人生100年時代を迎え、第二の人生を豊かに過ごすために移住を検討するシニア世代が増えています。健康維持のための医療体制、生活の利便性、自然との触れ合いなど、移住先を選ぶ際に考慮すべきポイントは多くあります。本記事では、シニア移住に優しい街として注目されている12の地域を紹介し、それぞれの魅力や特徴を解説します。さらに、実際に移住したシニア世代の体験談や、移住を成功させるためのポイントや準備のヒントも紹介。人生後半の新しいステージを実りあるものにするための参考にしてみてください。
01| 何を基準にしたらよい? 移住先を選ぶポイントとは
働き盛りだった頃や、子育て中心だった頃と比べると、住む街に求める条件は変わります。ここでは、シニア世代が理想の移住先を選ぶためのポイントについてわかりやすく解説します。
●交通の利便性
シニア世代が移住先を選ぶ際、まず重要なポイントとなるのは交通の利便性です。自動車に依存しない生活を考えると、公共交通機関が発達している地域や徒歩圏内で生活に必要な施設がそろうエリアが理想的です。とくに、鉄道やバスの路線が充実している地域では移動の負担が軽減され、日々の外出や買い物も快適になります。
また、高齢化社会の進展に伴い、高齢ドライバーによる交通事故が多発しているため、将来的には免許返納を検討する可能性もあります。車なしで生活できる環境かを事前に確認することが大切です。医療機関やスーパー、銀行などへのアクセスが良好であるかどうかをチェックし、安心して暮らせる移住先を選びましょう。
●医療施設の充実度
シニア世代にとって、医療施設は切り離せない関係です。医療体制が充実しているかどうかは最も重要なポイントといっても過言ではありません。年齢を重ねるにつれて体調を崩しやすくなったり、ケガをする可能性が高まったり、体調面の心配は尽きません。いざという時にすぐに医療機関を受診できる環境は、心と体の安心につながります。
総合病院や専門医の診察が受けられる施設、緊急時に迅速に対応できる救急体制の有無は大きな選定ポイントです。また、高齢者に特化したケア施設や訪問診療サービスが整っている地域は、長く快適に暮らせる環境といえます。さらに、健康に関する相談窓口や予防医療への取り組みが活発な地域であれば、日常的な健康維持がしやすいでしょう。医療の充実は、シニア世代の暮らしを支える大きな柱となります。
●生活コストと物価のバランスが大切
定年退職後に移住する場合、年金暮らしを想定している方も多いでしょう。快適なセカンドライフを送るためには、移住先の物価をしっかり調べ、生活費を把握しておくことが大切です。住居費は、生活費の大きな部分を占めます。自治体によっては条件を満たすことで家賃補助を受けられる場合があるので、詳しく調べておきましょう。また、現地のスーパーや商店へ実際に出向き、物価を確認することも忘れずに行いましょう。
●治安のよさも重要
高齢者が安心して暮らすためには、住む場所の治安も重要です。高齢者を狙った特殊詐欺などの犯罪が増加している現状を考えると、繁華街など人通りの多い場所から離れた、比較的静かな住宅地を選ぶことも視野に入れましょう。
地域の治安を確認する際には、警察庁のホームページなどで公開されている犯罪発生状況を参考にしてください。また、実際にその地域を歩いてみたり、住民の方に話を聞いてみたりすることも有効です。防犯カメラの設置状況や街灯の数なども治安の目安になります。
さらに、地域の防犯活動が活発に行われているかどうかも確認しましょう。防犯パトロールや防犯教室などが定期的に開催されている地域は、住民同士のつながりが強く、犯罪抑止効果が期待できます。
●生活バランスを考えた自然環境
ゆったりとした老後を希望するなら、自然豊かな地域への移住は魅力的です。澄んだ空気の中で、四季折々の美しい風景を眺めながら、心身をリフレッシュできる環境は理想的です。畑で野菜の栽培をしてみたり、DIYに挑戦したり、いままで経験できなかったことにチャレンジできる環境でもあります。時間の流れも都会に比べてゆっくりしており、慌ただしい日々から解放され、穏やかな毎日を送れそうです。
