公開日: 2025.03.28 最終更新日: 2025.03.28

【ご当地お菓子】桜あんを包んだ和風トリュフ。ひらりと舞い降りた花びらが美しい、島根・出雲の「春うらら」

【ご当地お菓子】桜あんを包んだ和風トリュフ。ひらりと舞い降りた花びらが美しい、島根・出雲の「春うらら」

島根・出雲の「春うらら」
画像提供:有限会社坂根屋

── 地域のお菓子をひもとけば、その場所の素敵な側面が見えてくる。

お菓子をとおして街のなかにちょっとだけお邪魔する、「ご当地お菓子」連載。
第31回は、島根県の中東部に位置する出雲市の「春うらら」を紹介します。

ライター:吉田友希

ライター:吉田友希

01| 桜の花びらが可愛らしい、まさに「春うらら」なお菓子

春うらら。明るく、やわらかな春の様子を表す言葉です。

その言葉どおり、春めく美しい情景を思わせてくれるお菓子が、和風トリュフ「春うらら」。春の気配を感じられる、いまの時期にぴったりのお菓子です。

春うららは、島根・出雲の老舗和菓子店「坂根屋」が手掛けています。桜あんをホワイトチョコレートで包み込んだ創作和洋折衷菓子で、桜の花びらの飾りが印象的です。

春うららを開発した坂根屋の五代目・坂根さんは、開発時のエピソードをこう教えてくださいました。

「春うららが誕生がしたのは、私が大学を卒業し、坂根屋に就職して5年目の頃です。当時、京都の有名な半生菓子『松露』のような、ひと口で食べられるお菓子をつくりたくて、さまざまな試作を繰り返していました。

幅広い年代の方にとって食べやすいお菓子になることを目指し、表面のすり蜜をホワイトチョコで代用することで、糖度を低く抑えています。また、なかのあんこをピンクの桜あんにし、可愛らしい花びらを添えて、春らしく仕上げました」。

桜の花びらの部分には、「雲平(うんぺい)」というお干菓子をつくる際の技法が活用されています。

粉砂糖に餅を加えて練った原料を薄く伸ばし、型で抜き出すお茶席菓子の伝統製法だそう。……美しいです!

02| ホワイトチョコ×桜あん。唯一無二の口当たりを実現

ホワイトチョコのなかには、桜あんがたっぷり。やさしいピンクの色合いで、春らしさ満載です。桜あんには、国産桜葉の塩漬けが練り込んであり、本格的。ほんのりと桜の風味を感じられます。

「形成するためには桜あんができるだけ硬いほうがよいのですが、口当たりをよくするためにはやわらかいほうがよく、両立するためにあんこにお餅を練り込んで調整しています。

また、チョコレートは気温の変化に敏感なので、同じホワイトチョコレートでも数種類を使い分けたり、ブレンドしたりして、一定の品質になるように気温の変化に対応しています」と坂根さん。

細やかな対応によって生み出されている口当たりは心地よく、甘すぎない上品な味わいも相まって、ついパクパクと何個も食べてしまうおいしさです。

03| 出雲で創業し、153年。「坂根屋」が大事にしていること

画像提供:有限会社坂根屋 画像提供:有限会社坂根屋

春うららを手掛けている「坂根屋」は、明治5年(1872年)に創業。島根・出雲市内に、和菓子店だけでなく、カフェやぜんざい餅店など、さまざまな形態の店舗を展開しています。

創業以来、一貫して原材料選びにこだわってきたそうですが、近年はとくに、地産地消に力を入れているのだとか。出雲大納言小豆奥出雲産餅粉斐伊川の伏流水など、地域の宝に注目し、可能な限り地産地消に努めているそうです。

また、地元生産者の方と共同で出雲サトウキビ畑を運営したり、地域のにぎわい創出のために「出雲ぜんざい学会」の活動を行ったり、ひとり親世帯へ饅頭を寄付したり、地域貢献活動にも積極的。地域との密接な関わりを大切にされています。

