高温多湿、冬は比較的温暖な気候に恵まれています。市内中心地から大分市までは約60kmで、大分空港へはバスで約50分。大分空港から羽田空港までは約1時間30分で到着可能です。また最寄り駅のJR宇佐駅から大分駅へは特急で約40分と、交通アクセスも便利です。
教育環境の充実にも力を入れており、市営の無料学習塾「学びの21世紀塾」は小中学生に広く利用され、学習支援の拠点となっています。市内唯一の高校である高田高校向けの学習塾も無料で開設され、さらに、「テレビ寺子屋講座」としてケーブルテレビを活用した強化学習講座もあり、自宅でも学習機会を広げることができます。
県外から豊後高田市へ移住し、ジョブナビ掲載企業への就職やテレワーク、起業支援など一定条件を満たす場合、世帯最大100万円(子ども1人につき30万円加算)、単身者には60万円が支給されます。さらに、子育て世帯を対象とした宿泊費無料の移住体験会や、空き家バンクを活用した住宅取得・改修補助など、住まいに関する支援も充実しています。こうしたきめ細やかな施策により、宝島社『田舎暮らしの本』(2025年板)の住みたい田舎ベストランキングでは、人口3万人未満の小さな市における総合部門で全国1位 を獲得しています。
西都市(宮崎県)
西都原古墳群
県のほぼ中央に位置し、宮崎市へは車で約40分、宮崎空港へは約50分の距離にあります。豊かな自然に恵まれ、四季折々の風景や日本最大級の古墳群「西都原古墳群」など、歴史的な遺産も点在しています。温暖な気候と豊かな土壌により、農業を中心とした生活が営まれています。
子どもが1年間親元を離れ、里親の家から学校に通う「山村留学」を実施。このプログラムは、自然豊かな農山村での生活を通じて、たくましい体と豊かな心を育むことを目的としています。銀鏡(しろみ)地区の西都銀上(しろかみ)小学校と銀鏡中学校が受け入れ校となっており、地域全体で子どもたちを支える体制が整っています。里親は50代から70代の地域住民で、これまでに約400人の子どもたちを受け入れてきました。子どもたちは、自然体験や地域行事を通じて成長し、地域との絆を深めています。この取り組みは、地域の活性化や学校の存続にも寄与しており、地域と子どもが共に成長するモデルケースとなっています。
また、移住希望者に向けて「西都はじめるPROJECT」を展開し、移住支援金や住まいの取得助成金、創業支援など、多岐にわたるサポートを提供しています。特に、子育て世帯には住宅取得時に最大200万円の助成金が支給されるなど、家族での移住を支援する体制が整っています。さらに、移住体験ツアーやオンライン相談会など、実際の暮らしを体験できる機会も提供されており、移住を検討する方々にとって魅力的な地域となっています。
04| 教育移住にかかる費用と暮らしのリアル
移住に必要な初期費用・生活費の目安
教育移住を検討するうえで気になるのが、引っ越しにともなう初期費用や、移住後の生活費です。特に家族での移住となると、想定以上に費用がかかることもあるため、あらかじめ目安を把握しておくことが大切です。まず初期費用としては、引っ越し代や新居の敷金・礼金、家電や家具の買い替えなどを含めて、50万〜100万円程度を見込んでおくと安心です。物件を購入する場合は、別途数百万円〜数千万円規模の費用が発生します。
また、地方での生活には、日常の移動に車が欠かせない地域も少なくありません。自家用車の購入費や保険料、ガソリン代、車検・メンテナンス費用なども、都市部にはない想定外の出費として計画に入れておく必要があります。
移住後の生活費については、エリアによって差はあるものの、都市部よりも家賃や物価が抑えられるケースが多く、全体的にコストは下がる傾向にあります。特に保育料や医療費、給食費などに対する自治体独自の補助が充実している地域では、子育て世代にとって経済的な負担が軽減されることもあります。
とはいえ、仕事の収入や生活スタイルによっても変わるため、「移住したら安くなる」と思い込まず、現地の暮らしを具体的にシミュレーションしておくことが大切です。
