はじめまして。一級建築士事務所「アトリエdiシノ」の建築家、井岡志野と申します。
「自分の思いをつめこんだ理想の家に住みたい」と思う人は多いと思います。でも、実際に家を建てるとなると、わからないことだらけ…。この連載では、家づくりに関するお悩みに、これまでいろんな建物を設計してきた実体験をもとにお答えいたします。少しでも、住む方が満足するおうちづくりのお役に立てればと思っています。
CONTENTS
01| はじめに
これからお悩み相談に回答していくにあたり、まずは簡単に自己紹介をさせてください。
私は子どもの頃からインテリア雑誌が好きで、建築家になることはごく自然の流れでした。大学で建築科に進み、日本や世界の建築を見て回りました。イタリアの美的センスにあこがれて、一度は大手ゼネコンに勤めたものの、ローマへ。ローマ大学大学院で建築を学び、現地で働き、全く事情が違うなかで培った経験を生かすべく、日本に帰ってきました。
02| 建築家、ハウスメーカー、工務店、どこを選ぶ?
一番最初にやるべきこと
家を建てると決めたら、まずは自分の生活を今一度見つめなおすことから始めてみませんか。
どんな暮らしがしたいのか、イメージをふくらませて
住む場所というものは、思っている以上に重要です。重要と思うがゆえに、家づくりをどうやっていいか分からなくなってしまう方もいらっしゃいますが、まずは慣れ切ってしまっていて見えなくなっている生活について考えてみるべきです。どんな生活をしたいか、大切なものは何か、必要なものは何で、必要じゃないものは何か。
この際、周りの目や評判は一旦おいておきましょう。他人には他人のライフスタイルがあって、自分は自分なのだから。そう考えると、少しリラックスして自分が本当に望んでいるものが見えてくるでしょう。
断片的にでも箇条書きやスケッチをして、ベーシックなマイホームの形を視覚化し、方向性がある程度決まったら、いざ情報集めです。集めるといっても、今や情報社会なので、知りたい情報を探すといったほうが正しいかもしれません。実際に体験をしてみるのは効果的ですが、ネットや雑誌を見るとしたらマドリームのチェックはマストですね!
①自分の生活を見つめ直す
②箇条書きでもいいので、マイホームの形を視覚化する
③情報収集をする
それぞれの特徴を解説します
家づくりは、まず依頼先を建築家にするか、ハウスメーカーおよび工務店にするかの選択肢があります。
・建築家
建築家といえばちょっと風変わりでアーティスティックな感じを想像されるかもしれません。確かにイタリア人はそうですし、(イタリア人は建築家でなくても個性豊かな人が多いですが)日本人の場合も、やはり“先生”という感じで、近寄りがたい人はいらっしゃいます。そうでもない人もいるのですが…ほとんどの場合、建築家との打ち合せは長くなります。
よって、デザイン性や細かな納まりより、早く家を建てたい方には不向きといえます。時間に余裕があって、よりデザイン性を追求したい、○○を設計した設計事務所に設計してもらいたいといった方は、設計事務所にアプローチしてみましょう。
・ハウスメーカー
実は、ハウスメーカーや工務店にもタイアップしている建築家がいます。大手ハウスメーカーの場合は一社専属の設計士という場合もありますが、私のようにハウスメーカーや複数の工務店とタイアップしている建築家もいます。よって、勇気を振り絞って設計事務所に行かなくても、建築家に会うことは出来るのです。
ハウスメーカーで家を建てる場合、メーカーによってはある程度決められたなかでのデザインとなる場合もありますが、あらかじめプロが考えたものから選べ、メーカー保証という安心感があり、設計打ち合わせが短くなれば完成も早くなります。ただ金額は高めになります。
・工務店
工務店は予算という枠組みはあるものの、かなりの自由設計が可能です。設計事務所に依頼するほどデザインにはこだわってないけれど、ちょっと小洒落た家に住みたいなという方には向いています。
①デザインなど、追及したいことがある方は建築家へ
②時間と安心感を重視したい方はハウスメーカーへ
③ほどほどにこだわりたい方は工務店へ
工法についても知っておきましょう
さて、次は工法についてです。住宅の場合、大きくはRC造、鉄骨造、木造があります。木造には木造軸組工法(在来工法)、木造枠組壁構法(2×4工法)、プレハブ工法があります。全て説明すると長くなってしまうので、木造枠組壁構法(2×4工法)と、在来軸組工法についてご説明します。
・木造枠組壁構法(2×4工法)は、リフォーム計画がある方は要注意
2×4工法は、建築をしている人が見れば(多分?)分かりますが、見た目は軸組工法で建てた家とさほど変わらないです。大きな違いは中の構造が6面の箱型になっていて、地震を面で受けること。そういわれてもピンとこないと思いますが、注意点はリフォームをする時。構造の要となる箱の強度を保ちつつ行わなければならないので、在来軸組工法しか知らない設計士や工務店に頼むことは避けましょう。
