
移住前に北海道独自の環境を理解することが大切
広大な北の大地、北海道。雄大な自然の中でのんびりと過ごす日々は都会生活では得がたいものです。登山やキャンプ、スキー、スノーボードなど、アウトドアアクティビティが満喫できるのも北海道ならではの魅力。ただし、冬の厳しい寒さや日々の移動に車が必須なことなど、北海道独特の環境もあります。この記事では、北海道の田舎に住むメリット・デメリットを取り上げながら、移住先としておすすめの15の市町村をご紹介します。「北海道でのんびり暮らし」の第一歩をここから始めてみませんか?
CONTENTS
01| 北海道暮らしのメリット
北海道の田舎には都会生活では味わえない様々な魅力があります。具体的なメリットをご紹介します。
豊かな自然環境
約70%が森林に覆われている北海道。標高2,291mの旭岳をはじめとする山々、釧路湿原などの国立公園、日本海・オホーツク海・太平洋に面した海岸線など四季折々の豊かな自然に恵まれています。そのため、登山やハイキング、スキーやスノーボードなど、1年を通じてアウトドアライフを楽しめるのが魅力です。
雌阿寒岳の麓にある、季節や天候などで湖色が変わる「オンネトー」
夏は涼しく快適
近年は北海道でも猛暑日になることがありますが、30度を超える日は多くありません。梅雨がなく、湿度が低くカラッとした気候で、残暑も長くは続きません。台風も北海道に上陸する頃には勢力が弱まり、温帯低気圧になるため、雨は降るものの強い風が吹くことも少ないようです。
住居費など生活コストが抑えられる
北海道の住居費は全国平均と比較しても安い傾向があります。住居を借りる場合、都市部と同じ家賃でも部屋数が多く広い家に住めます。また、地価も安いため、土地を購入して家を建てるのも都市部に比べるとハードルが低くなっています。
新鮮で多種多彩な食材が手に入る
日本海・オホーツク海・太平洋に囲まれている北海道。全国有数の漁獲高を誇る漁港が各地にあるため、四季折々に種類豊富な魚介類を安価に入手できます。また、小麦や大豆、じゃがいも、玉ねぎなどの農産物は全国有数の生産量を誇り、近年は米の栽培も盛んです。生乳の生産量も全国トップクラスで、多種多彩な乳製品が生産されています。こうした背景から、ジンギスカンや石狩鍋、スープカレー、札幌・旭川ラーメンなどのご当地グルメも豊富です。
さまざまな海鮮や野菜と共にズワイガニを楽しむ、冬の定番料理「カニ鍋」
冬でも室内は暖かく過ごせる
北海道の住宅は、冬の寒さを想定して気密性の高い構造となっています。窓や玄関なども二重構造で冷気をシャットアウト。暖房設備もしっかりと整っているため、真冬の住宅の室温は、北海道が日本一といわれるほどです。
02| 北海道に住むことのデメリット
日本列島の北端にあり、広大な面積を有するだけに、あたたかい地方では想像できないこともあります。事前に知っておきたいデメリットをチェックしましょう。
厳しい寒さ
冬季は最高気温が0度に達しない真冬日も多く、最低気温がマイナス20度を下回る地域もあります。また、積雪も多く、戸建て住宅に住む場合は自宅周辺の雪かき作業が必須です。集めた雪を雪捨て場へ運ぶ作業も発生します。
北海道の中央南部を南北約150kmにもおよぶ山脈「日高山脈」
生活コストが高くなる
メリットで挙げたように冬の室内は非常にあたたかく快適ですが、室温を保つためには暖房が欠かせません。そのため、冬は電気代や灯油代、ガス代などが非常にかさみます。また、自動車もスタッドレスタイヤをはじめ冬用の装備が欠かせず、コストが上がります。
日常の移動は車が必須
北海道は都市部を離れると公共交通機関が発達していないので、移動は車が基本。通勤や買い物をはじめ、日常生活の多くを車に依存します。冬は積雪や路面凍結なども頻繁に起こるので、雪道の運転に慣れる必要があります。
医療機関や商業施設へのアクセスが不便
人口の少ない市町村では、近場に医療機関や商業施設がないことも多く、車で出かけることになります。子育て中の家庭にとっては、産婦人科や小児科などの専門医の不足が不安要素になります。
03| 北海道に住むなら知っておきたいポイント
北海道の暮らしのメリット・デメリットを知ったら、より具体的に移住や定住を想定したチェックポイントをおさえておきましょう。
医療機関が充実しているかどうかをチェック
北海道の田舎では医師不足が深刻な問題となっています。札幌や旭川など都市部に医師が集中する一方で、医療提供が困難な状況の市町村もあります。また、内科や外科などの一般的な診療科はあるものの、精神科、産婦人科をはじめとした専門科の医師が不足していることが多く、特定の医療を受けられないケースもあります。経営難の病院も多く、医療サービスの質の低下も懸念されるほか、緊急医療体制が不十分な地域も。移住にあたっては、市町村内および近隣にどのような医療機関があるのか、また、医療体制が充実した都市が周辺にあるかどうかをチェックしましょう。
交通事情を把握する
北海道の郊外や田舎の地域では車が主要な通勤手段です。都市部を除き公共交通機関が限られているため、多くの人が自家用車を利用しており、会社員の半数以上が車通勤をしているようです。通勤において、天候の影響を大きく受けるのも北海道ならでは。冬季は積雪や凍結などで道路状況が悪化するので、運転には慎重さと慣れが必要です。移住時期が秋だと、道路状況などに慣れる前に冬を迎えてしまうので、移住する時期を考慮しましょう。
