働き方や暮らし方が見直され、まだまだ注目度が高い「移住(2拠点)生活」。今回は、首都圏からの移住者が多い飯能(埼玉県)、近畿圏からの移住先として注目される和歌山市(和歌山県)、長崎からの移住者が多い五島市(長崎県)の3つの街を紹介します。
text:Ikumi Ueno(effect) photo:Eizaburo Sogo
埼玉県の南西部に位置する飯能。市の75パーセントを森林地帯が占めており、入間川と高麗川の一級河川が流れていることから、古くは林業と織物で栄えた街でした。都心から約50キロメートル圏内、池袋駅まで特急であれば40分で行くことができる距離にあるため、昭和40年頃からは首都圏近郊の住宅都市として人気を集めるように。駅周辺には商店街のほかにも、駅直結の商業施設「PePe」が入っており、利便性も抜群です。そんな飯能には近年、森林が占める街の環境が北欧と似ているとの理由から、「トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園」、「メッツァ」、「ノーラ名栗」など北欧の文化を取り入れた施設が次々と誕生し、話題となっています。
街としての魅力が増すにつれ、移住者も増えている飯能。市としてもっとも力を入れているのが、移住者が気軽に農業を体験できる「飯能住まい」という制度。農業体験、家庭菜園、農園利用、農地利用など、希望に応じて様々な形で農業に携わることが可能です。ライフスタイルを見直す人が増えるなか、”半農(はんのう)ライフ“が叶う街として、ますます注目が集まりそうです。
シェアアトリエを設立
AKAI Factory
赤井恒平さん
何かを生み出せる余白が今の飯能にはあり、
それが移住する人にとって魅力なのかもしれません。
僕が生まれ育ったのは、飯能の市街地から外れた永田という地域でした。周りを山に囲まれ、最寄りの飯能駅までは徒歩1時間。大学進学までこの地で暮らしましたが、中学から私立に進んだこともあり、特別な思い入れはありませんでした。少しだけ見方が変わったのは、前職で全国各地に出張に行くようになり、地方の面白さを知ったこと。その土地にしかない独自の文化、食があり、「なさそうに見えていても、ある」地方の魅力を知りました。そんなときに、祖父が経営していた金属プレス工場を引き継ぐことになって。あらためて飯能に目を向けてみましたが、正直、面白さはそんなに見つけられなかった。であれば、自分が生まれた街を誇れるように、自分が面白いと思える場所を作ってみようと思ったんです。金属プレス工場を移転したあとに残った工場跡地をそのまま活かし、シェアアトリエ「AKAI Factory」が誕生しました。
シェアアトリエという形にしたのはアートに昔から憧れがあり、自分には生み出せないけれど、何らかの形で関われればという思いからでした。思いつきで始めましたが、すぐに入居者が集まり、現在11人のアーティストが入居しています。1名以外は全員、移住組。みんな飯能ののんびりした空気を気に入っているようです。中には長年暮らした吉祥寺から飯能に移住してきた人もいて、曰く「吉祥寺はチェーン店も増えているし、観光地化しているし、面白い街ではなくなってきた」と。飯能は今、商店街など駅周辺の盛り上がりを支えてきた人たちが引退の時期を迎えていて、空き店舗も増えてきています。新しい人が来ても「どんどんやってよ」くらいに言ってもらえる。何かを生み出せる余白が今の飯能にはあり、それが移住する人にとっては魅力なのかもしれません。
「AKAI Factory」を見た人から、空き店舗の活用に関する相談が入ってくるようになってきました。その流れで生まれたのが古本屋さんをコワーキングスペースにした「Bookmark」と、無人運営のコワーキングスペース「Nakacho7」、金物屋さんだった場所を不要品の販売を行う暮らしの循環センターにした「フカダヤ」。どれも街作りに興味のある仲間とともに生み出した場所です。こういったつながりは飯能だけにとどまらず、西武線沿線、埼玉県全域の街作りに携わる人とも交流が生まれ、一緒にイベントを行うようにもなりました。また飯能の街を歩いていても声をかけられたり、野菜をもらったりするような顔見知りがどんどん増えて、居心地もよくなってきましたね。飯能で活動するようになってから8年。やっと自分の街が面白い場所だと誇れるようになってきました。
閉店した店舗などから、要らなくなったものを引き取り販売しています。店舗の一部をシェアスペースにしており、現在は年配の方達が旅行代理店などをしながら活動してくださっています。僕たちでは使い道のわからない古いものの使い方を教えてくれることも。世代を超えた交流が生まれ、みんなが楽しめる拠点になっています。
埼玉県飯能市仲町6-11
暮らしのスポット
AKAI Factory
さわらびの湯
古民家ひらぬま
和歌山県の県庁所在地であり、北部の紀北地域に位置する和歌山市。中心部には和歌山城がそびえ立ち、古くから城下町として栄えてきた街です。自然が多くありながら都市機能が充実し、大阪へのアクセスも抜群。電車、車のどちらでも関西国際空港まで約40分で到着することができ、和歌山駅、和歌山市駅からは大阪市内への移動も約1時間程度という好立地です。交通の利便性が高く、近年は大阪からの移住者が増えています。また和歌山駅周辺には商業施設も多く、ショッピングには事欠きません。
和歌山市には魅力的な自然も多く、一番の特徴は海。市内には5つの海水浴場があり、波が穏やかな遠浅の海のため、小さな子どもでも楽しめるほか、マリンスポーツも盛んです。また北東部の地域には田園風景が広がり、豊かな農業地帯を形成しています。これらの山と海の自然が育んだ、食の宝庫が楽しめる街でもあります。和歌山といえばみかんが有名ですが、ヒラメやアシアカエビなど海の幸も絶品。子育て支援も充実し、ファミリー層でも安心して移住が可能。平日は仕事、週末は自然豊かな環境でリラックスしたいという方にはおすすめの街です。
雑賀崎
balder coffee
長崎港から西に約100kmほど離れた海上に浮かぶ、約150の島々からなる五島列島。五島市は五島列島南西部にある列島最大の島、福江島を含む、久賀島、奈留島とその周辺の島々で形成されています。長崎県のなかでも特に移住者が多い場所として知られ、5年間で1000人を超えるもの移住者を記録しているという五島市。移住先として人気の理由は、離島でありながら利便性の高さも実現している点。福江島には空港があり、長崎空港と福岡空港への直行便が就航しています。同じく福江島にある福江港からは、フェリーや高速船が就航しており、長崎港や博多港にもアクセスが可能です。また大型スーパーやコンビニ、ホームセンターなどの商業施設のほか、医療施設や学校、保育園などの施設も充実しているため、暮らしやすさも魅力です。
もう1つ、五島市が移住先として選ばれる理由は、なんといっても雄大な自然。とくに海は魅力的で、日本一美しい砂浜とも称される高浜海水浴場をはじめ、美しい海を堪能することができます。自然が育んだ海産物、農産物などおいしい食材も豊富。島暮らしに憧れる人にとっては、最適の移住先でしょう。