わたしたちの生活から切っても切り離せない睡眠時間。「しっかり寝たはずなのに疲労感が出て疲れが取れない」「なんだか寝心地が悪い」なんて感じることはありませんか? それは睡眠の質が悪いからかもしれません。寝室の環境を整えるだけでよい睡眠がとれ、心も体も健康で快適な暮らしが実現できます。そこで、今回は睡眠の質を高める空間づくりのコツや失敗、押さえておきたい要点などをご紹介していきたいと思います。
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01| わたしたちの暮らしと睡眠
人生において、睡眠時間が占める割合はおおよそ1/3と言われています。平均寿命が80歳とすると、約27年間もの時間を睡眠にあてていることになります。睡眠がいかに暮らしと密接に関係しているのか感じるはずです。
日本人の平均睡眠時間は約7.5時間と先進諸国と比べても1時間程度短く、過去20年もの間、減少し続けています。いうなれば、現代の日本は睡眠不足の疲労大国と呼べるでしょう。そこから脱するには、単純に睡眠時間を増やしたらよいというものではなく、睡眠の質をあげることが大切です。
睡眠の質をあげれば、人生も質も上昇
大切なのはホルモンバランスを整えること
睡眠に深く関係しているのが「メラトニン」と呼ばれる成分で、「睡眠ホルモン」とも呼ばれます。朝日など日光を浴びるとメラトニンの分泌量が減少し、一定時間が経ち夜になると分泌量が増えることで眠気を誘います。また、この「メラトニン」には強力な抗酸化作用があることが知られています。
- メラトニンの抗酸化作用
・細胞の新陳代謝を促し、身体を休息させる効果
・疲労回復・予防効果など健康体へ導いてくれる効果
メラトニンはスーパー成分であり、ビタミンCやビタミンEを上回る抗酸化作用が期待されています。「メラトニン」の分泌量をいかに増やすかが睡眠の質を左右するキーになるのです。
では、どの様な時にメラトニンの分泌量が増えるのか? それはリラックス状態にある時です。あたたかみのある色や自然の香り、適度な明かりと自然と肌に馴染む素材感。あとは快適な温湿度環境も重要なポイントです。視覚や嗅覚など五感を通じて居心地がよいと感じることで、心身もリラックスして、深い眠りへとつけるのです。
02| リラックスできる寝室にするためのポイント
リラックスできる寝室にするにはどうしたらよいのか、視覚、聴覚、嗅覚、触覚別にポイントを押さえていきましょう。
【視覚】日当たりをよくする!
人間の生活スタイルは、日が昇るのと同時に起床をして、日が沈めば就寝するという体内リズムを構築しながら生きています。その原理として、体に日光を浴びることで睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌が抑制され、代わりに脳を覚醒させるホルモン「セロトニン(俗にいう幸せホルモン)」が分泌されます。日光を浴びるだけでなく、運動をしたり、栄養のある食事を摂取することでも「セロトニン」神経が刺激され多く分泌されます。そうすることで心身がリラックスし、メンタルの向上やストレス解消につながります。そして幸せホルモンを多く感じれば感じるほど睡眠ホルモンも多く分泌され、質のよい睡眠を促してくれるのです。
日当たりがよいということは、睡眠ホルモンを多く取り入れることができるということ。窓の位置やベッドの配置によって変わってきますので、まずは日当たりのよい家具配置を検討してみるといいでしょう。
採光が無いお部屋には窓を新しく設置する、もしくは窓の拡張などのリノベーションも検討してみては。どうしても窓を設置できない場合は、間仕切り壁に明かり取り用のガラスブロックや室内窓を設けることで、他室からの日差しを上手に取り込むことが可能です。
目が覚めると窓の外の風景が見え、1日を爽やかに迎えられる
- 日当たりをよくする方法
・窓を新しく設置する
・リノベーションで窓を拡張する
・明かり取り用のガラスブロックや室内窓をつくる
