未知なるおいしさにワクワクしたい時。ごはんから、少しだけ心にも栄養がほしい時。その街に行かなければ味わえないご当地の味で、ほっと和んでみるのはいかがですか? 日本各地のスーパー好きが高じて「スーパーマーケット研究家」となった菅原佳己さんが監修するご当地スーパーの‟おいしいもの”連載、第3回は京都府・京都市のスーパー「フレンドフーズ 」で買える、地元密着の味たちです。
CONTENTS
01| ‟ほんまもん”にこだわる「フレンドフーズ」
フレンドフーズ外観
世界中の人々を惹きつける観光地、京都。その一方で、日本の歴史とともに時を過ごしてきた、京都人の毎日の暮らしも詰まった街でもあります。
今回ご紹介するのは、市の中心より北、緑に囲まれた大学などの多い文教地区であり、お屋敷も多い住宅地、京都市左京区下鴨のスーパー「フレンドフーズ 」。同社が、かつて映画スターも集まる人気の飲食店からスーパーマーケットに転業したのは、1977年のこと。先代から引き継いだ、おいしくて、少なくとも体に悪くはない「ほんまもん」を全国から集めて揃えているこだわりの店は、3代目の藤田俊社長によって、さらに、地元密着のご当地スーパーとしての新しい価値を生み出し、注目されています。
その理由を知るには、惣菜売り場へ。注目したいのは、フレンドフーズ のオリジナル惣菜とともに、この日は30種ほど並んだ「井上」というシールが貼られた惣菜と佃煮。じつは、京の台所と呼ばれる錦市場商店街で、135年もの間、京都人の舌を喜ばせてきた老舗惣菜店「井上佃煮店」の味は、今、このフレンドフーズでしか味わえないのです。
02| 明治17年創業、井上佃煮店の看板商品「ちりめん山椒」
井上佃煮店の看板商品「ちりめん山椒」
京都でご飯のお供といえば、「ちりめん山椒」。甘辛く味付けしたちりめんじゃこに山椒の実がピリリときいた郷土の味は、井上佃煮店でも手づくりされる看板商品です。温かいご飯との相性は抜群で、日常使いに買う人が多いのですが、「京都のお土産」にと選ぶ人も多いのです。
さて、錦市場で長年愛されてきた「井上佃煮店」の味が、現在、フレンドフーズ に並ぶことになったきっかけは2019年12月の、井上佃煮店の閉店でした。
井上佃煮店の創業は明治17年、井上家が琵琶湖のしじみを佃煮にして、京都の錦市場で売ったことから始まります。梅村猛さん(70)は、同店で10代のころから働き、40代で4代目店主に。その手から生まれる佃煮やお惣菜の味は、京都の人々に愛され、全国の百貨店にも支店をもつほど、熱心に商売に打ち込みました。
一方で、10代からずっと仕事に打ち込み続けてきた梅村さんは、そのころから、様々な考えを巡らせ続けた結果、「少しゆっくりしたい」と考え始め、数年かけて、店じまいを準備。京都の多くの人々に惜しまれながら、135年の老舗の歴史に終止符を打った……はずでした。
03| フレンドフーズの藤田社長も大ファン!「万願寺唐辛子昆布」
フレンドフーズの藤田社長も大ファン!「万願寺唐辛子昆布」
井上佃煮店の閉店を知り、驚いたのがフレンドフーズの藤田社長。自社惣菜部門の立ち上げに教えを請うたお店であり、一部総菜も納めてもらっているという関係のほかに、「井上のお惣菜、万願寺唐辛子昆布が好きで」と、いちファンでもある藤田社長がとった行動は、井上佃煮店の味を残すこと。フレンドフーズの空いていたスペースで、井上佃煮店復活のオファーをしたのです。
「どこでやっても井上は井上。フレンドフーズ の井上でもないし、錦市場に戻ってもいいから」と井上の復活を願う、藤田社長。
当初は「考えます」と明確な返事を延ばしていた井上佃煮店の梅村さんも、何度も会う機会をつくっては話をしてくる藤田社長の気持ちを知り、2020年10月にフレンドフーズ で復活を果たします。その嬉しいニュースは京都だけでなく、全国の井上佃煮店ファン、いえ、梅村さんファンを喜ばせました。
「万願寺唐辛子昆布」は、辛子という名ですが、辛みはなく甘みを感じる京野菜・万願寺唐辛子を使ったお惣菜。万願寺唐辛子の風味と軟らかな口当たりに、旨みと塩気の昆布が絡み合う、一番の人気商品です。「ご飯が進んで、子どもたちと取合いになる」と藤田社長も大絶賛の味です。
04| 井上佃煮店・梅村猛さんの技が光る「井上のお惣菜」
井上佃煮店・梅村猛さんの技が光る「井上のお惣菜」
「入ってくる食材によって、日によってつくるものを変えます。毎日くるお客さんのために、飽きないよう工夫しています」と梅村さん。スーパーの厨房はひとつしかないため、空いている時間をつかって、娘の梅村美都(みさと)さんとスタッフの3人で、佃煮とお惣菜を手づくりしています。ほとんどの商品は、長年かけて梅村さんが自ら開発したもの。「正直、可愛らしい」と、愛情いっぱい。
「今日は、滋賀の今津町の岡本さんの柿をつかった柿なますがおすすめです」、「えび豆は、琵琶湖で獲れるエビをつかって大豆と甘辛く炊いた、京都の昔からの味。おいしいですよ」と、店先に立つ梅村さんが一人の客に説明すると、二人、三人と、その商品をカゴに入れていきます。確かに、ほかのスーパーでつくり手が自ら惣菜を説明してくれることがないので、説得力がすごい!
「今はこうしてフレンドフーズ でやらせてもろうてますけど、お客さんとの会話で、次、何つくろうなかと励みにもなっています」と梅村さん。フレンドフーズとしても「井上佃煮店、いえ、梅村さん目当てにお客さんが来てくださるということはプラス」と藤田社長。
今日も梅村さんの「おおきに! ありがとうございますぅ」の京都弁が店に響いています。
※今回紹介した商品の価格(すべて井上佃煮店、税込価格)
「井上のちりめん山椒」80g:750円
「万願唐辛子昆布」100g:411円
「柿なます」100g:280円
※季節商品につき、今季は終売
「えび豆」100g:280円
05| 「フレンドフーズ 下鴨店」店舗情報はこちら
フレンドフーズ 下鴨店
住所:〒606-0831 京都市左京区下鴨北園町10-6
TEL:075(722)0451
営業:10:00~21:00
定休日:1月1日~1月3日
※価格は取材時の税込み価格です。予告なく、価格や商品仕様の変更、取り扱いの有無が生じることがあります。