「カレ邸」はパリ郊外、王宮を取り囲むランブイエの森を見下ろす歴史豊かな小高い丘に立つ住宅です。モダン建築家として名声を確たるものとしていたアアルトは、友人であるフランス人の画商ルイ・カレに、住宅の設計だけでなく家具デザイン、造園、植栽の選定までも依頼されました。カレがアアルトに唯一要望したのは、自らの故郷ブルターニュで産するスレート葺きの屋根にすること。この地に立ったアアルトは、窓からの風景を想像しながら建物とランドスケープの計画を練りました。
「カレ邸」の特色は、機能的なモダン建築でありながら、自然と調和しているということ。自然と繋がる有機的建築の創造者と言われるアアルトのカレ邸は、延べ面積約450平方mの豪邸ながら、森の中で静かに呼吸するように佇んでいます。静かさを創っているのは綿密な設計です。外観は白漆喰塗りのレンガに木材を使った窓枠。なだらかな丘に沿うような傾斜のスレート屋根、中庭に面してリズミカルに配置された石段も自然との調和を感じさせます。屋内も傾斜に合わせてレベル差を設け、ステップが部屋の切り替えになっています。
カレ夫妻は、フランス社交界の顧客向けのギャラリー兼自宅として、カレ邸に完成当時のまま住み続けていました。現在もカレ邸はアアルトの設計のまま、家具も残っています。好きなものに囲まれて住まう幸福は長続きする、ということでしょう。