「好き」が高じて、それを実現するためにほかの土地に移り住む……。今回登場する津田夫妻は、そんな夢と希望があふれる移住を可能にした二人。紆余曲折の末に岡山県玉野市へと移住しました。自分たちが納得できる栽培方法や販売方法を模索しながら、瀬戸内海に面する玉野市の農園で日々「おいしいみかん」を追い求めています。
ライター:鈴城久理子
CONTENTS
01| 32歳で転職を考え、みかんの産地を移住先候補に
温暖な気候と美しい瀬戸内海を見渡せる玉野市は、移住先としても人気の街
大学進学の際に農学部を目指したものの、最終的には工学部へ進学。32歳で転職を考えたとき、もう一度農業に目を向けたという貴史さん。移住先を検討し、最終的に決めたのは、103.58平方㎞の広さに54,776人(令和6年2月29日現在)を擁する小さな街、岡山県玉野市でした。その理由は「みかん農家」として、自分たちが思う栽培方法や販売方法ができることを確信したから。
約1kmの白砂青松の海岸線を誇る「渋川海水浴場」は、「日本の渚百選」や「海水浴場百選」にも選ばれている
玉野市八浜町の両児山(ふたごやま)山頂に鎮座する氏神様の八浜八幡宮
津田夫妻が選んだ玉野市は、みかんだけでなく、さまざまな魅力が詰まった街。瀬戸内海とそれを囲む豊かな自然、そしておいしいご当地グルメ。史跡巡りをしながらノスタルジックな街並みなどを楽しむことができる約10㎞に及ぶ玉野歴史街道をはじめ、歴史ある場所や伝承などが数多く残されています。
みかんなら無限に食べられると思い、みかん農家を目指すことにした
移住先候補をみかんの産地に絞り、全国の産地を巡っていった結果、自分がやりたいと感じることができる土地を発見。それが岡山県玉野市でした。「玉野市のみかん農家は10戸にも満たない数で、70~90代の方がほとんどでした。販売方法は個人売りや道の駅などの直売所などで、どこかを通さないと販売できないなどのしがらみがなかったんです。自分たちが思う栽培方法や販売方法ができることが魅力の一つだったと思います」。
02| 会社勤めを続けながら移住先を検討し、 理想の場所へ
瀬戸内海を見渡せる場所で作業をするのは、とても気持ちがよいものだそう
貴史さんは福井市出身、彩子さんは岡山市出身。二人が名古屋で働いていた頃に知り合い、結婚後は貴史さんの故郷である福井市に住み、さらに玉野市へと移住しました。
2019年3月に移住してから約5年。移住先を探す際にはたくさん悩んだとか。「みかん栽培をメインに移住を考えたため、全国のみかんの産地を回ることになり、それが思いのほか大変でした。農業フェアなどのイベントにも何度か参加しましたが、自分が知りたい情報は直接現地を見てみないとわからないことが多かったです」と回想します。
当時はまだ会社員。1年後には退職したいと会社に報告し、会社勤めをしながら移住先を探すことになります。「自分が思う理想の場所になかなかたどり着けなかったこともあり、結局は退職後も移住先が決まっていない状態でした。こだわり過ぎたところもありますが……」。退職して半年後、ようやく玉野市に移住することになりました。
03| 6万人に満たないからこそ、人との出会いや結びつきが大きい街
100年の歴史がある大藪(おおやぶ)みかんを、地元の人から引き継ぐ
栽培方法を踏襲し、減農薬栽培を行っている
移住後は暮らしもみかん栽培を始めるときもスムーズにスタート。そしてみかん農園「もんしーファーム」を開くことに。うまくいった理由の一つには、支援制度を利用したことがありました。「玉野市にはお試し移住を支援してくれる助成金制度があって、移住前に1か月半ほど滞在したんです。滞在費用の半額を補助してくれるものだったので、長く滞在することができました。また玉野市には『うのずくり』という移住コンシェルジュさんがいて、移住後にも相談にのってもらったり、みかん農園で行うイベントなどに関する宣伝も行ってもらったり。今でもいろんな面で助けてもらっています」。