しかし、あまりにも周囲に何も無い場所の場合、病院やスーパーなど、生活に必要な施設が遠かったり、交通の便が悪かったりするという問題が出てきます。快適なセカンドライフを送るためには、自然と生活の利便性を両立できる場所を選ぶことも選択肢のひとつです。
●コミュニティとサポート体制の確保
シニアの移住において、孤立を防ぎ、充実した生活を送るためには、地域社会との繋がりが非常に重要です。たとえ夫婦で移住したとしても、毎日夫婦の間だけしか会話がないのはストレスの原因にもなりかねません。知り合いがいない場所だからこそ、積極的に外の世界とつながりを持つことを意識し、シニア世代が参加できるコミュニティがあるかどうかを十分にリサーチしておきましょう。
たとえば、地域のお祭りや清掃活動、子供たち向けの学習支援ボランティアなどは、地域住民との交流を深めるよい機会となります。また、趣味のサークル活動も重要です。地域の公民館や文化センターなどで、絵画、音楽、俳句、手芸、囲碁など、趣味のサークルが開催されているかも確認してみましょう。こういった活動に参加することで、共通の趣味を持つ仲間と出会い、新たな交友関係を築くことができます。
02| シニア世代におすすめの移住先12選
都会と自然のバランス、交通の便のよさ、高齢者向けのサポートの充実など、移住先に求める条件はさまざま。そんな条件にきっと合う、シニア世代の暮らしをもっと豊かにする魅力的な移住先を12か所ご紹介します。
1.愛知県名古屋市
満開の桜と名古屋城
不動産情報サイト「ホームズ」が2017年に発表した「高齢者に優しい街ランキング【中部圏編】」で堂々1位に輝いた愛知県名古屋市。病院数は全国トップクラスを誇り、総合病院からクリニックまで合わせると3,400か所以上にのぼります。
また、JRと2つの私鉄、市営地下鉄、市バスなどの公共交通機関が発達し、市内を網羅しているのも大都市ならでは。車を持たずに移住しても、不自由なく移動できる手段が確保されています。さらに、65歳以上の高齢者を対象に、市バスや地下鉄などが1年730回を上限に無料で乗車できる「敬老パス」が用意されているうれしい特典も。
住宅面では、高齢者(60歳以上)が安心して暮らせるようバリアフリー化され、緊急時対応サービスなどの利用もできる民間賃貸住宅を用意。所得によっては家賃が減額される場合もあります。
2.岐阜県岐阜市
長良川が流れる市内の風景
「高齢者に優しい街ランキング【中部圏編】」で2位に選ばれた岐阜市は、岐阜県の県庁所在地で、名古屋から北へ約30kmに位置しています。岐阜駅周辺は都会的な雰囲気と歴史的なスポットが融合したエリアとして発展。駅前には商業施設が立ち並び、北へ進むと昭和の趣を残しつつ活気溢れる商店街が広がっています。また、名古屋駅へはJRで約20分と、大都市圏へのアクセスも良好です。
岐阜市では高齢者向けの特典やサポートが充実しています。たとえば、70歳以上を対象に、市内の公衆浴場を毎月1日と15日に半額で利用できる「高齢者ふれあい入浴事業」があります。また、豊富な人生経験や知識、技能を地域社会に役立てることを目的に結成された「清流クラブ岐阜」という団体があり、高齢者が生き生きと活動できる場を提供しています。
3.京都府京都市
市内には多くの歴史的建造物が点在
古都の風情が色濃く残る京都市は、世界的に有名な観光都市であると同時に、住みやすい街としても評価されています。「高齢者に優しい街ランキング【近畿圏編】」では上位にランクインしており、シニア世代にも魅力的な移住先です。京都市内には百貨店やショッピングモールなどの大型商業施設が多数あるので買い物も便利。さらに、観光地であるだけに地下鉄やバス、JR線などの交通インフラが充実しており、移動に困ることはほとんどありません。
市内には数多くの神社仏閣が点在しており、休日に巡ることで、豊かな歴史や文化に触れながら心と体の健康を保つことができます。京都府立植物園や京都市美術館など、60~70歳以上を対象に無料で入園・入館できる施設も6か所あり、気軽に芸術や自然を楽しめます。
家賃に関しては地区によって差があり、繁華街として有名な中京区や上京区は高めの設定ですが、桂川と鴨川が流れる南区や「伏見稲荷」がある伏見区は比較的リーズナブルな価格帯です。また、最近では高齢者向け物件も増えていて、バリアフリー設計や生活支援サービスを提供する物件が多いのも特徴です。
