公開日: 2023.09.27 最終更新日: 2023.10.26

憧れの古民家ライフを快適にするには? 古民家リノベーション解説 ~メリット&デメリット編~

憧れの古民家ライフを快適にするには? 古民家リノベーション解説 ~メリット&デメリット編~

コロナ渦になって以来、働き方や暮らし方も変化し、在宅ワークが当たり前になりつつあります。場所を選ばず自宅・カフェなどで仕事や授業の受講などが出来るようになり、住まいのあり方も変わってきました。地方移住への関心も高まり、古民家へ移住する方々も増えてきています。古民家は古来より日本の気候やその土地の環境に合わせて作られた昔ながらの木造の家屋であるため、風土に合わせて環境にも住み手にも優しく造られています。

そんな古民家を現代向けにアレンジしたリノベーション方法やおさえておきたい要点など、古民家暮らし実現に際してのチェックポイントをお伝えしていきたいと思います。

Smau design(スマウデザイン):大景祥

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01| 古民家ってなに?

古民家の定義

「なんとなく古い家のこと?」「木造の家のこと?」

「古民家」と言っても、普通の家と何が違うのか分からない方が多いのではないでしょうか。

建築基準法や不動産に関わる法律で定められているわけではありませんが、日本建築の歴史・民俗学的には「古民家」という言葉がよく用いられています。「支配階級ではない一般の庶民が住む古い建物」という認識で使われており、実は「古民家」についてはっきりとした定義はありません

明確な線引きはされていませんが、一般社団法人全国古民家再生協会や古民家鑑定士・登録有形文化財制度の解釈によると、

「古民家」=「築年数50年以上の木造軸組構法(伝統構法)及び在来工法でつくられた木造家屋のこと」と記されています。

分かりやすく言えば、50年以上前に建てられた柱や梁を木造で造られた家屋のことを古民家と呼ぶのです。

伝統構法と在来工法とは

先ほど述べた木造家屋の構造で”伝統構法“と”在来工法“という言葉がでました。どちらも木造軸組構法と呼ばれる日本の代表的な建築構法にあたり、柱(基礎に垂直に立ち上げた材)や梁(柱と柱を水平につなぐ材)などの構造部材(これが軸を形成する軸組)と呼ばれる材料を組み合わせて作られることから、木造軸組構法といわれています。

この他には木造枠組壁工法というものもあります。俗に2×4(ツーバイフォー)工法と呼ばれ、木材の規格が2インチ×4インチの製材に耐力壁面を組合せてつくられることから、このように言われています。元々はカナダで寒冷地用の家屋を建てる際に設備効率(暖房効果)の向上のために開発・導入された工法で、1985年にカナダから技術提供を受けて日本にも伝わりました。

その後日本のハウスメーカーも積極的に取り入れ始め、ある程度普及はしたものの、間取りプランの柔軟性やリフォーム工事のフレキシブル度が劣るため、在来工法に比べてまだまだ採用棟数が多くないのが現実です。

木造軸組工法の施工イメージ(柱や梁などの横架材で構成) 木造軸組工法の施工イメージ(柱や梁などの横架材で構成)

木造枠組壁工法の施工イメージ(構造用合板などの面で構成) 木造枠組壁工法の施工イメージ(構造用合板などの面で構成)

<Check!>
木造軸組構法の伝統構法と在来工法とは?

  • 伝統構法:建築基準の耐震法制定前の建物で、主に手刻みによるほぞ加工を行い、全ての材を大工さん自身の手で組立てを行い、内外装も土壁や板張りなど自然素材だけを使用して造られた建物 (1949年以前の建物)
  • 在来工法:建築基準の耐震法制定後の建物で、伝統構法と違い工場などで事前にプレカット加工した木材で組立てを行ったり、金物による緊結を原則とし、内外装には新建材の石こうボードの上に壁紙を貼ったり、化粧パネルを貼り合わせて造られた建物 (1950年以降の建物)

02| 古民家の魅力&メリット

古きよき建物として親しまれてきた古民家には沢山の魅力があります。その一方で、昔ながらの家であるがゆえに扱いが難しく、不便さを感じてしまうことも。メリットやデメリットなどを事前にしっかり確認しておくことが大切です。

