私たち日本人は、昔から木で家をつくり、そこに住んできました。天然の木材を使った木の家はなんともいえない温かみがあり、木ならではの優れた性能も持っています。そんな木の家のメリット・デメリットや最新トピックを見てみましょう。
ライター: 殿木真美子
CONTENTS
01| 木の家に住み続けてきた日本人
青森県の三大丸山遺跡
日本における木の家の歴史は大変古く、縄文時代にまでさかのぼると言われています。縄文時代の遺跡からは、木の柱を使用した竪穴式住居の跡が多数発見され、当時の人が木の性質をよく理解して、住居にはカシやヒノキ、器にはトチノキなど、それぞれの用途に合った木材を利用していたことがわかっているそうです。
また、世界文化遺産に登録されている法隆寺は世界最古の木造建築ですし、同じく東大寺の大仏殿は世界最大級の木造建築物として知られています。
日本の森林面積は約2,500万ヘクタールで、国土の67%、約3分の2が森林です。資源が少ないといわれる我が国ですが、木材に関しては世界有数の資源国であり、古来から木が生活の中に溶け込んでいたのですね。
藁ぶき屋根の古民家の外観
02| 木の特徴とは?
では、ここで木の持っている性質についてみていきましょう。
- 強くて軽い
木は強度があり、持ち運びに適した軽さで、かつ加工しやすいという建築材に必要な要素を備えています。 - 調湿性がある
夏は湿度が高く、冬には乾燥する日本。木材には、空気中の湿度が高い時は水分を吸収し、乾燥している時は水分を放出する調湿作用があります。そのため、内装材などに木材を利用すると、部屋内の湿度の変動が小さくなります。 - 断熱性がある
木材は無数の細胞からなり、そのひとつひとつに熱を伝えにくい空気を含んでいるため、高い断熱性を持っています。木材、ビニールタイル、コンクリートを床材にして、足の甲の皮膚の温度変化を測定すると、コンクリートがもっとも足が冷え、木材がもっとも冷えなかったという結果が得られたそうです。 - 時間が経つほど強度が増す
鉄やコンクリートは建てられた時が最も強く、時間が経つにつれ強度が低くなるのに対して、木は時間が経つほど強度が増します。これは乾燥の度合いが高まるからで、ヒノキでは伐採されてから100年から200年もの間強度が高くなり続けるそうです。 - 消臭・殺菌効果がある
樹木は、微生物や虫などから身を守るために消臭・殺菌効果のある香りのよい成分「フィトンチッド」を放散しています。木材になってもこの効果は長時間継続するといわれています。 - 心理的効果
温かみのある木材は、人の生理面や心理面によい影響を与えることが知られています。木材を多用した特養老人ホームの方が一般的なホームよりも心身不調を訴える入居者が少ないなど、木の香りにリラックス効果があることが実験結果より明らかになっています。
内装にもたっぷりと木材を使用した家
ほかにも、悪臭や大気汚染物質を除去する空気浄化作用や、自然素材のためシックハウスにならない、人が不快に感じる高音域や低音域を木材が吸収するため音がまろやかになる、ぶつかった際に衝撃を和らげるといった特徴もあります。
また、意外にも「火災に弱くない」という性質も。「木は燃えやすい」というイメージがあるため驚いてしまいますね。木材は確かに火がつくと焦げ付きますが、表面が焦げるだけで芯まで火が通り倒壊するまでに長い時間を要するので倒壊の恐れが少ないのです。また、有害物質を発しないため一酸化炭素中毒などになりにくく、火災時に生存率を高めると言われています。
03| 木の家は環境にも優しい
さらに、木の効用について特筆すべきは「環境に優しい」ということです。
- 炭素を貯蔵する
木は、光合成をすることで大気中の二酸化炭素を取り込み、幹や枝などの形で炭素を蓄えています。木材を住宅に利用することは、大気中の二酸化炭素を貯蔵することにつながるのです。木造住宅は、鉄骨や鉄筋コンクリート住宅の約4倍の炭素を貯蔵していると言われています。 - 製造時の炭素放出量が少ない
木材は、鉄やコンクリートなどに比べて製造や加工に要するエネルギーが少ないことから、木材利用は、製造・加工時の二酸化炭素の排出削減につながります。例えば、住宅建材の製造時における二酸化炭素排出量を比較すると、木造は鉄筋コンクリート造や鉄骨プレハブ造よりも二酸化炭素排出量が大幅に少ないことがわかります。
林野庁HPより
