「前川自邸」は、太平洋戦争中の1942年に竣工し、現在は江戸東京たてもの園に移築・展示されている名作住宅です。日本近代建築の巨匠・前川國男は、1928年にパリのル・コルビュジェの下で2年間修業し、帰国後はアントニン・レーモンドの下で働き、モダニズム建築を吸収します。レーモンドから独立し、自分の事務所を構えた前川でしたが、太平洋戦争中は大きな仕事に恵まれませんでした。前川自邸は、「建築の暗黒時代」にモダニズムを実践した住宅です。
前川自邸の最大の特色は、外観は瓦葺の切妻屋根という日本の木造伝統建築にのっとりながら、モダニズム建築の5原則「ピロティ・自由な平面・自由な立面・水平連続窓・屋上庭園」のうち、屋上庭園以外を踏襲していることです。ファサード(正面から見た形)はよく見ると五角形になっており「自由な立面」をつくっています。開口部は4枚の引き戸からなる「水平連続窓」で、屋内にはロフトがあり窓を開けると「ピロティ」になります。そして、廊下や縁側のないリビングは「自由な平面」です。前川は、ロフトの書斎で、天気のよい日は寝そべっていたそうです。空襲で銀座の事務所が焼けたのちは、この書斎にこもって仕事を続けました。