「マグニー邸」はオーストラリア、ニューサウスウェルズ州の海岸近くの荒地に立つ名作住宅です。この荒地を所有する施主のマグニー氏は、週末にキャンプをするときの拠点として使っていました。マグニー氏が求めたのは、テントのような住宅。オーストラリアで唯一のプリツカー賞受賞者のグレン・マーカットは、波型鉄板をうまく使い、屋根に曲線をつけることで、明るい朝の光から、夕暮れの光までを柔らかく採り入れる設計を行いました。
波板鉄板はトタン屋根に使われるイメージで、一般的には工場や物置用の安価な建築資材と見られています。マーカットは、この波板鉄板を加工し、美しい曲線を描く屋根をつくりました。夏の厳しい日差しが降り注ぐ北側の開口部の上に大きく張り出す屋根とすることで、光をコントロールしています。マーカットが波板鉄板を選んだのは、軽く、単位重量当たりの剛性が高く、運搬・施工性に優れるから。大都市から200km以上離れたこの地に家を建てるには、構造・施工・資材にはひときわ慎重な選択が求められます。
南半球のオーストラリアでは、太陽は北側に昇っていきます。日本を含めた北半球の人にとっては、太陽を向いて左手側が東で、左手側から日が昇ってきます。一方、南半球の人にとっては、太陽を向いて右手側が東になるため、太陽は右手側から昇ってきます。写真は朝の寝室ですが、太陽光が西日のように右から入っていることがわかります。オーストラリアで自然の光を採り入れる際には、南半球独特の感覚が求められます。そのため寝室は北向き。太陽の降り注ぐ北側と東側に可動式のルーバーを備えています。屋内の天井も曲線を描いており、採り入れた太陽光を反射させ、室内を光で満たしています。荒野に立つ住宅のため、屋根に降った雨水は貯留して利用できるようになっています。
世界的な知名度がありながら、マーカットはオーストラリア国内でのみ、一人で活動しています。マグニー邸は、オーストラリアの自然を知り尽くすマーカットならではの住宅です。私たちも、その土地・風土に合った住宅を探してみるのがいいのかもしれません。