さらに、木材は加工しやすいため、住宅部材として使用されていた木材を再利用することもできます。木材の利用は、地球温暖化の防止2050年までに我が国の温室効果ガスの排出を全体として実質ゼロにするという、カーボンニュートラルにも貢献するものなのです。
04| 木の家のメリット&デメリット
木を建材として家を建てるメリットはたくさんあります。前述したような木の特徴を踏まえ、メリット・デメリットを見ていきましょう。
メリット
- 耐久性が高い
木は、鉄やコンクリートと比べても、曲げ・引っ張り・圧縮などをしなやかに受け止める強度に優れています。 - 夏涼しく、冬暖かい
木の特徴で解説したように、木材は鉄やコンクリートと比べて熱伝達率が低いため、室内を一定の効果に保つ効果があります。
そのほか、吸音性がある、衝撃を吸収する、有害な化学物質が発生しないためアレルギーなどにもよい、リラックス効果がある、木独特の柔らかさ・温かみがあるなど、よい点がたくさんあります。
木造の家の建築現場
デメリット
- 腐食によるカビやシロアリ被害
調湿効果のある木材ですが、湿度が高くなりすぎると腐食します。目に見えない部分が腐食すると進行状況がわかりにくく、業者等による点検が必要です。特に水回りや床下など、湿度が高い場所では定期的な点検やカビ、シロアリの被害にも注意しましょう。 - 定期的なメンテナンスが必要
自然素材である木は、建材となってからも湿度を吸収したり排出したりして、伸縮と膨張を繰り返しています。そのため、割れや反りが生じたり、隙間ができてしまうこともあるので、特に無垢材などを使用した場合は定期的なメンテナンスが必要です。
05| 建築材に使われる木の特徴
建築用として使われる木材は、それぞれの木の持つ特徴に合わせて適材適所で活用されています。ここでは、どのような木が建材として使われ、どんな特徴があるのかを針葉樹と広葉樹に分けて見ていきましょう。
針葉樹
高くまっすぐ育つ、柔らかく加工しやすい、軽い、構造材や内装材など幅広く使われる。
- スギ
柔らかく、狂いが少なく、比較的安価であることから、古くから日本人の住宅用の建材として多用されてきました。構造材、フローリングや造作などの内装材のほか、外壁材やデッキとしても。 - ヒノキ
香りに防虫・防菌効果があり、強度が高く、水に強く狂いが少ないことから、柱や土台といった構造材や根太などに利用。ただし高価なので一部に使用するケースが多いようです。檜風呂や家具は高級品。 - ヒバ
腐りにくく、最も耐水性のある木材と言われています。独特の強い薫りは、ヒノキチオールという精油成分。白蟻などの害虫にも強く、優れた耐水性と耐朽性で、土台や木製の浴槽などに使われます。
ヒノキの森
広葉樹
横に広がりながら育つ、堅く重みのある樹種が多い。フローリングや家具などに使われる。
- クリ
縄文時代から日本人になじみのある木です。硬くて重く粘りがあり、耐水性に優れているので住宅の土台に最適。ただし伐採までに長い年月がかかり、手に入りにくい材料です。 - ケヤキ
強靭で耐朽性に優れ、重くて堅いが、弾力性があり曲げに強い木材です。日本の広葉樹のなかでも優良材の一つといわれています。木目が美しいため、家具や造作材にも。
06| 集合住宅や高層ビルも木で建てる時代へ
さらに、近年では木を使って高層ビルを建てる時代になってきていることをご存じですか?
強度が高く、施工が早く、地震に強く、火にも耐えるCLT(直交集成板)と呼ばれる木の集成材などの登場によって、コンクリートや鉄でしかつくれなかった大型建築を木でつくることが可能となったのです。2022年12月には、木造としては国内で最も高い、高さ44メートルのビルが横浜市に完成。また、日本橋にはなんと高さ約70メートルの木造賃貸オフィスビルが2025年に竣工する予定です。木造のビルは、建築に使うコンクリートや鉄が大幅に減るため、二酸化炭素の削減につながる効果も期待できます。
三井不動産と竹中工務店が手掛ける木造の賃貸オフィスビルの完成予想図
07| まとめ
いかがでしたか。木の良さや特徴を知って住宅に取り入れることで、家族が快適に暮らせるだけでなく、環境にも貢献できることがわかりました。優しくて温かみのある木の家、憧れますね。
参考資料:林野庁HP、和歌山県 森林・林業局 林業振興課HP
この記事を書いた人
殿木真美子 ライター