「代々ご縁がある方々に支えられて、商売をさせていただいています。お客様やパートナーとしての従業員、取引先など、さまざまな方とのつながりがかけがえのない財産だと思っています。そのつながりの集合が地域だと思います。地域の皆さんと一緒に、より明るく豊かな出雲になるように頑張っていきたいです」と、想いを語ってくださいました。

名物の「出雲ぜんざい」。島根・出雲はぜんざい発祥の地といわれている。旧暦10月に出雲大社で行われる「神在祭(かみありさい)」で振る舞われていた「神在餅(じんざいもち)」の名前が形を変えて、全国に広がっていったとか
画像提供:有限会社坂根屋 名物の「出雲ぜんざい」。島根・出雲はぜんざい発祥の地といわれている。旧暦10月に出雲大社で行われる「神在祭(かみありさい)」で振る舞われていた「神在餅(じんざいもち)」の名前が形を変えて、全国に広がっていったとか
画像提供:有限会社坂根屋

坂根屋の代表銘菓「宿禰餅(すくねもち)」。出雲出身の相撲の始祖「野見宿禰(のみのすくね)」の生き方に着想を得た、求肥の柔らかな食感を楽しめるお菓子。地域住民に愛されるほか、出雲大社のお土産としても人気
画像提供:有限会社坂根屋 坂根屋の代表銘菓「宿禰餅(すくねもち)」。出雲出身の相撲の始祖「野見宿禰(のみのすくね)」の生き方に着想を得た、求肥の柔らかな食感を楽しめるお菓子。地域住民に愛されるほか、出雲大社のお土産としても人気
画像提供:有限会社坂根屋

地域にちなんださまざまなお菓子を販売している坂根屋には、代々大切にしていることがあるそうです。

「うちの工場では、毎日たくさんのお菓子をつくっていますが、お客様にとってはお手元に届いたお菓子ひとつが『坂根屋のお菓子』のすべてです。そのことを肝に銘じてつくるように、父からも祖父からも厳しく教えられてきました。

時代とともに、原料やよく売れるお菓子は変わっていきますが、このことは、何があっても変わらない真理だと思っています」。

04| 出雲は“ご縁社会”が残る街。「これからも、人と人との絆をつなげられるように」

坂根屋 本店の外観
画像提供:有限会社坂根屋 坂根屋 本店の外観
画像提供:有限会社坂根屋

島根県出雲市は、縁結びの神様といわれる「大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)」が祀られている出雲大社があることから、縁結びのまちとして有名。日本のはじまりの地、神話のふるさととしても全国的に知られています。

出雲の街について坂根さんに伺うと、こう教えてくださいました。

「出雲大社や出雲神話のお陰により、出雲は人口十数万人の地方都市にも関わらず、全国的にも稀な知名度を誇り、特別な印象を持っていただいています。また、先人の努力により、農地が十分に拓け、物産も豊か。それに裏づけられた昔からの誇るべき文化もたくさんあります。

とくに喫茶の文化は特徴的です。私が子どもの頃は、商家だろうと農家だろうと、来客があると縁側、あるいは店の間に『くぁし(菓子)』と『そけぐち(漬物や煮しめ)』を広げ、注ぎ足しの煎茶が出がらして色がなくなるまでゆっくりもてなして過ごしていました。

いまは共働きが増え、なかなかそういう場面が少なくなってきましたが、出雲は、人と人とのつながりを大切にし、お互いに労わり合う“ご縁社会”が色濃く残っている街だと思っています。『無縁社会』へのアンチテーゼとして、都会の方々にぜひゆっくり楽しんでいただきたいです」。

春うららのパッケージ。和紙素材の箱には、繊細な模様が施されている。春らしくておしゃれ 春うららのパッケージ。和紙素材の箱には、繊細な模様が施されている。春らしくておしゃれ

島根・出雲の「春うらら」、ごちそうさまでした。


坂根屋 本店
所在地:島根県出雲市今市町890
TEL:0853-24-0011
営業時間:9:00~17:00、水曜日休
https://sakaneya.shop-pro.jp/
※春うららの販売は4月上旬頃まで。
※本店のほか、「入南店」「ゆめタウン出雲店」「ゆめマート神西店」「ゆめタウン斐川店」でも販売中。オンラインショップでも購入可能。

吉田友希

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