北海道は広大なので空路が発達しており、新千歳空港をはじめ、道内に10か所以上の空港があります。東京への直行便がある空港は新千歳空港や旭川空港、函館空港などに限られますが、こうした主要空港を経由すれば直行便のない空港からも東京へのアクセスは良好。東京との二拠点生活やテレワークなどを考えている人は、空港アクセスのよさも移住先選びでは念頭に置きましょう。
冬の備えについてあらかじめ知っておく
北海道の冬は、11月から4月初旬頃までの約半年の間続きます。積雪や凍結、寒さなどへの対応は必須です。あらかじめ、どのような対応が必要なのか理解しておきましょう。
生活に欠かせない車は、雪や凍結に備えスタッドレスタイヤを装着することが必須です。ワイパーなども必要に応じて冬用を準備します。また、冬季は急発進や急ブレーキを避け、慎重に運転することが肝心。移住当初は、冬道安全講習を受けることをおすすめします。
雪対策も北海道では必須事項です。一軒家の場合、自宅周辺の除雪・雪かきは必ず行います。本格的に雪が降る12月~3月頃は、スコップやスノーダンプを使う雪かきが日課となります。とくに雪の多い地域では家庭用除雪機も普及しています。
また、凍結した路面を歩くためには、靴底に滑り止めがついた冬靴が必要です。歩き方も狭い歩幅でゆっくり歩く、すり足で歩くなど、凍結路の歩行はコツを覚えるまでより慎重に行いましょう。
04| 北海道移住に人気の田舎エリア15選
沼田町
北海道のほぼ中央、空知エリアの北西部に位置します。町内には、JR留萌(るもい)本線の石狩沼田駅があり、旭川までは電車で約1時間です。町の南部は平坦な石狩平野の北端にあたり、水田地帯が広がっています。市街地や農耕地はこの平坦部を流れる雨竜川沿いに南へ向かって開けています。西側は牧場や畑作地帯があり、他の二方は山岳地帯となっています。気候は内陸型で、四季の変化がはっきりしており、自然を通じて季節の移り変わりを感じられます。
NHK連続テレビ小説「すずらん」のロケ地にも使われた、北海道屈指の絶景ポイント「萌の丘」
人口は3,000人を下回っており、高齢化も進んでいることから、町域と公共施設のコンパクト化を推進しています。石狩沼田駅を中心に、ほぼ半径500mの範囲内に主要な施設を集約する「町内を歩いて回ることができる環境づくり~あるくらす」施策を展開中です。小・中学校や保育所、高齢者の施設などを、徒歩圏内に再配置することで、車に頼らなくても町内を歩いて回れるよう環境づくりを進めています。
移住定住支援の充実で知られ、町内に戸建て住宅を建てて住む場合、最高で570万円(奨励金額を合算した限度額)と、日本でトップクラスの援助が受けられます。そのほか、40歳未満の世代を対象とした集合型賃貸住宅の家賃補助、1世帯あたり30万円上限の助成が受けられる結婚新生活応援事業などが用意されています。
また、「子育てしやすいまちづくり」を掲げ、街全体で子育て世帯をサポート。10万円の出産祝い金、18歳までの医療費全額助成、高校生の保護者に高校生1人あたり月額1万円の支給、暖房経費の補助として商品券1万円分の助成などを行っています。さらに、小中高生の子どもを持つ世帯に対して新米一俵(60kg)を贈呈する「ぬまたライフサポート事業」といったユニークな施策もあります。
美瑛(びえい)町
北海道のほぼ中央に位置する町で、旭川市と富良野市のちょうど中間にあたります。旭川空港からは車で約15分、旭川駅からは電車で約30分、札幌や新千歳空港からは約2時間半の距離です。
町内は波状丘陵と呼ばれる、なだらかにうねる丘陵地帯と十勝岳連峰を望む緑豊かな自然が特徴です。ラベンダー畑の美しい景観で知られ、街全体が「景観計画区域」に指定されており、美しい風景を次世代に伝える取り組みが行われています。また、「日本で最も美しい村」連合に加盟しており、「白金青い池」や「四季彩の丘」などの観光スポットも点在します。
6月後半~7月半ばにかけて、じゃがいもの白い花が満開に。広大な美瑛の丘を白く染める
人口は約9,200人。基幹産業は農業で、小麦、甜菜、豆類、馬鈴薯などの畑作が中心。また、その美しい農村風景は多くの観光客をひきつけ、観光関連も重要な産業となっています。
約15ヘクタールの広大な敷地一面に花が咲く「四季彩の丘」
移住定住支援としては、東京圏からのUIJターンによって美瑛町で新たに就業する際、単身での移住者には最大60万円、世帯での移住者には最大100万円の移住支援金が支給される「UIJターン新規就業支援事業」があります。18歳未満の子どもがいる場合は、1人につき100万円の移住支援金が加算されます。また、「美瑛町テレワーク推進事業」として、テレワーク施設を貸し出しており、年度内で最長2か月間利用できます。個人事業主やフリーランスだけでなく、テレワークを実施している企業の複数の従業員でも利用可能です。お試し移住プランの「セカンドホームびえい」では、計6棟の体験住宅が用意されており、最長1年間のお試し移住が体験できます。
下川町
