思いがけない出来事によって、都会で暮らすことに疑問を持ち、移住を検討する……。小松愛実さんの移住はまさにそのケースです。出産直後にコロナ禍に見舞われ、このまま東京で子育てをするべきか悩み、熟考のうえ自然豊かな長野市へと移り住みました。今回は、そんな小松さんのストーリーを紹介します。
ライター:鈴城久理子
CONTENTS
01| 産休・育休中のコロナ禍がきっかけで移住を検討
834.85平方㎞の市域面積のうち、山林や原野が多く占めるという緑あふれる長野市
長野県の北部に位置し、日本アルプスの清流を集める犀川(さいがわ)や千曲川が流れ、美しい山々に囲まれた街。人口365,132人(令和6年2月1日現在)を擁するこの長野市に小松さんが越してきて今年で3年目。10年住んだ東京から移住しようと決心したきっかけは、1人目の産休・育休中にコロナ禍にみまわれてしまったことだったといいます。
妙高戸隠連山国立公園は県内外から人が集まる人気スポット。公園内には絶景を楽しめるキャンプ場も
訪れる人を魅了してやまない、霊山・戸隠山の麓に創建された2000年余りの歴史を持つ戸隠神社
「このような状況で息子を東京で育てていくのか? と考えるようになりました。コロナ禍で赤ちゃんを連れてお散歩に出ることさえ躊躇してしまうような都会の生活にストレスを感じるようになってしまったんです。そのときに“移住”するなら今だなと、東京生活10年を区切りに決断しました」。移住先として決めたのは、ご主人の実家がある飯綱町(いいづなまち)から車で30分ほどの信州の中核市、長野市。標高1,200mの広大な妙高戸隠連山国立公園をはじめとする緑豊かなスポットが点在し、生活利便性もよいことから決めたのだといいます。
清流と豊かな自然に囲まれた信州にはおいしいものがたくさん。なかでも有名なのが蕎麦
もう一つ魅力的だったのは、おいしい食べ物が豊富なこと。長野の代名詞ともいうべき蕎麦は、地元民はもちろん観光客が訪れる目的といっても過言ではないほど。もちろん旬の野菜や果物、お米など農産物も豊富です。「とにかく何でもおいしいんです。夫の実家や近所の方からおすそわけをいただくことも多く、食べ物に困ることがありません。逆にもらいすぎて困るくらい(笑)」。
02| 仲よしのママ友や快適な暮らしとの別離にやや不安も
先の見えない子育てに、不安を覚えることも少なくなかったそう
移住を検討するなかで一番心細かったのは、人とのつながりを失ってしまうことだったそう。「出産直後にコロナ禍に入って孤独な子育てが始まったので、せっかく仲よくなったママ友と離れるのがとても寂しかったですね。もし夫が賛成してくれるのなら、『このまま東京でマンションでも買って暮らしていくのもありだな』とも考えたほどでした」。ほかにも、東京の便利な暮らしから離れるのが少し不安だったと語ってくれました。
03| ご主人の実家の存在、好きなことを仕事にできる可能性
生まれ故郷の群馬にどこか似ていたことも、安心して暮らせるようになった理由だそう
悩みながらも決意を固め、引っ越しを完了。実際に住み始めてみると、ご主人の実家が近くにあり、不安や悩みが杞憂だったことに気がつきます。「そもそも私自身、群馬県で生まれ、小さい頃は田舎のおじいちゃんと山菜採りに山へ行ったり、虫を捕まえたり、泥遊びしたりしていました。まるで野生児のように育ったので、自然豊かなところでの子育ては漠然とですが、考えていたことでした」。
自治体の移住サポートもいろいろリサーチして役立てることに
住まいは自分たちで探し、特にサポートは受けなかったものの、ご主人の仕事に関しては自治体の支援金を受けることにしました。「夫が長野市で設計事務所を始めるときに、創業支援金100万円を交付していただいたんです。住所を移す前に面談が必要だったので、移住する2か月前くらいに相談窓口へ出向きました。申請日は移住後、1年に1度しかなく、さらに先着順で数名だけだったので、書類の作成などかなり早くから準備していました」。
移住2年目に入る頃には、いろんな人に出会って話をしてみたいと思うように
