公開日: 2024.02.22 最終更新日: 2024.02.22

【ご当地お菓子】郷土愛や菓子づくりの奥深さを教えてくれる、滋賀・大津の銘菓「あも」

【ご当地お菓子】郷土愛や菓子づくりの奥深さを教えてくれる、滋賀・大津の銘菓「あも」

滋賀・大津の銘菓「あも」

── 地域のお菓子をひもとけば、その場所の素敵な側面が見えてくる。

お菓子をとおして街のなかにちょっとだけお邪魔する、「ご当地お菓子」連載。
第18回は、滋賀県の県庁所在地である大津市の「あも」を紹介します。

ライター:吉田友希

ライター:吉田友希

01| あんこでお餅を包んだシンプルなお菓子「あも」

「あも」という、何だか聞き慣れない言葉。昔、宮中に仕える女性たちが使っていた女房言葉で、「餅」を指すのだそうです。ちなみに、寿司は「おすもじ」、香物は「おくうのもの」。柔らかくやさしい響きから、宮仕えの厳しい生活を美しく感じとろうとした女房の知恵や願いを垣間見ることができます。

話を戻すと、あもは、あんこでお餅を包んだお菓子。シンプルでありながらも、たくさんのこだわりが詰まっています。販売本数は年間100万本1971年に発売されて以来、50年以上にわたって愛されていることからも、人気ぶりがうかがえるのではないでしょうか。

「あも 1本」。包装紙を広げると、額田王女(ぬかたのおおきみ)と大海人皇子(おおあまのみこ)の愛贈答歌が記されている。裏面には封筒の組み立て図があり、切り取って封筒として使える 「あも 1本」。包装紙を広げると、額田王女(ぬかたのおおきみ)と大海人皇子(おおあまのみこ)の愛贈答歌が記されている。裏面には封筒の組み立て図があり、切り取って封筒として使える

包装紙を1枚開けた様子 包装紙を1枚開けた様子

箱から取り出して、真上から見た様子 箱から取り出して、真上から見た様子

包装紙を開け、なかの袋を開け、さらに箱を開封すると、細長い羊羹のような形状のあもが出てきます。包丁で切り分けて好きな分だけ食べられたり、シェアしたりできるのがうれしいです。

しっかりと粒を感じられる餡は、程よい甘さで、上品な味わい。なかのお餅はとろけるおいしさです。特別なおやつとしてお茶と一緒にゆっくり堪能したい、そんなお菓子です。

02| 既成概念にとらわれない「逆転の発想」で誕生

あもは、「叶 匠壽庵」の代表銘菓。広報ご担当の方に誕生エピソードを伺うと、こんな風に教えてくださいました。

「あもが考案された当時は “餅で餡を包む菓子”はありましたが、その逆の“餡で羽二重餅を包む菓子”はほとんどなかったそうです。『叶 匠壽庵ならではの、ほかにはないものを』という想いから、瑞々しい生菓子のような棹菓子が誕生しました」。

小豆は職人が手炊き。小豆の粒をつぶさないように丁寧につくられる
画像提供:株式会社 叶 匠寿庵 小豆は職人が手炊き。小豆の粒をつぶさないように丁寧につくられる
画像提供:株式会社 叶 匠寿庵

あもの一番のこだわりは、小豆。大粒で品質の高い「丹波大納言小豆」が使われています。職人によって銅釜で丁寧に手炊きされ、ヘラの入れ具合や炊き加減をしっかり見極めます。こうして手間ひまをかけてつくられるのが、ふっくらとした艶やかなつぶ餡です。

とろける食感の羽二重餅にも、職人技が光る
画像提供:株式会社 叶 匠寿庵 とろける食感の羽二重餅にも、職人技が光る
画像提供:株式会社 叶 匠寿庵

餡のなかに入っているのは、もちもちでありながらも、とろける食感の羽二重餅。餡を際立たせるために、すっきりとした、やさしい味わいに仕上げられています。羽二重餅そのものがおいしいのはもちろんですが、餡との絶妙なバランスが、あもの魅力。長年愛され続ける理由は、そこにあるといえます。

03| 「菓子づくりの原点は農業から」の考えを大切にする「叶 匠壽庵」

叶 匠壽庵の本社や工場がある「寿長生の郷(すないのさと)」
画像提供:株式会社 叶 匠寿庵 叶 匠壽庵の本社や工場がある「寿長生の郷(すないのさと)」
画像提供:株式会社 叶 匠寿庵

叶 匠壽庵のお菓子づくりは、原料を育てるところからはじまります。「菓子づくりの原点は農業から」の考え方を大切に、従業員自らが素材を育て、里山の自然を体感しているというから驚きです。

ここまでこだわるスタイルには、1958年に大津市役所観光課の職員を退職し、未経験からお菓子づくりをはじめた初代・芝田清次氏の想いが存分に生きています。

「初代には、『大津市に来られる観光客の多くが、大津ではなく隣接する京都でお土産を購入される現状を変えたい』『滋賀ならではのおいしいお菓子をつくりたい』という想いがありました。