北海道北部に位置する人口約2,800人の町です。町の広さは東京23区に匹敵し、その約9割が森林となっています。人口の約8割が市街地の半径約1kmのエリアに暮らしており、その範囲に行政機関や医療機関、スーパー、飲食店がそろっているので、不便なく日常生活を送ることができます。普段の生活は車がなくとも可能で、町民同士の交流も盛んです。
サンルダムにより形成された人造湖「しもかわ珊瑠(さんる)湖」
北海道北部に位置する人口約2,800人の町です。町の広さは東京23区に匹敵し、その約9割が森林となっています。人口の約8割が市街地の半径約1kmのエリアに暮らしており、その範囲に行政機関や医療機関、スーパー、飲食店がそろっているので、不便なく日常生活を送ることができます。普段の生活は車がなくとも可能で、町民同士の交流も盛んです。
町の基幹産業は林業・林産業・農業・酪農です。特に林業では循環型森林経営を実施しており、町有林では木質バイオマス燃料を利用した再生可能エネルギーの自給を目指しています。「SDGs未来都市」として選定されており、持続可能な開発目標を町の計画に組み込んでいます。こうした取り組みが評価され、2017年には日本SDGsアワードで内閣総理大臣賞を受賞しました。
下川町は、移住希望者に対して多角的な支援を行っており、「下川町移住サポートデスク」には、専任の担当者が常駐し、移住に関する相談をワンストップで受け付けてくれます。
東京23区から移住し、下川町内の一部の中小企業等に就業した人、テレワークによる就業をした人に対しては町から交付金を支給。単身の場合は最大60万円、夫婦や家族で移住する場合は最大100万円が支給されます。また、移住体験プログラム「しもかわちょっと暮らし体験」を提供しており、2~3泊程度の旅程をプランニングしてもらえます。滞在中すべての時間をコーディネートするのではなく、残りの時間は町内のスーパーや飲食店、公園を散策して下川暮らしをイメージできる設定です。
栗山町
北海道の空知エリアにあり、岩見沢市、夕張市、長沼町、由仁町に接する栗山町。人口約1万1,000人の町で、札幌市や新千歳空港、苫小牧市へは車で約1時間の距離です。農業が盛んで、米やじゃがいも、玉ねぎ、アスパラガスなど多種多様な農作物を栽培しています。国蝶・オオムラサキの国内北東限生息地域としても知られ、豊かな自然に囲まれています。市街地には日常生活に必要な商業施設も揃っており、生活の利便性も高いのが特徴です。
22年の歳月と186億円の巨費が投じられ、1994年に完成した栗山ダムの紅葉
栗山町では、若者や子育て世代を対象とした助成制度が充実しています。住宅取得費用助成制度では、新築住宅を取得した場合に最大120万円の助成が受けられ、町内の事業者で新築した場合はさらに20万円が加算されます。中古住宅の場合は、取得費用の10%(上限30万円)が助成されます。また、中古住宅をリフォームする際には、工事費用の30%(上限30万円)が助成されます。そのほか、町内の民間賃貸住宅に居住する場合、単身世帯は最大1万円、単身以外の世帯は最大2万円の家賃助成が受けられます。
さらに、町内には家具や電化製品が完備された「くりやま暮らし体験施設」が複数用意されており、実際の生活環境を体験しながら、町の雰囲気を感じることができます。滞在期間は最低1週間から最長1か月まで可能です。
東川町
北海道のほぼ中央に位置し、大雪山国立公園の麓に広がる人口約8,600人の町です。北海道第2の都市である旭川市に隣接しており、旭川市中心部までは車で約15分と生活圏内にあります。旭川空港までは車で約10分と、道内各地や日本各地へのアクセスも良好です。
日本最大級の自然公園「大雪山国立公園」の区域の一部になっている、東川町の風景
東川町は、1985年に世界にも類を見ない「写真の町」宣言を行い、2014年には「写真文化首都」としての地位を確立しました。その美しい町の景観を生かし、写真文化を通じた町おこしを進めてきました。町内では写真に関連するイベントや文化活動が盛んに行われており、観光客にとっても魅力的なスポットとなっています。
また、東川町は北海道で唯一、上水道がない町として知られています。大雪山の雪解け水が長い年月を経て地下水となった天然のミネラルウォーターで、飲料水はもちろん、風呂水などの生活用水、豆腐や酒の仕込み水にも利用されています。さらに、この水は米や野菜などの農作物の栽培にも生かされ、その品質の高さには定評があります。
東川町では、移住を促進するため「移住支援金制度」を設けています。条件を満たす移住者には、単身世帯60万円、2人以上の世帯で最大100万円、さらに18歳未満の子どもを伴う場合は、1人につき追加で100万円の支援が受けられます。また、移住者が新たに起業する際には、産業振興支援制度として事業立ち上げ費用の一部を助成。さらに、中小企業融資制度では、一定の条件を満たす事業者に対して融資の利子や保証料を補助しています。
大空町
北海道の北東部、オホーツク海と阿寒・知床に挟まれた肥沃な田園丘陵地帯に位置する大空町。南に屈斜路湖、北に網走湖があり、雄大な景色が魅力です。2006年に女満別町(めまんべつちょう)と東藻琴村(ひがしもことむら)が合併して誕生しました。年間を通じて晴天の日が多く、網走湖やメルヘンの丘など、オホーツクの自然を満喫できます。典型的な大陸性気候で、特に内陸部は降雪量が多く、豪雪地帯として知られています。一方、オホーツク海沿岸の降雪量は少なく、比較的温暖な気候です。
