2022年に故郷の山梨県北杜市から石川県小松市に移住した小林太一さん。求人サイトでのスカウトをきっかけに、小松市が初めて募集した「特定任期付幹部職員」に採用され、まるで導かれるように小松市へ辿り着きました。小松市の魅力や移住後の暮らしについてお話を伺いました。
photo:Miyuki Yamada、text:Emi Yamamoto
石川県小松市
北陸の玄関口として知られる小松市。小松空港に加え、2024年3 月には北陸新幹線駅も開業し、ますますアクセスが便利になりました。石川県の南部に位置し、日本海の影響を強く受けており、冬は北陸のなかでも比較的温暖で雪も少なく、過ごしやすいのが特徴です。とくに、ものづくり産業が盛んで、高度な技術力を持った企業が多く集積しています。
なぜ、小松市に移住したのですか?
小松市国際文化交流部観光交流課の担当課長を務める小林太一さん。小林さんが小松市へと移住を決めたきっかけは、ある日突然舞い込んだ一通のメッセージでした。当時、人事コンサルティングという道を歩んでおり、転職の予定はまったくありませんでしたが、小松市役所の部長からの熱意のこもったメッセージに、興味を引かれたと話します。
「小松市について調べていくうちに、市の魅力は想像をはるかに超えるものでした」。新幹線や空港など、都市部へのアクセスが抜群なだけでなく、豊かな自然や歴史、そして活気あふれる文化が調和した街並み。とくに、歴史ある街並みが小林さんの心を捉えました。小松市への移住が決まり、ほどなくして北陸新幹線延伸に伴い、さまざまなプロジェクトに携わるようになったと言います。「弥生時代から、小松は全国各地と交流のある場所だったんです。北陸新幹線の延伸は、まるでタイムスリップして、2300年前の交流を再び始めるような、そんな感覚を覚えました」。
小松市に暮らす人たちの印象や街の印象は?
単身赴任から始まり、家族で暮らすようになった小松市。2年の時を経て、小林さんはこの街の人々の印象について、「小松市の人たちは、自分の好きなことや大切にしていることを、地域のために活かそうとする熱意が素晴らしいんです。とくに、伝統文化に対する愛着が強く、地域のお祭りに積極的に参加したり、伝統工芸を後世に伝えていこうとする姿勢が素敵ですよね」と話してくれました。小松市は、250年以上続く『曳山子ども歌舞伎』など、歌舞伎が盛んな土地。4年に一度、地域の子どもたちが舞台に立つ姿は、まさに伝統文化の継承そのもの。「このような環境は、他の地域ではなかなか見られない貴重な体験だと思います」と言うように、地域の人々のつながりの深さも、小松市の魅力のひとつです。「地元の先輩たちが、子どもたちを優しく指導する姿は、まさに温かいコミュニティの象徴。伝統文化が、世代を超えて受け継がれていく様子に感動します」。
暮らす街として、小松市のおすすめスポットを教えてください
小松市には、大人も子どもも楽しめる魅力的なスポットが沢山あります。小林さんがとくにおすすめするのは、世界最大級のダンプトラックが並ぶ建設・鉱山機械メーカー「コマツ」が運営する『こまつの杜』と、小松の豊かな歴史と文化を学べる『こまつ曳山交流館みよっさ』。
「JR小松駅東口に隣接する『こまつの杜』では、巨大な機械に触れたり、広大な自然の中で冒険したりと、五感を刺激する体験が待っています。遊びながら、科学や技術への興味も深めることができますよ。また、『こまつ曳山交流館みよっさ』では、250年以上続く伝統芸能『曳山子ども歌舞伎』の世界を体験できます。華やかな衣装を着てみたり、伝統楽器に触れてみたりと、お子さんと一緒に小松の伝統と文化を肌で感じることができるんです」と、それぞれの施設がもつ魅力についてお話してくれました。
小松市での子育てに関して、よい点や悪い点を教えてください
小松市は、子育て支援がとても充実しています。「全国トップレベルのサポート体制が整っており、結婚から子どもの進学まで、さまざまな場面で手厚い支援を受けることができます」と小林さんが話すように、小松市の子育て支援は手厚く、とくに市独自の制度が充実しています。妊娠中の『おなかの赤ちゃん給付金』や、乳児期のおむつを定期的に届ける『赤ちゃん紙おむつ定期便』など、経済的な負担を軽減する取り組みが豊富です。さらに、小中学校の給食費や18歳までの医療費が無料になるなど、安心して子育てに専念できる環境が整っているため、多くの若い家族が小松市へ移住しています。「娘が通っている幼稚園では、半数以上が移住者の方です」という言葉の通り、ファミリーでの移住も増えてきているそうです。
(内訳:小松市独自のおなかの赤ちゃん給付金:5万円+国の出産応援ギフト:5万円)
(生後3ヶ月から1歳の誕生月まで)
子育てのおすすめスポットはありますか?