木造枠組壁構法(2×4工法)
・日本の木造住宅のメインは木造軸組工法
木造軸組工法とは、日本で一番多く採用されている工法です。面を組み立てるのが2×4工法としたら、木造軸組工法は柱と梁という点を結ぶように組み立てる工法です。
木造軸組工法には、さらに細かくピン工法や金物工法、梁を鉄骨にしているテクノストラクチャーという工法もあります。私は2×4工法やいろいろな軸組工法の設計しておりますが、どれがよいかは一概にいえなく、建てたい形や予算によって決まってきます。相談に行く際にはできない形を確認するのも一つの方法と言えます。
木造軸組工法
①木造枠組壁構法(2×4工法)は、面で構成するアメリカの住宅に多い工法
②木造軸組工法(在来工法)は、柱と梁で構成する、日本の木造住宅に多い工法
耐震等級についても忘れずに
さらに、工法とは別に、耐震等級という地震に対する建物の強度を示す指標もあるので、より地震に強い建物をご希望される方は耐震等級3で建てたいことをはじめにリクエストしたほうがよいでしょう。
そのほかの検討材料としては、全館空調や省エネルギー性能、設備の付加価値などがあります。そして何より、ご予算に応じて建てることが大前提なので、資金計画を並行して進めていくことはとても重要。
このように家づくりは奥が深いですが、失敗を恐れず、少しずつでも情報を集めて、実際に一人ではなく、何人かの人に話を聞いて始めていっていただけたらと思います。
03| 初めての打ち合わせにはどんな準備が必要?
イメージを持っていくことが大切!
打ち合わせには、外観や導線など具体的なイメージを持って
通常、設計を始める段階で、必要な部屋数、大きさ、住む人、ペットの年齢人数などはすでにお聞きしておりますので、特になにもご準備いただかなくても大丈夫ですが、強いてあげれば、「外観のイメージや中の雰囲気」、「生活動線」、「つけたいもの」を教えていただければと思います。
・外観や内部のイメージ
写真をお持ちの方が多いですが、最近では、携帯で画像を用意されるお客様もいらっしゃいます。
・生活導線
生活導線の設定は、プランに大きく影響します。生活導線とは、例えば、子どもがリビングを通って2階の子供部屋に行けるリビング階段のほか、家族は玄関からバックヤードの玄関収納を通ってリビングに行く、洗面と脱衣室は分ける、といったことです。このバックヤード動線と洗面脱衣分離は実に増えています。また、ペットを飼う方は同時にペット動線も考えることになるので、なかなか面白いです。
リビング階段
・つけたいもの
「つけたいもの」とは、例えば壁を凹ませて作るニッチカウンタ―などです。小さいながら構造に絡むものなので、先に伝えておいたほうがよいです。また、秘密基地や隠れ家スペースなどは、小さくても隠す工夫が必要なので、希望があれば、ぜひ隠さずに先にお伝えください。
ただ、希望内容を箇条書きにして何十枚といただいても、すべてを網羅できるとも限りませんし、法規、予算、その他のことで、希望を取捨選択しなければならない場合もございますので、希望に優先順位をつけておくことが理想の形への近道といえるでしょう。
ニッチカウンターの例①
ニッチカウンターの例②
①初めての打ち合わせの時には、どんな家にしたいかの項目をあげ、優先順位をつけておく
04| 家づくりのスケジュールが知りたい
初めの打ち合わせから完成まで、1年は見ておきたい
家づくりのスケジュールを、ざっくりとご紹介します。
まずは、建設会社を選ぶ段階で大体の家の大きさと概算金額を出してもらいます。その後、どの会社で建てるかが決まったら、実際の設計打ち合わせをはじめます。今までの経験から言いますと、設計打ち合わせは、期間が短い方で、1~2か月、長い方で半年以上かかります。
設計打ち合わせで内容が決まると、本見積もりをして施工金額が決定されます。見積りは数週間かかる場合もあります。その後、またはその間に確認申請を行います。地盤調査も行い、時には改良工事も必要になります。
その後、ようやく、建物本体工事が始まります。
木造在来工法ですと、30~35坪くらいの大きさのお家の施工期間はだいたい4ヶ月とされています。はじめの打ち合わせから完成まで約1年かかることになりますね。外構工事をするとなるとさらにかかります。いつまでに完成しなければならないといった、時期が決まっている方は逆算してある程度余裕をみて動くことをお勧めします。
05| まとめ
家づくりを決めた時に知っておきたい「建築家、ハウスメーカー、工務店のどこに依頼すればよいか」、「初めての打ち合わせの準備」「家づくりのスケジュール」について、ご紹介しました。決めなければいけないことが多い家づくりですが、理想の家が完成した時の感激はひとしお。
今後も、家づくりに関するお悩みについてご説明していきますので、ぜひ参考にしてください。