4.大分県大分市
大分市内から望む別府湾
大分市は、九州地方で福岡市に次ぐ人口規模を誇る都市。一方で、大都市の喧騒とは異なり、穏やかで落ち着いた生活を送ることができ、都市と自然が程よく調和した、住みやすい環境が魅力です。また、別府温泉をはじめ、市内には多くの温泉地があるので、日々の健康維持にも最適。冬も比較的温暖な気候のため、快適な暮らしを送れそうです。
行政による高齢者支援はいくつかありますが、単身で移住を考えている方に安心な取り組みも用意されています。まず、心身的な理由から食事の調理が困難な65歳以上の一人暮らしの高齢者を対象に、栄養バランスが取れた食事を1食あたり400円の負担で届けてくれるサービスを実施しています。75歳以上の高齢者に対しては、乳酸菌飲料を2日に1本配布するという試みも。これは配達を通して安否確認の意味も兼ねており、高齢者の健康維持と安全を見守る生活支援として機能しています。
5.埼玉県さいたま市浦和区
商業施設が多数集まる浦和駅周辺
埼玉県の県庁所在地であるさいたま市の中でも、人口約17万人を有する浦和区。浦和駅周辺には、百貨店やショッピングモール、映画館など、日常生活に必要な施設や娯楽が充実しています。多くの路線が乗り入れており、新宿までは40分弱で到着するアクセスのよさが特徴です。
区内には埼玉県警察本部や浦和警察署があり、防犯意識が高くなっています。浦和区の犯罪発生率はさいたま市の中ではかなり低く、人口1,000人あたり4.7件とされています。これは、市内の他の地域と比較しても低い数値です。
福祉面については、介護や医療、福祉など、高齢者の生活に関するあらゆる相談に応じてくれる相談窓口「シニアサポートセンター(地域包括支援センター)」を設置。また、就業面においては、シニア層への採用に積極的な地元企業の合同説明会や働き方のセミナーなどを定期的に開催しています(さいたま市全体)。移住先でもまだまだ働きたい! と考えている方にとっては、都市部ならではの働き口の多さは魅力的です。
6.兵庫県芦屋市
芦屋川沿いの美しい街並み
「シニア世代が住みやすい街ランキング【近畿圏】」で1位となったのが、兵庫県芦屋市。豊かな緑と水に恵まれた落ち着いた住宅地であり、「六麓荘町(ろくろくそうちょう)」をはじめとする高級住宅街があることで全国的にも知られています。
市では、美しい景観を守るために「芦屋川特別景観地区」や「芦屋景観地区」を指定し、条例で建築物や広告物を規制しています。ネオンサインや屋上広告は禁じられ、市内には遊戯施設もないため、静かで穏やかな暮らしを求めるシニア世代には適した環境といえるでしょう。
交通面では、阪急やJR西日本など3つの路線が走り、JR芦屋駅から三ノ宮駅(神戸)までは15分程度、大阪駅までは20分程度と大都市圏へのアクセスは良好。高齢者向けの助成事業としては、市内を運行する2つの路線で、所定の運賃の半額(10円未満切上げ、例:230円であれば120円)で乗車できる「高齢者バス運賃割引証」を満70歳以上を対象に発行しています。
また、高級住宅地を抱える自治体だけあり、治安のよさにも定評があります。兵庫県警のデータによると、2023年の刑法犯認知件数は450件で、人口1,000人あたり4.8件と、県平均の6.9件を大きく下回っています。
家賃相場は、1LDK/2K/2DKのマンションで9.56万円、2LDK/3K/3DK:は15.93万円ほど。比較的高めですが、美しい街並みや犯罪率の低さ、大都市圏へのアクセスのよさなどから、芦屋市に住むメリットは大きいのではないでしょうか。
7.高知県高知市
五台山公園から見る高知市街
高知市は高知県の中部に位置する県庁所在地で、約30万人の人口を擁し、県内人口の半数近くが暮らしています。北に山地、南に太平洋を臨み、田園風景が広がる自然豊かな土地で、気候は年間平均気温17度と温暖です。
そして、高知県は人口10万人あたりの病床数や医師の数、看護師の数がなんと全国1位! これらの数字は、高知県の医療資源が充実している証拠。病院の人口10万人当たりの施設数も17.8施設と全国平均の6.6施設を大きく上回り、全国第1位となっています。なかでも県の中心である高知市は病院数が多く交通の便もよいので、いざという時に病院の選択肢が増え、かつ移動もスムーズに行えるのは魅力的です。