メリット①広々とした空間利用ができる

住宅の間取りと言えば、各部屋とリビング・ダイニングなど、空間ごとに仕切り壁を作り、天井にも水平にボードを張り込んだ四角い箱を組み合わせたスタイルが当たり前のようになっています。昭和中期くらいまでの家屋は基本的に仕切りには引戸や障子を用いたりと間仕切壁をあまり作らず、天井空間もボードを張らず梁をむき出しにして建物内部の空間を最大限利用した建物がほとんどです。

そのため、広々とした空間を実現でき、居心地のよい住環境を造り出すことができます。お子さんがいるご家庭など必要に応じてプライベート空間をつくりつつ、フレキシブルな間取りの使い方ができる点が利点と言えます。

メリット②中と外との境界をあえてひかない

最近の住宅は高気密・高断熱で閉め切った空間が多く、住み手にとって息苦しい空間と感じる方も少なくないと思います。中と外との境界線もきっちりと区分けをし、「省エネ住宅」や「環境に優しい住宅」という売り文句で住宅業界は進んできています。

ですが、従来の日本の木造住宅は風土と気候を上手に利用した先人の知恵の賜物。坪庭を造り、植栽を植え、自然を感じながら外部との繋がりを残しておく。建物廻りや境界には自然を配置することでプライバシーの確保にもなり、土間や濡れ縁は風通しをよくし、四季を感じることができる。境界線をあえてひかず、あいまいさを作ることで中と外とのつながりを感じられる、そんな魅力がたっぷりとあるのです。

メリット③自分だけの趣のある空間をつくれる

古民家のよいところは、古民家の利点を活かしながら使い勝手の悪い部分に手を加えたり現代風にアレンジできること。趣のある自分だけの特別な空間をつくることができます。コンクリート造や鉄骨造だと実現が難しいため、木造ならではの雰囲気を感じることができます。

メリット④自然素材を利用するため健康によい

昨今の住宅で使用されている仕上げ材料のほとんどが新建材とよばれるもの。微量ながら人体への害のある成分が含まれているため、新しい家に引っ越してから体調が優れない……なんてことも。

それに比べて、古民家の内外装には自然素材を使った材料を使用するので、人体への影響もほとんどありません。珪藻土や漆喰などの天然材料を使うことで調湿性が向上し、結露を抑え、カビ・ダニの発生も防いでくれるのでアレルギー反応が好転し、それまで不調だった体も嘘のように健康な体に変化していくことも。

そして、健康によい一番の理由としては、木や土・植物などで構成した住宅なので、家そのものが呼吸をし、住み手もその息づかいを感じることで心身によい気を与えてくれるのです。

メリット⑤環境に優しい

基本的に自然界に存在するものだけを使ってつくられた空間なので、環境に害が及ぶことがありません。一方で人工的に造られた材料を用いた建物だと、解体時の産廃問題や大気汚染問題、さらにアスベストと言われる人体に悪影響を及ぼす材料を使用されていれば、その廃材の粉末を吸い込んでしまうだけで、最悪の場合、死に至るケースも。木や植物などは、例え解体したとしてもやがて土に還り、環境が輪になって循環してくれます。

メリット⑥税金もお得で財布にも優しい

家屋を所有されている方はご存知かと思いますが、毎年驚かされるのが固定資産税。実は建物構造によって固定資産税評価額も大きくことなり、土地や建物の評価によって決められます。木造は耐用年数に応じて評価額も年々下がっていくのですが、コンクリート造や鉄骨造の場合だと耐用年数が高く、建築費用も高い傾向にあるので、総合的にみて資産価値が高いとみなされ、木造と比べると倍に近い税額を納めるケースも。

建物に手を入れるのも比較的コストをかけずにリノベーションが可能なので、お財布にも優しいというメリットもあります。木造は、所有するだけでも、年間数万~十数万の費用を抑えることができるのです。しかし、決して資産価値が低い訳ではないのでご安心を。

ほかにも、不動産所得税の特例や贈与税の非課税、所得税控除などもあるので一般的な住宅と比べてお得に所有することができます。

03| 古民家のデメリット

デメリット①技術面で取り扱える工務店が少ない

現在では木造新築のほとんどが工場でプレカット加工(機械で加工)された柱や梁を現場で組み立てて、下地材・内外装材のボードを張り込むようなやり方。そのため、多彩な技術を持った大工さんが減少してしまい、伝統構法の家屋を改装できる腕のある建築会社が少ないのが現実です。工務店や大工さんによっては空間を上手く活かしきれず、雑な施工になってしまうこともあるので、建築会社選びは慎重に行わなければいけません。