【視覚】適度な照明プランにする
次に欠かせないのがお部屋の照明計画です。明かりの強さ(照度)によっても睡眠ホルモンの分泌の仕方が変わります。
- 睡眠ホルモンの分泌
照度の低い暗い空間:睡眠ホルモンの分泌が増え、眠気を誘発する
照度の高い明るい空間:睡眠ホルモンの分泌を妨げ、目覚めを誘発する
適度な暗さがある方が、リラックス効果が期待でき、睡眠の質を高めてくれるのです。寝室の照明は低照度のものを選ぶとよいでしょう。
寝室やリビングなどのリラックスしたい空間では、照明色温度の低い2700K~3000K(電球色)か、3500K(温白色)のものがベストです。照度も低めの60W~40Wのものを選んでください。
勉強スペースや書斎などでは照明色温度の高い5000K(昼白色)か、6500k(昼光色)のものを選ぶとよいでしょう。照度は高めの100Wほどあると読み書きもしやすく、脳も覚醒して作業もはかどるはずです。間接照明を取り入れるとお部屋の雰囲気を演出してくれるので、間接照明もおすすめです。
- おすすめの色温度(K:ケルビン)と照度(W:単位)
・寝室やリビング:2700K~3000K(電球色)か、3500K(温白色)、60W~40W
・勉強部屋や書斎:5000K(昼白色)か、6500K(昼光色)、100W
余談ですが、実は目に悪影響を及ぼすのはうす暗さではなく、TVやゲーム・スマホなどの過度な明かり(眩しさ)です。
一般的にテレビなどのディスプレイ画面では6500~7000K程度の明るさが設定されており、近年の製品は特に色温度を高くする傾向にあります。色温度が高く青白っぽく光るもの、それが最近よく耳にする“ブルーライト”とよばれる光のことです。ブルーライトは可視光線の中のひとつですが、実は紫外線の次に波長の短い光で、目の表面にある角膜や水晶体を通り抜け、奥にある網膜まで届いてしまう、とても強い光なのです。それらを至近距離で目視し続けることによって目の神経に負担を与え、眩しさを感じたり、ちらつきが感じられたりと、目に大きな負担を与え、視力の低下を引き起こしてしまします。
またタブレットやスマホもからもブルーライトが多く発せられおり、就寝前に何時間も見ていると寝つきが悪かったり睡眠の質が落ちてしまい、最悪の場合、頭痛や吐き気などの症状を引き起こしてしまいます。
改善策としては、下記の3つがあげられます。
- 就寝前にはなるべく画面を見ない
- 画面の明るさを少し暗くし色温度を低く(4000~5000K前後に)設定する(ブルーライトカットフィルムを貼るでもOK)
- 長時間目視したあとは目を暖めたり等ケアをしっかり施す
LED製品が普及しデジタル時代になった今、現代病といってもよいスマホ脳。より質の高い睡眠のためにも、就寝時にはスマホをテーブルに置いてアロマの香りを楽しむのもよいかもしれません。
【視覚】居心地のよい空間づくりを
視覚から入ってくる情報は、脳内伝達される神経情報のなかの実に9割を占めると言われています。多くのモノが視界に入ると自然に脳が働き覚醒してしまいます。そのため、寝室にはできるだけモノを置かず、目から入る情報量を極力減らしてあげることで、脳が休まり、結果としてカラダも休息することができます。
部屋が広すぎる、家具が大きすぎる等、部屋全体のバランスがおかしいと違和感を生じ、ソワソワしてしまう方も多いのではないでしょうか。だだっ広すぎるトイレや狭いキッチンだとなんだか落ち着きませんよね? モノが多すぎると圧迫感を覚えてしまったり、逆に少ないと不安に感じやすいと言われており、部屋広さの1/3を目安に家具を配置するのが理想的です。
家具の色味・壁や天井の配色も居心地のよい空間づくりのために重要になってきます。ベッド横の壁や天井など、視界に入る箇所は好みの色を、もしくはお気に入りのデザイン壁紙などを選ぶとよいでしょう。好きな模様やキャラクター、爽やかな青や包み込んでくれるような緑、心はずむ桜色など、自分好みの空間(気分が上がる空間)を考えて頂けるとOKです。