そんな小松さんですが、実は移住して最初の年は家族以外の人と話すことが面倒に感じてしまい、極力新しい出会いを避けていた時期も。そんなかたくなな態度も、2年目に入る頃には少しずつとけていきました。1年目の反動か、今度は様々な人と話をしたくなり、新しい場所にも積極的に足を運ぶように。「それまでできないと思っていたことも、実際にやってみると、あれ? そんなむずかしくないかもって思えてきたんです。新しい場所に行き、人と会うってやっぱりおもしろいと実感しました」。
04| 染色作家、インテリアコーディネーターとしても活動
「自然と繋がるモノづくり、色を染める日々」をコンセプトに染め物作家として活動を開始
さらに、人とのつながりだけでなく、仕事に関しても大きな変化が訪れます。「長野市には移住仲間がたくさんいて、出会う人はほとんど移住者かと思うくらい。街中にシェアオフィスがいくつもあり、全国から移り住んだ人が集まってくるんです。移住前は『どうやって仕事を確立していこうかな?』と悩んでいたのですが、いろんな人と話したり、イベントに顔を出したりしているうちに、どんどん自由に考えられるようになりました。職業にこだわらず、好きなことはなんでもやって、なんでも仕事にしてしまえばいいんだと、思うようになりましたね」。
作品づくりには、オーガニックコットンなど、敏感肌や小さな子どもにも優しい自然素材を使用
アボカド、ブルーベリー、黒豆、よもぎ、カカオ、玉ねぎなど口に入れても安全な100%天然素材で染料
現在は染色作家として、またインテリアコーディネーターとして活動中。子育てとの両立を図り、家の中で完結できる仕事を基本にしています。染色の作品をつくる際に気をつけているのは、万が一口に入ってしまっても危険のない天然素材を使用すること。植物や果物の自然な色や風合いを生かすように心がけています。アイテムは、おくるみなどのベビーグッズに加え、のれんやベッドスローなどのインテリアファブリックの試作も始めています。
地元のイベント「ながのウェルネスピクニック2023」での様子
染色のお仕事も自宅での作業がほとんどで、販売はオンラインショップがメイン。たまに余裕があれば地元のマルシェなどに出店して楽しんでいます。昨年は「ながのウェルネスピクニック2023」に出店し、紅茶で染めたコースターとハギレで作るこいのぼりポシェットのワークショップを開催しました。
実家で見つけた黄色の染料になるキハダ。祖父の形見ともいうべきものだそう
染色作家になったことで、大切な思い出との邂逅(かいこう)もありました。「実家に帰ったとき、母がガサゴソと戸棚から『こんなのおじいちゃんにもらっていたんだけど、使い道が分からなかった』って黄色の染料になるキハダを取り出してきてくれたんです。大好きだった祖父は、私が染め物をやっているって知って、きっと天国で喜んでいると思います。これで何か、母に染めてあげようかなと考え中です」。
インスタに投稿する写真のスタイリングもセンス抜群
インテリアコーディネートの仕事も、自宅で資料作成をしたり、オンラインでの打ち合わせに参加するなど、リモートでのやり取りがメイン。「子育てをしているとどうしても仕事はむずかしい、と思ってしまいがち。でも、移住したことで、何かやってみたいことがあれば挑戦すればいいんじゃないかなと考え方が変わりました。長野市は二拠点生活の人も含め、全国からの移住者たくさん。様々な職業の人や様々な生き方をしている人が集まってきます。そんなみなさんが、私の背中を押してくれたんだと思います」。
人生一度きり。海外なら北欧などへ住んでみたいと思っている
現在の暮らしの環境がベストなので、国内での再びの移住は考えていないという小松さん。移住を成功させる秘訣を教えてくれました。
「移住といっても都市部への移住と、本当に田舎への移住とでは全く異なります。サポート体制も自治体により多種多様なので、移住前のリサーチは入念にするのがベストだと思います!」。
※小松愛実さんのインスタグラムはこちら!
https://www.instagram.com/conoiro_toiro/
05| まとめ
利便性も高く、ほどよい自然に囲まれた長野市。リモートワークなら二拠点生活も可能なので、移住先候補に加えてみてはいかがでしょうか?
この記事を書いた人
鈴城久理子 ライター
雑貨紹介や料理、インテリアなど暮らし系の記事を中心に執筆することが多いライター。ただいまメダ活実践中。