憧れの土地に移り住んで末永く1か所で暮らすスタイル、そして元々住んでいた土地と移り住んだ土地を行き来するスタイル。移住には人それぞれのスタイルがあります。今回登場してくれるのは、千葉県いすみ市と東京を行き来しながら二拠点生活を満喫しているトコ・ワイワイさん。大学時代に研修やボランティア、仕事で海外生活を送るなど、さまざまな土地で暮らした経験を生かしながら、子どもの頃の憧れを実現しています。
ライター:鈴城久理子
CONTENTS
01| 養鶏や畑仕事。子ども時代の憧れを自然豊かないすみ市で実現!
いすみ鉄道の沿線同様、トコさんの自宅のまわりにも菜の花がたくさん
烏骨鶏(うこっけい)やミツバチなどさまざまな動物たちと共存しながらいすみ市の豊かな暮らしを享受しているトコ・ワイワイさん。温暖な気候と肥沃な大地に恵まれたこの地にトコさんが移住してきたのは7年前。現在は養鶏や養蜂、畑作業など、都会育ちで叶わなかった子ども時代の憧れを、いすみ市の暮らしを通じて楽しんでいます。
風光明媚な海岸線。海洋レジャースポットとしても人気
東京駅から特急電車で約80分。157.50平方kmほどの広さに35,289人が住む(令和6年1月現在)いすみ市は、房総半島南部に位置し、海と里山を有する魅力あふれる街。東京都心からも近いとあって、年間を通して多くの観光客が訪れます。近海ではイセエビやタコなどさまざまな海の幸が水揚げされ、ご当地グルメを目当てに足を運ぶ人々も少なくありません。
トコさんの住まいの近所にある酒蔵所有の酒米田んぼ。田植えなどの手伝いに行くことも
良質な山の幸と海の幸、両方を同時に楽しめるのがいすみ市の特徴の一つ。なかでも千葉の三大銘柄と称される「いすみ米」は高い品質を誇り、皇室献上米にも選ばれているほど。
休日になると東京に戻り、友人に会ったり、映画や美術館を訪れたりするとか
仕事もあってペットもいるため、今はいすみ市での暮らしがメイン。「休日になると東京に戻って、プライベートの時間を楽しんでいます。東京育ちということもあり、都内で過ごす時間がちょうどいいリフレッシュになっていますね」。
02| 夏の草刈りと、家のまわりのメンテナンスにひと苦労
蔵つきの古民家に住み始めたものの、メンテナンスに悩まされたそう
移住の先輩でもある両親がいすみ市と同じ外房エリアに住んでいることや、仕事が決まった後での移住だったため、移り住むことに関してはあまり深く考えていなかったというトコさん。心配事はほぼなかったものの、住みはじめて困ったのは、家を維持することでした。
「刈っても刈っても追いつかない夏の草刈りなど、家のまわりのメンテナンスが思いのほか大変でした。またここ数年、気候変動に伴って市内でも水害が多発し、わが家の脇を流れる水路も氾濫するなど、昔つくられたインフラでは受け止められないような事態になっているのが最大の困りごとでしたね。それと、移住したばかりの頃はそれまで見たことのないような大きさの虫におののいていました。もうずいぶん慣れましたけれど(笑)」。
03| 地域おこし協力隊員として活躍後、そのまま住み続けることに
元は蔵だったスペースを、家族の手を借りて暮らしの空間にDIY
壁に設置した本棚はトコさんの父親作。毎月テーマを決めて本を並べている
国内はもちろん海外でもいろいろな場所で暮らした経験を持ち、以前は復興支援関係の仕事で仙台市に住んでいた経験も。そんなトコさんがいすみ市に住む決意をしたのは、2016年にいすみ市の地域おこし協力隊に着任したことがきっかけでした。着任後の3年間は、自身のスタートアップにつなげるための資格取得など、起業支援としてさまざまなサポートを自治体から受けることができたといいます。
蔵の2階の外壁を囲むまでに大きく育った難波茨(ナニワイバラ)
地域おこし協力隊員として地域に関わったことが、その後のトコさんの人生に大きな影響を及ぼす結果となりました。地元のコミュニティとの深いつながりが生まれ、3年間という任期が過ぎてからもいすみ市に住み続けることを決意するまでに。「家族ではなく単身での移住だったため、最初は地元のコミュニティにうまく溶け込めるのか? と、やや不安に思ったこともありました。でも、隊員としての活動が終わる頃には、みなさんが次の仕事の心配までしてくださって……」。
寒い時期は5分早く起きて、コーヒー豆を挽く音と香りに包まれる朝時間を堪能