ただし赤色・黄色・紫などのカラーは気分を興奮・高揚させ脳を刺激してしまい、安眠しにくくなる傾向にありますので寝室には控えた方がよいかもしれません。色が与える効果も気にしながら検討してみてください。
寝る前に一度、寝室を見渡してみるとよいかもしれません。
好きなモノで揃えて、穏やかな空間に
- おさえておきたいポイント
・家具はお部屋の1/3を目安に
・ベッド近くの壁や天井はあたたかみのある色に
【聴覚】防音対策も入念に
視覚に続き、聴覚も脳内伝達のための重要な役割を担っています。電車の音や車の音、街中の様々な物から発せられる音が時に騒がしく感じることがあるかと思います。普段聞き慣れている比較的静かな生活音も就寝時にはうるさく感じてしまい、なかなか眠りにつくことができなかったり、眠りが浅くなってしまったり、睡眠の質を著しく低下させる要因になり得るのです。最悪の場合、不眠症にもなり兼ねません。
床や壁・天井に防音対策を行うことで、室外からの音を遮り、静かで穏やかな空間変えることができます。さらに、断熱効果も期待できるので冷暖房効果が高まり節電にもなります。
具体的には、床であれば遮音マットや遮音フローリングを敷設することで、下の階との間の音を遮ります。壁や天井であれば、内部に遮音マットや遮音シートを貼り込む方法や、インテリアとしても楽しめる遮音パネルを仕上げ材として壁に貼るのもよいでしょう。近年、マンションの騒音トラブルも増えていますので、防音対策を講じることで近隣トラブルの回避にもつながります。
自身だけでなく、周囲の人も過ごしやすい環境づくりを心掛けましょう。
- 場所ごとの防音対策
・床:遮音マットや遮音フローリングを設置する
・壁や天井:内部に遮音マットや遮音シートを貼り込む、もしくは遮音パネルを仕上げ材として壁に貼る
【嗅覚】自然の香りでリラックス
山に行くと木々の香り、海に行くと磯の香り、街中ではお花の香り。
わたしたちは自然の香りを感じることで体の緊張感が緩み、幸せホルモンが活性化され、リラックスすることができます。これは誰しもが共通して感じることかと思います。心安らぐアロマや香水の香りの主成分はみな、花や木など、自然素材のものを中心にブレンドされつくられています。
「よい香りと感じる匂い=自然物」ということ。
生き物から発せられるフェロモンや動物の革でつくった革製品であっても同じです。逆に、人工物の樹脂や鉄、生活臭は臭いと感じる方がほとんどかと思います。寝室に、木製品や左官材など、天然素材のものを用いることによって、自然の香りを感じ、気持ちもリフレッシュできることでしょう。
なかなか時間がなくお忙しくされている方はアロマを焚くことでも十分効果が得られるので、ぜひお試しあれ。
- 寝室に使うおすすめ素材は?
・木製品や左官材など、天然素材のもの
【触覚】快適な温湿度を保つ
一番不快感を覚えやすく、睡眠にもよい影響を与えないのが、これ! 温湿度環境です。
夏の暑さや梅雨時期のじめじめとした高湿度の空間。
冬の底冷えする寒さや異常に乾燥した空間。
季節によって、人間は汗をかいたり体を震わしたりと、無意識のうちに体温調整を行いながら過ごしています。わたしたちの体で一番ストレスを感じ、体調へ直に影響を与えるのが温度と湿度なのです。睡眠以前に、環境の温湿度が低くても高くても体調を崩しやすく不調の原因になるため、最適な温度と湿度を保つことが、快適な空間を維持する最も重要なポイントなのです。
目安として、温度は16~26度、湿度は50~60%が良質な温湿度条件になります。快適な温湿度環境になることで、深部体温が低下し、皮膚温度が上昇します。そうなると眠気を誘発し、寝つきがよく深い眠りにつくことができるのです。
対策例としては、断熱改善を行うことで保温保冷効果が向上し、冷暖房機器の作業効率もアップします。また調湿性のある素材、例えば建材であれば木質系のものや左官材を取り入れ、寝具やパジャマであれば通気性・吸湿性のよい綿素材のものを使用することで、体感的にもより快適さを感じることができます。