女満別空港から来るまで10分ほどのところにある「メルヘンの丘」。7本のカラマツが並ぶ絵本のような風景が広がる
町の人口は約7,000人。基幹産業は農業で、麦類やじゃがいも、てんさい、大豆などが主要作物です。日本最東端の米の栽培地でもあります。また、酪農も盛んで、様々な乳製品の加工も行われています。
市街地から車で約5分以内の場所に女満別空港があり、羽田、中部、関西、伊丹など主要都市を結ぶ直行便が運航しています。日本各地へのアクセスが便利なのも大きな利点です。東京と大空町の二拠点生活や、リモートワークの拠点として自然豊かな生活を楽しむこともできます。
大空町では、移住者の定住を促進するため、様々な定住支援制度を用意しています。UIJターン移住支援金は、東京23区に在住または通勤していた人が、大空町に移住した場合に支給される制度で、単身移住者には60万円、世帯移住者には100万円が支給されます。さらに18歳未満の世帯員を帯同して移住する場合、1人につき100万円が加算されます。また、結婚を機に大空町で新生活をスタートする夫婦には、住居費や引越費用の一部を補助し、1世帯あたり30万円を上限とする支援が行われます。そのほか、大空町に定住を目的として新築住宅を建てた人には、住宅新築助成金として最大150万円が支給されます。
池田町
十勝平野の中央やや東寄りに位置し、東は浦幌町、西は音更町と士幌町、十勝川を挟んで幕別町、南は豊頃町、北は本別町と接しています。町の中央を南北に利別川が流れる平坦な地形で、町の面積の4分の1強が農地という、農業が非常に盛んな町です。特にブドウの栽培が有名で、町営のワイン醸造所を有し、1963年に日本で初めて自治体運営によるワイン製造を始めたことから、「ワインの町」として知られています。
十勝ワインの魅力を体験できる「いけだワイン城」は、ヨーロッパの古城を思わせる外観で親しまれている
「十勝晴れ」と呼ばれる爽やかな晴天に恵まれる日が多く、日照時間は年間2,000時間を超えます。夏は最高気温が30度を超え、冬は氷点下20℃を下回る日もあり、寒暖差が大きく、四季の移り変わりをはっきりと感じられる気候が特徴。積雪が少ないため、交通の利便性も高く、帯広空港までは車で約50分、札幌からは列車で約2時間45分とアクセスも良好です。
池田町は、住宅関連の移住支援が充実しています。新築住宅を建てる場合には50万円、中古住宅を購入する場合は最大30万円の補助が受けられる「住宅取得応援奨励金」が用意されているほか、住宅のリフォームに対して経費の一部を助成する制度や、賃貸住宅の家賃補助、家具購入に対する補助金なども整備されています。
また、首都圏から池田町に移住した場合に支給される「UIJターン移住支援金」もあり、単身移住者には60万円、世帯移住者には100万円が支給されます。さらに、1歳および2歳の誕生日を迎えた子どもにはそれぞれ5万円の支援があるほか、中学校修了前までの子どもを対象に医療費の助成も行われています。
秩父別(ちっぷべつ)町
北海道の中西部、石狩平野の北端に位置する秩父別町は、道内で2番目に小さい町として知られています。町の東部は丘陵地帯で、そのほかは平坦な地形が広がっています。町の面積の約7割が農地で、その多くが水田となっており、「ゆめぴりか」や「ななつぼし」など、良質な米の生産地です。
園内には、約300種類、約3,000株のバラが優雅に咲く「ローズガーデンちっぷべつ」
町の人口は約2,000人。市街地は田んぼに囲まれ、まさに日本の田舎の原風景が広がります。また、秩父別温泉を中心に、道の駅「鐘のなるまち・ちっぷべつ 道央」、「キッズスクエアちっくる」、キャンプ場「ベルパークちっぷべつキャンプ場」などの施設が隣接しており、休日には多くの観光客が訪れます。農村風景のなかで暮らしながら、天然温泉や各種アウトドアアクティビティを楽しむなど、ゆったりとした時間を過ごせます。
車を利用すれば、札幌まで約1時間10分、旭川まで約45分とアクセス良好です。新千歳空港・旭川空港のいずれにも秩父別町からアクセス可能です。秩父別町市街地への移動にはJRやバスなどの公共交通機関が利用でき、JRを利用すると新千歳空港までは約2時間、旭川空港へは約1時間10分です。また、札幌市街との間は高速バスが運行しており、所要時間は約2時間45分です。
秩父別町では、若い世代の定住を促進するために子育て世帯や新婚世帯を対象としたさまざまな助成事業を行っています。2019年には「子ども子育て応援宣言」を行い、町内で結婚したカップルに対して20万円の祝金を支給。また、新婚や子育て世帯には引っ越し費用の助成も行っており、新婚世帯には20万円、子育て世帯には通常20万円、高校生以下の子どもが3人以上いる場合は30万円が支給されます。さらに家賃助成もあり、家賃の自己負担額が2万5,000円を超える場合は、その超過分が助成されます。
また、住宅関連の助成も充実しています。住宅リフォームを行う場合、現在住んでいる住宅の改修なら対象経費の3分の1(上限30万円)、町内の空き家を改修する場合は対象経費の半分(上限100万円)が支給されます。新築住宅を取得した場合には100万円の補助金が交付され、扶養人数によって補助額が増額されます。たとえば、扶養1名の子育て世帯には50万円、2名の場合は100万円、3名以上の場合は150万円が支給されます。