教育・習い事・受験対策にかかる費用
教育移住を考える際に忘れてはならないのが、子どもの教育や習い事にかかる費用です。地方でも塾や習い事は充実していますが、都市部と比較すると選択肢や料金に違いがあります。たとえば、受験対策のための塾や家庭教師は、都市部よりも教室数が少ないことが多い一方で、地域密着型のきめ細やかなサポートを受けやすいメリットもあります。料金は地域によって異なりますが、都市部よりやや割安な場合もあります。
また、スポーツや音楽、アートなどの習い事も、以前に比べて多様な選択肢が増えてきています。地方自治体が提供する補助制度を利用することで、負担を軽減できるケースもあります。一方で、専門性の高い習い事や特色ある教育プログラムは都市部に集中している場合があるため、通学や送迎にかかる時間や費用も考慮が必要です。移住先の環境や子どもの希望に合わせて、教育費用の全体像をしっかり把握することが重要です。
定住・住宅購入・リモートワークの現状
住まいの確保や働き方の見直しが重要なポイントとなります。
- 住まいの確保と住宅購入
地方への移住では、都市部よりも広い土地やゆとりのある住環境が手に入りやすく、家賃や住宅購入費用も比較的抑えられる傾向にあります。特に、地方自治体が提供する移住支援制度や補助金を活用することで、初期費用の負担を軽減できる場合があります。例えば、最大100万円の支援金を提供する自治体も存在します 。 - リモートワークの普及と働き方の変化
新型コロナウイルスの影響で、リモートワークが急速に普及しました。これにより、都市部に通勤する必要がなくなり、地方での生活が現実のものとなりました。実際、東京都23区在住の20代では半数近くが地方移住への関心を示しており、テレワークが地方移住を後押しする要因となっています。
また、地方自治体や企業もリモートワークを推進しており、サテライトオフィスの設置やテレワーク手当の支給など、働きやすい環境が整いつつあります。これにより、地方での生活と都市部の仕事を両立させることが可能となっています。
05| 移住者の声
大阪から長野県伊那市へ――教育移住を選んだ瀬川直寛さんご家族
2022年10月、大阪市福島区から長野県伊那市へ移住した瀬川直寛さんご家族。瀬川さんは在庫管理システムを開発するフルカイテン株式会社のCEOとして忙しく働く一方で、「子どもを自然豊かな環境でのびのびと育てたい」という思いから教育移住を選びました。当時、お子さんは小学校4年生と保育園年長でした。
伊那市立伊那小学校から見える町並みとアルプス
瀬川さんは、「保育園生なのに難しい漢字が書ける」と競い合うような都会の教育熱に違和感を覚えていました。成長には個人差があり、大人になればその多くは解消されるもの。勉強一本に偏った画一的な価値観ではなく、多様性を受け入れる環境で子どもの可能性を引き出したいと考えました。今どきの◯◯教育と謳った学校にも足を運びましたが、特定の教育法を押し付けているように見え、自分が求めているものと違うなと感じました。見学した学校の中で伊那小学校に強く惹かれ、移住を決断したといいます。
まず、瀬川さんご家族は伊那市の「移住体験ハウス」で合計2週間ほど過ごしました。初めての体験移住では、地元の子どもたちが小学校近くの川沿いの用水路で遊び始めると、長女や次女は「ここに入っていいの?」と不安そうに様子をうかがっていました。最初は緊張していたものの、やがて笑顔で一緒に遊ぶようになり、最後には「帰りたくない」と言うほどでした。こうして、伊那での生活に問題なく適応できることが確認でき、不安は解消されたそうです。
木に渡した2本のロープだけでつくられたシンプルな手づくり遊具は、子どもたちのお気に入り