また、働く意欲のあるシニア世代を支援する制度も充実。官公庁や民間企業、一般家庭から、60歳以上で健康で働く意欲のある高齢者に対して、短期間または臨時的な仕事を提供する「シルバー人材センター」などがあります。
8.秋田県秋田市
秋田市のシンボル、ポートタワー
「ちょうどいいから住みやすい」をチャッチフレーズにしている秋田市。その名の通り、子どもからシニアまで幅広い世代が住みやすい環境を提供しています。西に日本海、東に出羽山地が広がり、自然と都市機能が両立しているのが特徴です。立地によって自分に合った暮らし方を選べる柔軟性があります。
秋田市には多くの介護施設があり、シニア世代の生活をサポートする体制が整っています。住宅型有料老人ホームだけでも22件あり、ニーズに合わせて選択が可能。また、特別養護老人ホームも市内に多数存在し、介護が必要になった際のサポート体制も充実しています。
秋田市中心部の主要スポットを巡回する100円で利用可能な循環バス「ぐるる」のほか、65歳以上の市民を対象に秋田中央交通が運行するバスと、秋田市マイタウン・バスが1乗車100円(どこまで行っても同じ)で乗車できるサービス「シニアアキカ」が導入されています。
気になる家賃相場ですが、秋田市は2DKの間取りでも6.5万円と、全国的に見てもかなりリーズナブルな設定です。都市部の便利な暮らしを叶えながらも家賃が抑えられるのはうれしいですね。
9.北海道札幌市
大都市でありながら緑豊かな札幌市内
広大な自然やおいしい食材、心を惹きつける景色が広がる北海道。その中でも最大の都市として知られるのが札幌市です。観光地として訪れたことがある方も多いかもしれませんが、移住を考える際には寒さや雪が気になるでしょう。
確かに、真冬の札幌は氷点下を下回る厳しい寒さが続き、雪に慣れるまでは苦労することもあります。しかし、札幌は地下道が充実しており、街中では雪の影響を受けにくいのが特徴です。また、住宅には暖房設備がしっかり整っているため、室内では快適に過ごすことができます。
さらに、札幌市は地下鉄網が発達しており、車に頼らず便利に移動できる点も魅力です。地下鉄沿線にあるマンションは雪かきの必要がないため、移住先として特におすすめです。
高齢者向けの取り組みとして、札幌市ではさまざまなサービスが提供されています。たとえば、日常的な調理が難しい一人暮らしの高齢者には、夕食の配達と安否確認を兼ねた「配食サービス」(1食500円)が利用できます。また、将来的に介護が必要になった場合に備え、「高齢者安心コール」や「理美容サービス」なども提供されています。
現在は必要としないサービスでも、10年先を見据えた時に福祉が充実している点は、札幌市の大きな魅力といえるでしょう。
10.島根県松江市
市内には松江城のお掘りを巡りなどが楽しめる
島根県東部に位置する松江市は、豊かな自然と利便性が調和した地域です。市内にはスーパーマーケット、病院、学校などの施設が充実しており、日常生活に必要な買い物や通学、通院をほぼ市内で完結させることが可能です。また、生活利便性や働きやすさ、医療福祉、ライフスタイルなど6つの項目で経済産業省が発表した「暮らしやすさ日本一」で総合1位に選ばれたことも。
松江市のシンボルである松江城の周辺には、かつての城下町の風情がいまも色濃く残り、四季折々に美しい景色が楽しめます。また、出雲神話の舞台としても知られているため、歴史に興味のある方にはぴったりです。
そして、松山市には、65歳以上を対象に、松江城をはじめとする歴史的建造物や博物館など9つの施設が無料で観覧できるうれしい特典が。時間に余裕があるシニア世代にとっては、松江の歴史や文化を深く知るよい機会になるかもしれません。
11.神奈川県鎌倉市
市民の足にもなっている江ノ電
鎌倉は東京から約60分でアクセス可能な古都で、人口はおおよそ17万人。湘南の海や小高い山々に囲まれた自然豊かな地形から「天然の要塞」とも称され、歴史的な寺社仏閣や文学の街としての顔を持っています。街の厳しい建築規制によって景観が保たれているので、高層マンションなどは建っておらず、その古きよき街並みの中で暮らしたいと思う移住希望者が数多くいます。年齢を問わず誰もが憧れる移住地といえるでしょう。