また、戦争で片目を失っていたこともあり『目には見えない日本の美しさや美意識、日本人のやさしさを伝えたい』という考えがありました。そこで一念発起し、大津の長等(ながら)の地で創業しました。

菓子は、琵琶湖の景色を演出したものや、地元近江にちなんだ故事・古語から菓銘を考案したものが多いです。まったくの未経験から菓子づくりをはじめた初代だからこそ、既成概念にとらわれない、滋賀らしい菓子を多く生み出してきました」。

寿長生の郷でつくられている「城州白」という品種の梅。ほかにも1年間で約15種類の農作物が育てられている
画像提供:株式会社 叶 匠寿庵 寿長生の郷でつくられている「城州白」という品種の梅。ほかにも1年間で約15種類の農作物が育てられている
画像提供:株式会社 叶 匠寿庵

2代目のときに本社工場が移転。広大な丘陵地を開墾し「寿長生の郷(すないのさと)」がつくられました。叶 匠壽庵のお菓子は、ここでつくられ、全国へ届けられています。

「叶 匠壽庵は、初代の意志を継ぎ “素晴らしい日本の文化・感性に育まれた美意識を大切にしたい”という暮らしを求め、1985年に6万3千坪からなる本社「寿長生の郷」を開郷しました。

この里山で暮らし、菓子原料となる素材を自らの手で育てる我々従業員のことを「百姓(おおみたから ※あらゆる生業に携わる人々を指す日本古来の美称)」の集団ととらえ、そう呼んでおります。

また、昔ながらの日本の里山で我々も生活を営み、梅林・田んぼなどの農業に取り組むなかで、体感することや生まれてくる発想を菓子づくりにつなげる『農工ひとつ』の考えを大切にしています。

寿長生の郷には、茶道・花・農・陶芸などを体験できる施設がありますが、寿長生の郷全体を大きな菓子工房ととらえ、日々菓子をつくっております」。

画像提供:株式会社 叶 匠寿庵 画像提供:株式会社 叶 匠寿庵

あもを開封したときに一緒に入っていた説明書きのなかに、こんなフレーズがありました。まさにこれが、「農工ひとつ」ではないでしょうか。


叶 匠壽庵は、この「あも」を
農家の人びとの丹精と
新しい造形をもとめる
菓匠の想いをこめて
丹念に炊き上げました。

04| 地元の歴史や文化、自然、すべてがお菓子に生きている

四季折々の風景が見られる寿長生の郷
画像提供:株式会社 叶 匠寿庵 四季折々の風景が見られる寿長生の郷
画像提供:株式会社 叶 匠寿庵

叶 匠壽庵は、地域に根差した取り組みや地域との交流を大事にしているのも印象的。大津市指定文化財の清掃活動への参加や、子どもたちの体験学習の受け入れ、寿長生の郷でのお祭りなど、さまざまな活動に取り組んでいます。

「地元の歴史や文化を菓子に生かしたり、自然の力を借り農業に携わったりと、この大津市大石龍門の地あってこその叶 匠壽庵であると、私たちは考えています。そのため、地元の活動への協力・協賛や支援、住民との交流を行うなど、地域活性化を目指した企画に力を入れております。

自然環境に対する取り組みや、スポーツ・音楽・歴史に対する支援は、初代から現社長まで引き継がれる日本の文化・感性を大切したいという考えからつながったものです」。

里山に生息する絶滅危惧IA類「イチモンジタナゴ(ぼてじゃこ)」を守るための清掃活動。魚好きのメンバーが集まって取り組んだ
画像提供:株式会社 叶 匠寿庵 里山に生息する絶滅危惧IA類「イチモンジタナゴ(ぼてじゃこ)」を守るための清掃活動。魚好きのメンバーが集まって取り組んだ
画像提供:株式会社 叶 匠寿庵

そんな叶 匠壽庵に、滋賀県大津市の魅力を伺うと、こう答えてくださいました。

「叶 匠壽庵の創業の地・大津には、三井寺・瀬田の唐橋・石山寺などの歴史的文化遺産や、琵琶湖から育まれる豊かな自然が多くあります。また、近江というくくりで見ても、文化・文学的に魅力あふれる街です。我々は菓子を媒体に、この大津や近江を世の中に広めていく想いのもと、お客様においしい菓子を届けています」。

滋賀・大津の「あも」、ごちそうさまでした。


叶 匠壽庵(かのう しょうじゅあん)
本社所在地:滋賀県大津市大石龍門4-2-1 寿長生の郷内 ※菓子売場あり
TEL:077-546-3131
営業:10:00~17:00、水曜休
https://onlineshop.kanou.com/
※全国の百貨店を中心に73店舗あり。オンラインショップでも購入可能。

吉田友希

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