青みかん(摘果みかん)の商品開発のための試作など、日々いろんな実験も行っている
みかん汁を絞って、どれだけの量が取れるのかという実験を行っているところ
降水量が少なく「晴れの国」とも呼ばれる岡山の太陽、そして瀬戸内海の潮風をあびる最高の環境で育った大藪みかん。とても甘酸っぱく、味が濃いのが特徴です。そんなおいしさを伝えるため、試作や実験を行い、品質を上げる努力をしているそう。
みかんのほか、バジルなどの有機JAS認証のハーブ栽培も行っている。インスタグラムではハーブの楽しみ方なども提案
みかん畑によく姿を現す野うさぎ。畑と同化しているのでよく見ないと気付かないことも
地元の人たちがみかんボランティアとして収穫などをサポート
「移住してよかったのは、小さい街だからこそ人との出会いや結び付きがあるところ。うのずくりさんを通してイベントに参加すると、地元の方や先輩移住者の方、同世代の方とつながれるので、コミュニティになじむ機会を持つことができます。みかんの収穫を手伝ってもらえたり、ファンになってもらったりした結果、みかんの購入につながることも。また、人間関係もほどよい距離感を保つことができています」。
04| みかん栽培に邁進しつつ、彩子さんはデザイン事務所も経営
甘酸っぱい味が「まるで初恋の味だね!」といわれることも
「もんしーファーム」のみかん栽培の特徴は、一つずつ除草剤を使わず手作業で行っていること。収穫数はそう多くないものの、ミネラルやクエン酸が豊富なみかんは、子どもにも安心して食べてもらえるところが自慢だそう。
この日は「いちごマルシェ」に出店。オリジナルTシャツでアピール
地元だけでなく、県内のさまざまなイベントやマルシェなどに出店しておいしさをアピール。みかんはもちろん、ハーブなどを店頭に並べることもあります。
Tシャツに寝転がって着心地を確認しているような愛猫、めろんちゃん
「もんしーファーム」のかわいらしさをたっぷり詰め込んだ「もんしーファームTシャツ」なども制作。デザインしたのは独学でアートを勉強し、今はデザイン事務所を立ち上げている彩子さん。また二人で猫の保護活動もしており、猫たちの愛らしい姿はインスタグラムにもたびたび登場します。
縁あって漁協組合の建物の壁にアートを描く仕事を手掛けた彩子さん
目指しているのは、「すし画」という独自の表現を確立することだとか
毎年11月・12月のみかんの繫忙期は、夫婦二人で収穫や袋詰め、配送、販売を主に行っていますが、それ以外の時期の彩子さんはアートやデザインを手掛けることも。「お寿司を絵にするアーティスト」というコンセプトで、Sushiko(すしこ)という名前でユニークな作風の作品を発表しています。
岡山駅の近くにある「スムージーカフェMARE」にもみかんを提供
最後に経験を通した移住に関するアドバイスをお聞きすると、こんな経験談を付け加えてくれました。
「われわれの場合、移住してから徐々に暮らしを整えていく方法をとりました。最初の1年は、仮住まいとして市内でも利便性の高い場所を選んだんです。移住前は家賃が安いところに住めたらいいと考えていたので狭い家に決めたのですが、だんだん農機具など置き場が必要になり、その後納屋付きの家に引っ越すことになりました。人脈を通じてよい物件や農地を紹介してもらえたのがラッキーでしたね。こんなふうに、移住前にすべてを決めず、移住してから生活に合わせて決めていく部分があってもいいかなと思います」。
※津田さんご夫妻(もんしーファーム)のインスタグラムと公式サイトはこちら!
https://www.instagram.com/monsifarm/
https://monsifarm.base.shop/
※彩子さん(Sushiko/すしこ)のインスタグラムはこちら!
https://www.instagram.com/sushiko.setouchi/
この記事を書いた人
鈴城久理子 ライター
雑貨紹介や料理、インテリアなど暮らし系の記事を中心に執筆することが多いライター。ただいまメダ活実践中。