別荘地として栄えた鎌倉は、住宅価格が高く富裕層が多く住む地域であるため、治安がよいことも特徴です。2023年の犯罪認知件数は645件で、隣接する藤沢市の2,101件や横浜市の16,059件と比べても非常に低く、安全なエリアといえます。
65歳以上を対象にした取り組みも充実しています。協賛店舗で割引やプレゼントなどの特典を受けられる「福寿カード」の無料配布や、市内の公衆浴場(銭湯)が1回260円で利用できる助成券の配布などがあります。こうしたサービスを活用しながら、鎌倉の魅力を存分に楽しめるのはうれしいポイントです。
12.宮崎県都城市
市内から見える高千穂峰
宮崎県都城(みやこのじょう)市は、人口約16万人、南九州の中では鹿児島市、宮崎市に次いで3番目に人口が多い街。2023年度は3,710人もの移住者を呼び寄せ、2024年には13年ぶりに人口増に転じた宮崎県唯一の市でもあります。宝島社が発行する月刊誌『住みたい田舎ベストランキング』のシニア世代部門において、2024年版では宮崎県内第1位、九州内第2位を獲得。子育て世代からシニア世代まで、幅広い世代から注目を集める地域といってよいでしょう。
都城市は全体的に物価が安く、年金暮らしであっても比較的生活しやすい環境です。家賃は2LDKで4~6万円程度とかなり安価。都城駅から徒歩15分圏内にも比較的リーズナブルな物件が多く、電車を日常的に利用することも可能です。ただ、運行本数はそこまで多くないので乗車時間や頻度を見極める必要がありそうです。
バスの利用に関しては、70歳以上または65歳以上70歳未満で運転免許証を所持していない高齢者に対して1回の乗車が100円になる「敬老特別乗車券」を交付しています。
03| 移住者の声
立派な2階建ての古民家を改装したカフェ
長年住んだ大阪を離れ、2016年に家族とともに和歌山県紀の川市に移住した薗田涼子さんにお話を伺いました。
念願のカフェ開業のため、大阪から和歌山へ
薗田さんは鹿児島県生まれで、3歳から還暦になるまで大阪市で暮らした生粋のなにわっ子。40年以上にわたり、フリーアナウンサーとして司会業や毎日のラジオ出演を続けてきた経歴の持ち主でもあります。そんな多忙な日々を送るなかで募っていったのが「田舎の古民家でカフェをやりたい」という思いでした。
「自分の還暦パーティでそんな話をしたら、和歌山に移住した友人から、和歌山はよい所だし子育てしやすいよと聞いて。子育てによい=優しい町、なんだろうなと思い、和歌山に興味を持ちました。さっそく翌月には和歌山を訪れたのですが、そこで『紀の川市』という名前が気に入ったという理由で移住先を決めてしまったんです」
景色と古民家に一目惚れ
カフェの2階席からは雄大な自然を眺められる
そして条件にあう空き家を探すため、足繁く和歌山へ通う生活を続けていた薗田さん。そして十数件目に訪れたのが「中鞆渕地区(なかともぶちちく)」の物件でした。
「緑を感じる風景が気に入って、築25年の民家と築100年を超える古民家の2棟の購入を決めました。民家は自分たちが暮らす住居にして、古民家はそのままの雰囲気を残したカフェにしたかったので、床と壁を張り替えただけ。水回りに関しては浄化槽の設置が必要だったので、近隣の農家さんたちとじっくり話し合いながら、水を流す方向を決められたのはよかったと思っています」
地域住民の拠点となるカフェをオープン
木のぬくもりを感じる店内
そして2017年5月に念願だった自身の店「Cafe Tomobuchi(カフェ・トモブチ)」をオープン。パスタやカレーなどが自慢のランチ、自家栽培の野菜を使ったメニューなどを振る舞っています。
「いまでは近くの農家さんが憩いの場として楽しんでくれています。地域の方々がこのカフェのことを『鞆渕の自慢だ』と言ってくださるんです。それに、カフェの南側に新しくできたキャンプ場の方が『このお店と薗田さんありきでこの場所に決めたんです!』と言ってくれたこともあって。たった1軒の店ができるだけで、人の流れがこんなにも変わるんだと実感しました。ご近所の皆さんのあたたかさが本当にうれしいですね」
移住して「何をしたいか」を大切に
