絵画や銅像、最近ではデジタルとさまざまな形があるアートは、私たちの生活に刺激や彩りをもたらしてくれる存在です。そんなアートを生み出す街での暮らしは楽しく、新たな発想や出会いを導いてくれるはず。今回はアートを感じる暮らしが叶う街として清澄白河、十和田市、富山市をご紹介します。
text:Kanta Kosugi、Ikumi Ueno(effect) photo:Eizaburo Sogo
東京都北東部の江東区に位置し、都心近くではありながら歴史ある雰囲気を感じられる清澄白河。隅田川と小名木川のふたつの川沿いという地形を活かして、江戸時代には物流の街として栄えていました。当時の人々の暮らしを見守ってきた歴史的スポットはいまも多く残っており、なかでも「清澄庭園」は野鳥や緑などの自然を楽しめる場所として日々多くの人が訪れています。また、「深川江戸資料館」といった清澄の歴史を辿れるスポットがあるのも魅力。その一方で、2000年ごろからスタートした再開発以降、当時活躍していた倉庫や町工場はリノベーションされておしゃれなカフェやアートギャラリーに生まれ変わっています。そんな歴史、アートの新旧文化が入り混じった独特でおしゃれな雰囲気が人気の街です。
清澄白河は、とくにファミリー層が住みやすい街として注目されています。まず清澄白河駅には都営大江戸線、東京メトロ半蔵門線が通っており、都内中心地へはもちろん、東京駅や羽田空港にもアクセスしやすいので県外や国外の旅行もスムーズ。大型の複合施設や繁華街などはありませんが、スーパーやカフェなどが立ち並ぶ商店街が充実しているので生活には困りません。また、大型店が少ない分、治安がよく空き巣や窃盗もほとんどない安全なエリアとしても知られています。夏祭りなどのイベントを通して住民同士の交流がさかんで、結束力もあるため子育てに安心してのぞめるのもうれしいポイント。人や自然、アートなど、人々の心を温かくしてくれる、都内のリラックスタウンです。
GLASS-LAB(グラスラボ)
代表取締役 椎名隆行さん
住民のコミュニティは
安心して生活するためのセーフティーネットに。
「GLASS-LAB」で販売している特徴的なガラス加工品は「砂切子」という江戸切子です。これは2017年に生み出したオリジナルの江戸切子で、側面を平面に削る「平切子」と、底面に圧縮空気で砂を当てて削る「サンドブラスト」をあわせたもの。水を注ぐと、刻まれた模様が華やかに広がるのが特徴です。それまで弊社の加工品は1品につきどちらか一方の研磨だけで、売れ行きがあまり芳しくありませんでした。そこで、側面を平たく削ると底面が反射するというガラスの特性を活かした「砂切子」を考案。ふたつの技術を合わせることは、非常に難しい挑戦だったのですが、長年培った父の技術力と弟が持つ世界レベルのサンドブラスト技術のおかげで実現できたのです。リリースから約7年経っても、近しい商品は出てきておらず、その珍しさから江戸切子に詳しいお客様にもほぼ毎回「見たことない!」というお声をいただいています。国内のみならず海外の方にも注文いただくことが多くうれしい限りです。
清澄白河では街歩きイベントやアートイベントが多く開催されているのですが、2017年ごろから私も街を盛り上げる一員として企画に参加しています。たとえば、障がいのあるアーティストの作品を中心とした芸術祭「アートパラ深川」。富岡八幡宮の参道など街なかのいたるところに5〜600枚のアートが展示されるので、その期間は街全体が美術館のようになり、刺激的な風景が広がるのです。もともと私はアートに興味がなく、難しさを感じていたのですが、東京都現代美術館の企画で「アートは自分がどう感じたかを楽しむもの」と教えてもらったんです。楽しみ方がわかったことで惹かれていき、アートを購入したりもするようになりました。アートの魅力は、説明がいらないことだと思います。アートは敷居が高いイメージがあると思いますが、私が教わったようにアートは自由なものだと思っていて。興味や知識がなくても作品に向き合えば、誰でも何かインスピレーションを感じられるのが魅力です。