デメリット②耐震補強や防火対策など改修費用が多額になる場合がある

冒頭でお伝えしましたが、古民家は建築基準法が制定される前、もしくは制定後間もない住宅のこと。したがって、現行法の基準には程遠く、安心して暮らせる空間にするため、耐震性や防火性などを改善する必要があります。構造補強のために筋交いをいれる、金物補強を行う、また耐火性のある材料に交換するなど、建物の状況によっては大規模改修になってしまい費用が大きく膨らむことがあります。特に木造の場合は多湿地域だと白蟻被害にあったり、屋根や外壁からの雨漏れで木製構造材が腐って総入れ替えなんてこともざらにあります。

そのほか電気配線や設備配管なども、当時のものは土管や簡易配線などを使っており耐久性が劣ります。そのため、配管や設備器材も取り替えが必要か要チェックです。ですので、購入前に必ず建物の状況を確認したうえで、改修費用も多めに見積もっておくこと。出来れば第三者によるホームインスペクション(建物状況調査)を行い、購入前に建物状況をきちんと把握しておくと不動産会社とのトラブルも未然に防ぐことができます。

デメリット③断熱性・気密性を考慮する必要性がある

世界的にみて、夏の暑さや冬の寒さが厳しくなってきています。気象庁の観測データによると、ここ過去50年間の平均気温(東京都内観測)を比較すると年間最高気温は平均約3度の上昇、年間最低気温は平均約2度も低下しているのです。そのため、いくら自然素材を使っているから通気性がよいとはいえ、昔と比べて過ごしにくい環境に変化しているのは確かです。

快適性を維持するためにも、ある程度の断熱性や気密性を改善する必要があります。例えば、壁や天井の中に断熱材を敷設し、床下は土間コンクリートを流し除湿用の炭を置く。そうすることで湿気を防ぎ、外気の影響も緩和されて冷暖房効果も上がります。

外壁や屋根については、遮熱性能のある塗料や左官材を塗り、防水改修もしっかり行うことで安心して暮らせる快適な空間になります。

デメリット④再建築不可建物だと、改装できる範囲が限られる

国内で新築・増改築などを行う場合は、原則、建築基準法に則って建てられます。その基準のなかには、建物規定のほかに建築面積の制限や隣地との距離など、当該敷地においても法的基準が定められています。その中でも“接道義務”というものがあり、敷地が法定道路(幅4m以上)に2m以上接した土地であることが条件になります。これに該当しない敷地は、避難経路の確保が出来ないエリアとして建築ができません

このような敷地を「再建築不可」と呼ばれます。「再建築不可建物」である場合、申請を伴わない改装であれば問題ありませんが、増築や大規模改修になると建築確認申請が必要になり、現行の建築基準が遡及されます。すなわち再建築ができなくなるのです。

万が一そのようなことになれば、せっかく思い描いていた古民家ライフが実現できなくなります。そうならないように敷地条件や建築条件の有無を事前に調べておきましょう。

デメリット⑤虫が苦手だと住みにくい

意外と見落としがちなのが、虫の存在です。木や土など天然のものを利用したり、自然の多い環境にいると、様々な虫や生物と遭遇する機会が増えます。こればかりはどうすることもできないので、色々な生命の気配を感じながら共存する楽しさを感じましょう。最初は驚くことも多いかもしれませんが、徐々に慣れてくるものです。

どうしても苦手な方は、いくつか対処方法もあります。エアコンの室外機のドレン先には防虫カバーの設置、換気扇や排気フード・床下換気孔には防鼠網を取付けることである程度の防虫効果が期待できます。あとは、土壌スペースを敷地全体でエリア分けをし、土間・床下部分はコンクリートや三和土で仕上げるなど素材を上手く使い分けるとよいでしょう。

デメリット⑥設計プラン次第で居心地の悪い空間に

周辺環境や敷地状況がいくらよくても、設計プラン次第で住みにくくなってしまいます。素材選びはもちろん、採光やプライバシーの確保、使い勝手のよい動線計画、その土地や建物の特性を上手く活用した設計計画が必須です。事前計画の際にはプランニングをしっかりと行い進めていきましょう。

古民家の定義やメリット、デメリットをご紹介しました。後編では、実例を取り上げながら、古民家リノベーションで取り入れるべきポイントを解説します。

大景祥

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大景祥 Smau design(スマウデザイン)

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