「仕事ばかりの生活を変えたい。家に寝に帰るだけの暮らしから抜け出したい……」。そんな想いで東京の都心から埼玉県入間郡越生町(いるまぐんおごせまち)に移住したkumikoさんの移住ストーリーを前・後編で紹介します。空き家バンク制度を利用して築40年の平屋戸建てを格安で入手し、夫婦で少しずつセルフリフォーム。6年かけて変身させたわが家は、ただ帰るだけの家ではなく、とっておきの時間を過ごす大切な空間となっています。
ライター:鈴城久理子
01| 家に寝に帰るだけの都会の暮らしから脱出
JR八高線・東武越生線の越生駅の改札を抜けると、歓迎の看板が迎えてくれる
「暮らしをもっと楽しみたい。緑豊かな自然を身近に感じる暮らしがしたい」と、長年住んだ東京を後にしてkumikoさんが移り住んだのは越生町。40.39平方kmの広さに10,809人(令和6年8月現在)が住む小さな町で、電車で約1時間半で都心まで出ることも可能なロケーションです。
関東三大梅林の一つとして名高い「越生梅林」。約2haの園内に約1,000本の梅の木が植えられており、その美しさは圧巻
約300本の桜が咲き誇る「さくらの山公園」の園内。階段を上ると戦没者の遺骨などを祀った「世界無名戦士之墓」へと通じる
埼玉県の西部にある越生町は都心から50km圏内に位置し、町の約7割が山地という土地柄。「ハイキングのまち」として知られ、越生駅前には朝からハイキングに向かう人々の姿が見られます。「ここは自然に恵まれていて、春から夏にかけてはウグイスのさえずりが家の中まで聞こえてくるんです。夜になるとフクロウの鳴き声が遠くから響いてくることも。『越生梅林』や『さくらの山公園』など、四季折々の花を楽しめるスポットが多いのも魅力ですね」とkumikoさん。
「五大尊つつじ公園」は関東屈指のつつじの名所。約10,000株のつつじを楽しむことができ、なかには樹齢300年を超える古木もあるそう
「『越生梅林』と『さくらの山公園』、そしてこの『五大尊つつじ公園』は、四季折々の景観や名所を巡るハイキングコースになっています。気軽に登れる低山『越生10名山』もハイキングにおすすめです。また、古くから続く行事も多く、『世界無名戦士之墓の慰霊大祭』や6台の山車が巡る『越生まつり』では花火大会も行われ、いつも静かな町に花火の音が響き渡るんですよ」。
02| 独り暮らしの母の家から10分の場所へ引っ越し
引っ越してきたばかりの頃の庭。小さい庭ではあるものの、夏の草刈りに悩まされたとか
kumikoさんが移住を決心したのは、ほかにも理由がありました。それは、フリーランスという仕事柄、年齢を重ねるにつれ家賃を払い続けることがむずかしくなってきたこと。また、平屋の持ち家が欲しかったから、と話してくれます。
「当初は長野か山梨周辺への移住を検討していましたが、独り暮らしの母親から遠く離れて暮らすことはむずかしく、結果的に断念しました。もともと私も夫も埼玉育ち。今の住まいは母が住む家から車で10分くらいなので、週に一度は必ず会うようにしています」。
03| 季節ごとの自然を感じながら暮らす喜び
古い平屋になじむアンティーク雑貨や家具。中央のネストテーブルは季節の花を飾る場所。この日は近所の農産物直売所で購入したひまわりとゴッホの「ひまわり」の絵でコーディネート
photo:dozaki
キッチン奥の食器棚側からのこの眺めは、ご主人のお気に入り。玄関を開けると入ってくる光と風が心地よいのだそう
photo:dozaki
空き家バンク制度で平屋を購入後、あえてその古さを残しつつ、壁に漆喰やペンキを塗るなど、できるだけ自分たちでDIY。昭和の物件ならではの間取りを生かしながら造り変えていきました。
暮らしていくにつれて、田舎暮らしのメリットだけでなく、デメリットも少しずつ体験するようになったとか。「コンビニもスーパーも銀行も歩いていける距離にはなく、車がないと生活ができない。都会暮らしでは考えられないくらい不便です。車を運転していると、タヌキや鹿が道を横切ったり、たまに猪に遭遇したりすることも。猪との遭遇はさすがに怖いですね」と笑って答えてくれます。
越生産の梅を使った梅干しや梅シロップをつくるのが、毎年の恒例になっている
地元で採れたブルーベリーがたくさん手に入ったので、甘いソーダ好きのご主人のためにブルーベリーのシロップをつくることに
photo:dozaki
保存瓶にブルーベリーと氷砂糖を交互に入れ、最後にりんご酢を注ぐだけ。1週間ほどで飲めるようになるそう
photo:dozaki
自宅の裏庭で採れたみょうが。甘酢漬けにしたり、友人におすそわけしたりと、旬の味を楽しんでいる
photo:dozaki
不便なことも多いとはいえ、移住したことでストレスの多い都会暮らしから一変、丁寧な暮らしを楽しめるようになったとkumikoさん。「このあたりはさまざまな果物や野菜が採れるんです。ご近所の方が自分で育てた野菜をおすそわけしてくれることも多いですね。春になると、引っ越しの際にお世話になった不動産会社の方がタケノコをたくさん持ってきてくれるのですが、二人では食べきれないくらい(笑)。果物はシロップにしたり、瓶詰めにしたりして季節の手仕事を楽しんでいます」。
後編では、セルフリフォームした平屋戸建てでの暮らしのこと、仕事のことなどをお話ししていただきます。
※kumikoさんとご主人のインスタグラムはこちら
https://www.instagram.com/kumiko_ogosegurashi/
https://www.instagram.com/ohsugikane/
この記事を書いた人
鈴城久理子 ライター
雑貨紹介や料理、インテリアなど暮らし系の記事を中心に執筆することが多いライター。ただいまメダ活実践中。