日高町
日高町は北海道の中央よりやや南西部に位置し、間に平取町をはさんだ飛び地となっており、北側の日高地区と南側の門別地区でひとつの町を構成しています。南部は太平洋に面し、東部はほぼ森林に覆われており、「日高山脈襟裳十勝国立公園」や沙流川など、美しい自然の景観が広がっています。なかでも日高山脈は登山やハイキングに適した場所として知られ、キャンプや川でのラフティング、スキー・スノーボードなど、1年を通じてアウトドアライフを満喫できます。
町内には競走馬の生産から育成までを行う育成牧場が約1,100戸あり、約2万頭の馬がいる日本最大の一大馬産地になっている
町の人口は約1万人。競走馬の生産地として有名で、町内には多くの牧場が点在しています。毎年、町内の「門別競馬場」では「ホッカイドウ競馬」が開催され、競馬ファンや観光客が訪れます。また、野菜づくりや稲作、酪農などの農業も盛んです。さらに太平洋に面して3つの漁港があり、ソウハチカレイ、スケトウダラ、サケ、サバ、シシャモなどが水揚げされます。シシャモの養殖も行われており、地域の特産品として人気があります。
日高町では、町内で新築住宅もしくは中古住宅を取得した人に対して、購入費用の一部を助成する事業を実施しています。新築住宅の場合は一律100万円、中古住宅は上限50万円、さらに子育て加算として高校生以下の子ども1人につき10万円が助成されます。また、子育て支援にも力を入れており、新生児の出産に対しては、第一子は5万円、第二子に10万円、第三子に20万円、第四子以降に30万円の祝金を支給する「エンゼル祝金」制度を設けています。
釧路町
人口約1万8,000人の釧路町は、北海道の東南部に位置し、釧路湿原の玄関口として知られています。東は厚岸町、西は釧路市、南は太平洋、北は標茶町に接しています。町内の多くのエリアは平坦な釧路原野からなり、7つの一級河川をはじめ多くの川が流れています。「釧路湿原国立公園」や「厚岸霧多布昆布森国定公園」など、雄大な自然に囲まれており、四季折々の美しい風景を楽しめます。年間を通じて冷涼な気候で、盛夏の時期もクーラーは不要です。秋は降水量が少なく晴天が続き比較的温暖で、冬は晴れの日が多く積雪量は少なめですが、気温は低めです。
タンチョウをはじめとする希少な動植物の生息地になっている、日本最大の広さを誇る釧路湿原
町内から交通の基点となる釧路駅へは車で約15分、釧路空港へは約20分です。また、帯広市や根室市までは車で約2時間、札幌市へ約4時間でアクセスできます。釧路空港からは新千歳空港を経由することで、国内各地はもとより海外へのアクセスも便利です。さらに、町内の国道沿いには郊外型の商業施設が立ち並び、日常の買い物にも不便がありません。
太平洋に面していることから漁業が盛んで、昆布・サケ・カキ・ウニなどの水揚げが多いことで知られています。また、食品をはじめとした各種製造業の工場も集まっており、地域経済の中核を担っています。
釧路町の移住支援の柱は、「UIJターン新規就業支援事業」です。東京圏からの移住者が新たに町内で就業または起業をする際に支援金が交付されます。単身移住者には60万円、世帯移住者には100万円の支援金が交付され、18歳未満の子どもがいる世帯の場合は、子ども1人につき30万円が加算されます。さらに、起業する場合は、最大300万円の支援を受けることも可能です。
増毛(ましけ)町
北海道北西部、日本海に面する増毛町は、かつてニシン漁で栄えた町です。現在も漁業が盛んで、日本一の数の子の生産地として知られています。ボタンエビの漁獲高も日本一を誇り、甘エビ、タコ、ホタテなどの海産物も豊富です。また、日本最北の果樹産地を名乗っており、サクランボやプラム、水蜜、ブドウ、ナシ、リンゴなどが収穫されています。
2016年に廃線となった留萌本線の終着駅・増毛駅の周辺には、日本海の風雪に耐えた石造りや木造のレトロな建物が多く残る
増毛町の人口は約3,500人。町内は日本海沿岸の国定公園のエリアにあり、青い海と秀峰・暑寒別岳を望む美しい景観の町です。また、駅前を中心に、かつての賑わいを偲ばせる明治から昭和初期の歴史的建造物が点在し、北海道遺産に選定されたレトロな景観も名物です。気候は冷涼で、夏は比較的涼しく、冬は寒さの厳しい日が続きます。
移動手段は車が基本で、札幌へは約2時間、新千歳空港へも約2時間です。かつては留萌線が増毛駅まで延びていましたが、2016年に廃線となりました。そのため、代替交通手段として「あっぷるハイヤー」が運行されており、町民だけでなく旅行者も利用できます。
増毛町では、移住希望者が実際に町での生活を体験できる「移住体験住宅」を提供しています。利用期間は3泊以上30泊以内で、1泊あたり3,000円(冬季は追加料金あり)で利用できます。住宅には基本的な自炊用具が揃っており、町での暮らしを実感することができます。また、「新規就農者招致特別措置事業」も展開しており、新たに農業を始めたい人には奨励金や助成金が支給されるほか、農業経営に必要な資金への利子補給も行われています。
新篠津(しんしのつ)村
