マニッシュなインテリア=ミニマルなインテリア
“形態は直線的”であること
“素材はフラット”であること
“色彩はモノトーンや少ない色”であること
今回のテーマは「マニッシュなインテリア」です。“マニッシュ” これをインテリアとして考えるなら“シンプルでミニマルな空間”ということになると思います。私はそのような空間といえば、ミース・ファン・デル・ローエの「ファンズワース邸」を最初に思い出します。
“Less is more”という言葉をご存知でしょうか。“より少ないことは、より豊かなこと”、近代建築の巨匠として知られるミース・ファン・デル・ローエの言葉です。
“ミニマルなことこそ豊かなのだ”と解釈できます。それを体現したのが1951年に建てられた「ファンズワース邸」です。
1)1951年、米・イリノイ州プレイノに、エディス・ファンズワース医師の週末住宅として建てられたこの住宅は、ミースが自らのアイデアを小規模に体現した実験的で重要な作品とされています。彼はまた、「ユニヴァーサル・スペース」(=表層的な要素と内的な要素を減らして単純化することで、経年による使用者や用途の変化に耐えうる空間を目指す)の概念を提唱しました。
「God is in the detail」(神は細部に宿る)も彼の言葉。
“より少ない”というとネガティブな印象を持ってしまいがちですが、そうではなくより豊かで、ポジティブなことなのだと近代建築の巨匠は教えてくれます。
私が考えるミニマルなインテリアの要素は3つあります。「形態が直線的であること」「素材がフラットであること」「色彩はモノトーンや少ない色であること」。これらを網羅し、“Les is more”を実感させてくれるのが「ファンズワース邸」だと思います。
2)私たちが手掛けたこちらの住宅は、フラットな素材感の打ち放しコンクリートによる直線的なデザインの建築。内部も直線的でモノトーンな色彩というミニマルな空間。
性別や役割で異なる
インテリアデザインへの着眼点
現代においては、“マニッシュ女子”に“塩系男子”がトレンドとなっているように、性差が曖昧になり、家族のあり方や働き方も大きく変化しています。その背景には女性の社会進出ということも大きく関わっているのでしょう。ミニマルなインテリアは、性差を超えたインテリアともいえるのではないでしょうか。
とはいえ、クライアントのお話を伺うと、暮らしの中での役割や感覚の違いなどから、住まいについての見方も男女で異なることは多いと感じています。あるイタリアのハンドメイドのキッチンメーカーが、雑誌に広告を出したところ、女性誌よりも男性誌の方が反響は大きかったそうです。女性がこだわる場所というイメージの強いキッチンですが、ハンドメイドの素材やデザイン、高い芸術性に男性が興味を持ったというのは面白いと思いました。同じキッチンでも男女で注目する観点が異なるということなのですね。女性は機能性に、男性は趣味性に、こだわる点が多いように感じます。
クライアントが男性か女性かによって、最初に考えるインテリアデザインのイメージは異なります。しかし、完成した空間がどちらにとっても心地よい空間であるようにと心がけています。
3)この写真のクライアントはアートディレクターの男性。直線的な空間構成とモノトーン。ソファの素材はフラットな革。ミニマルでクールなインテリアです。
4)住まい手は女性一人。ミニマルでありながら、やわらかな白を基調にした優しい女性的な印象の空間に。
5)直線的な空間デザインに、ファブリックを多く取り入れ女性らしさを。
現代は、インテリアもファッションも性差が曖昧になっていると同時に、ミックス&マッチな時代ともいえます。テイストを合わせた部分と異なるテイストを組み合わせた部分、これらをうまく組み合わせることで、魅力的な独自の世界が生みだされるのです。
6・7)マンションのインテリアデザイン。空間は白が基調のモノトーンでミニマル。家具はすべてオリジナルでデザインし、クラシックなディテールを加えてより個性的な空間に。
ミニマルな空間をつくるためには、線、色、素材など、さまざまな要素をそぎ落としていくという作業が必要になります。料理を考えてみてください。素材の持つ旨みや風味といった個性を上手に引き出し、味わい深く仕上げたシンプルで美味しい料理は、私たちを幸せにしてくれます。でも、ごまかしのきかないシンプルな料理には、素材の正しい知識と料理人の技術が不可欠です。インテリアも同じで、ミニマルな空間をつくるのは、実はとても難しく、考え尽くされたデザインなのです。
そうして空間の個性を抑えることで、住まう人そのものが個性になるミニマルなインテリアは、とても豊かな空間といえるのではないでしょうか。これまでの連載の中で、豊かさとは自分らしさであるということをお話ししてきました。ミニマルなインテリアは“より少ないことは、より自分らしいこと”に、最もつながる空間といえるかもしれません。