伊那小学校は60年間、通知表も時間割もチャイムもない全国でも珍しい公立小学校です。知識を詰め込むのではなく、総合学習を通じて子どもの主体性を尊重し、一人ひとりの可能性を引き出す教育が行われています。学校では、ヤギやポニーの世話からログハウスやスケートリンクづくりなど、段階を経てさまざまな体験をしていきます。そうした環境で過ごす中で、お子さんたちは、 “ないものは自分でつくる”習慣を自然と身につけていったそうです。
児童たちが手づくりした飼育柵で過ごすポニー。森で材料の木材を集めるところから取り組んだという
伊那小ではさまざまな動物を飼育している。学校の一画に作られた柵内でブタも元気に走り回っている
ある日には、「お腹がすいた」と言って自分で庭で摘んできたヨモギを使って団子づくりをしたり、学校で学んだジャムづくりの知識を応用して自宅でアレンジするなど、自分なりに工夫して取り組む姿も見られるように。
長女の娘さんは今年、中学校に進学し、人生で初めて通知表を手にしました。勉強で評価される初めての経験に緊張も見られたそうです。伊那中学校では、1学期の最終日より数日前に通知表が渡されます。これは、夏休みに入る前に家庭で話し合う時間を持てるようにするためだそうです。成績は掲げた目標に一歩届かず悔しさを味わいましたが、その経験を受けて2学期に向けて自ら勉強を始めました。「目標を立てて努力する経験が、子ども自身の自己効力感につながる」と瀬川さんは話します。
瀬川さん自身も、親から「勉強しなさい」と言われることはなく、自ら考えて行動してきました。中学3年生のときに全校で下から7番目の成績をとり、危機感から自ら勉強を始め、進学校に合格。高校でも自分なりの学習方法を見つけ、慶應義塾大学へ現役で進学しました。こうした経験から、勉強はあとからでも挽回できるという実感を得ており、自分で考え、挑戦する力こそが将来を生き抜く力になると考えています。
移住後は、家族の暮らしも大きく変わりました。伊那市では「カレー大作戦」やマルシェ、盆踊りなど地域のイベントが豊富に開催されており、家族そろって参加する中で自然に地域に溶け込んでいきました。
商店街のイベントで豚まんを買う瀬川さんご夫妻
また、大阪では体験できなかったアクティビティにも挑戦しています。瀬川さんがスノーボードを始めた当初は、小学生にまじって一緒に習いました。この秋は、家族でオフロードを走るマウンテンバイクにも挑戦する予定です。
移住をきっかけに始めたスノーボードやスキー。今では家族そろって楽しんでいる
「親が新しいことにチャレンジする後ろ姿を見せることが大切」と瀬川さんは話します。子どもを通じて多様性の大切さを学ぶ中で、大人自身の価値観や働き方も変化しました。「この気づきは会社経営にも生きていて、社員一人ひとりの得意分野を活かす組織づくりを意識するようになりました」。
伊那市内にある瀬川さんのオフィスからは、南アルプスと中央アルプスが望める
瀬川さんは、子育てで大切にしていることがあるといいます。「子どもを叱ることはありますが、極力しないようにしています」。子どもの行動を“発達の個人差”と受け止め、できていることに目を向けて認めることで自己肯定感を育んでいるとか。親が決めるのではなく、子どもがやりたいことに挑戦できる環境を整えることを大事にしているそうです。
焚き火を楽しめるのも、自然がすぐ近くにある暮らしの魅力
教育移住を考えている人には、「迷うくらいなら来た方がいい。合わなければ戻ればいい。大切なのは環境にどう向き合うかです」とアドバイス。一方で「与えられた環境に過度な期待を抱かないことも大切」とも。もともと住んでいる地域の人たちを尊重し、ありのままを受け入れることで教育移住の価値が見えてくるといいます。
「今度は自分たちが誰かの移住を後押ししたい。伊那市への移住を迷っている方がいれば、ぜひご相談ください」。
瀬川さんご家族の教育移住は、子どもたちの成長だけでなく、家族全体の生き方をも豊かにしました。自然の中でのびのびと学び、多様な価値観を受け入れる環境で育つ子どもたち。その姿を見守りながら、ご夫婦自身もまた、自らの暮らしと人生を更新し続けています。