北海道の北西部、石狩平野の西部に位置する新篠津村は、南部が日本海に面し、東部には石狩川が流れる、自然豊かでのどかな田園風景が広がる村です。札幌市の30km圏内にあり、札幌市街までは車で約50分。近年は札幌へ通勤する人々のベッドタウンとして注目されています。なお、村内には鉄道駅はなく、バスは運行されていますが、移動手段は車が中心です。
一年を通して楽しめる「しのつ湖」。完全凍結する1月初旬から3月上旬はワカサギ釣りのメッカになる
村の主な産業は農業で、特に米や小麦、野菜、豆類の栽培が盛んです。近年は環境に配慮した有機農業にも力を入れており、全国的にも注目されています。また、観光スポットも多く、冬のしのつ湖でのワカサギ釣りや、しんしのつ温泉「たっぷの湯」、「しのつ公園」、「ニューしのつゴルフ場」など、身近な場所で自然を満喫できることから、札幌周辺から訪れる観光客も多くいます。
新篠津村の人口は約2,700人。若い世代の移住定住を支援しており、その目玉となるのが定住促進団地「みのり団地」の分譲です。分譲価格は札幌市の約3分の1と手頃で、子育て世代にも手が届きやすいのが魅力です。さらに、優遇措置を受けられるメリットもあります。みのり団地に住宅を新築し居住する人に対しては、子育て支援金が年間10万円(最大3年間)、あるいは定住支援金が年間6万円(最大3年間)、温泉入浴支援金が年間6万円(最大3年間)のいずれかを選択して受給できます。
白老町(しらおいちょう)
北海道の南西部に位置する白老町。南は太平洋、西は登別市、北は千歳市と伊達市大滝区、東は別々川をはさんで苫小牧市と隣接しています。町域は東西に細長く、その面積の約4分の3が森林で、北には「支笏洞爺国立公園」が広がるなど、海・川・山・森と、豊かで変化に富んだ自然に恵まれています。
ナラやカエデ、白樺の原生林が残るポロトの森に隣接する「ポロト湖」。夏はカヌー、冬はワカサギ釣りが楽しめる
白老町は、古くからアイヌ民族が居住してきた地であり、現在も多くのアイヌの人々が生活しています。こうしたアイヌ文化が色濃く残る地域であることから、2020年にはアイヌ文化を体験できる「ウポポイ(民族共生象徴空間)」がオープンしました。
気候は北海道の中では比較的温暖です。夏の最高気温が25度を上回ることは少なく、快適で、冬の最低気温は一桁台と穏やかで、マイナス20度を下回ることはまれです。また、積雪は10cm台後半と、他地域に比べると少なめです。
交通事情が良いのも白老町の利点です。町内にある白老駅はJRのL特急の停車駅でもあり、札幌へは約1時間、千歳へは約30分でアクセスが可能です。また、道央自動車道を利用すれば札幌市街や新千歳空港への移動もスムーズです。
太平洋に面しているため漁業が盛んで、スケトウダラやサケ、毛ガニ、ホッキ貝などが水揚げされています。なかでも「虎杖浜たらこ」は高い評価を受けています。また、北海道を代表する黒毛和種「白老牛」の生産地としても知られ、鶏卵の生産やシイタケの栽培も盛んです。近年は製紙業をはじめ、食品製造業や機械器具製造業の進出が進み、地域産業の流通拠点として白老港も整備されています。
人口が約1万6,000人の白老町では、移住者を呼び込むために様々な移住支援を行っています。「UIJターン新規就業者移住支援事業」では、北海道のマッチングサイトを通じて就業や起業を行った移住者に対し、単身者には60万円、世帯には100万円の移住支援金が支給されます。また、家賃サポートもあり、町外から町内の民間賃貸住宅に入居する若年世帯や子育て世帯に対して、最長2年間、家賃の一部を補助します。40歳未満の若年世帯には月額1万円、15歳以下の子どもがいる子育て世帯には月額1.5万円が補助されます。さらに、結婚を機に白老町で生活をスタートする新婚世帯には、最大60万円までの補助金が交付される制度もあります。
三笠市
北海道のほぼ中央、札幌市と旭川市の中間に位置する三笠市。周囲を山に囲まれた盆地で、市域の約85%が森林です。また、アンモナイトなどの化石が発見される地質学的に重要な地域であり、「三笠市立博物館」や「三笠ジオパーク」が整備され、教育や観光資源として利用されています。
標高約144mの達布山の頂上に設置された達布山展望台からの風景。石狩平野を一望できる
三笠市の気候は大陸性気候で、寒暖差が大きく四季がはっきりしているのが特徴です。夏は最高気温が30度前後になることもありますが、乾燥しており空気は爽やかです。冬は日中でも氷点下で、夜間はマイナス10度以下になることもあり、積雪も多く厳しい気候です。
市内には広大な農地が広がり、野菜や果物の栽培が盛んです。三笠メロン、三笠スイカ、三笠たまねぎ、三笠あすか梅など、特産品も多く生産されています。また、工業団地が造成されており、様々な製造業の企業が進出しています。北海道のほぼ中央に位置することから、道内各地へのアクセスも良好で、自動車を利用すれば札幌市へは約30分、旭川市や新千歳空港、苫小牧市までは1時間圏内です。
三笠市はかつて炭鉱産業で栄えた地域であり、北海道の石炭と鉄道の発祥の地として知られています。最盛期には人口が6万人を超えましたが、1990年代以降の炭鉱の閉山に伴い人口は減少し、現在の人口は約7,200人です。