子育て世帯が気になるのが、家族で遊べるスポット。小林さんのおすすめは、子どもたちの好奇心を刺激するスポットばかり。「JR小松駅近くの『サイエンスヒルズこまつ』は、理系出身の私も感動した、大人も子どもも楽しめる科学体験施設です。元素記号をテーマにした遊びながら学べる展示があったり、子どもたちの好奇心を刺激する宝箱のような場所があったりします。『カブッキーランド』は、屋内型の遊び場で、天候に左右されることなく楽しめます。ボーネルンドの遊具や県外出身ママ・パパ向けのイベントなども充実しているので、一日中遊べますね。また、『木場潟公園』 は、小松市の代表的な公園で、自然のなかで体を動かせる人気のスポット。広い芝生広場や遊具があり、希少な野鳥や植物を観察したり、お弁当を広げてピクニックも楽しんだりもできますよ」。
サイエンスヒルズこまつ
子どもから大人まで楽しめる、科学体験の宝庫。こまつの杜にある博物館・科学館で、実験や工作を通して、科学の不思議を楽しく学べます。広々とした芝生広場では、自然のなかで科学に触れることもできます。定期的にイベントが開催されています。
カブッキーランド
JR小松駅前「KOMATSU AxZ SQUARE」の1階に位置し、遊具専門メーカー・ボーネルンドがプロデュースする大型遊具や知育玩具が充実した遊び場です。赤ちゃんから小学生まで、年齢に合わせた3つのゾーンで、思う存分体を動かしたり、親子で一緒に創造性を育んだりすることができます。
木場潟公園
潟の姿をそのまま残している県内唯一の自然水郷公園。広大な芝生広場や遊具で思いっきり体を動かしたり、カヌーに乗ったり、自然観察を楽しんだり、絶滅危惧種の水生植物の群生や多くの野鳥の飛来も見られます。春には桜並木が美しく、四季折々の風景も楽しめます。
お家はどのように見つけたのですか?
小林さんの後ろに佇む、風格ある町家。「実は、この物件は少し変わった経緯で見つけたんです」と話すように、この建物との出会いは、まるで運命の導きのようだったと言います。現在、同じ町内の別の町家に住んでいますが、退去が決まり、あたらしい住まいを探していたところ、町内会長に声をかけられたのだとか。「この町に住み続けたくて、どこかよい空き家はないですか?」と尋ねてみたところ、この築100年を超える町家を紹介されたのです。
小松駅からも見える通り沿いの角地という、この町でひときわ目を引く場所。2年間空き家となっていたこの建物に、小林さんが新たな息吹を吹き込むことになりました。「この街にまたひとつ明かりを灯せることをうれしく思います」。着工は間もなく。古きよき小松の風情を残しながら、現代の暮らしに合わせた住まいへと生まれ変わります。
家づくりのこだわりを教えてください
築100年を超える歴史ある町家で、小林さん家族は新たな生活を始めようとしています。「せっかく町家で暮らすのですから、家族だけでなく、地域の人々ともつながりたいですね」。その言葉の通り、1階の通り沿いには、地域の人々が気軽に立ち寄れるような店舗スペースを設ける計画だそう。町家の風情を残しながら、家族の暮らしやすい空間にリノベーションする一方で、欄間や格子など、歴史ある建物の魅力を大切に受け継いでいくそうです。「隣接している蔵を活用して、BARをつくってみるのもおもしろいですね」。古い町家を再生し、地域に愛される新たな空間を生み出す。伝統的な町家に、小林さん家族の温かい光が灯り、街に新たな活気が生まれる。そんな未来がいまから楽しみです。