看板メニューのカレーはじっくり炒めた飴色玉ネギと牛すじ肉のコクがポイント
田舎へ移住したい人へのアドバイスは、薗田さん自身が経験して得た充実感が反映されています。
「一番大事なのは“移住先で何がしたいか”ということ。田舎に移住したら何もせずぼーっとしたい、と思うかもしれないけれど、1週間もすれば飽きますよ(笑)。もちろん自然の中で暮らしたいと思って移住するのもいいけれど、何か他にやりたいことがあるともっと楽しい移住生活になると思いますよ」
Cafe Tomobuchi
インスタグラム:https://www.instagram.com/cafe_tomobuchi/
04| 移住を検討する際の注意点とアドバイス
シニア世代が移住を考える場合、現役世代とは異なる視点やニーズが重要になることも。ここからは、移住を成功させるために押さえておきたい注意点とアドバイスをご紹介します。
生活コストが上がるかも? 移住に必要な費用もしっかり把握
一般的に地方は生活コストが安いと思われがちですが、必ずしもそうとは限りません。車を運転できる間は、ガソリン代や車の維持費がかかるため、移動費は都市部よりも高くなる可能性も。また、電気代やガス代も、都市部と比較して高くなるケースが見られます。さらに、人気の高いリゾート地などは、物価が都市部と変わらない場合や、むしろ高くなる場合もあります。
実際にはどのくらいの費用を用意すれば安心かをリサーチ・計算して、計画的に準備するようにしましょう。
- 移住前の準備費用の一例
移住先を実際に訪れるための交通費、宿泊費、引っ越し費用、新しい住居での初期費用(敷金、礼金など) - 移住後の生活費用の一例
家賃または住宅ローン、固定資産税、光熱費電、食費、通信費、交通費、車の維持費(自家用車がある場合)、医療費、保険料など - その他の費用の一例
家具・家電の購入費用、自動車の購入費用(車が必要な場合) - 費用を抑えるための工夫
移住支援金制度の活用:一部の自治体では、移住者を対象とした支援金制度があります。
中古住宅の購入:新築よりも中古住宅の方が比較的安価に購入できます。
持家から賃貸へ:固定資産税などの負担が軽減される場合があります。
自家用車の利用を見直す:公共交通機関を利用することで、維持費を削減できます。
事前リサーチは徹底的に。お試し移住も視野に入れてみて
「この場所がいい!」と心に決めた移住先があったとしても、即決は要注意。その前に、希望している地域の情報を徹底的に集めましょう。気候、医療機関の充実度、交通の便、地域のイベントなど、生活に直結する情報を多角的に収集することが大切です。自治体によっては、移住体験ツアーや移住希望者の交通費を負担してくれる支援があります。これらの支援を活用し、実際にその土地を訪れて、空気感や人々の暮らしを肌で感じてみましょう。
そして、いきなり完全に移住をするのではなく、お試し移住から始めるのもおすすめです。短期で賃貸マンションを契約し、二拠点生活をスタートさせるのもひとつの方法です。実際に生活してみて、その地域が自分に合っているか、じっくりと検討することができます。
何を重視する? 長期的な生活設計をしっかりと
シニア世代の移住は、新たな人生の始まりであるとともに、終の住処を見つけるものでもあります。安易な気持ちで決断せず、長期的な視点で生活設計を立てることが非常に重要です。「なぜ移住したいのか」「移住先でどんな暮らしを送りたいのか」といった、移住の目的を明確にすることから始めましょう。自然豊かな場所でゆったりと暮らしたいのか、趣味を活かして新しいコミュニティをつくりたいのか、それとも医療機関が充実した場所で安心した老後を過ごしたいのかなど、人によって理想の暮らしはさまざまです。
目的を明確にすることで、移住先の条件も具体的に絞り込むことができます。例えば、自然を重視するなら、都市部から離れた場所、趣味を活かすなら、その活動ができる施設が充実している場所など、優先順位の高い条件から検討していくとよいでしょう。
また、移住後の生活費や医療費、住居の確保など、経済的な面についても事前にしっかりと計画を立てることが大切です。移住は人生の大きな決断です。焦らず、じっくりと時間をかけて、自分にとって最適な移住先を見つけてください。