公開日: 2021.02.08 最終更新日: 2023.10.26

【マンション防災士に聞く】Vol.1 防災も「ニューノーマル」の時代へ。「避難所に行かない避難」のススメ

【マンション防災士に聞く】Vol.1 防災も「ニューノーマル」の時代へ。「避難所に行かない避難」のススメ

日本は自然災害がとても多い国ですね。なかでも日本は地震大国。常に備えておく必要があるのです。特にマンションに住んでいる人は、建物は丈夫だし、防災用品や備蓄も管理されている(はず!)と安心しているかもしれませんが、実際はどうなのでしょうか。マンション防災の専門家にお話を伺いました。

ライター: 殿木真美子

ライター: 殿木真美子

01| マンション住民も「避難所に避難」は間違い?

▲密集した避難所の様子 出典: 財団法人消防科学総合センター ▲密集した避難所の様子 出典: 財団法人消防科学総合センター

マンションにお住まいのみなさん。突然ですが、災害が発生したらどこに避難すればよいか知っていますか? 「そんなの、近くの学校の体育館でしょ」という方、ちょっと考えてみてください。近隣の一戸建ての住民に加え、もしも自分たちの住むマンションの全員が体育館に避難したら、どうなるでしょう。あっという間にぎゅうぎゅう詰めになってしまうことが想像できると思います。

▲堅牢なつくりのマンションは、災害に強い安全な建物といえる ▲堅牢なつくりのマンションは、災害に強い安全な建物といえる

「そもそも、避難所は基本的に“住む場所を失った人が利用する場所”です。マンションの住民が避難所に押し寄せると、一番困っている人たちが避難生活を送れなくなる可能性がある。堅牢なつくりのマンションでは、“自宅にとどまる避難”を考えるべきです」と語るのは、マンション防災士の釜石徹さん。マンション住民に向けて、在宅避難の必要性を呼びかけています。「マンションは、一戸建てと比べて災害に強い。建物の耐震性が問題なければ、大地震でも簡単には倒壊しません。暴風雨にも耐えられるし、上階へ避難することで水害からも逃れられます。マンション住まいの人にとって、自宅ほど安全なところはないのです」。

02| 難所ならではの問題点その① ―キャパ、寝る時の環境、防犯面―

▲夏に扇風機を使用している避難所の様子 出典: 財団法人消防科学総合センター ▲夏に扇風機を使用している避難所の様子 出典: 財団法人消防科学総合センター

ここで、避難所の環境について少し考えてみましょう。「まず知っておいてほしいのは、避難所はそもそも住民の1~2割しか収容のキャパがないということ。そのため、たくさんの人が押し寄せれば非常に混雑するでしょう。狭い生活空間でプライバシーがなく、室内の温度は自然環境のままなので、夏の蒸し暑さや冬の厳しい寒さに耐えなければなりません」と釜石さん。特に、寝る時の環境がいちばん過酷で、かたい床に毛布1枚、周りが気になって熟睡できずに疲れがたまってしまうそうです。また仮設トイレは待ち時間が長く、不衛生。屋外に設置されることもあるため、防犯上の心配もあります。これだけ条件がよくないにもかかわらず、なぜ私たちは「とにかく避難所に行けば安全」と思いこんでいたのでしょうか? 本当に不思議です!

03| 避難所ならではの問題点その② ―密を避けにくい―

▲ワクチンができたとしても“新しい生活様式”は必須。新型コロナウイルスの影響で、避難所の在り方が変わろうとしている ▲ワクチンができたとしても“新しい生活様式”は必須。新型コロナウイルスの影響で、避難所の在り方が変わろうとしている

また、新型コロナウイルスの予防には「3つの密(密閉、密集、密接)」を避けることが重要ですね。避難所に一度にたくさんの人が来ると、感染のリスクが高まります。密を避けるため、避難所の運営方法も変わらざるを得ません。新型コロナウイルス感染症の影響で、避難所の在り方も考え直す必要が出てきました。

収容人数を減らしたり、分散避難を呼びかけたり、自治体の意識も変わってきました。実際、2020年の台風10号の際には、避難のためにホテルなどを活用した人もいましたし、避難先としてホテルと提携する自治体もでてきたくらいです。「新型コロナの蔓延で、私たちは“新しい生活様式”を強いられることになりました。そんな中でも、自然災害はやってくるんです」と釜石さん。感染症予防の観点からも、マンション住人は在宅避難がよいようです。

04| まとめ

いかがでしたか? マンションに暮らす人は「在宅避難」が基本、ということがよくわかりましたね。ただし、マンションが強い建物だということが前提となる話なので、新耐震基準を満たしているかがとても大事。ぜひ一度、ご自分の住むマンションの耐震性について調べてみてくださいね。

05| 監修はマンション防災士の釜石徹さん

釜石徹さん
災害対策研究会主任研究員兼事務局長、マンション防災士。マンション特有の防災対策の研究を長年続け、マンション居住者は災害時に自宅にとどまる選択を提唱。著書に『マンション防災の新常識』(合同フォレスト刊)がある。

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