「いすみ市での暮らしの魅力はいくつもあります。まず、養鶏や養蜂など、都会暮らしでは叶わなかった経験ができること。そして自然の中で四季を身近に感じながら暮らすことができ、旬の時期に旬のものをおいしく食べられることですね。それと、毎日ワクワクさせてくれる個性豊かな人々が多いことでしょうか。都心から1時間半ほどで来られるとは思えないほど、豊かな自然とおいしいものがあふれているなど、挙げたらきりがないくらいです」。
04| 趣味と仕事をパラレルで進行。リモートワークも上手に活用
自宅に帰って来ると、迎えてくれるのは、2022年9月から飼っている烏骨鶏ファミリー
現在はいくつかの仕事を精力的にこなしているトコさん。いすみ市内の事業者の手伝いでは現場に行くことが多く、そのほかはリモートワークが多いそう。仕事ではないものの、暮らしの軸となっているのは子どもの頃からの夢だった養鶏。烏骨鶏の親鳥(カイとクイ)、その子ども(ハク)の3羽を飼っており、成長の過程を楽しんでいます。最近、さらにひよこ(サン)を迎え入れました。
「巣枠式」と呼ばれる巣箱から、巣板1枚分だけハチミツをゲット
移住して叶えられたもう一つの夢がニホンミツバチの養蜂。以前は「重箱式」と呼ばれる縦長の巣箱を使っていましたが、巣落ち(暑さで柔らかくなった巣が落下してしまうこと)したため、「巣枠式」と呼ばれる別の巣箱に引っ越ししました。この日は引っ越してからわずか2か月後にもかかわらず、かなりの量を貯蜜していたそう。「ミツバチって本当に働き者なんです。驚いたのは、季節によってもハチミツの風味や色がかなり違うこと。まさに自然の恵みですね!」。
出来のいい野菜が取れると、直売所に持っていくことも
裏庭の畑では2月に入ると春の味覚が続々登場します。「ふきのとうは2月半ばくらいから顔を出します。この頃は寒さのせいかまだ全体的に小さかったり、青黒かったりするのですが、3月に入ると容姿端麗になってくるんですよ。形のいいものが採れたら、地元の直売所に持っていくようにしています」。
本格的な石けんづくりを教えるのは、この日が初めてだったそう
「色と模様を楽しもう」をテーマにしたワークショップでの完成品
いすみ市だけでなく都内でも仕事をすることがあり、不定期で開いている石けんのワークショップがその一つ。ユニークなのは竹炭などの自然素材のほか、自宅で獲れた野菜やミツロウなどを材料に取り入れていること。「教えることは教わること。その回ごとの反省点を踏まえ、ブラッシュアップしながら石けんづくりの楽しさを伝えていきたいと思っています」。
セルビアのカルロヴツィという北部の小さな街で養蜂博物館を発見!
仕事によっては海外へ足を運ぶこともあります。セルビアには農業関係のリサーチで何度か訪れているとか。このときは仕事が終わった後、養蜂博物館を訪問。「セルビアは養蜂が盛んな国なんです。展示物のなかには昔の巣箱なども飾られていて、とても勉強になりました。敷地内にワイン醸造所もあり、お勉強の後はおいしいワインとハチミツのテイスティングを楽しんできました」。
地域の魅力を伝えるワークショップや暮らしの情報を発信することもトコさんの喜び
トコさんがニ拠点生活している理由は、旅行に行くと視野が広がるように、外から客観的に物事を眺めることができるからだといいます。「例えば言語に例えると、都会の言語をそのままほかの地域に持ち込んでもうまくいかないことが多い。その地域に合わせた翻訳作業が必要ですし、逆もしかり。ある程度『よそ者』でいる自分だからこそ、その翻訳作業ができるのかもしれません。田舎暮らしはよくも悪くも想定外のことが起こりやすいので、対応力が磨かれますよ!」。
そんなトコさんがこれからまた移住してみたいところは……?
「仙台にもう一度住んでみたいですね。もしお金と時間が許せば三拠点生活をしてみたい!」
※トコ・ワイワイさんのインスタグラムとfacebookはこちら!
https://www.instagram.com/toko_y.y/
https://www.facebook.com/yoyogi.toko.y.y/
05| まとめ
行き来するのが可能な距離であれば、住む場所を1か所に決め込む必要はないのかもしれませんね。次回は、東京から富山に移住し、お米を育てて日本酒を販売している女性のストーリーを紹介します。
この記事を書いた人
鈴城久理子 ライター
雑貨紹介や料理、インテリアなど暮らし系の記事を中心に執筆することが多いライター。ただいまメダ活実践中。