肌に触れるものにあっては、極力オーガニックのものにすると肌への刺激もなく、抗アレルギー効果が期待できます。カーテンを取替え、窓断熱を改善するだけでも、きっと体感できるはずです。
寝具の肌触りにもこだわって
- 快適な温湿度を保つためのポイント
・断熱改善を行う
・木質系のものや左官材など調湿性のある素材を取り入れる
・通気性・吸湿性のよい綿素材の寝具やパジャマを使用する
03| やってしまいがちな失敗例
次は寝室を考えるうえでやってしまいがちな失敗例をご紹介。よかれと思ってやったことが逆効果! なんてこともあるので、チェックしてみてください。
窓をやたらと多く設置する
採光面をより多く取るために各壁面いっぱいに窓を配置する、これはNGです。家具のレイアウトも難しく窓からの温冷気が流入しやいため、夏は暑く冬は寒くなりやすくなってしまします。お部屋のサイズにあった適度な窓のサイズと数配置がポイントです。
東向きに窓をもってくる
東向きに窓をもってくる、これも場合によってはNGです。東面に窓を配置すると、採光がよくなり、明るいお部屋にすることができます。
ですが、夏場は早朝からジリジリと暑い日光が部屋に差し込み、暑さで目が覚める、なんてことも。窓全面を覆う遮光カーテンを取り付けたり、窓ガラスに遮熱フィルムを貼り込む、断熱ガラスに取り替えるなどの対策が必須になります。
西面の場合は夕方に西日が差し込んできますので、同じく日差し対策が必要です。窓の位置は事前に確認し、日差し対策を講じましょう。
使い勝手よりも快適性を優先する
快適性を第一優先で決める、これも気持ちは分かりますがNGです。上で紹介したような快適性だけを優先するばかりに動線が悪くなってしまったり、使い勝手の悪い空間になってしまうのです。
一部分だけでなく、おうち全体の間取りを考慮しながらプランニングすることが大切です。また、トイレやキッチンなどの水廻り横に寝室を配置すると夜間に住人が使用する生活音がうるさく感じることもありますので、各部屋相互間の関係性も考えながら検討してください。
04| 施工事例とコスト
最後に、施工事例を紹介していきます。写真とおおよそかかるコストと共に、内容を解説していきたいと思います。
施工事例①わたしだけの空間
場所:京都府内
家族構成:3人家族
予算:60万(内装及びインテリア)
こちらの事例ではお部屋の配色に統一感を持たせて、清潔感のある空間に仕上げました。白基調の中に壁面へアクセントクロスを施し、カーテンと合わせたベージュを持ってくることで優しい印象に。ホッと一息つけて安心感のあるお部屋にしてみました。あたたかみのある電球色のペンダントライトとベッドサイドランプが空間演出を高めてくれます。
施工事例②ホテルイン・ザ・ホーム
場所:大阪府内
家族構成:4人家族
予算:200万(内装及びインテリア)
次に紹介する事例は、非日常を感じたいとのご要望を受けて改装させて頂いた寝室。ベッドボード背面にはインテリアアートを飾り、間接照明を設置することでホテルのような空間に。マンションのため、窓がなく採光が入りにくい間取りだったため、リビングとの間仕切扉に採光用の障子をとりつけることで、開放的なお部屋に。
施工事例③ミニマルルーム
場所:京都府内
家族構成:3人家族
予算:140万(内装及びインテリア)
寝室を極限までシンプルにしたいとのご要望でベッドと机のみの超ミニマルな寝室に。インテリアも最小限にすることで視覚からの情報がよりクリアに。南面に面した窓にはウッドブラインドを設置することでほどよく日差しが差し込み、目覚めの良い朝を迎えることができます。床材やデスクには無垢材を使用し、木の温もりも感じれるお部屋にしました
05| まとめ
多忙な日々のなかで、ないがしろにしがちな睡眠時間。まずは生活習慣を見直すところから始めてみてもよいかもしれません。寝室環境を整え、質の高い眠りで心も体も健康でストレスフリーな生活を手に入れましょう。