清澄白河はひとことで言うと、お祭りの文化が盛んな街だと思います。毎年多くの祭りが開催されるのですが、なかでも富岡八幡宮の例大祭は1642年から続く街の恒例行事です。子供からお年寄りまで約3万人が神輿を担ぐので、開催のたびに新たなコミュニティが生まれたり、街全体の親交が深まったりします。顔見知りがほとんどになると、何かあったときに周りが助けてくれるので普段の生活はもちろん、子育てにおいても安心して暮らせると思います。
富岡八幡宮
富岡八幡宮は初詣はもちろん、七五三、毎月3回開催される縁日のときに家族でよく行くスポットです。仕事での関わりもあって、参道を使ったアートイベントや物産展の開催にも協力していただいています。また、個人的に宮司さんとも親交があり、過去には私が持つローカルラジオ番組にゲスト出演していただいたこともありましたね。
暮らしのスポット
GLASS-LAB
Iki espresso
東京都現代美術館
青森県の南部地方、内陸部に位置する十和田市。その大きな特徴は十和田湖、奥入瀬渓流、八甲田山など自然があふれ、日本有数の景勝地として知られていることです。雄大な景色が四季折々の表情を見せる様子は、人々の心を癒します。一方で中心地にはスーパー、ドラッグストア、ホームセンターなどの大型店や公共施設が立ち並び、暮らしやすさも備えています。青森県内で唯一、鉄道駅のない市ではありますが、幹線道路が整備されているため、車があれば不便さを感じさせません。また車で20分ほどの距離に東北新幹線の停車駅である七戸十和田駅、40分ほどの距離に三沢空港があるため、県外へのアクセスもよいのが魅力です。
2004年に中心市街地にある官庁街通りに空き地が発生したことをきっかけに、官庁街通り全体を美術館と見立て、アート作品の展示やアートプログラムを実施する「アートによるまちづくり」プロジェクト「Arts Towada」の取り組みを始めました。中核施設となる十和田市現代美術館を皮切りに、美術館の向かいにアート広場が誕生するなど、街のいたるところにアート作品が点在しています。豊かな自然とアートが生み出す洗練された空気は、都心部からの移住者にもなじみやすく、近年は徐々に移住者が増加。住宅取得・改修補助事業、移住お試し住宅など市をあげて移住事業にも取り組んでいる街です。
十和田市現代美術館
富山県の県庁所在地で、中央部から南東部にかけて位置する街。市内の南東部には標高3,000mを超える立山連峰、西部には呉羽山、北部に富山湾と、豊かな山と海に囲まれた土地です。一方で都市機能が充実しているのも富山市の魅力。富山駅を中心に公共交通を軸としたコンパクトシティな街づくりを進めており、商業、行政、文化施設が整っています。市の公式キャッチフレーズは「立山あおぐ特等席」で、富山駅を中心とした市街地の背景に立山連峰の大パノラマが広がります。雄大な自然と、都市機能が見事に融合した富山市を象徴する景色です。
交通の便から見ても、富山空港や北陸新幹線の停車駅である富山駅があるため、東京にも2時間ほどでアクセスが可能。利便性も備えている点からも、移住者も増えています。市内には富山県美術館、富山県水墨美術館、富山市ガラス美術館などがあり、アートの街としても知られています。とくに富山県美術館は、隣接する富岩運河環水公園や立山連峰の眺望と地形を生かすように建てられており、富山市の顔ともいえる文化施設です。自然と文化が交錯する街での暮らしは、心を豊かにしてくれます。
富山県美術館
素敵なインテリアのカフェでお茶をしたり。
何気ない行動も、心が動けば「アート」に触れていることになります。
アートがある暮らしは、思いのほか気軽に手に入るかも?