こうした急激な人口減に対応するため、三笠市では様々な移住・定住支援を行っています。住宅の支援としては、「若者移住定住促進家賃助成事業」として家賃の一部を「みかさ共通商品券」で助成。単身世帯は3か月ごとに最大6万円を上限に36か月分、若者世帯は3か月ごとに最大9万円を上限に60か月分の支援が受けられます。さらに、助成期間中に結婚や出産・子育てがあった場合は、その子が中学校を卒業するまで助成期間が延長される手厚い助成です。
また、新築や分譲住宅、中古住宅の購入に対しても助成金が交付されます。転入者が市内業者で新築を建てる場合は最大150万円、市外業者の場合は100万円の助成が受けられます。さらに、結婚に伴う経済的負担を軽減するための補助として、夫婦ともに婚姻日の年齢が29歳以下の世帯には最大60万円、それ以外の世帯には最大30万円の補助が交付されます。
東神楽町
東神楽町は北海道の中央部に位置し、旭川市に隣接する町です。町内には旭川空港があり、東京へ約1時間30分でアクセスできる便利な立地です。町は上川盆地に広がり、肥沃な農地と大雪山連峰に囲まれた豊かな森林地帯で構成されています。
7月下旬から8月にかけて咲き誇る「ひまわり畑」
東神楽町は北海道の中央部に位置し、旭川市に隣接する町です。町内には旭川空港があり、東京へ約1時間30分でアクセスできる便利な立地です。町は上川盆地に広がり、肥沃な農地と大雪山連峰に囲まれた豊かな森林地帯で構成されています。
町の基幹産業は農業です。なかでも米の栽培が盛んで北海道を代表する米どころとして知られています。肥沃な土壌を生かし、グリーンアスパラガスやミニトマト、ほうれん草などの野菜栽培も行われています。また、「旭川家具」の生産を担う地域でもあり、町内には多くの家具製造関連会社があり、多くの町民が木材加工や家具製造に従事しています。
町内には大型ショッピングモールやスーパーもあり、日常の買い物にも不便はありません。「花のまち」としても全国的に知られ、かつて全国花のまちづくりコンクールで最優秀賞を受賞するなど、花を生かした美しい環境づくりにも注力しており、住環境も良好です。
東神楽町は、1989年から始まった宅地開発により、1990年には約5,700人だった人口が2000年には8,000人、2013年には1万人に達しました。2015年から2020年の間には人口増加率約10%を記録し、北海道内で最も高い増加率となりました。ただし、少子高齢化の影響もあり、現在の人口は1万人を下回っています。
こうした状況を受け、町では様々な移住定住支援策を実施しています。移住支援金として、東京23区に在住または通勤していた人が東神楽町で就業または起業する場合、単身者には最大60万円、世帯の場合は最大100万円(18歳未満の子どもを帯同する場合、1人につき最大100万円を加算)が支給されます。また、町内で起業を予定している人には、最大200万円の補助金が交付されます。そのほか家賃補助制度も整備されています。
05| 北海道の田舎での仕事・転職・求人の探し方
北海道の田舎暮らしで仕事はどうするのか。今の仕事を続けながらテレワークをするのか、現地で新しい仕事を探すのか、あるいは起業を目指すのか。そんな仕事探しのファーストステップをご紹介します。
北海道の仕事事情を知るには、まず、北海道移住交流促進協議会が運営する移住ポータルサイト「北海道で暮らそう!」をチェックしてみましょう。北海道内の市町村情報をはじめ、「しごと」や「住まい」など、暮らしに必要な情報をまとめて発信しています。北海道に移住した人のインタビューや、地域のしごと情報、空き家情報、イベント情報など、豊富なコンテンツが揃っています。
また、北海道での暮らしに関心のある人からの様々な問い合わせや相談に対応する総合相談窓口が東京と札幌に設置されており、事前予約による個別面談やオンラインでの移住相談に対応しています。
北海道での求人は、観光・サービス業をはじめ、農業、林業、漁業など自然を相手にした職種が豊富です。未経験者を受け入れ、育成をしてくれる業者や団体も多くあります。また、医療・福祉関係の求人も数多くあります。さらに、様々な業種での起業をサポートしてくれる関係団体も各市町村に設けられています。
06| 移住者の声
カナダで芽生えた“自然を大切にする暮らし”への想いを胸に、北海道・士別市に移住した﨑原さんご家族
休日には家族で山登りを楽しむ﨑原さんご家族。左から元貴さん、実徳くん、敬子さん
農業への夢を抱き、移住を決行
ロッククライミングをきっかけに出会った﨑原元貴さんと敬子さん。
元貴さんは24歳のとき、ロッククライミング留学で約1か月カナダに滞在し、その暮らしぶりに強い衝撃を受けました。日本では川に橋を架けたり道路を整備したりと、人の便利さが優先されることが多い一方、カナダでは必要最小限にとどめ、自然や野生動物がのびのびと生きられる環境があると感じました。
広大な土地を持つなか、未開発の場所への一定の配慮や、そこに暮らす人々のおおらかさも印象的でした。さらに、先住民であるインディアンをはじめ、マイノリティの人達の暮らしもあると知り「これから自分は自然や人を搾取せずに生きていきたい」と強く感じたといいます。
そんな思いを抱く元貴さんが移住地として選んだのは北海道でした。高校時代に20日間かけて親友と自転車旅行で一周した経験があり、北海道は故郷だと感じていた事も大きな理由でした。
