公開日: 2024.06.07 最終更新日: 2024.06.07

【ご当地お菓子】豊臣秀吉が愛したひと口サイズのきな粉餅。奈良・大和郡山の「御城之口餅」

【ご当地お菓子】豊臣秀吉が愛したひと口サイズのきな粉餅。奈良・大和郡山の「御城之口餅」

奈良・大和郡山の「御城之口餅」
画像提供:株式会社本家菊屋

── 地域のお菓子をひもとけば、その場所の素敵な側面が見えてくる。

お菓子をとおして街のなかにちょっとだけお邪魔する、「ご当地お菓子」連載。
第22回は、奈良県の北部に位置する大和郡山市の「御城之口餅(おしろのくちもち)」を紹介します。

ライター:吉田友希

ライター:吉田友希

01| コロンと可愛らしいひと口サイズのきな粉餅

「御城之口餅」6個入 「御城之口餅」6個入

奈良・大和郡山の御城之口餅は、コロンとした食べやすいサイズのきな粉餅。きな粉がたっぷりまぶしてあって、見るからにおいしそうなお菓子です。

割ってみると、なかには餡がたっぷり 割ってみると、なかには餡がたっぷり

国産の最高級小豆のみが使われた餡は、程よく甘く、上品。今ではめずらしい砲金の大釜のなかで、蒸気で一気に炊き上げられています。

また、きな粉には国産青大豆が、餅には近江産の餅米が使われています。国産材料にこだわり、伝統製法によって手づくりされている御城之口餅は、素朴だからこそ魅力的。餡、餅、きな粉、それぞれの風味や食感が絶妙なバランスで掛け合わさり、唯一無二のおいしさを生み出しています。

そして、もうひとつ。この御城之口餅には、壮大なストーリーがあるんです。

02| あの秀吉も食べた、400年以上続く味

画像提供:株式会社本家菊屋 画像提供:株式会社本家菊屋

御城之口餅の誕生は、400年以上も前! 安土桃山時代までさかのぼります。

手掛けているのは、天正13年(1585年)に創業した奈良最古のお菓子屋「本家菊屋」です。同店の初代が、豊臣秀吉の弟である豊臣秀長に連れられて、大和郡山の地にたどり着いたのがお店のはじまり。

当時「郡山城」の城主を務めていた秀長が、兄の秀吉をもてなすために「何か珍しい菓子をつくるように」と初代に命じ、その際に誕生したのが御城之口餅です。

「秀吉公は大層お気に召され、『鶯餅』と御銘を賜りました。一説には、全国に点在します鶯餅の原型だという説がございます」と、本家菊屋の当主である菊岡洋之さん。

2023年のNHK大河ドラマ「どうする家康」では、豊臣秀吉役のムロツヨシさんがお餅を食べる描写があります。あの秀吉も口にした御城之口餅を今もなお食べられるとは、感慨深いです。

本家菊屋がお城の大門を出て町人街の一軒目にあることから、いつしか御城之口餅と呼ばれるようになったそう 本家菊屋がお城の大門を出て町人街の一軒目にあることから、いつしか御城之口餅と呼ばれるようになったそう

さらに、菊岡さんから、本家菊屋にまつわる興味深いお話も。

「秀吉公の時代の千利休さんから数えると、お茶のお家元は現在15〜16代目です。私は菊岡家の26代目ですので、さらに10代ほどさかのぼれるかと思います。

1代を25〜30年で計算すると、250〜300年程度さかのぼれることになります。ひょっとしたら、弊店には、700年の歴史があるのかもしれません」。

700年前というと、鎌倉時代! とても想像におよびませんが、ロマンを感じるお話です。

03| 2026年NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」とも縁深い

そして、豊臣秀長といえば、2026年の大河ドラマ「豊臣兄弟!」で主人公として描かれることが決定しています。

秀長は、秀吉の右腕として天下統一に貢献した人物。奈良・大和郡山で、郡山城主を務め、本家菊屋(本店)が位置する城下町エリアの整備を行ったことでも知られています。

御城之口餅は、秀長の発言により誕生したお菓子です。歴史に思いを馳せながら、いただくのもいいかもしれませんね。

04| 「奈良にうまいものなし」というけれど……

本家菊屋 本店の店内。貴重な茶釜や多くの木型が残されている
画像提供:株式会社本家菊屋 本家菊屋 本店の店内。貴重な茶釜や多くの木型が残されている
画像提供:株式会社本家菊屋

菊岡さんに地域への想いを伺ったところ、奈良の魅力をたっぷり教えてくださいました。

「何かと“はじまりの奈良”ですので、奈良には色々なものがあるのですが、控えめな県民性から、『奈良のおすすめは?』と聞かれたら『何もありません』なんて答えます。

志賀直哉の随筆『奈良』のなかで綴られた『奈良にうまいものなし』が一人歩きしてしまっていますが、実は後で奈良の食文化を褒めています。お菓子としては、大和橘奈良饅頭鶯餅。お菓子以外にも、清酒や素麺、春雨など……。奈良の発祥のものは多いです」。

そして、大和郡山については、こんな風に。

「大和郡山は、明治維新までは城下町として奈良で一番賑やかな経済都市でした。奈良市と県庁所在地を争った街でもあります。他府県では国宝に指定されるような国宝級のものも多くありますが、国宝が多すぎる奈良ゆえに目立たず、観光でも飛ばされてしまいます。

大和郡山市のマンホールには金魚が 大和郡山市のマンホールには金魚が

そんな大和郡山にも、金魚の生産高日本一というものがあったりいたします。お茶文化も盛んな土地で、歴史的な茶人もいらっしゃいました」。

郡山城跡をはじめとする文化遺産が豊かな大和郡山市。金魚の生産が盛んなこともあり、「お城と金魚の街」ともいわれています。そんな大和郡山で代々引き継がれ、地元の誇りとして愛されている御城之口餅。郷土の偉人である豊臣秀長が注目されている今、ますます目が離せません。

本店の外観 画像提供:株式会社本家菊屋 本店の外観 画像提供:株式会社本家菊屋

奈良・大和郡山の「御城之口餅」、ごちそうさまでした。


本家菊屋
本店所在地:奈良県大和郡山市柳1-11
TEL:0743-52-0035
営業:9:00~18:30、元日休
https://kikuya.co.jp/
※奈良県内に7店舗あり。オンラインショップでも購入可能

吉田友希

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