「ジェイコブズ邸」は、ウィスコンシン州の州都マディソンに立つ世界遺産の名作住宅です。近代建築の巨匠として知られるフランク・ロイド・ライトは、アメリカからヨーロッパ、日本での設計を経て、70歳近くになって革新的な建築「ユーソニアン・ハウス」を発表しました。アメリカを示すUSや理想郷(ユートピア)と関連した造語「ユーソニアン」は、労働者と中流階級でも手頃な価格で自動車と庭付き住宅を持てる社会を意味します。
ジェイコブズ邸は、世界的な名声を手にしていたライトに対して、友人の新聞記者のハーバート・ジェイコブスと妻のキャサリンが設計を依頼しました。ジェイコブズは新聞記者の給与でも購入できるような住宅(予算5000ドル、現在の価値で約1000万円)を建てられるかとライトに問い、ライトは「そうした発注を長い間待っていた」と快諾したといいます。1929年から続いた大恐慌を経て、人々の生活はより質素・倹約になっていました。
ライトは、ジェイコブズ夫妻が家族中心の生活が送れるよう、L字型の平屋建ての住宅を設計しました。L字型の設計は、ジェイコブズ邸以降、ライトが約60軒を手掛けたユーソニアン・ハウスの基本になります。
地面に溶け込むような平屋建てのジェイコブズ邸の外観は、赤いレンガを使って低く張り出した軒と、パブリックな道路側は窓などの露出を限定し、プライベートな庭側はオープンになっていることが特徴です。また、ライトが初期に設計したプレーリー・スタイル(大草原に沿うような水平を強調した外観を持つ建築様式)にも似ています。
屋内は、レンガの暖炉、そして床スラブに打ち込まれた床暖房が家人に温かさを提供します。また、330ミリを意識したデザイン(本棚の棚間の高さや天井・壁、外璧の水平模様)によって住宅全体に統一感を演出しています。
施主となったジェイコブズ夫妻は子育てをし、ライトに再び住宅の設計を依頼しています。子育てをするのに整理整頓は最も多い家事です。機能的な住宅を夫妻は気に入っていた、ということでしょう。