当時交際していた敬子さんとも、将来は自然に囲まれた環境で子育てをしたいと語り合っていたそうです。家庭菜園をしたり、川で魚を釣ったりしながら、自然とともにある生活を送りたい──そんな二人の思いが重なり、2007年、北海道への移住と就農という大きな決断へとつながっていきました。
オホーツクの海風に包まれたまち、興部(おこっぺ)町。牛たちが草を食み、ゆっくりとした時間が流れる場所。厳しい自然の中でも、農業・林業・漁業などの一次産業を営んでいる
元貴さんは単身で北海道へ渡り、まずは興部(おこっぺ)町の酪農家で働き始めました。「雪の厳しさを知るには、自分の体で体験するしかないと思っての行動です。最初の冬はひとりで越えてみました」と元貴さんは振り返ります。翌春、敬子さんも北海道に移り住み、夫婦で1年半ほど酪農に従事。その後、雄武(おうむ)町で酪農ヘルパーとして2年間働き、合わせて3年半、酪農の現場で経験を積みました。そのなかで痛感したのは、「酪農はどうしても輸入飼料に頼らざるを得ない」という現実でした。「せっかく北海道という豊かな土地に住んでいるのだから、地元の資源で循環型の有畜農業がしたい」と思い立ち、平飼い養鶏へと舵を切ることを決意しました。
「大地のまち」と呼ばれる士別市。広がる丘陵、透きとおる空気、のんびり草をはむ羊たち。四季ごとに表情を変える風景が、訪れる人の心をやさしく包みこむ
新たな拠点に選んだのは士別市。「ちょうどよい土地と家が見つかって、ようやくスタートできました」と振り返ります。現在は士別町で『ファームあるむ』を営み、「昔ながらの庭先たまご」を生産・販売しています。ヒヨコを迎えてから3〜4か月で産卵を迎えるまで、餌やり・水替え・採卵・配達を夫婦で分担しています。
のびのびと地面を歩きまわる鶏たちが、地元の穀物や野菜、青草を食べて産む自慢の「昔ながらの庭先たまご」。ヒナの時から抗菌剤や飼料用添加物は一切使用せず、生まれたてのヒナから自分たちで育てている
「北海道産にこだわっているので、餌の調達がいちばん大変」と元貴さん。産卵を終えた鶏は“廃鶏”としてお肉になります。そのお肉を隣町の燻製職人が「スモークチキン」に加工。卵の宅配先でも評判の人気商品となっています。どの命も決して無駄にしないことを﨑原さんは大切にしています。
ファームあるむの平飼い卵をつかった「キミシフォン」。プレーン、くるみ、チョコ、抹茶など、お土産にも人気が高い一品。『道の駅 羊のまち 侍・しべつ』でも購入可能(毎週金曜入荷)
毎朝4時半、元貴さんは鶏舎へ出かけます。餌やりを終え、6時に家族で朝ごはん。その後、採卵・配達・餌づくり・全国発送の準備と、1日が丁寧に、けれど休む間もなく進んでいきます。それでも土日の午後はできるだけ家族の時間にしているそうです。野山にキノコを採りに行ったり、家族で川に釣りに行ったり、そんな時間が何よりの宝物だといいます。
ファームあるむでは、日当たりと風通しのいい解放鶏舎での「平飼い」が基本。季節によって黄味の色見がすこしずつ変化していく。生臭さがなく、黄味は濃厚でコク深い味わい
そんな﨑原さんご家族が、北海道の冬に学んだ“自然との付き合い方”とは何なのでしょうか。「真冬の吹雪の日、車を走らせて怖い思いをしたことが何度もあります」と元貴さん。それ以来、無理をせず天候を最優先にするようになったそうです。屋根の雪下ろしなど、命に関わる作業も多い一方で、スキーや雪山を楽しめるのもこの地ならでは。「名寄・士別・富良野といった内陸部は、日本でも屈指のパウダースノー地帯として知られています。雪が好きな人には最高の環境です」。
冬にはさまざまなウインターアクティビティを楽しめる。野生動物との遭遇も素敵な時間。雪深いまち、士別の冬は、積もる雪とともに始まる雪かきの日々。実徳くんも家族と一緒に雪下ろしの立派な戦力として大活躍
両親が働く姿を間近で見て育っている息子の実徳くん。「働いてお金を得るということを自然に理解してくれています。新鮮な卵や野菜を食べている環境もあって、好き嫌いもほとんどなく、食や料理への興味も強いですね」と敬子さん。都会では得られなかった“命のつながり”を、家族で実感できる毎日です。
農場の鶏糞を活かし、無農薬で育てたかぼちゃ。形の不揃いなかぼちゃたちは粉砕・密封してサイレージに。冬には鶏たちのビタミン源として、命を支える大切なごちそうになる
北海道への移住を考えている方へのアドバイスは、「あまり考えすぎず、思いきって飛び込んでみること。やってみれば、なんとかなるものです」ということです。新規就農には補助金や研修などの支援制度もありますが、収入が安定するまでには時間がかかります。「ある程度の貯金と体力、そして好奇心。この3つがあれば大丈夫です」
シフォンケーキづくりを楽しむ実徳くん。小さい頃から両親と一緒に手を動かし、自然に寄り添う暮らしを楽しんでいる
移住の酸いも甘いもありのままに語ってくれた﨑原さん。雪国・士別で紡がれるご家族の暮らしは、これからの日本の農業のあり方に、やさしい希望の光をともしています。
▼ファームあるむはこちら
https://farm-armu.com/
▼Instagram
https://www.instagram.com/farmarumu/
